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連載コラム

第31回「住空間への関心はより私的に 〜カッシーナ・イクスシー プライベート」

[ 2005年5月17日 ]

 昨夏、ミラノとロンドンへ小旅行した際、意外な印象を受けた。

 それぞれの街で、インテリアやデザイン雑貨の店を見つけては中をのぞいてみたときのことだ。これらの店に並んでいる商品は確かに洗練されていて面白い。しかし、かつて訪れたとき(かなり大昔だ)と同じような高揚感を味わうことはなかった。

 私の感受性が低下していることも否定できないが理由は別にある、と思う。

 並べられた商品は、現在、日本の商業施設でよく見かけるものが多い。中にはmade in Japanの商品も混じっているので、土産物を買う場合はラベルのチェックが欠かせない。見方を変えれば、つまりそれだけ最近の日本ではインテリア雑貨に触れる機会が増えているということだろう。

 日本の消費者が衣や食に充足し、ようやく住空間に対する関心を高めてきたと指摘されて久しい。店舗やメディアでの露出も増えた。海外の店の新鮮みが薄れたという体験は、そうした状況を改めて実感させる出来事だった。

 「カッシーナ・イクスシー プライベート(以下、Ciプライベートと表記)」の登場も、住空間に対する私たちの関心の定着と無縁ではない。いや、こうした流れの延長上に出店の狙いがあると言った方が正しいそうだ。


スチールのトンネル
 
写真左:階段まわり 写真右:木ルーバーの売り場


 カッシーナ・イクスシーは、これまで東京・青山をはじめ全国の大都市5カ所に直営店を出店してきた。すべて、同社の扱うラインナップを広く展開する店舗だ。これに対し、Ciプライベートでは「極私的空間」というテーマを設定し、ベッドルームを中心とした私的なスペースに絞った住環境の提案を目指している。

 生活者が住空間にこだわるといっても、従来は、リビングなど家の中で公共性の高い部屋に力を注ぐケースが多かった。こうした住居内の“表の空間”に手をかけ終わった人たちは、次に、よりプライベートな空間へと目を向けていくはず…。Ciプライベートの出発点には、ユーザー意識の変化に対するそんな読みがあった。

 店内は、ベッドを中心に、照明やインテリア雑貨、カーテンなどのファブリックが並ぶ。基本的には、1階が同社のオリジナルブランドであるイクスシー、地下1階がカッシーナブランドのコーナーという構成だ。

 天井の高い空間はいくつかのコーナーに緩やかに分割され、それぞれにベッドルームまわりの家具を置いたシーンが展開する。ディスプレイは、「単に寝るための部屋ではなく、読書や語らいなど寝るまでの様々な行動をする空間」(広報担当の夏目康子さん)として、ソファやAVラックなどを配置したものになっている。

 
写真左:グラフィックを生かしたディスプレイ 写真右:明かり取りの吹き抜け
 
写真左:照明のディスプレイ 写真右:イクスシーカフェ


 商品ディスプレイはもちろんだが、空間自体のデザインもいろいろと見所は多い。

 インテリアとしては、複数のコーナーに分割しつつ、奥まで見通せるようなしつらえが特徴となっている。

 たとえば地下に続くスチールの階段室や、その周囲に設置されたガラスのディスプレイ棚は、透視性を重視したつくりだ。1階の床には2カ所穴を開け、ガラスで覆った地下への明かり取りとしている。こうした“抜け”の工夫が、1階と2階を視覚的に結び付ける。

 このように見通しを効かせた空間のつくりは、オペレーションから出てきた要請だという。ただし同時に、変化とつながりを空間にもたらし、訪れた客の意識を奥まで引き入れる効果をもつ。

 木のルーバーで区切られた1階奥の一画。下りていくに連れ幅が狭くなり、パースを効かせたスチール製の階段。小物や照明が棚に並ぶ、黒いスチールのトンネル状ディスプレイ空間。ところどころに気を引く仕掛けが施され、広い展示スペースをひきしめている。

 さて、商品構成以外にも、Ciプライベートでは新しい試みを行っている。入り口まわりに設けた「イクスシー カフェ」だ。通行量の多い表通りに面していることもあって、目の前を行き来する歩行者を引き込む装置として設けている。

 幅の広いカウンター席がガラス張りの正面に向けて伸び、11組の客が相対して座れる。さらに、ゆったりしたラウンジ席がいくつか並ぶ。周辺に似たタイプの飲食店が少ないせいか、予想以上の集客を得ているとか。高級家具のショップにはなかなか足を踏み入れにくいと感じる方でも、こちらのカフェはお薦めだ。

 (守山久子)


■カッシーナ・イクスシー プライベート
http://www.cassina-ixc.jp/
(TEL:03-5464-7060、イクスシー カフェ 03-5464-7062)
東京都渋谷区渋谷1-23-16 PICASSO347 地下1階・1階
営業時間 11:00〜19:30(イクスシー カフェ 11:00〜23:00)
不定休

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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