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連載コラム

第10回「“記憶の共有”を目指した上目六さくらショッピングセンター」

[ 2003年7月25日 ]

 
 東急東横線・中目黒駅から徒歩7分。桜の木が生い茂る目黒川沿いの散歩道を進むと、川に面した一画に上目六さくらショッピングセンターはたたずむ。

 春にオープンした店舗は、間貸しアパートだった部分を改造したものだ。大家さんの住まいだった1階は、パスタを中心としたメニューのレストラン「omamori pasta kitchen」に。貸し室が並んでいた2階は、昼は喫茶、夜はバーになるコーナーと、ファッションや雑貨、CDを販売するブティックで構成した「c.o.+n bil-air」になった。

 

 2階のブティック&バーでは、1970年代の曲が流れている。建物は年月を経た生活の重みを感じさせ、どこか懐かしい落ち着いた雰囲気を醸し出す。

 上目六さくらショッピングセンターを運営するマン・フュージョン・システムは、渋谷や代官山などで雑貨、ファッション、創作料理などの店を展開している。今回の店も一連の店舗戦略のうえに基づいた展開なのかと思ったら、そうではないという。「店作りにあたっては、コンセプトもマーケティングも無い」。マン・フュージョン・システム代表の関野申吉氏は、取材ののっけからこう言い切る。

 昨夏、知り合いの不動産業者からこの場所を紹介され、商業利用の可能性について相談を受けた。主な条件は二つ。建物をそのまま使うことと、2003年春という開業時期である。その後、中断期間を経て、2003年が明けてから正式契約を結ぶ。慌しく店舗構成と設計を進め、3月に入ってから約2週間の工事期間で店に仕立て上げた。

 「借りたら、即オープンという状況。資金調達をし、借りてから内装やバジェットを詰めていった」(関野氏)。建物とスケジュールありきの計画だったから、その中で自分たちのノウハウでまかなえる範囲の業態とした。総工費1100万円を掛け、年間売り上げ1億8000万円を想定している。店舗はすべて直営だ。

 改装に際しては、2階に屋外デッキを設け、消防法をクリアするために、外からデッキに直接上れる階段を設置した。給排水管や浄化槽を新しいものに取り替え、いくつかの部分を構造的に補強したほかは、基本的に既存の建物をそのまま使っている。

 2階では部屋の間の壁を取り払って柱をむき出しにし、使われていた扉や壁はそのまま残した。入居人が自分で塗装したとおぼしき扉も、そこだけ1枚他と違う色のまま納まっている。

 店舗内は、こうした建物の風情を楽しむだけでもなかなか見飽きない。むき出しになった柱の上部を見上げると、天井板にすき間を設けて天井裏の換気を考えた仕様になっている。今の住宅では考えられない、手の込んだ職人技だ。窓の外に掛けられた手すりや洗濯ざおを受ける金具など、細部のデザインも興味深い。

 

 さて、コンセプトもマーケティングも無いと語る関野氏だが、ここ3、4年の店作りでこだわってきたテーマはある。「記憶の共有」だ。それは、古い建物だったり、いくつかのカフェで供するおじやだったり、店に流れる音楽だったりする。

 「今の20代の子が考えていることは分からない。無理に合わそうと思うとどこかで間違えてしまう。ならば、自分で分かる“おっさん”の店を作ろうと考えた」と関野氏は言う。

 150坪という敷地の小さな建物とはいえ、いくつかの業態を共存させるには、「何か一つのテーストでくくる必要がある」(関野氏)。70年から85年ごろまでに青春を過ごした、かつての青年たち。それが、あえて言えば、上目六さくらショッピングセンターのメーンターゲットであり、彼らの記憶に残る懐かしい物や音楽を求心力にした店作りが、ここのメーンテーマともなった。

 60年代に作られた建物と70年代の音楽という組み合わせは、想定外だった若い層の客も呼び込んでいる。とはいえ、狙いとした客層は近所の人たちだ。実際、6割くらいの客が地域の住民だそうで、金曜の夜などはそうした常連客が三々五々集まり、話をはずませる。若い客が紛れ込み、悩みなどを打ち明けようものなら「説教バーと化す」(関野氏)らしい。

 店舗運営する際の条件として町内会に入れてもらうことを挙げたように、関野氏には地域に溶け込む店にしたいという意識が強かった。地域を中心としたコミュニケーションの復活が、実はこの店の隠れたテーマでもあるのだ。

 (守山久子)


■上目六さくらショッピングセンター:http://www.mfs11.com/kame/kame.html
東京都目黒区青葉台1-25-5(TEL:03-3792-5223)
営業時間(2003年7月現在) 1階11:30〜22:30(ラストオーダー)、2階:平日11:00〜24:00、金土11:00〜24:00以降、日11:00〜21:00
第2・3月休(7〜10月無休)

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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