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連載コラム

第16回「高感度人間に"おにぎり愛"を 〜onyが銀座に2号店」

[ 2004年1月26日 ]

 ハンバーガーショップとおにぎり店が並んでいた場合、食事にどちらを選ぶかと問われたら、私は後者と答えるだろう(ちなみに筆者は、古い表現を使うといわゆる"hanako世代")。
 もちろん、その時の気分によって違いはあるけれど、健康に良さそうな食事を考えるとおのずから選択は定まってくる。おにぎり、ちょっとした惣菜、野菜の入った汁物とくれば、ファストフードで食事を済ませる一種の"罪悪感"もずいぶん緩和されるではないか。

 考えてみれば、おにぎりは古来、日本人にとって馴染み深いファストフードだった。しかも、世代にかかわらず消費者にとって欠かせない定番メニューであることは、コンビニエンスストアの品揃えを見ても分かる。そんなおにぎりのファストフード店が、なぜ近年まであまり脚光を浴びていなかったのかは不思議だが、ともあれ昨今の健康志向とも相まって注目業態の一つとなっているのは間違いない。

 そこで、onyの登場と相成る。メニューは、特選昆布、オクラおかかをはじめとするおにぎりのほか、けんちんみそ汁、抹茶ドリンクなど。おにぎりは、注文を受けてから握る方式だ。サラダなどのデリや甘味セットを並べたケースもある。

 店内は、足下に竹の植栽を置いた全面ガラス張りの入り口を入ると、1階が注文カウンター、2階が客席という2層構成になっている。1階は茶色と木の素材感を主に用いたデザインで、和風テーストの中にも明るさを感じさせるつくりだ。一方、2階部分は、照明を絞って落ちついた雰囲気づくりを狙っている。

 
写真左:1Fカウンター 写真右:1F階段前


 「ファストフードらしい元気さや入りやすさと、ゆっくりと食事のできる落ち着き。店鋪が持つ2面性を1階と2階で分けて実現した」。企画開発を担当したFC本部事業開発部の川田健二氏は、店鋪デザインの狙いをこう説明する。南青山店のつくりを踏襲した手法でもある。このほかにも、ゆったりとした椅子の配置やベンチシートを用いたコーナーなど、南青山店でのノウハウを随所に生かした。

 
2F客席


 逆に、南青山店と変えた部分もある。「全体的にデザインのトーンを軽めにしつらえ、より幅広い客層に入ってもらいやすいようにした」と川田氏。南青山店ではもっと木の素材感を強調した重厚感のあるつくりだった分、やや敷居の高い印象も与えていた。そこで銀座店では、落ち着ける雰囲気の中にも気軽なイメージを強調する空間を志向した。

 こうした転換の背景には、青山と銀座という立地の違いに加え、当初の想定に比べて客層が幅広かったという現状分析もある。南青山店の開発時は20〜30代の女性をメーンターゲットと考えていたが、いざ開業してみると、年輩の客によるテークアウトが意外に多かったのだ。

 結果、出来上がった店内は、いわゆるミッドセンチュリー風になっている。曲線を取り入れた天井面に、合板を用いたテーブル天板と金属の脚。工業製品であることを素直に表現していた20世紀半ばのデザインを意識した空間演出は、ファストフードらしい軽さを加味するのにちょうど良かったようだ。


 ほほえましいのが、店内のあちこちに飾ってある写真だ。実は店のテーマの一つが「母の愛」。母に抱かれた赤ちゃんの写真が何枚も並ぶ中には、店のスタッフたち自身が小さかった頃の写真もたくさん混ざっている。

 「おにぎりと言えば、遠足や運動会に作ってもらったお弁当を思い出すでしょう? おにぎりは、日本人にとって母親の愛の思い出に結びつく食べ物ですからね」と、川田氏は演出の意図を語る。確かにファストフード店らしからぬ手作り感は意表を突くし、どこか懐かしさを感じさせる一因にもなっている。

 運営するレインズインターナショナルは、炭火焼肉酒家「牛角」や「温野菜しゃぶしゃぶ」、居酒屋「土間土間」などの飲食店をチェーン展開する。その中でファストフードは「ony」だけ。南青山店を出店してから今回の銀座店をオープンするまでに、1年9カ月ほどの時間を費やした。

 チェーン化を図るなら一般に、初期に多数の店を一挙展開する方が効果的だろう。にもかかわらず2店鋪目のオープンまでこれだけの期間を要したのは、立地へのこだわりがあったからだという。「onyブランドの力を高めるため、高感度の人が集まる場所にこだわって立地を選定してきた」と川田氏。周辺にオフィスがあって昼の需要がある場所。カウンターとイートインの雰囲気を変えるためにも1階と2階に分かれていて、しかも1階がそう広くない店鋪スペースというのが選定条件だった。

 銀座店の売り上げ目標は年間約2億円。年間1億5000万円という南青山店に比べて2階の客席面積が広い分、高めの設定にすえている。ただし休日の集客を考えると、晴海通りと新橋から共に少し離れている銀座店の立地がちょっと不利であることも否めない。「認知度はまだ高くない。口コミも含めたユーザーへの周知強化が課題」と、川田氏は気を引き締める。

 (守山久子)


■Ony:http://www.ony.jp/
東京都中央区銀座7-4-15
(TEL:03-5537-1502)
営業時間 8:00〜23:00(土日祝は22:00まで)
無休

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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