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連載コラム

第21回「新和風のデザイナーズ温泉 〜ジェームス山天然温泉 月の湯舟」

[ 2004年6月25日 ]

 ジェームス山は、神戸市街の西郊、塩屋と垂水の海岸から北に1.5kmほど上がっていった丘陵にある。かつては高級邸宅のあるエリアとして知られ、現在はマンションや戸建てが建ち並ぶ住宅地。サティやトイザらスなど、近隣型の大型量販店が隣接する。すぐ北には有料自動車道路、第二神明の名谷インターチェンジもあり、地の利は良い。
 そんな住宅地の傾斜地を降りた一画に、昨2003年10月28日、月の湯舟はオープンした。民間オーナーから依託を受けたプランニングワークが企画・設計・運営を担当している。


外観全景

 四角い建物は、温泉というよりむしろ美術館といったイメージだろうか。コンクリート打ち放しの壁面の先に黒い外装が続き、その間にガラスの箱がはめ込まれている。日が暮れるとガラスの箱は行灯のように柔らかい光を放つのだろうが、昼間の外観はあくまでシャープで硬質な印象を与える。

 「従来のスーパー銭湯とは一線を画した外観とつくりにしたかった。中も外も女性を意識してつくりました」(プランニングワーク取締役の松井友樹氏)という月の湯舟にとって、デザインはまさに最大の売りの一つ。内装デザインには、バーや飲食店などを中心に洗練された空間を手掛けるインテリアデザイナーの野井成正氏の手を借り、モダンさと和の風合いを両立させた新和風の空間づくりを試みた。

 駐車場から建物に近付く人は、コンクリートの壁の端にひっそりと設けられた入り口から、壁の裏側を通ってエントランスホールまでアプローチする。静かな導入部だ。

 建物に入ると、曲面を描く廊下を通って円形の柱が林立するラウンジへ。円柱の上部には末広がりの照明がしつらえられていて、外観の印象とは一転した柔らかい雰囲気をもたらしている。その奥には、レストラン・ナチュラルダイニングが続く。

 
写真左:アプローチ 写真右:エントランスから
 
写真左:レストラン 写真右:吹き抜け

 踊り場で折れ曲がる吹き抜けの階段を上れば、2階全体が浴場のスペース。男女湯とも、大きな窓に面した「月待の湯」や寝湯、サウナ、洗い場などが配された内湯と、外湯の露天風呂がある。露天風呂は、天然温泉の「望(もち)の湯」「小望(こもち)の湯」や天然海水を沸かした「朔(さく)の湯」など、この施設の目玉となっている。

 露天風呂は、空間構成も凝っている。段状に3〜4個ずつ並べた風呂や、大小の石を敷いたスペースの間を階段が結ぶ。最も高い段には屋根のかかった木のデッキ「寝床」が設けられ、女湯の「望の湯」では湯舟の端から滝のように湯がこぼれ落ちていく。ガーデニングの専門家の監修を得ているとあって、そのつくりは確かに庭園風だ。

 名前に冠した「月」というコンセプトは、施設の様々な場所に顔を出す。それぞれの湯に付けられた月待、望、朔といった言葉もそうだし、脱衣室にある天井のだ円形照明や円形の鏡なども、月を想起させるデザインと言っていい。

 
写真左:女湯露天風呂 写真右:女湯内湯

 ソフト面では、銭湯らしさに対するこだわりもある。「昔の銭湯にあって、施設が大型化するに伴って失われていく」(松井氏)コミュニティーの場としての機能だ。そこで月の湯舟では、ヨガやフラワーアレンジメントなどのミニ文化講座を開いている。受講者は多くて6〜7人というこぢんまりとした講座で、現時点では9コースを開催。このうち半分の講師は利用者自身による応募だという。

 利用料は、会員外で大人が平日700円(会員は650円)、土日祝800円(同750円)。周辺地域のスーパー銭湯と比べると「中の上くらい」という設定だ。露天風呂やサウナを使わず、内風呂だけなら大人340円で入浴できる。

 利用者の滞在時間は2〜3時間が中心。入浴で1時間、休憩や食事で1時間程度という配分を考えると、ここは半日以上かけてゆっくり過ごす滞在型の施設とはタイプが違う。松井氏がスーパー銭湯と呼ぶように、浴場を核とした総合レジャー施設やテーマパークではなく、あくまでも大型の銭湯という位置付けなのだ。

 そのせいか、当初は5km圏内の客層を想定していた。しかし実際には大阪市や姫路などから訪れる利用者もいる。女性の比率は53〜55%程度。リピーターも多く、週2〜3回通う人もいるそうだ。現在の集客は年間の目標50万人をやや下回るペースだが、予想より客単価は高く、全体の収益目標をクリアしている状況。より広い顧客の開拓も必要とはいえ、デザイン重視の施設づくりは、開業後8カ月で一定の手ごたえをつかんでいると言えそうだ。

 (守山久子)


■ジェームス山天然温泉 月の湯舟:http://www.tsuki-no-yufune.com/
神戸市垂水区青山台7-4-46
(TEL:078-752-2619)
営業時間 10:00〜翌1:00(最終受け付け0:00)
無休

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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