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連載コラム

第72回「重厚な近代建築が結婚式場に様変わり 〜姫路モノリス」

[ 2010年1月8日 ]

ごつごつした素材感のスクラッチタイルで覆われたベージュ色の外壁、左右対称に小さな窓を並べた規則的なファサード。重厚な外観の印象から、この中で華やかな宴が行われる様子を想像するのは難しい。昭和初期に完成した旧逓信省姫路電信局の建物が、2009年晩秋、婚礼施設「姫路モノリス」として生まれ変わった。

 2009年11月9日、姫路城からほど近い一画に「姫路モノリス」がグランドオープンした。ウエディングのプロデュースやレストラン運営を行うノバレーゼが手がける完全貸し切り型の婚礼施設だ。

 2階建ての建物は1930年(昭和5年)に旧逓信省が姫路電信局として建設したもので、現在は姫路市都市景観重要建築物に指定されている。近年まで電話番号案内業務に使われていたが、2007年3月にその役目を終えた。そこでノバレーゼがNTT西日本アセットプランニングから定期借家契約で借り受け、内装を一新して利用することになった。

 コンバージョンに当たっては、電話交換室や厚生施設が入っていた棟にラウンジや控え室、披露宴会場などを配置。中庭にチャペルを新設した。

 新しい内部空間やチャペルは、質実な外観とは一転して、非日常的な装いのなかに都会的な華やぎを感じさせるデザインだ。これまでにも同社の施設を手がけてきた垂見和彦氏が設計し、武石正宣氏が照明を担当した。

外観
写真:外観

エントランス
写真:エントランス

 空間の特徴は、窓枠や階段の一部、要所に見られる壁の厚さなど、あちらこちらにかつての建物を感じさせる部位を残すことだろう。「歴史を経た近代建築の良さをいかに生かし、より良い形でお客様に提供していくかに配慮した。お客様には、建物のもたらす"空気の違い"を存分に感じていただければ」と、東剛毅ゼネラルマネジャーは話す。

 建物中央部分にうがたれた小さな開口から、エントランスへと足を踏み入れる。表面にひっかき傷のような模様を施した外壁のスクラッチタイルは、当時流行した素材だという。重厚で簡素な入り口を抜けると、正面に中庭のチャペルが姿を見せ、右手のガラス戸からラウンジに入ると華やかな雰囲気の空間に一変する。

 中庭のチャペルは真っ白い室内が印象的だ。折り紙をイメージしたという、三角形を折り重ねたような凹凸をもつ白いタイルで壁面を覆い、裏に配した照明が濃淡ある光を浮かび上がらせる。

 建物内のラウンジは一転して照明を落とし、紫や黒を基調にした落ち着きあるインテリアでまとめている。しかしよく見ると、こちらの壁面の黒いタイルも折り紙風の同じデザインで統一していることが分かる。

 エントランスの奥には、ソファ席のラウンジやスタンディングの丸テーブルを配したバーラウンジが続く。ここは、結婚式や披露宴の待ち合いスペースであると同時に、夜の披露宴後には2次会の会場にもなる。

チャペル
写真:チャペル

ラウンジ
写真:ラウンジ

ラウンジ
写真:ラウンジ

 2階には、新郎新婦や関係者の控え室と、寄せ木フローリングのホワイエを備えた披露宴会場が並ぶ。披露宴会場は着席で約120人が入れる広さで、平日はレストラン営業を行っている。

 披露宴会場で目を引くのは、隣に厨房を配置し、スイッチ操作によって間仕切りのガラス面が透明になるというつくりだ。つまり、オープンキッチンのように奥で立ち働く調理人の姿が見える。

 パーティー会場では事前に料理を作りおいて多人数に対処することが多い。しかしここでは、厨房を隣に置くことで出来たばかりの料理を提供するようにしている。そうした調理のライブ感を、実際に見てもらえるようにした演出なのだ。

既存部分を残しつつ幅を広げた階段
写真:既存部分を残しつつ幅を広げた階段

披露宴会場のホワイエ
写真:披露宴会場のホワイエ

披露宴会場/写真:ノバレーゼ提供
披露宴会場/写真:ノバレーゼ提供

控え室
写真:控え室

 主ターゲットとして想定するのは、20代後半から30代前半にかけての"情報感度の高い人"だ。こうした層のカップルは、個人の感覚を大切にしつつ、集まった人をおもてなししたいという意識が強いという。そのためノバレーゼは、個室を含めたウェイティングスペースなどの付帯施設を充実させ、ゆったりとくつろげる空間を用意した。

 土日祝日に昼夜1組ずつという設定も、こうした配慮に基づいている。

 挙式は朝10時半開始と夕方4時開始の2回に定め、それぞれの顧客が6〜7時間使えるようにした。夕方の回は、披露宴のメイン料理を通常のディナー時間に合わせて提供できる時間設定としている。厨房を披露宴会場の隣に設けたことと合わせ、もてなしの中核をなす食事を重視したプランだ。

 「現在の姫路市の結婚式市場では、情報感度の高い人を中心におよそ3割の人が神戸方面へ流れていく。このように外へ流出してきた層のほか、赤穂から相生、加古川、明石周辺までの顧客を引き込み、姫路市内の市場を活性化していきたい」と東氏。年間約170組の婚礼で、約6億円の売り上げを目指す。

 今回はノバレーゼにとって、旧逓信省の近代建築を婚礼施設として転用する2つめの事例に当たる。2005年、同様の近代建築を改装してオープンした「芦屋モノリス」の成功を踏まえ、第2弾に取り組むことになった。

 近代建築の保存は、全国のあちこちで議論になっている。ノバレーゼの取り組みが成功例として定着すれば、古い建物を新しい業態で活用する方法の選択肢は広がっていく。


(守山久子)

■姫路モノリス
http://www.himejimonolith.jp/
兵庫県姫路市総社本町115
TEL 079-286-5544(ブライダルサロン)
営業時間 土日祝:婚礼(昼夜各1組)、平日:レストラン11:30〜14:00(L.O.)

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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