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連載コラム

第44回「定番都市開発に漂う下町らしさ 〜オリナス」

[ 2006年6月23日 ]

 「オリナス」という名は、「錦の糸がさまざまな模様を織りなす」というイメージから付けられたのだという。もちろん、錦糸町という街の名前から想起したものだ。旧精工舎工場跡地の再開発によって誕生した。入り口部分にモニュメント風の大きな金色の時計が掲げられていたのも、なるほどそういう由来なのかと納得する。
 錦糸公園に隣接するオリナスの敷地は2万7000平方メートルを超える。ほぼ長方形の土地に、地上32階建ての事務所棟、地上45階建てで644戸が入る住居棟のほか、店舗面積約3万5000平方メートルの低層商業ゾーンが並ぶ。商業ゾーンでは、年間売り上げ250億円、年間来館者数1500万人を目指している。

 
写真左:外観 写真右:金色の時計


 オリナスという名前には地域性を投影しているが、職・住・商を集積した建物の構成自体は都心部の再開発プロジェクトの定型ともいえる内容だ。同様に、商業ゾーンも大型ショッピングモールの王道的な仕様を備えている。大型店舗を突き当たりに配置したI型モールで、細長い4層の吹き抜けに沿って専門店が並ぶ。

 148の専門店が並ぶ「オリナスモール」と大型店を4層に積み重ねた「オリナスコア」は2つの建物に分かれ、2〜4階の渡り廊下で結ばれている。モール部分は、オフィスビルとマンションという2つの高層棟の足元を埋める形で配置されているのが特徴だ。

 モールを貫くのは、大きな弧を描く吹き抜け通路。地下1階のアミューズメント施設、地上4階のレストランゾーンやシネマコンプレックスなどで中間階の専門店街をはさみ込む。1階は主に20〜30代の女性をターゲットにしたファッションゾーンで、2階はインテリア雑貨や化粧品、エステティックサロンなども加えた構成。3階はよりファミリー向けのゾーンとしており、フードコートも設けている。

 一方、オリナスコアには地下1階から順に、東急ストア、コムサストア、家具の島忠、ベビーザらスが積み重なる。若い層を中心に訴求するコムサストアを除けば、日常の食料品から家具までファミリー仕様のテナント構成となっている。

 
写真左:エントリーコート 写真右:オリナスモール

オリナスモール


 曲線状に延びる吹き抜け通路は、高層棟を縫って商業ゾーンを配置しているため必然的に生じた形でもある。ただ、それによって建物の奥まで一気に見えず、歩いていくうちに景色が変わっていく効果をもたらしている。

 このほかも建物配置などによる制約の下、回遊性を高め、視覚的な変化を与えようとする工夫は随所に見られる。

 まず、動線上の起点として位置づけられているエントリーコート。エントランスを入ると目の前に広がる円形の吹き抜け広場だ。来館者は入り口から2階へ上がる際にエスカレーターでいったん奥に向かって進むが、さらに上階に行くためには後戻りし、エントリーコート上の回廊をぐるりと回ってエスカレーターに乗らなければならない。

 すぐ上に行きたい人にはまわりくどい動線だ。しかしその結果、エントリーコートに面したテナントにも自然に客の足が回る。人の動きのエアポケットを作らないために欠かせない仕掛けとなっている。

 また、奥に延びる各階の通路は、床面の端部がなぜかギザギザだ。床面には、やはり織物をイメージしたのだろうか、赤や黄、青のグラデーションで帯状の模様が施されている。各階によって床面の配色は変わり、ところどころに設けられた渡り廊下の位置も上下階で微妙にずれている。この辺りも、視覚の変化をつけようという狙いがよく分かる。

 
写真左:モールとコアの間の外部空間オリナスアベニュー 写真右:オリナスアベニュー


 さてエントリーコートの吹き抜けに戻ってみると、大きな窓からは変わりつつある錦糸町の街並が見える。

 1997年、JR錦糸町駅の北側にアルカタワーズ錦糸町がオープンした。3棟のオフィスに2棟の住宅、さらに商業ビルや劇場、都市ホテルなど7つの建物が建ち並び、いかにも現代都市らしい駅前風景が見られるようになっている。2003年には、地下鉄半蔵門線の駅も誕生した。最近は隅田川をはさんだ秋葉原に都市開発の話題を持っていかれている感も強いが、下町エリアの核としての整備は着実に進んでいる。

 もともと錦糸町・亀戸地域は、1997年に東京都が副都心の1つとして位置づけたエリアだ。新宿、渋谷、池袋という大ターミナルのほか、山手線沿線の上野(・浅草)と大崎、さらに臨海副都心が加わる。錦糸町・亀戸は、隅田川以東では唯一の副都心となった。

 職、住、商の集積するオリナスは、こうした副都心構想の一端を担うものだ。他の副都心に比べると日常生活の香りが色濃いのは、下町ならではの特性といえる。従来、隅田川の向こうに取られていたであろう地元商圏の客をどれだけ呼び戻せるか。地域全体が注視しているに違いない。

 (守山久子)


■オリナス:http://www.olinas.jp/
東京都墨田区太平4-1-2
(TEL:03-3625-3085)
営業時間 ショッピングモール10:00〜21:00、レストラン11:00〜23:00など
無休

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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