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連載コラム

第37回「復権目指す日本橋の情報拠点に 〜三井越後屋ステーション」

[ 2005年11月15日 ]

 長らく商業地域としての地盤沈下を指摘されてきた日本橋エリアが再び元気になりつつある。
 昨2004年春に開業した「コレド日本橋」(本コラム第22回掲載)や日本橋高島屋のリニューアルを皮切りに、商業施設の改装や新規開発が相次いだ。コレド日本橋の登場に合わせて運行を開始した無料の地域循環バス「メトロリンクス」の効果もあり、若い年齢層を含め、人の流れが戻ってきている。

 日本橋といえば、三越や高島屋のような商業施設とともに三井グループなどのオフィスが並ぶビジネス街でもある。2005年7月には三井本館の隣に日本橋三井タワーが完成した。「マンダリン オリエンタル ホテル東京」やオフィスが入居するほか、千疋屋総本店などの飲食・物販店もオープンしている。

 そして三井本館の向かいに建つ三井第三別館の1階部分に「三井越後屋ステーション」が登場した。10月10日から来年3月末までの期間限定店舗だ。三井不動産が事業主となり、タウン誌の「月刊日本橋」とラジオ局「エフエム東京」が運営協力を行っている。

 この場所は、三井グループの前身となる三井越後屋呉服店が1673年に開業した由緒ある地だ。瓦葺きの屋根に白壁、藍色に白く「越後屋」と染め抜いたのれんを掲げた外観は、当時の面影を再現したもの。現代的なビルが建ち並ぶ街並みのなか、その外観はひときわ目立つ。

 
写真左:外観全景 写真右:入り口まわり


 ステーションの中身を一言で表現すると、物販や飲食の機能をもった情報発信の場だ。建物内には、朱色で塗った2層吹き抜けの空間にいくつかのコーナーが設けられている。情報発信の場としては、3つのゾーンがある。

 まず中央通りに面したメーンエントランスを入るとすぐ横にある三角形のステージは、「日本橋越後屋スタジオ」だ。エフエム東京のサテライトスタジオとしてラジオの公開生放送を行うほか、ライブ演奏や寄席の高座などを定期的に開いている。

 店の奥に設置されたガラスのショーケースは、「其角堂コレクション」。江戸ものコレクターとして有名な平野英夫氏の収蔵品を常時展示している。期間中、何度かテーマを変えてコレクションを披露していく予定だ。

 もう一つの「にほんばし案内処」は地域のコンシェルジュともいうべき機能を果たし、訪れる客に対して日本橋の店やイベント情報を広く提供する。「日本橋はもともと商業とビジネスの地域で昼間人口が多い。集客を持つ老舗の店舗も点在しているが、エリアとしての求心力が低かった。そこで、街としての魅力を伝えられるようにする」(三井不動産広報)のが狙いだ。


店内風景
 
写真左:日本橋越後屋スタジオ 写真右:にほんばし案内処


 このほか、飲食と物販のコーナーがある。

 「越後屋カフェ」のメニューは米と大豆を中心とした構成だ。おにぎりや弁当、豆乳を用いたホットスイーツ「越後玉」、「とろり豆乳プリン」などを提供する。ちなみに米と大豆は江戸時代、日本橋を中心に広く流通した商品だった。地域の歴史と最近のロハス(Lifestyles Of Health And Sustainability)志向をミックスしていることになる。

 カフェのメニューカウンターの前に置かれたワゴン「にほんばし屋台」には、近隣に位置する老舗の商品が並ぶ。手漉き和紙、和菓子、牛肉の佃煮、かつお節、福神漬けなどのほか、老舗料亭が日替わりで作る弁当まで。弁当は、この屋台用にオリジナル制作した少数限定商品だ。

 それぞれの老舗には敷居の高さを感じてしまう人や、各店舗に出向くほどの目的意識を持たない客でも、ここなら気軽に老舗の商品を見られる。屋台は老舗と客を結ぶ新しい接点となり、日本橋の魅力を集約した商スペースともなる。実際、面積が小さいこともあり、商品の補充が大変なほど売れ行きは上々という。

 
写真左:越後屋カフェ 写真右:向かいは三井本館(左)と日本橋三井タワー(右)


 改めて考えてみるまでもなく、街としての商業エリアに二つの要素は欠かせない。

 一つは路上のにぎわいだ。街の活気は、路面を歩く人がいてこそ生まれる。それが郊外の路面型ショッピングセンターとの大きな違いだし、街としての商業地の魅力でもある。

 日本橋も、かつて銀行の建物が多かった時代は午後3時を過ぎると道路に面した店頭にシャッターが下り、路面の賑わいを失うという側面があった。しかし、その後の経済状況の変化に伴い、銀行のいくつかは日本橋から移転した。新しく新築、改装された建物は1階に商業店舗を配し、路面の賑わいを取り戻そうとしてきた。日本橋を歩行する人の数が増えてきているのは、そんな努力を積み重ねた結果にほかならない。

 そしてもう一つは、情報発信の機能だ。

 情報発信機能とは、特に目新しいことでも難しいことでもない。どこにどのような店があり、どのようなイベントを行っているのか。たとえば古い商店街なら店頭に立っているおばさんに聞けば、そのかいわいについて何でも教えてくれるだろう。このように街としての情報を共有し、来訪者に伝える役割を担う人や場所を持つことが、街の資産を有効活用する決め手になる。

 三井越後屋ステーションは路上を行き交う人の窓口となり、日本橋エリアの案内役を買って出る。規模は小さく、営業期間も限定されている。しかし、日本橋という街のタウンマネジメントを志す動きとしてとらえると、その意味はけっして小さくない。

 (守山久子)


■三井越後屋ステーション:http://m-echigoya.jp/
東京都中央区日本橋室町2-2-1 三井第三別館1階
(TEL:03-3231-6977)
営業時間
 2005年11月20日まで 11:00〜20:00
 2005年11月21日〜2006年3月31日 月〜土:11:00〜23:00、日:11:00〜18:00
無休

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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