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連載コラム

第6回「古い家屋を再生、町の流れを変える練」

[ 2003年3月31日 ]

 瓦を葺いた小さな門をくぐると、細長く伸びる中庭を木造2階の建物がコの字型に取り囲む。建物は、屋敷の骨組みを残しつつ、商業施設向きに間取りを変更したものだ。合板などが張ってあった壁も、土壁に戻した。中庭の横に自転車置場を兼ねた土間があったり、メーン建物の玄関広間の両脇に急な木の階段があったり、2階には着付け教室の和室が連なったりと、住宅だった往時の面影が随所に感じられる。
 


 しかも単に建物を保存している博物館ではなく、観光客向けの土産物店とも違う。遠来の客も訪れるが、地元の客も足を運ぶ。生活に根ざした普通の店として町の一角に存在しようとしている点が、この商業施設の何よりの特徴と言えるだろう。

 

 


 「練」を運営するのは「からほり倶楽部」という市民団体だ。空堀商店街界隈長屋再生プロジェクトをかかげ、2001年4月に発足した。以後、まちあるきワークショップや、周辺の町にアートを展示する「からほりまちアート」などを開催し、地域活性化を目指してきた。2002年7月には、連の先駆けとなった「惣(そう)」を開業している。こちらも、長屋を再利用した商業施設である。

 惣の外観


 からほり倶楽部の中心人物は、建築設計事務所を営む六波羅雅一氏。自らの事務所も練の中に構えている。「大正時代などの長屋が建ち、ちょっと入ると石畳の道がある。そういう空堀町商店街かいわいの雰囲気が個人的に好きだったので、なんとか古い長屋を今の世の中に流通させたいと考えた」と六波羅氏は、事業の狙いを語る。

 とは言え、現在の建築基準法を満たしていない古い木造建物の利用は簡単ではない。建物の所有者の権利関係も複雑だ。六波羅氏自身、以前から古い建物をリフォームする仕事に取り組んできたが、建物単体を再生するだけでは町への波及効果に限界があることも痛感していた。そこで、もっと広く町としての活性化を図る方法を考えられないかと知人に問題提起し、自営業者などの有志で立ち上げたのがからほり倶楽部だった。

 練も惣も、商業施設としての仕組みは同じだ。からほり倶楽部が所有者から建物一式を借り上げ、改修を実施。さらにテナントリーシングから運営まで一括して担当する。建物の設計は六波羅氏が行い、テナント集めやプロモーションなどすべてをメンバーのボランティアでまかなう。実際にかかるコストは工事費だけで、練の場合は3000万円程度という。一方、テナント料は近くの商店街中心地の約3分の1と、こちらも格安だ。これは、「地元の商工会でも若い商人を育てるプログラムを進めているが、新規参入する人を受け入れるハードがない」(六波羅氏)という現実への対応策でもある。

 そもそも惣のきっかけは、老朽化した長屋をつぶして駐車場にするという計画を六波羅氏が聞きつけたことにあった。古い長屋を何とか生かしたいと考えた六波羅氏は「店舗利用した場合に得られるテナント料と保証金、さらに駐車場にするために用意した工事費を合わせれば、商業施設への改修ができる」と提案し、所有者の賛意を得た。実際、テナントを募集したら3倍の申し込みがあったという。この成功が実績となり、練のプロジェクトにつながった。

 練を訪れた平日の昼下りは、下校中の高校生たちが建物の前に座り込み、おしゃべりに興じていた。遠くからやって来たらしい女性客が館内を珍しそうに歩き、近所の住人らしい馴染み客が店主に声をかけていく。「地域の主婦も多いし、心斎橋から歩いてきたという人もいる。この調子でいくと5年くらいでもろもろの投資は回収できるのではないか」と六波羅氏は予想する。

 練や惣は、地域にとってはあくまでも小さな商業施設の一つに過ぎない。しかし、一つの店舗が顧客の流れを変えることもある。今、人の動きが少しずつ変わっていることを六波羅氏は実感しているという。

 (守山久子)

※写真は、「惣の外観」とある写真以外はすべて「練」


■からほり倶楽部:http://members.aol.com/Karahori01/nagaya.htm

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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