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連載コラム

第29回「脱・土産店風の白い店 〜四季の桜」

[ 2005年3月4日 ]

  「中をちらっと見て『ここは美容院なのね』と言って去っていくお客さんもいるんですよ」。高尾山の土産物を販売する「四季の桜」の店主、前田均さんはそう苦笑する。

 美容院と見まごうかどうかは別として、四季の桜は、確かに周辺の土産物店とは明らかに違う。ファサード全面のガラス張りに、白一色で統一されたインテリア。入り口を入ると、吹き抜け状の空間に円弧を描いた両側の壁が奥へ続く。

 右手の壁全体はディスプレイ棚となっている。アクリル製の棚板の端部が白く光り、パッケージをそろえたジャムや味付け味噌、和菓子などが少しずつ並ぶ。壁全体のボリュームを感じさせつつ、商品のアイテム数と展示数量は抑えている。"美容院"風に見えるゆえんだ。

 コーヒーや豚まんセットなどを提供するカウンターが左手にあり、奥の丸テーブルで食べられるようになっている。「この形で本当にやっていけるのかどうかという不安はゼロではない。でも、1年くらいはそれでいい、このまま突き進もうと思っています」と前田さんは話す。


店周辺の風景
 
写真左:外観まわり 写真右:店内風景


 東京西郊の高尾山と言えば、地元の小学生にとっては春秋の遠足でおなじみの山だ(少なくとも何十年か前は、そうだった)。標高約600メートル。新宿から約40分と都心から近く、ケーブルカーやリフトで手軽に登れるため年間250万人もの登山客が訪れる。桜や紅葉の季節は特に賑わいを見せ、山頂近くにある薬王院への参詣客も多い。

 山のふもとにあるケーブルカー「清滝駅」の駅前広場に続く参道には、昔ながらの土産物店が続いている。長屋のような建物の端にある四季の桜も、1年前まではそんな店の1つだった。

 当時の前田さんは、オープンな店先に土産物をたくさん並べる従来の店とは違う売り方を探る必要性を感じていた。ドアを閉めた室内空間で、土産物を販売したい。寒い時期も登山客が訪れるという土地柄に加え、「お客さんにも商品にも、より丁寧に向き合いたかった」(前田さん)からだ。

 店舗改装の準備にとりかかろうとしていた1年前の2月、前田さんはひょんなことから「デンツウデザインタンク」について書かれた新聞記事を読む。電通が社内のデザイナーを横断的に組織し、ロゴやパッケージ、空間のデザインやキャンペーンなど総合的な店舗づくりを支援していくという。

 小さな土産物店を相手にしてくれるかどうか半信半疑のまま、電話をしてみた。すると電通の担当者は興味を示し、トントン拍子で話が進んだ。商品構成のアドバイスやロゴ、パッケージのデザインをデンツウデザインタンクが担当し、インテリアは若手建築家グループ「みかんぐみ」が設計することになった。

 
写真左:壁面全体を使ったディスプレイ 写真右:カウンターまわり見返し
 
写真左:オリジナル商品 写真右:奥のディスプレイ


 「空間については、とにかく変わったことをしてほしいと要望」し、他の店舗との差異化を図ることを目標に置いた。店の裏に流れる川の景観を取り込むため、奥の壁面もガラス張りだ。周辺の店の店舗空間はまさに「店先」に限られているのに対し、ここでは店を貫く視線が外部の緑まで抜けていく。

 デンツウ側は、ようかんや乾燥野菜など従来の売れ筋商品を中心に、アイテム数を絞って再構成するよう提案してきた。そばのパッケージも一新。カステラやパスタの具などの新商品は、オリジナルであることにこだわってメーカーと交渉し、四季の桜の独自パッケージで発売にこぎつけた。

 製品名と特徴を文字で端的に表現した商品のシールは、ピンクなど各色の印刷状態にまで強くこだわったものだ。印刷所選びにも時間と手間をかけた。大量に発注できる商品ではない分、パッケージの製作費は高くつく。ものによっては商品1個当たり数十円に及ぶものもあるが、この際、徹底的にこだわることにした。

 リニューアルオープンから約5カ月を経た手応えはどうか。「店構えと商品構成を変えて一部のお客さんを失ったが、今までは入ってこなかった人たちが店に足を踏み入れてくれるようになった」と前田さんは分析する。

 例えば、せんべいをたくさん買い込んでくれたような客はいなくなり、ジャムや味噌などを味見して買っていく人が増えた。こうした客は、1つの商品をおいしいと思えばまわりの商品も試してくれる。だから、店頭ではできるだけ試食できるようにしていきたいという。

 また、電話で宅急便を依頼してくる人も出てきた。「発送先は青森から九州まで幅広い。そんなに広い地域からお客さんが高尾山にやってくることを初めて知りました」。

 さらに前田さん自身も予想していなかったのが、値札どおりの販売をできるようになったことだ。従来の店頭販売では値引きを求める客が多く、消費税を払ってもらえないことがしばしばあった。しかし、ドアの中できれいに陳列した商品を販売すると、客は何も言わずにレジで打ち出した金額を払ってくれるようになった。

 商品とその見せ方、売る環境にこだわることで、商品の付加価値を高める――。四季の花は、土産物店でもそんな試みが可能であることを証明するための第1歩を踏み出した。

 (守山久子)


■四季の桜
(TEL:0426-63-6808)
東京都八王子市高尾町2208
営業時間 9:00〜17:00(季節によって変わる)
不定休

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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