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連載コラム

第20回「白とガラスの和空間 時の間」

[ 2004年5月31日 ]

 この店のつくりには、いくつかの特徴がある。

 まず、店内が明るい。白いテーブルを上から照らし出す照明を中心に、メリハリを付けながらもライティングの照度が高めに設定されているのだ。

 最近の和食系飲食店は、照明をぐっと落とすことで落ち着いた雰囲気を演出しているデザインが多い。こうした店では、ややもすると自分の席にたどり着くまで足下が暗くて不安だったり、メニューが読みにくかったりしがちだ(そういう部分まで含めての雰囲気づくり、ではあるわけだが)。

 その点、時の間は、テーブルやいす、壁など目に入るほとんどの部分が白を基調としている仕様とも相まって、適度に明るい室内となっている。もちろん、料理もメニューもしっかり見える。

 ただ、単純に明るいだけの空間はかえって落ち着けなかったりするものだ。そこで時の間では、着席している人同士の目線を交錯させないような工夫を施している。例えば、テーブル席の間をガラスのパーティションや簾(すだれ)で緩やかに仕切り、背もたれ部分が高い皮張りのいすを並べた。こうした配慮によって、オープンな客席スペースにいても、隣客の視線を気にせずに自分たちの時間を楽しめるような空間としている。


中央客席

 エレベーターホールからのアプローチ空間と中央客席を隔てる透明ガラスの間仕切りにも、同様の気配りが感じられる。カーブを描いて延びる石壁と石壁の間に、床から天井までのガラスがはめ込まれている。このガラス面に沿って、水が流れ落ちる演出を施しているのだ。

 水による癒し効果を取り入れる意図も、もちろんあるのだろう。しかしそれ以外にも、透明ガラスだけだと客席が透けてしまい、落ち着けないことへの対処にもなっている。結果、アプローチから見ると、水流のゆらめきの向こうに客席の気配が感じられ、心理的にもほど良い距離感をもたらす。

 このほか120席の客席を個室群のほか三つのコーナーに分割しているのも、親密な空間づくりに寄与していると言えそうだ。上で紹介した中央のテーブルコーナーのほかに、カウンター席、壁に沿ってベンチシートが延びるテーブル席がある。やはりガラスのパーティションで仕切りつつ、床面の高さを変えるなどして、それぞれのスペースの独自性を生み出すようにしている。一方、個室は照度も落として雰囲気を変えている。


個室
 
写真左:奥の客席 写真右:カウンター席まわり


 さて、この白い空間で食するのは、鮮魚と鶏、自家製さつま揚げを中心に組み立てられた和風料理。そして、60〜70種類そろえる全国の日本酒と100種類を超える焼酎などの酒だ。日本酒は1年中常備している商品に加え、月2〜3回ごとに変わる季節限定酒を用意している。

 「20代後半から50代くらいのお客様をターゲットに、およそ5000円で本格的な手作りの和食を提供する店を目指した」と、運営者であるタスク営業本部長の増淵喜宏氏。企業に勤める人たちが手軽に、しかも落ち着いて飲めるような店という位置付けだ。

 タスクは赤坂見附と銀座で、やはり和食をベースにした酒の店、「いっこん」と「しゃくしゃく」をそれぞれ運営している。既存の2店舗は、入り口で靴をぬぎ、客席も掘りごたつ式というスタイル。これに対し今回の時の間では、おしゃれな客が多い恵比寿という立地を踏まえ、テーブル形式を採用した。白くて明るい空間にしたのには、料理だけでなく訪れる人のファッションをきれいに見せる狙いもあった。

 
写真左:入口見返し 写真右:ディスプレイの薩摩切子


 時の間が入る「コンツェ恵比寿」は、野村不動産が不動産投資商品として開発したレストランコンプレックス。「大人が楽しめる食のエンターテインメント空間」を掲げ、地下1階から地上7階まで1フロアに1店舗ずつ、八つの飲食店が入る。バー&ダイニングや焼肉、かに、フランス料理、イタリア料理などテナントの種類は多彩だ。

 フロア面積はそれぞれ約90坪。各店舗が実績を持つレストランの新業態店であること、既存の各店の特徴を生かすために店舗ごとに営業時間を設定していることなどが特徴だ。

 野村不動産の発表によると、テナントとは原則10年解約不可の定期借家方式で契約した。テナントは、建物の着工時点ですべて決まっていたという。裏返せば、テナント側も長期的な視野に立った業態開発が可能だった。

 こうした背景もあって、それぞれのテナントは、現在の瞬発的な流行を超えたところでの店づくりを試みているようだ。インテリアにも力を入れている。ビル全体として、複数店鋪の相乗効果で訴求力アップを狙う意図もあるだろう。恵比寿駅西口から徒歩数分と、地の利もある。

 こうした店鋪ビル開発が、新業態店の育成をどう後押ししていくのか。長い目でその成果を見ていきたいものだ。

 (守山久子)

■時の間:http://www.conze-ebisu.com/2f-tokinoma.html
東京都渋谷区恵比寿南2-3-14 コンツェ恵比寿2階
(TEL:03-5722-8600)
営業時間 16:30〜翌5:00(日祝は23:30まで)
無休

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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