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連載コラム

第36回「名古屋駅、栄とはひと味違う"街型"施設 〜アスナル金山」

[ 2005年10月11日 ]

 金山統合駅の北口を出ると、左手に再開発された一画が広がる。駅の出入り口から一続きに月形の広場が連なり、黄色や薄紫、赤レンガ色に彩色されたカラフルな外観の建物が広場を取り囲む。「アスナル金山」だ。
 地上3階建てという低層の商業施設は、広場に沿って各階に屋外通路が巡る。エレベーターもあるが、不規則な曲線を描く屋外通路のところどころに設置された階段やエスカレーターを使って来訪者は上下階を行き来する。店舗の多くもこの屋外通路に面している。


駅からの外観
 
明日なる!広場


 建物のプロデュースや設計、リーシングなどを担当したのは北山総合研究所。これまでも、徳島市の川沿いにある「新町ボードウォーク」や北海道の「函館西波止場」などのように水際にウッドデッキを持ち込んだ商業施設、東京の「サンストリート亀戸」のように駅前の再開発を伴う商業施設を数多く手がけてきた。いずれも、公共部を充実させ、商業施設に街としての賑わいをもたらす手法を特徴としている。

 回遊性を重視したプランニングは、アスナル金山も変わらない。広場を設け、その周囲を巡るように店舗を配したつくりは、サンストリート亀戸と同じタイプだ。設計者は違うが、福岡市の「キャナルシティ博多」の簡易版のようにも見える。

 1階はカフェなどの飲食店や「アスナルホール」という多目的ホールが広場に面して並び、棟の奥にタクシーターミナルや駐輪場が続く。2階はレストランと物販店、3階はレストランや物販店のほかに保育所やフィットネスクラブなどのサービス施設が入り、それぞれに駐車場棟が設けられている。

 物販店ではファッション系は少なく、雑貨やインテリア、中古レコードなど日常的で趣味性の高いジャンルの店が多い。3階は、体や健康に関連した店を集めている。

 回遊性のあるつくりを生かすため、テナントも柔軟に空間を利用している。契約上、屋外通路は公共部分だ。しかし、店舗の雰囲気ができるだけ滲み出てくるようにするため、飲食店の客席を一部屋外に置けるようにした。その結果、通路の一部はオープンテラスとして賑わいの演出に一役買っている。

 
写真左:飲食店外部テラス 写真右:広場のステージ


 先ほどキャナルシティ博多の「簡易版」と表現したが、鉄骨造の簡易な仕様になっているのにはそれなりの理由がある。15年を期限とする事業借地権に基づいた開発なのだ。

 金山統合駅は、JR東海道本線と中央本線、名鉄名古屋本線、地下鉄名城線と名港線の金山駅がばらばらに設けられていたのを1989年に集約したものだ。市内では名古屋駅に次ぐ1日35万人の乗降客を迎える交通の要所。ただし、乗り換え客が約7割を占める中継地点で、周辺に目的性の高い施設は少ない。

 それでも南口の市有地はホテルとボストン美術館の入る高層ビルが建設されるなど一定の開発が進んだ。一方、北口の市有地は駐車場があっただけ。当初考えられた高層ビルの計画も棚上げになっていた。

 こうしたなか、駅前の駐車場跡地で商業開発の可能性を探るため、期間限定で企画されたのがアスナル金山というわけだ。大きな目標は、金山駅北口という地域全体の活性化。名古屋都市整備公社が15年限定で市の土地を借り上げ、コンペを実施して計画を進めた。

 「周辺に住宅地も多く、SOHOを視野に入れたオフィスなども建設されている。このようにポテンシャルはあるが、何も無いゼロからの出発だった。第一段階の開発として、金山にふさわしい計画を検討。名古屋や栄との違いを生むため開放感のある構成とし、広場を中心に店舗を配置することでオリジナリティーを出した」と、名古屋都市整備公社金山事業部の櫻木彰人マネージャーは話す。

 アスナル金山の施設が持つ特徴は、これらの与条件をそのまま反映したものと言える。

 初期投資を抑えるべく、地下のない地上3階建ての建物にした。駐輪場やタクシー乗り場を設置したのは、交通の結節点としての機能を果たすため。広場を設けたのも、ここが広域避難場所に指定されており、2000平方メートル以上のオープンな場所が必要だったからだ。

 加えて、新しい客層を引き込み、周辺の既存商店街への波及効果を生み出す役割も担う。「15年間で金山にふさわしい商業施設のあり方を見つけ出し、良い形で次にバトンタッチしていきたい。重い命題だととらえている」(櫻木氏)。

 
写真左:ベンチ 写真右:ワゴンショップ

平面図サイン


 もともと商業地でなかったこともあり、想定ターゲット層は特に絞らずに「0歳から100歳まで」。20歳代から30歳代の女性がボリュームゾーンになるだろうと想定していたが、実際には年配の女性も多い。屋外を歩かせるつくりのため、暑かった夏は客足も鈍るなど、予想以上に天気や気温の影響を受けやすいと櫻木氏は現状分析する。

 それでも当初掲げた年間60億円という売り上げは、9月の取材時点ではほぼ目標どおり達成しているという。今後も、年間600回開く予定のイベントや、若い起業家に提供するワゴンショップなどを活用し、時間をかけて地域への浸透と商業施設としてのバリューアップを目指す。

 ここ数年、名古屋の元気さが喧伝されてきた。それが万博景気で終わってしまうのか今後も続くのかは、第三者として興味深い。しかし、アスナル金山が取り組むのは、そうした一過性の景気の浮沈を超えられるような商業開発の仕組みづくりのはずだ。最終的な結果が問われる15年後まで、試行は続く。

 (守山久子)


■アスナル金山:http://www.asunal.jp/
名古屋市中区金山1-31ほか
(TEL:052-324-8577)
営業時間 物販・サービス10:00〜21:30、飲食11:00〜22:00(一部店舗によって異なる)
無休

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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