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連載コラム

第43回「デザイン好きの心をくすぐるモノと空間 〜ライカ銀座店」

[ 2006年5月17日 ]

 「日本の消費者は、ライカブランドやその職人技に対する理解度が高い」(ライカカメラジャパン広報)。これが、ライカが初めての直営店を日本に出展した理由だという。
 日本では本格的なマニア以外でも、ライカブランドを知っている人や手に取って見てみたいと思っている層が多い。ブランドに対する理解を深めてもらいターゲットを広げようとする目的に、日本という立地はふさわしいというのだ。

 実際、店に入ってくるのはユーザー層だけではないとか。ギャラリーを見に来る人や、デザインが好きな人、さらには表を歩いていてふらっと入ってくる人などもいる。若い人も少なくない。

 
写真左:外観 写真右:1階

2階サロン


 「ライカ銀座店」は外堀通り(西銀座通り)とみゆき通りの交差点を少し西に入った一画に位置する。少し飛び出したガラスの壁面と、「Leica」の赤い小さなサインが目印だ。自己主張はしていないが、外を歩いていると中がちょっと気になる。そんなたたずまいの店といえる。

 白を基調に、濃い茶色をアクセントとして利用した店内は、1階と2階で異なる役割を担っている。

 1階は製品のゾーン。カメラのボディやレンズを中心に、現在ライカが販売するほぼフルラインナップの製品を揃えている。一方、2階はソフトや技術を提供するゾーンだ。展覧会やセミナーも行える「サロン」と、ユーザーへのテクニカルサポートを行うブースを用意している。

 店内には現行製品だけでなく、歴代モデル、戦争や事故で被災したカメラなど、歴史を感じさせるものも展示されている。2階のサロンでは、オープン記念の「エリオット・アーウィット」展を開催中だ(2006年7月23日まで)。また土曜日にはプリント界の第一人者、久保元幸氏によるモノクロプリントも実施する。

 
写真左:1階見返し 写真右:窓まわり


 インテリアデザインを手がけたのは岸和郎氏だ。ジュエリーショップの「ルナ ディ ミエーレ表参道ビル」など、商業施設の経験も豊富な建築家である。

 今回、岸氏は街に対してオープンなつくりのショップを目指した。特に意識したのは、商品そのものを単に見せるだけでなく、客の動きや店のスタッフとのやり取りといった店内の営みを、大きなガラスを通して外からも見えるようにすること。街に対して店舗空間自体が、ライカの製品や提供する生活スタイルのショーケースとなるように考えた。

 インテリアでは、精緻で質感を伴う製品の特性を引き立たせるように素材の選択やディテールの表現に配慮している。

 例えば1階の中央に置かれた白い展示什器。長さ5メートルのショーケースを覆う天板には、厚さ25ミリというムクのアクリル板を利用している。中に陳列された製品の素材に負けない量感だ。ケースの取っ手やカギも一見して分からないようにするなど要素をそぎ落とした細部処理が、こうした質感をさらに印象づける。

 中を10個の小さな箱に区分けしたこのショーケースに収まるのは、5月中旬発売予定のコンパクトデジタルカメラ「C-LUX 1」や、デジタルパック「LEICA DIGITAL-MODUL-R」を装着したフィルムカメラ「R9」など。道路側に面した5つの箱は、店の外からも見えるようになっている。

 
写真左:1階什器 写真右:階段展示

2階サロン


 高透明ガラス、アクリル、石、手加工へアライン仕上げのアルミ、黒さび仕上げのスチール…。硬質な素材を多用した空間に柔らかさをもたらしているのは、壁面の一部に用いているシルクの布地だ。

 1階奥、濃茶色のシルクで表面を覆った壁面は引き出し式の展示什器となっている。縦長の棚を引き出すと、「M7」シリーズや各種レンズが並ぶ。製品を収納しつつ、カラーやレンズのバリエーションを見せる工夫だ。5月末からはM7とMPのシリーズで、ボディと各種レンズを持ち帰って試用できるレンタルプログラムも実施する。

 2階サロンの展示手法も興味深い。

 写真展やセミナーを開くサロンでは、窓側とその対面に写真作品を並べている。写真の掛かる壁面はドットプリントを施した高透明ガラスや、ブロンズガラスにステンレスメッシュを重ねたものだ。通常、展示スペースでは白い壁に写真などを飾るものだが、ここは壁が透明な素材となる。

 つまり、展示された写真の向こうに、銀座の街や室内階段の様子が透けて見えるという構図だ。展示空間としては“常識破り”の手法だが、モノと人の重層した関係が浮かび上がり、都市生活のリアルな躍動感を想起させる。

 厳選された素材で構成したショップは、ライカ製品がずらりと並ぶ風景に喜びを感じる客にはちょっと物足りないかもしれない。ただ、1つのモノやデザインの行間をじっくり愛でたい客にとって、この小さな空間は面積と品数以上の懐深さを備えている。

 (守山久子)


■ライカ銀座店:
http://www.leica-camera.com/
東京都中央区銀座6-4-1 東海堂銀座ビル1、2階
営業時間 11:00〜19:00
月休

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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