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連載コラム

第32回「ブルーナのイラストに込めた意味 〜モスバーガー国立店」

[ 2005年6月8日 ]

 メニューを見ると、ハンバーガーショップも様変わりしたものだとつくづく感じ入る。
 シーザーサラダ、オニオンリング、湯葉入り五目中華スープ、エリンギとニョッキのトマトスープなど、ハンバーガー以外のメニューがずらり。ハンバーガーも、レタスやライスで包んだバーガーはもちろん、アボカドやオニオンソテーなど実に具沢山な商品が並ぶ。ハンバーガーショップというより、ハンバーガーの充実したカフェといったところだろうか。

 実際、モスフードサービスは昨年来、ファストフード店とカジュアルレストランをミックスした「ファストカジュアル」業態の店づくりを目指してきた。名付けて「緑モス」。店舗のサインを従来の赤から緑を背景に用いたものへと変更し、メニューの幅を広げ、よりリラックスできる空間づくりを進めている。

 昨年から既存店舗の改廃と立地替えを行い、2004年度で350店の緑モスを誕生させた。2006年度内には、1000店舗以上の転換を予定している。このように変わりゆくモスバーガーを象徴する存在が、今回のディック・ブルーナモデル店舗だ。

 ディック・ブルーナ氏は、ミッフィーなどで有名なオランダの絵本作家。ここでは彼の描いたグラフィックをロゴやインテリアの壁面、皿などに用いている。緑や黄色、青といったはっきりした色彩を塗り分けていく氏のデザインは、ピクトグラムのような明快な分かりやすさを持つ。例えばモスバーガーの「MOS」を意味する山(mountain)と海(ocean)、太陽(sun)を表現した絵や木のグラフィックなども、ファストカジュアルという業態にしっくり馴染んでいた。

 
写真左:正面外観 写真右:店内風景


 店のデザインを見てみよう。

 角地に建つビルの1階にある店は、大学通りに面した入り口に小さなオープンエアのテラス席を持つ。店内に入ると、細長い空間には、レジカウンターの奥にガラスで仕切られたオープンキッチンが続く。テラス席側には木のいすが並ぶ大テーブル席、奥の空間には、布地を使ったいすやベンチの並ぶ小テーブル席が配置されている。

 全面ガラスから光が差し込み、外には植栽の列が見える。明るい色のフローリングに白い壁。木や布を用いたテーブルといすとも相まって、ゆっくりとくつろげる雰囲気を醸し出す。

 
写真左:レジまわり 写真右:オープンキッチンと客席
 
写真左:大テーブル席 写真右:客席スペース


 広さも従来店に比して大きめだ。8つのテラス席を含めて座席数は61席。これに対して店舗面積は61.5坪(約200平方メートル)と、かなりゆったりした印象を受ける。

 また、バリアフリー対応や環境配慮などにも力を注いでいる。店の中央に配されたトイレは車いすの利用者も余裕をもって使えるスペースを確保。室内は完全禁煙としているほか、表のサインには「緑化看板」を使用した。

 緑化看板はタイルの表面にコケを発生させた、文字通り植物のサインだ。外壁のガラス窓の上へ帯状に並べ、モスバーガーのサインの背景として用いている。環境に対する同社の姿勢を象徴する仕掛けの一つと言える。

 
写真左:バリアフリーレストルーム 写真右:緑化看板


 「ディック・ブルーナ氏を起用した店舗」と聞くと、氏の既存キャラクターと提携したビジネスを展開するのだろうかと想像したくなる。しかし、ここでは特にキャラクターグッズの商売をもくろんでいるわけではないのだという。

 ブルーナ氏は、絵本以外にも社会福祉活動に関した様々なグラフィックデザインに携わっていることで有名だ。幼年労働反対や血液バンクの案内、動物愛護などを訴えるポスター、トイレの使い方を表したピクトグラムのステッカー、知的発達障害者たちのスペシャルオリンピックのためのポスターなど、オランダ内外での活動は幅広い。

 一方、モスフードサービスもこれまで社会貢献に力を注いできた。

 協力農家が農薬や化学肥料にできるだけ頼らずにつくった"生産者の顔が見える野菜"の提供や、本社の近くにある小学校に対するひまわり栽培セットのプレゼント、盲導犬を育成する協会への募金活動...。日本人の味覚を意識した多彩なメニューに加え、こうした企業姿勢がモスファンを育てる一つの要素となってきたことは間違いない。そんな同社とブルーナ氏に共通する意識が、両者の協力体制を生み出した。

 ディック・ブルーナモデル店舗は標準タイプの店ではなく、あくまでもモスバーガーの考えを表現するという位置付けの店だ。「客席は標準的な仕様より少ないので、一定以上の面積が必要。また、このデザインが似合う立地であることも大切」(モスフードサービス広報室チーフリーダーの平山直美さん)と、厳選した出店を想定している。今度、2005年度の出店予定は3店舗だ。

 その企業がどのような姿勢で社会や環境に向かおうとしているのか。店に愛着をもってくれるファンを育てるためには、商品とサービスの品質や価格だけでなく、そんな付加価値も求められる時代になりつつある。こうした付加価値を表現するためにも、デザインに対する心配りがより重要になってきた。

 (守山久子)


■モスバーガー国立店:http://www.mos.co.jp/
(TEL:042-573-2929)
東京都国立市東1-15-8
営業時間 7:00〜深夜2:00
無休


【クローズアップ】

緑化看板
外看板の下地になっている緑のタイルは、表面にコケを生成させたものだ。発泡式のセラミックタイルに土とスナゴケを注入。内蔵した湿潤パイプに1日10分から20分程度、水道水を流して水分を供給する。断熱効果を持つため、空調費や二酸化炭素の削減に寄与するという。今年の3月、液晶や環境事業を行うヒューネット(東京都北区)が発売した。

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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