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連載コラム

第40回「歩くことに意味がある 〜表参道ヒルズ」

[ 2006年2月9日 ]

 表参道は、坂である。表参道は、人の歩く道なのである――。
 表参道ヒルズの建物内を巡ってみると、表参道という街の特性を改めて実感させられる。

 
写真左:外観 写真右:外観歩道


 商業施設の中心は、「ゼルコバテラス イースト」と名付けられた吹き抜け空間だ。地下6階、地上6階という建物のうち地上3階から地下3階までを商業施設が占め、商業ゾーンの6層を吹き抜けが貫く。

 帯状に広がる敷地に合わせ、直線状の通路が2列走り、細長い吹き抜けを介して向かい合っている。通路に面して店舗が並ぶ。2列の通路は一続きの斜路となり、地下3階から地上3階まで切れ目なしに螺旋状の坂道を描いていく。スロープの総延長は700メートルに及ぶ。

 建物が面する表参道の街路は、緩やかな坂道だ。道路に面した店舗群は表参道側から直接入れるようにしているので、床面は自然に段状になる。この傾斜を投影させて通路をスロープにし、そのまま斜路を延長させて各階をつないだ設計は合理的とも言える。

 これまで、吹き抜けの両側に店舗が並ぶショッピングセンターにはしばしばお目にかかってきた。通路が円形にスパイラルを描いた空間も、同じ表参道にある「スパイラルビル」あるいはニューヨークの「グッゲンハイム美術館」などで体験できる。でも、細長い直線状の店舗群が高さを変えながら折り重なって連なる空間は、ありそうで体験したことが無い。これは新鮮だ。

 さらに、スロープを歩いて店を巡っていく動きは、表参道の坂道を行き交う人の動きと重なる。外部と遮断された室内空間にもかかわらず、建物内をそぞろ歩いていると表参道という街を意識させられるところに、建築家の深慮を感じる。

 
写真左:吹き抜け 写真右:スロープ


 表参道ヒルズは、「同潤会青山アパートメント」の跡地を再開発した建物だ。関東大震災の被災者に向けた都市型集合住宅として誕生。ケヤキ並木の風景に溶け込んだ建物は、建て替えの前には若者向きのショップやデザイン系の事務所などが入居し、表参道を象徴するゾーンを形成していた。

 こうした歴史を踏まえ、安藤忠雄氏が計画の時点から繰り返し語ってきたのは「環境と一体化した建物の記憶」を引き継ぐことだった。あえて地下を深く掘り下げ、建物の高さをケヤキ並木に合わせたのもそのためだ。また施設の端部には、以前の建物を再現した「同潤館」を設けている。

 店舗は全部で93。吹き抜けのある本館の両サイドに、「ゼルコバテラス ウエスト」と名付けられた西館と「同潤館」が並ぶ。それぞれファッションのショップやギャラリーなどが入っている。

 地下3階から地上3階までシームレスに続く本館の店舗は、緩やかなゾーニングで配置されている。

 地下3階から地下2階にかけてはデザイン家電や生活雑貨、美容の店が中心。2階から最上階にかけては飲食店舗のゾーンだ。その間には内外のファッションブランドが並び、カフェが点在する。

 吹き抜けの下部には地下1階から地下3階まで続く大階段がある。底部には吹き抜けとつながった500平方メートルの多目的ホールが設置され、イベントを開けるようになっている。

 店舗はすべて専門店だ。唯一、ドルチェ・アンド・ガッパーナの店舗は2層分のスペースを持つが、基本的に大規模な店は無い。ファッションを中心とした専門店に特化した店舗構成は表参道らしいと言えるし、表参道だから可能な構成だとも言える。

 
写真左:大階段 写真右:グラフィック

同潤館


 建物を演出するもう1つのアイテムが、ロンドン生まれのアーティスト、ジュリアン・オピー氏による動画のグラフィックだ。

 アイコン化されたかのようなイラストの男女が左右を行き交う。

 そんな様子が、外壁に設置された長さ250メートルのLEDウオールや内部スロープの壁にはめ込まれたディスプレイに映し出される。表参道を歩く人の流れを投影したグラフィックは、樹木の連なりに呼応した風景のようにも見える。スロープを歩き回らせる建物のコンセプトとも合致し、なかなか効果的な演出だった。

 ところで予想外だった点もある。メインとなる吹き抜け回りの空間が、基本的に閉じた場となっていることだ。

 安藤忠雄氏といえば、外部環境を積極的に取り入れ、光や風を感じさせるダイナミックな空間を生み出すというイメージが強い。そのため表参道ヒルズに大吹き抜けがあると聞いたときから、そこは外部空間だと信じきってしまっていた。

 ところが今回、一度本館に入ると外気に触れられるのは同潤館との接合部分だけ。ほとんどは完全な室内空間だ。もちろん商業施設としての使いやすさや快適性を考慮したうえのことではあろうが、意外感は残った。

 (守山久子)


■表参道ヒルズ:http://www.omotesandohills.com/
東京都渋谷区神宮前4-12-10
(TEL:03-3497-0310)
営業時間 物販・サービス11:00〜21:00、飲食11:00〜24:00(LO23:00)、カフェ8:00〜23:00(LO22:00)
休館日 2006年8月22日、23日、2007年2月20日、21日(予定)

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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