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連載コラム

第2回「アンリ・シャルパンティエ、味を引き出すデザイン投資」

[ 2002年12月3日 ]

 

アンリ・シャルパンティエの京橋京阪店(大阪)


 アンリ・シャルパンティエと言えば、今では首都圏の消費者にもおなじみの洋菓子ブランドだろう。
 1969年に兵庫県芦屋市で開業したアンリ・シャルパンティエはその後着実に店舗を増やし、高級フランス菓子の店としての認知度を高めてきた。95年には、より手軽さを押し出したイタリア菓子のブランド「シーキューブ」を立ち上げ、売り上げを大幅に拡大。94年には61億円だった年商を、2001年には倍以上の138億円にまで伸ばしている。現在、アンリ・シャルパンティエ・ブランドは関西で23店、中部で2店、首都圏で15店の計40店舗、シーキューブ・ブランドは順に8店、1店、9店の計18店舗をそれぞれ展開中だ。

 シーキューブの芦屋店(兵庫)


 近年のアンリ・シャルパンティエの店舗は、柱や壁面に大きな「C」のロゴを配し、パリの街角写真をコラージュしたグラフィックをあしらっているデザインが多かった。最近オープンした大阪の京橋京阪店では一転し、茶色を効かせてより落ち着いた雰囲気の店としている。一方シーキューブでは、店の作りの上でも明るく若い雰囲気を演出する。東京・丸ビル店や名古屋三越店などの新店では、壁面に半透明の黄色いアクリルを用いて軽快さを強調している。



シーキューブ丸ビル店(東京)


 こうしたアンリ・シャルパンティエ社の伸長の背景にはしたたかなブランド戦略がある。もともと地域ブランド力の強さという意味では、阪神間それも芦屋という発祥の地は、アンリ・シャルパンティエ社にとって大きな後押しをしてきたはずだ。加えてアンリ・シャルパンティエ社自身も、阪神間の洋菓子ブランドの良い面を体現してきた。
 独断で言い切ってしまえば、阪神間の洋菓子は非常にオーソドックスだ。芸術的なまでの手技を駆使した仕上げとは無縁だが、素材の使い方はリッチで質実が伴っている。アンリ・シャルパンティエ、シーキューブの菓子も同様に華美なデコレーションはない。商品はあくまでも実質本位で固定客を確保する。一方、そこにパッケージや店舗インテリアでの演出を加えることで、新規ユーザーにも目に留めてもらえるようなイメージ作りを施しているのだ。

 

写真左:アンリ・シャルパンティエの神戸大丸店(兵庫)
写真右:アンリ・シャルパンティエの梅田阪急店(大阪)


 客単価3000円から5000円というアンリ・シャルパンティエと、同1000円前後というシーキューブ。シックできちんとした贈答品にもなる前者だけでなく、カジュアルなシーキューブの商品も少量詰めのしゃれた紙パッケージを用意している。ちょっとした手土産に使えるほか、自分で買って楽しみたいという需要にも対応する。

   

写真左:アンリ・シャルパンティエの「プティ・ガトー・アソルティ」。
     一口サイズのフィナンシェやマドレーヌの詰め合わせ。
     24個入り2000円、24個プラス「フォンデュ・オ・ショコラ」で3000円
写真右:シーキューブの「ピアット フルッタ」、1箱6枚入り500円


 同社のウェブサイトには、こんな言葉が載っている。「私たちが『お客様にお届けできるものは何か』を考えるとき、常にその視線の先にあるものは、ケーキなどモノそのものの姿ではなく、モノを媒体として生み出される『コト』なのです」。
 モノの消費からコトの消費へ、とは既に言い尽くされた感もある。しかし消費者が買い物をする時には商品そのものだけでなく、パッケージや店舗まで含めて楽しい気分を味わいたいという願望を持っているのは確かだ。アンリ・シャルパンティエの商品と店舗は、そうした消費者心理をうまく引き出している。

 実はアンリ・シャルパンティエ社の創業者である蟻田尚邦氏は、創業30年を迎えた99年に同社の社長を退任し、同時に設立したクールアースの社長に就任した。クールアースは商品パッケージや店舗などのデザイン管理と商品開発という川上業務に特化し、アンリ・シャルパンティエとシーキューブのブランドマネジメントに当たる。一方、アンリ・シャルパンティエ社は洋菓子の販売と製造に専念するという体制を整えたのだ。99年には、フランスのデザイン事務所にパッケージのデザインを一任し、アンリ・シャルパンティエのパッケージリニューアルに2億円を上回る投資を施した。さらに来春に向けて、ブランドを前面に押し出した新しいパッケージデザイン展開を計画しているという。
 店舗やパッケージは、商品を手に取る前のユーザーに対し、メーカー側がコミュニケーションを図る場所だ。こうしたコミュニケーションツールを重視し、それを制作・維持する体制にしり込みせず投資する姿勢が、アンリ・シャルパンティエ社の躍進を支えている。

(写真提供:アンリ・シャルパンティエ)


■アンリ・シャルパンティエ:http://www.henri-charpentier.com/
■シーキューブ:http://www.ccc-c3.jp/

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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