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連載コラム

第18回「ニューヨークスタイルで駅の顔に 〜アトレ品川」

[ 2004年4月1日 ]

 アトレ品川は、駅の改札と同レベルに当たる2階から4階までを占めている。飲食11店、物販6店、サービス4店という店舗構成。全体を貫くコンセプトが、冒頭に触れたニューヨークスタイルだ。これは、テナント構成とデザインの両面で強く打ち出されている。

 テナントでは、ニューヨーク直輸入の店が2店舗入った。ソーホーを出発点に25年を超す歴史を持つ高級デリショップ「DEAN&DELUCA」(2階)と、マンハッタンのグランドセントラルステーション構内で90年間営業しているオイスターバー「GRAND CENTRAL OYSTER BAR & RESTAURANT」(4階)。ニューヨークを訪れたことのある日本人なら、1度は耳にするだろう有名店だ。

 このほか、「NEW YORK GRAND KITCHEN」(2階)、「TRIBECA」「MANHATTAN GRILL」(いずれも4階)など、ニューヨークの地名を店名に取り入れた店が続く。

 


 もちろん、名前だけではない。国際空港のラウンジやホテルのロビー、あるいは空港の地下鉄駅などをイメージしたという4階は、公共スペースに対してオープンな飲食店が並んでいる。テラス風の客席あり、ちょっとした小屋根を突き出したコーナーあり。石を積み上げた風情の壁や鋳鉄風の柵なども、やや古びた街らしさを醸し出す。ニューヨーク・ヤンキースのユニホームや海外の雑誌、新聞を並べたワゴンなど、いかにもマンハッタンの街角にありそうな小物も用意している。

 柱の随所に組み込まれた画面では、ニューヨークの街の風景や上演中のミュージカルといったイメージ映像が流れる。エスカレーターの壁には、摩天楼を描いたモノトーンのグラフィックが施してある。テーマパークのような作り込みはしていないが、空間の雰囲気を統一する意味では、こうした小さな演出は効果的だ。

 


 一方、エレベーターホールまわりなど公共スペースのデザインは黒と格子を基調にしている。できるだけ絞ったライティングの効果もあり、駅ビルの商業施設としては非常にシックで大人っぽい雰囲気となっている。

 ニューヨークを想起させる要素として、エンパイヤステートビルやクライスラービルといった摩天楼のイメージは欠かせない。マンハッタンを象徴するこれらの超高層ビルが建てられた1930年ごろ、流行していたのがアールデコ様式。黒をベースにしたアトレ品川のインテリアは、抽象的ながらもそのイメージをうまく取り入れていると言えるのではないか。


エレベーターホール


 正直な話、アトレ品川を訪れる前は「なんでわざわざ品川にニューヨークを持ってくるの?」という唐突感をぬぐえなかった。しかし、中に入ってみると意外と違和感がない。その理由の一つには、客層とのマッチングが挙げられる。

 品川駅の港南口は再開発が進み、巨大ビジネスゾーンに生まれ変わっている。さらに新幹線の停車による効果もあり、駅周辺を多くのビジネス客が行き交うようになった。アトレ品川には、こうした客が足を運ぶ。


品川駅側からの外観


 3階の食品スーパー「QUEEN'S ISETAN」や2階の「DEAN&DELUCA」には主婦らしき客も多いが、2階や4階の飲食店で目立つのは、仕事の途中に立ち寄ったとおぼしき単身の男女、あるいはビジネスランチ風の二人連れやグループだ。男性の比率も高い。

 こうした客層が入る店として、ニューヨーク風を意識した空間は確かに馴染みやすい。まず、どこか硬質な雰囲気がビジネスパーソンに向いている。また昼の場合、ゆっくりくつろぐというよりは限られた時間を有効に使う食のスタイル自体が、彼らのニーズにマッチしている。雰囲気づくりの面でも、サービス提供の面でも、ニューヨークというキーワードを選択したのは正解だったようだ。

 個人的には、これまで品川駅から受けるイメージは希薄だった。もちろん高輪口側には高輪プリンスホテルやパシフィックメリディアン東京といった複数のホテル、あるいはブティックやレストランの入る「ウィング高輪」があり、ハイソなイメージをもたらしてくれる。ただし私が実際に訪れることの多い港南口側は、再開発地という場所柄もあって、無味無臭という印象が強かった。

 そこに、"ニューヨーク"という色みがついた。この色みが、従来私にとっては通過地点に過ぎなかった品川駅を、そこで時間を使おうというモチベーションを与えるエリアに変えさせる。強いテナントを集めるだけではなく、独自の色や付加価値を生み出すことが商業施設にとっていかに大切か。そんなことを改めて実感する。

 残る問題は、このように雰囲気に流されやすいユーザー像をどの程度一般化できるか、ということだろうか。

 (守山久子)


■アトレ品川:http://www.atre.co.jp/shinagawa/
東京都港区港南2-18-1
(TEL:03-6717-0900)
営業時間 7:00〜24:00(店舗によって異なる)
2004年8月15日、2005年1月1・2日、2005年2月20日休(2004年3月現在予定)

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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