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連載コラム

第30回「商品も建物も手作り感を出す 〜トッズ表参道ブティック」

[ 2005年4月7日 ]


正面外観見上げ

 コンクリートの壁がけやきの枝のように伸び、交錯するグラフィカルな外観。壁面にはめこまれた不整形なガラスは、一つとして同じ形がない。しかも普通は窓ガラスの周囲に使われるサッシがなく、コンクリートとガラスが直接接している。

 いかにも施工者泣かせ、といった建物である。

 一方、こうした構造は明確な目的の下に採用されたものでもあった。外壁だけで建物を持たせる構造のため、内部に柱はない。したがって、フレキシブルに使える広い売り場スペースを確保できる。

 枝ぶりのような形を描く外壁は、下階から上階へ行くほどコンクリートの表面積が減り、その分、開口部が増える。下層ほどコンクリート部分が多い構成は、建物の重量を支える面で合理的だ。また、下階は開口部の少ない方が使いやすいショップ、上階には窓が大きい方が気持ちよいオフィススペースという空間配置にも合致している…。

 というような建物の特徴は、以前から予備知識として持っていた。店内の雰囲気も、何となく予想していた。

 伊東豊雄氏の代表作「せんだいメディアテーク」などを訪れた経験から、シャープな軽快さとある種のクールさを持つ空間をイメージしていたのだ。そして、それらは個人的に決して嫌いではない。

 しかし、店の中に入ると“予想”は裏切られた。思った以上にしっかりした質感と空間変化の面白さを感じさせるデザインだったからだ。

 天井の高い売り場スペースに、くつやかばんをはじめとした色鮮やかな高級革製品が並んでいる。商品と空間に共通するのは“丁寧なものづくり”の姿勢とでも言おうか。ゆったりとした気分で商品と空間を楽しめるような雰囲気が、店内には漂っている。

 
写真左:1階奥の階段まわり 写真右:1階売り場見下ろし


 7階建てのビルのうち、ショップ部分は1階から3階まで。上はオフィスやイベントスペースになっている。商品レイアウトは適宜変わるそうで、取材日には1階と2階がレディースのバッグとシューズ、3階がメンズ製品という構成だった。2階には、国内ではここだけで扱うキッズ商品もある。

 不整形な多角形の窓から、自然光が注ぎ込む。建物の形に呼応させ、間仕切り壁やディスプレイコーナーの壁も水平や垂直のない構成となっている。壁材やガラスが斜めにぶつかり合う様子は、水晶のカット面を思い起こさせる。

 売り場空間を結ぶ階段は、1〜2階は店内奥の突き当たりに、2〜3階はエントランスの上部分にと対照的な位置に設置している。こうした配置は、無理なく店を回遊させる動線を生み出すと同時に、それぞれの階段から異なる風景を見せていく。

 ことに2〜3階の階段から下をのぞくと、落下防止の役も果たすガラス天井が斜めに空間を横切っているのが目に入る。このガラス越しに下の売り場をかいま見た時の不思議な感覚…。意外性ある視点の確保は、この店舗に実際以上の立体感を与えている。

 さらに印象的なのは、ディスプレイ什器や壁の一部に施した革の仕上げだ。自然な色合いをした皮革の端部を丸く折り込むように仕立て、手触りも視覚的な印象も柔らかな風合いを醸し出す。これらはイタリアから呼んだ職人による手作業で作り上げたという。

 このほか、木材にゴムリキッド仕上げを施した壁、スタッコ仕上げの壁など、手の痕跡を残した質感あるインテリアが、空間に深みをもたらしている。

 
写真左:2階売り場 写真右:階段からの見下ろし

3階売り場

3階展示棚まわり


 イタリアを発祥の地とするトッズ・グループは、2003年度に世界で年間総売上げ3億7100万ユーロ(2004年9月時点で3億3160万ユーロ、前年同期比15.8パーセント増)を記録している。このうちアジアは11パーセントを占めており、なかでも日本は重視している市場の一つだ。

 国内では百貨店を中心に店舗展開してきた同社にとって、ここは初めての自社ビルによる直営店になる。当然、店舗開発にかける意気込みは大きい。

 売り場スペースが限られる百貨店と違い、品揃えもミラノ本店にも劣らないという質とアイテム数を誇る。各国の旗艦店だけで扱う、その店だけのオリジナル色商品も近く用意されるそうだ。ディスプレイについても、細部にわたってイタリアからの指示が届くという。

 ディオール、ルイ・ヴィトン、プラダなどの有名ブランドが話題の建築を引っさげて進出してきた表参道に加わった、新たなブランドの旗艦店。日本での本格的な販売拠点としては、話題性もハード面の作り込みも不足はない出来上がりに見える。

 (守山久子)


■トッズ表参道ブティック
(TEL:03-6419-2055)
東京都渋谷区神宮前5-1-15
営業時間 11:00〜20:00
無休

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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