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連載コラム

第42回「運河空間を活用した水上ラウンジ 〜WATERLINE」

[ 2006年4月18日 ]

 水のある風景は、見る者の心を浮き立たせる不思議な力を持っている。水辺に建つレストランでさえそうなのだから、水上のラウンジとなればなおさらだろう。
 天王洲の運河上に生まれた「WATERLINE」は、水中に打ち込まれた4本の黒い鋼管杭につながれ浮かんでいる。水上ラウンジといっても、別に船の形をしているわけではない。鉄骨で組んだ台船の上に、白い平屋状の建物が載っている。長さ24メートル、幅9メートル。窓の多い外観のせいか、遠くから見ると家が浮かんでいるかのようだ。

 とは言っても、店へのアプローチ方法はやはり"船"だ。陸地からは、緩やかなスロープ状のデッキを伝って入り口に向かう。少しゆらゆらとするデッキを下っていく気分は、まさしく乗船。これだけで非日常的な気持ちに近づけるのだから、水の力は偉大だ。

 
写真左:外観 写真右:外観夕景(写真提供:ナカサ アンド パートナーズ)


 WATERLINEは、運河に面して建つ「ティー・ワイ・ハーバーブルワリー」の兄弟施設としてつくられた。倉庫を改造して1997年にオープンしたブルワリーは、いわばウオーターフロントの先駆け的な存在だ。いずれも事業者は寺田倉庫で、同社の小会社であるティー・ワイ・エクスプレスが運営する。

 醸造設備を備えたブルワリーに対し、WATERLINEはバーラウンジという業態を採用している。夕方5時30分以降の営業で、酒を中心に鮮魚のマリネや和牛のカルパッチョといった軽いつまみを提供する。昼間は会議やパーティー、イベントなどへの貸し室として利用できる。パーティーでは、隣接するブルワリーからビュッフェ形式の料理をサービスする。

 周辺に飲食店の数が少ないことから、ブルワリーではこれまで店舗の貸し切りを積極的に行ってこなかった。貸し切りをすることによって、わざわざ訪れてくれた一般客の行き場がなくなってしまうのを危惧したからだ。

 WATERLINEの開業には、パーティーなどのニーズに対応できるようにする意図もあった。また、ブルワリーでの食事後にゆっくり過ごせる場所も提供できる。狙うのは、2店舗による相乗効果だ。

 
写真左:アプローチ 写真右:ホール

デッキ(写真提供:ナカサ アンド パートナーズ)


 店内は、ワンフロアのシンプルなつくりとなっている。入り口を入ると、低いテーブルとラウンジチェアの並んだ客席ホール。運河に面した壁は全面ガラスとなっており、季節の良い時期には引き戸を開いてオープンエアの空間にできる。

 室内のホールの隣には、屋外デッキが続く。L字形のカウンターにハイチェアが置かれ、木のテーブル席が点在する。こちらは寒い時期には透明シートで周囲を覆い、風除けとしている。

 外観と内装の設計を担当したカザッポアンドアソシエイツの植木莞爾氏は、ティー・ワイ・ハーバーブルワリーのインテリアも手がけた。異次元空間の演出に力を注ぐ飲食店も多いなか、植木氏のデザインはそうした"はったり"とは無縁だ。いつの時代にも通用する洗練された空間づくりは、ここでも発揮されている。

 壁や柱、窓枠に用いている白に対比させるように、床面は木のフローリングと深い青のタイルカーペットを敷いている。ホール内のテーブルといすは黒。バーラウンジという主目的にふさわしく、落ち着いた大人っぽいインテリアにまとめている。

 要素を抑えたデザインのなか、アクセントとなるのが随所に配された円のモチーフだ。天井の間接照明に円形を用いたほか、壁にはめ込んだ細長い鏡の端部を丸い曲線で仕上げている。船のキャビンを想起させるちょっとしたあしらいが隠し味となっている。

 
写真左:ホールから外を見る 写真右:デッキ(写真提供:ナカサ アンド パートナーズ)


 それにしても、水上の飲食店はこれまでありそうで無かった。というのも、例えば天王洲の運河は東京都の港湾局が管理しており、船舶の係留に必要な水域占用許可は商業利用に対して下りなかったからだ。

 しかし、規制緩和の流れは運河の活用方法に対しても及んできている。従来、運河の役割だった水運の利用が減少し、運河周辺の地域も倉庫街からマンションや複合施設のある街へと変貌した。こうした環境変化に、運河を観光資源として活用しようという機運が加わり、都は「運河ルネッサンス」構想を立ち上げた。

 2005年6月には芝浦地区と共に、品川浦・天王洲地区が運河ルネッサンスの推進地区に指定された。その具体的事業の第1号となるのがWATERLINEだった。

 仕組みとしては、地域の商業者や企業、町会などが集まって設立する「運河ルネッサンス地域協議会」に対し、都が水域占用許可を下ろす形をとる。協議会の計画が認められると、水上レストランや観光桟橋の設置のほか、ボート遊びなどもできるようになる。

 もっとも前例がないだけに、WATERLINEの計画に際しては長い時間を要した。店舗の下部は台船として船舶安全法の対象となり、上部構造には建築基準法が適用される。そのため建築基準法に基づき避難経路を確保したほか、杭などに対する耐震性の確認なども行った。手間暇を掛けた店舗開発を後押ししたのは、地域活性化への思いだったに違いない。

 今後も運河ルネッサンスの事業は少しずつ進んでいく。今年3月31日には晴海地区が推進地区として追加指定された。豊洲地区も、今後の指定を目指している。各エリアの競い合いがさらなる相乗効果に結びつけば、東京の水辺空間の魅力も高まっていくはずだ。

 (守山久子)


■WATETRLIINE:http://www.tyharborbrewing.co.jp/(ティー・ワイ・ハーバーブルワリー)
東京都品川区東品川2-1-3(TEL:03-5479-1666)
営業時間 平日17:30〜25:00(LO)、休日17:30〜23:30(LO)
年末年始・貸し切りパーティーの日

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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