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連載コラム

第39回「駅の余剰スペースを街に生かす 〜エチカ表参道」

[ 2006年1月17日 ]

 点在させた...と書いたのには理由がある。
 エチカ表参道は、既存の駅員室や電気室の余剰スペースを活用し、商空間として再生させたものだ。そのため、改札内や改札の前、あるいは出口に通じる通路沿いというように、いくつもの場所にテナントを分散配置している。一つの名前を冠した商業施設ではあるが、全貌をつかむには少し時間がかかるつくりになっている。

 店舗群は、大きく5つのゾーンに分かれている。

 まずは、地下2階の改札内を中心とした食のゾーン「エスパス・アペティー」。青山・紀ノ国屋によるスペシャリティフーズショップ「オモ キノクニヤ」のほか、ジュースバーやベーカリー&カフェ、スイーツの物販店が並ぶ。次いで、銀座線・半蔵門線と千代田線がクロスする位置の改札周辺にあるのが、化粧品やファッション雑貨のゾーン「エスパス・モード」だ。

 明治神宮駅方面に向かう通路沿いの地下1階レベルには、イタリア料理、ベトナム料理、ビストロ、カフェバーなどしゃれた店を集めたフードコート「マルシェ・ドゥ・メトロ」。その先の出口まわりには、2つの飲食店が並ぶ「エスパス・ジャポン」を配置している。

 表参道交差点の逆、根津美術館方面へ向かう出口近くに位置するのは、美のゾーン「エスパス・ポーテ」。ネイル・美容・エステティックのサロンやインナーウエアショップなどが集まるエリアだ。

 各ゾーンの名前が示すように、エチカ表参道のイメージはフランス・パリ風でまとめられている。床、壁、天井すべて一新した構内のインテリアも、床に"石畳風"のタイルを用いるなど、雰囲気づくりに注力している。

 
写真左:エスパス・アペティー 写真右:マルシェ・ドゥ・メトロ
 
写真左:エスパス・ジャポン「スープストックトーキョー カフェ」 写真右:エスパス・モード

 テナント構成は、駅という立地柄、早く手軽なサービスの店を集めているのが特徴だ。通勤や通学で表参道を使う20代から40代の女性客をメインターゲットに据えて、彼女たちが一人で気軽に立ち寄れるような店舗を揃えた。

 ファッション性の高い表参道という街との関連も意識している。ご存知のように、表参道には百貨店がない。化粧品やファッション雑貨などの店を配したのも、百貨店のある渋谷へ行かなくても、表参道で一通りの買い物ができるようにするためだ。

 「表参道という街の面白さを際立て、さらにお客様を街に引き寄せる装置となるよう意図しました」(東京地下鉄関連事業部リーシング担当の久岡祐子さん)。エチカという商業施設ですべてを完結させるのではなく、街に足りない要素を補完することを考えた。

 こうしたエチカの特徴が良く出ているのは、美のゾーンだろう。やや人通りの少ない場所にあるが、店の戦略はそれぞれ鮮明だ。

 例えば、資生堂の運営するエステティックサロン「アミコンフォール」は、各サービスを20分ごとの単位で切り分け、利用者が自由に組み合わせられるようにしている。また「キャトル ボーテ」は、20分という短時間でのサービスを売りとする美容室だ。10分でカットする理容室「QBハウス」を運営するキュービーネットの新業態。シャンプーやパーマなどは扱わないが、前髪だけのカットやスタイリングなどちょっとした作業を求める客のニーズに対応した。「ネイルステーションエクスプレス」も同様だ。

 これらの企業は店舗を別途構えている。時間をゆっくりかけた本格的なサービスを望む客は、街にある店を利用すればいい。エチカの新業態は、「時間のない時に手早く済ませたい」と考える女性の潜在ニーズを汲み取るものだ。と同時に各店舗からすれば、従来の店舗に対して敷居の高さを感じる客に対し、手軽な入り口を提供する意味もある。

 
写真左:エスパス・ボーテ 写真右:ネイルステーションエクスプレス


 商業施設をつくる際、最も大きなポイントが立地であることに異論を唱える人は少ないだろう。「1に立地、2に立地。3、4がなくて5に立地」と言い切る専門家もいるくらいだ。1日13万人の乗降客を数える表参道駅は、そうした点で大きなアドバンテージを持っての出発だった。

 そもそも、東京メトロが駅内の商業集積開発に乗り出す第1弾として表参道駅に白羽の矢を立てたのには、いくつかの理由がある。

 表参道駅には最も古い銀座線をはじめ、半蔵門線と千代田線という3つの線が乗り入れている。路線開通に応じて随時駅舎を拡大してきたため、駅員室は2つに分かれていた。また、銀座線の創業当初に比べると電気機械設備も大幅に小型化している。表参道駅には、駅員室や電気室などを集約する余地があった。

 さらに、表参道駅に乗り入れている3線はすべて東京メトロの運営だ。JRやその他私鉄が入っていないため、東京メトロ単独の事業に取り組みやすいというのも利点だった。

 一方、既存の余剰スペースを活用しているだけに、店舗群をまとめて設けることができないという弱点もある。ここでは人の流れを考え、ゾーンごとに特徴を持つテナントを配置することによって対処した。年間の売り上げ目標は28億円。ゾーンによって通行量の差はあるが、全般に予想以上の順調な滑り出しと、東京メトロはとらえている。

 
写真左:マルシェ・ドゥ・メトロ内部 写真右:オモ キノクニヤ


 これまで東京の地下鉄駅には、個人的に不満を抱いていた。古い路線では、改札を出ると狭い通路を通ってすぐ屋外に出される駅が多い。当初の状況を考えると仕方ないこととはいえ、喫茶など駅まわりに欲しいちょっとしたサービス機能がなく、地上の街と関係ないかのように存在していることが物足りなかった。

 そうした意味でも、今回の表参道駅のリニューアルには意義を感じる。もちろん、商業化を図るための条件が揃った駅は、そう沢山あるわけではないのだろう。ただ、せっかくある駅という便利な装置をこれまで以上に活用する術はまだいろいろあるはず。今後の知恵の絞り合いに期待したい。

 (守山久子)


■エチカ表参道:http://www.tokyometro.jp/echika/
東京都港区・東京メトロ表参道駅構内
(TEL:03-3941-2004/東京メトロお客様センター)
営業時間 飲食:7:30〜23:00、物販:10:00〜22:00、サービス:10:00〜21:00(およその目安。詳細は店によって異なる)
無休

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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