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連載コラム

第24回「店の歴史も楽しむ 道頓堀極楽商店街」

[ 2004年9月28日 ]

 
写真左:外観 写真右:入り口

 昭和6年、大阪城が鉄筋コンクリートで再建された。松下電器産業の前身がラジオの自社生産を始めた。藤山寛美はまだ2歳で、梅田と心斎橋を結ぶ大阪初の地下鉄が2年後に開通する...。道頓堀極楽商店街は、そんな時代の心斎橋かいわいの街並みをテーマにデザインされている。

 5階から7階まで約3000平方メートルの館内に、飲食を中心とした49店舗が並んでいる。日が傾き、活気あふれる夜を迎えようとしている夕暮れのひと時をイメージした空間に、当時の建物や風俗を再現した街が広がる。2カ月かけてエイジングを施したという内装は、店のインテリアのみならず、看板やポスター、街路の照明、ゴミ箱といった小道具まで徹底的に作り込んだものだ。

 各階には、それぞれ町の名前が付けられている。

 5階は「大福町」。狭い街路の両脇に、たこ焼きや立ち飲みなどカウンター形式の店が軒を連ねている。一方、6階の「萬幅町」は、ゆったりした座席を持つ店がそろう。グリルやカフェ、中華そばの店などが建ち並ぶ奥には、100席の演芸小屋「ゑびす座」がある。最上階の7階は、「七福町」だ。天井の高い吹き抜け状の広場の正面に「道頓堀極楽神社」が鎮座し、その境内を囲むように縁日の出店やラーメン屋などが続く。

 店の間を延びる通路は、街路というよりは横丁。そんな呼び方がふさわしい空間に、庶民的なエネルギーがたち込める。

 
5階大福町

7階七幅町


 運営・管理を担当するのは、パチンコやゲームに携わるサミーのグループ会社、アパンダ。街づくりや商業施設の計画で多数の実績を持つ北山創造研究所が、建物全体をコーディネートした。このほか道頓堀極楽商店街の企画・運営プロデュースにソルト・コンソーシアム、空間デザインにはグラフィクス アンド デザイニングが参画している。なるほど、商業施設づくりのプロが結集したにふさわしい作り込みの密度ではある。

 ただ、テーマパーク型としてのこだわりは、こうしたハードの見た目だけにあるのではない。むしろソフト面に対する注力が、道頓堀極楽商店街の真骨頂と言えそうだ。

 第1に、テナントのうち約30店は京阪神の名店をそろえた。洋食の『新開地 グリル一平』、京都の吉田山に本店を持つ『CAFE & CABARETオアシス』、『元祖新世界串カツだるま』...などなど。味にこだわり、地元の客に熱烈に愛されてきた店ばかりだという。

 これらの店は、約10人のスタッフが1年半かけてリサーチしたおよそ3000店の中から選りすぐった。条件は、「安くてうまい。そして、経営が安定している店」(道頓堀極楽商店街・事業企画推進室の陳亮氏)であること。出店に際して新しい店長を雇わず、元々の店の主人や家族、あるいは店の味をわきまえた職人に直接新しい店を運営してもらうという条件で誘致している。

 第2は、こうした名店の持つ歴史を生かしつつ、施設全体のイメージをまとめ上げるためのストーリー設定だ。

 上で触れた名店以外の約20店は、今回新しく立ち上げた直営の飲食店と物販店となっている。当然、これらの店には歴史がない。そこで、それぞれの店主たちにプロフィールとストーリーを与え、それに基づいた店の演出を施していった。例えば、泉州屋の若夫婦は岸和田から駆け落ちしてきた人たちで、だんじりのはっぴを着ているといった具合だ。

 道頓堀極楽商店街のような新規の商業施設を立ち上げる時には、何百人単位で新しい従業員を雇用することになる。しかし、単純に学生アルバイトを雇うと、せっかく歴史を売り物にした街に"軽さ"が出てしまう。店のストーリー作りには、フィクションの部分も含めてリアリティーと深みを加えようという狙いがある。

 「想定したプロフィールを基に全部で200ページくらいの小説を作成した。店で働く人は、自分自身のキャスティングを把握したうえで店を切り盛りしていくようにしている」と陳氏は言う。各店では積極的に客とコミュニーションを図るようにし、固定ファンを増やしていくことも意図している。

 また、年配の人も積極的に雇用した。50歳以上の年配層が従業員の6、7割を占めているというだけあって、テーマパークの割には、確かに日常になじんだ印象を与える。

 
写真左:電柱まわり 写真右:郵便ポスト


 入館時に大人で315円の入館料を払い、そこでもらう通行札と呼ばれるICカードで館内の支払いをすべて行うシステム。ゑびす座や横丁のあちこちで大道芸や各種パフォーマンスを行うなど、テーマパークならではの仕組みを随所に取り入れている。ただし、「個々の店の魅力を前面に押し出した」(陳氏)という全体のつくりは、昔ながらの商店街そのものに回帰しているかに見える。

 館内には道頓堀極楽商店街のテーマ曲が大音量で繰り返し流れ、まさに"ベタな大阪文化"という味わいだ。しかし個々の店における細かいレベルでのこだわりにこそ、大阪人の心意気が隠されているようだ。

 (守山久子)


■道頓堀極楽商店街:http://www.doutonbori-gokuraku.com/
大阪市中央区道頓堀1-8-22
営業時間 11:00〜23:00(最終入場は22:00まで)
無休

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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