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連載コラム

第73回「60年のブランド力を生かした"東屋風"店舗 〜ヒビヤカダン 日比谷公園店」

[ 2010年2月9日 ]

2009年11月27日、皇居のお堀端に広がる東京・日比谷公園の一画に「ヒビヤカダン 日比谷公園店」がオープンした。約60年前に開業した店を建て替えた店舗は、大きなガラス面をもつ直方体のボックスを連結させた構成だ。公園の景観に溶け込む店舗づくりでは、歴史、立地、客層の特性を生かしている。

 「ヒビヤカダン 日比谷公園店」は、日比谷公園のほぼ中央に位置する入り口「日比谷門」のすぐ横にある。日比谷通りに面し、目の前には日生劇場や帝国ホテルが並んでいる。まさに、都市文化の交差点といった立地だ。

 建物の設計は、建築家の乾久美子氏が手がけた。天井の高い直方体の箱を5つ連結させた、モダンな外観。それぞれの棟は6本あるいは4本の四角い柱が支え、その間は1棟を除きガラス張りになっている。

 四周をガラスで覆った空間は店全体がショーウインドウのようだとも言えるが、むしろ公園の中にたたずむ"東屋"と表現したほうがふさわしい。

 「"公園に集う人の憩いの場に"という1950年の出店当時の思い、また"そこに花とみどりがあることにより、人の心がより一層に癒され、人と人とのコミュニケーションや人々の生活がより豊かになる"という思いをリニューアルのコンセプトに取り入れた」。日比谷花壇広報室の横井理恵さんは店づくりの狙いをこう説明する。

日比谷通り側外観
写真:日比谷通り側外観

店内
写真:店内

 少しずつすき間を空けて連なる建物は、棟ごとに異なる機能を分担している。

 入り口側の大きな棟では、胡蝶蘭や切り花などの生花を展示している。その奥に、レジカウンターや接客用スペースの棟と、フレームアートやプリザーブドフラワー、観葉植物、フラワーアクセサリーなどの商品を並べた棟がある。さらにその奥に、製作スペースが続く。

 すべて7.5メートルの高さに統一された開放的な空間の中、客は、立体的に展示された花々の間を縫うように歩いていく。展示什器は可動式で、定期的なディスプレイの変更に応じて組み合わせを変えられるようにしている。

 事務所などを除いた売り場面積は、約56平方メートル。以前の店舗では事務室が中2階にあり、製作スペースは売り場の奥に置かれていた。新店舗では事務室や製作スペースを地下に設け、売り場スペースを広くした。また高い天井高を生かしたディスプレイによって、空間がより効果的に活用できるようになった。

公園側外観
写真:公園側外観

生花の展示コーナー
写真:生花の展示コーナー

打ち合わせ用スペース
写真:打ち合わせ用スペース

 ヒビヤカダン 日比谷公園店は、店舗としていくつかの大きな特徴を備えている。

 まずは歴史。

 以前の店舗は、1950年に開業した。きっかけは、当時の東京都知事の要請だった。「戦後復興計画の一環として、市民の憩いの場である公園に、海外の例にならってフラワーショップを」と求められ、帝国ホテル内の店舗に続く第2店として出店した。同年、株式会社の日比谷花壇を設立している。

 つまり日比谷公園店は、現在、全国で約180店舗を展開する同社にとって、原点であり象徴でもある店舗なのだ。

 次に、公園との関係。

 都立日比谷公園は、1903年(明治36年)、陸軍練兵場だった敷地を整備して生まれた日本初の西洋式庭園だ。池や花壇など自然の要素を取り入れているほか、公会堂や図書館といった文化施設、テニスコートなども用意している。商業施設としては、日比谷花壇のほかにレストランもある。

 このように日比谷公園は、都市生活を支えるさまざまな文化的要素を複合した公園としてつくられた。個々の要素が独立して存在するのではなく、"庭園を散策しながら文化や食事を楽しむ"、"緑に囲まれたなかでスポーツをする"というように互いの機能を融合させることで、都市ならではの魅力を高めている。

 ヒビヤカダン 日比谷公園店が公園との関係を強く意識しているのは、こうした成り立ちを踏まえるとごく自然の成り行きといえる。

 第3に、丸の内や内幸町、新橋といったビジネス街に近いという立地特性に伴う客層だ。半数以上が法人で、個人客でも30代から50代の女性を中心とした贈り物需要が中心という。

 そのため、例えば駅前の気軽なタイプの店とは異なり、胡蝶蘭やバラをはじめとする贈答用の生花、アレンジフラワーなどを多く取り揃えている。ディスプレイも、小さな空間の中でたくさんの花を高密度に展示するのではなく、ゆったりとした見せ方を施している。

 花の専属デザイナーや、客の相談に応じて提案をするフラワーコンシェルジュを2人ずつ配したのも、最高級のサービスを提供する店づくりを目指したものだ。

店内のディスプレイ
写真:店内のディスプレイ

棟と棟のすき間
写真:棟と棟のすき間

 外観の壁面には「HIBIYA KADAN」のロゴを掲げている。ただし、ロゴは一般的な店舗サインのように強く主張はせず、建物に溶け込んでいる。店内の花のディスプレイも、外部に対するアピールを最優先しているわけではない。

 ヒビヤカダン日比谷公園店が一見、店舗らしく見えないのは、こうした内外のあしらいに起因しているのだろう。普通に考えると、物販店としてのタブーに挑戦した店づくりにも見える。

 ただ、多くの顧客にとって、そこに"日比谷花壇"があることは自明の事実。あえて目立つサインがなくてもかまわないと思う客は多いのかもしれない。むしろ店舗らしくないことが、公園に溶け込んだ特色ある空間構成を可能にしたともいえる。60年の歴史に裏打ちされたブランド力がなせる店づくりだ。

(守山久子)

■ヒビヤカダン 日比谷公園店
http://www.hibiyakadan.com/hibiyakouenten/
東京都千代田区日比谷公園1-1
TEL0120-390870(フリーダイヤル)
営業時間 平日9:00〜19:00、土日祝9:00〜18:00
定休日 なし

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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