日経メッセ > JAPAN SHOP > 連載コラム > 商空間デザイン最前線(日経デザイン編) > 第3回「マウンテンマウンテン「ショールームショップ」の両輪戦術」

連載コラム

第3回「マウンテンマウンテン「ショールームショップ」の両輪戦術」

[ 2002年12月26日 ]

 

 一般に物販店舗にとって大切なのはお客さんに来てもらうことだから、まず客に対する間口を広く取るものだ。大勢の人が集まる立地に、できれば路面店を設け、店への誘導となる看板を分かりやすく置く。しかしマウンテンマウンテンは、こうした常識とは正反対の店の作り方になっている。JR恵比寿駅から徒歩3分ほどの近さとはいえ、若い子が集まる店とはちょっと離れた場所に建つ細長いテナントビルの5階。1階のエントランスロビーに置かれたサインも小さめ。そして店の開業時間は週末の土日・祝日の午後1時から午後8時までと、これまた変則的なのだ。

 こうした店舗の在り方は、マウンテンマウンテンの活動から自然に導かれたものだという。
 マウンテンマウンテンは、グラフィックデザイナーの山下浩平氏とプロダクトデザイナーの山崎宏氏が共同で活動する際の名称だ。山下氏は以前、グラフィックデザインやアートディレクションを行う一方で輸入古着・雑貨店を運営し、バイヤーとしても働いた経験を有する。一方、山崎氏は独立前、文具メーカーのインハウスデザイナーだった。学校の同級生だった二人は、共同で恵比寿に作業スペースを構えることになる。山崎氏が持つモノ作りのノウハウと山下氏が持つ店舗運営のノウハウ。この二つを組み合わせた結果、製品開発の作業場に隣接して、商品を展示するショールームショップを設けた現在の形が生まれてきた。2001年1月、ショールームショップは誕生する。

 ステーショナリーから生活雑貨まで、マウンテンマウンテンの商品アイテムは120から130に及ぶ。「当初パズルなどの紙製品から出発し、その後は皮、セラミック、シルバーなど素材のアイテムを順次増やしてきた」(山崎氏)。最近では、色々な組み合わせを楽しめる水の泡をイメージした形のモビールや、セラミック製のテープカッターなどを発売している。
 これらの製品は、デザイン上も様々な工夫が施してある。例えばテープカッターは回転軸のない機構で、一つの部材で成り立っている。この仕組みは特許申請中だ。さらに同じ仕組みを用いたステンレス製のテープカッターも開発しており、こちらは無印良品で2002年12月から販売している。

 

 実はマウンテンマウンテンの運営上の核となっているのは、セレクトショップやミュージアムショップなどに対する卸だ。したがってショールームショップは、バイヤーやスタイリストあるいはデザインのクライアントなど、仕事のために訪れる人に対するプレゼンテーションの場としても機能する。「自分達のデザイン提案を理解していただくには、"こういう感じに使ってもらいたい"という空間の雰囲気も大切。こうした感覚はやはりカタログだけでは伝わらない」(山下氏)。さらにショールームショップでは、量産しにくい商品やテスト販売の商品なども含めたマウンテンマウンテンの全アイテムを見られるメリットもある。

 

 もちろん、こうした仕事向けの顔だけに特化してもショールームショップの役割は果たせるだろう。しかし一方で、あえて週末の時間を区切って一般の人も入れるショップという顔を作っているのは、デザイナーとして、エンドユーザーの生の声を聞ける場を欲しいと考えたからにほかならない。そこではテスト販売の商品への反応や、カラーバリエーションの嗜好など、プロの販売者とはまた違った声を聞くことができるからだ。
 一般の来店者は日に30人から50人ほどで、大きな収益を見込んでいるわけではない。でも、セレクトショップなどに置かれたマウンテンマウンテンの商品を見て、仙台や大阪、はたまた沖縄など全国各地からわざわざ足を運んでくるエンドユーザーも少なくないという。冒頭に触れたショールームショップの"間口の狭さ"を思うと、これは画期的だ。

 ビジネスを成り立たせ、継続させるには、商品やブランドを知ってもらうためのフックとなる存在と、それを商業ベースに載せるための存在という2種類の要素が欠かせない。
 マウンテンマウンテンの場合、ショールームショップでバイヤーなどの専門家に商品を知ってもらい、それを卸に結びつける。外部のショップで扱ってもらった商品が一般ユーザーの目に留まり、やがてショールームショップにも足を運ぶようなマウンテンマウンテン・ファンになってもらう。そんなユーザーの声を聞きながら、新しい製品開発に取り組む...。ショールームショップと卸が両輪となったこのような仕組みが、マウンテンマウンテンの相乗効果を生み出している。
 表に見える形だけでなく、こうした仕組みをデザインすることも店舗作りには欠かせない。

(日経デザイン 守山久子)


■マウンテンマウンテン:http://www.mountain-mountain.com/

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

バックナンバー

PAGE TOP