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連載コラム

第45回「神戸・元町に南欧港町の館 〜メディテラス」

[ 2006年7月24日 ]

 神戸の街を山手から海側まで南北に結ぶ坂道の1つに、トアロードがある。異人館の点在する北野町からトアロードを下り、JR線や阪神電車を横切ると、三宮センター街のアーケードと交わる角地に「メディテラス」が見えてくる。
 20歳代後半の女性を主ターゲットにファッションや雑貨の物販スペースを集めた店舗は、地下1階、地上4階建て。神戸に本拠を置くアパレルメーカー、ワールドが運営している。

 アーケードに面した外観はガラス張りの現代的な姿であるのに対し、トアロードと北側の通りに向けた建物の表情は全く異なる。

 
写真左:外観 写真右:外階段

ワゴン


 赤や青の色漆喰風に塗られた外壁に、布製の日除けを載せた小窓が並んでいる。建物の角は大きくえぐれ、その間を2階へ続く外階段が延びる。壁から突き出した鋳鉄風のサイン。ストライプの幌をかけた物売りワゴン。窓辺に花が飾られ、壁には地名などの手書き文字がフランス語で書かれている。

 「山手の異人館や海側の居留地などをもつ神戸らしい異国情緒を意識し、南仏の港町マルセイユのアパルトマンをイメージしました」と、ワールド営業本部ストア統括部の熊谷多希子さんは話す。

 南欧を想起させるデザインは、外観だけではない。

 赤い外壁に設けられた1階の入り口から足を踏み入れると、コーヒーショップのタリーズが運営するキッシュとタルトの店「Café Tully's et Quiche&Tarte」になっている。カウンターまわりの扉や壁面に用いた板材は薄い水色で塗装され、海辺のカフェのような印象を与える。床は、明るいベージュのタイル貼り。タリーズコーヒーの系列店とは全然違う色遣いによって、メディテラスの演出を補完している。

 もう1つ、メディテラスの室内空間を特徴づけているのが、4階から地下までを貫く吹き抜けだ。吹き抜け正面の壁には、小さな塔を連ねた古城風ファサードを作り込んでいる。これも、フランスの古城をイメージしたという。壁の一部には自然の樹木を植え、人工的な雰囲気を中和させている。

 この吹き抜けの役割は2つある。まず、トップライトからの採光で、地下階まで明るさを確保すること。もう1つは、吹き抜け回りに配置した階段によって、回遊動線の中心となることだ。

 
写真左:Café Tully's et Quiche&Tarte 写真右:吹き抜けの古城

吹き抜け見下げ


 各階は、ワールドの編集する売り場といくつかのテナントを組み合わせた店舗構成をもつ。

 1階は、建物の3周を囲む道路に対してそれぞれ入り口が設けられている。路面の高さが異なるため床面には少しずつ段差が生じ、これに合わせて小さな空間に分割される。タリーズの店のほか、「アオヤマ フラワー マーケット」、ファッション、インテリアグッズなどを扱うコーナーが並ぶ。

 吹き抜けに面した階段を下りると穴蔵風のつくりとなり、ネイルサロン「ネイルズ ユニーク アルティミッド」やコスメティック、シューズやバッグのコーナーが入る。外階段から直接アクセスできる2階は、アイウエアとレディースファッション、3階はメンズとレディースのファッションのエリア。最上階の4階にレストラン「カフェマディ ピッツェリア」がある。

 不整形な形の平面に吹き抜けが食い込んでいるため、全般に小さな売り場を集積した構成になっている。また、よく見ると意外なところに出入り口があり、路地風の階段が上下階を結んでいる。小路の入り組んだ街を歩くのに似た感覚とでも言おうか。店舗効率という面ではメリットばかりではないが、店内をつい歩き回りたくなるような好奇心を刺激する要素には事欠かない。

 
写真左:地下1階 写真右:3階売り場

4階カフェマディ ピッツェリア


 メディテラスの敷地は、長らく更地だったという。阪神・淡路大震災から10年余りを経て一見かつての様相を取り戻している神戸の街も、よく見るとまだ地震の痕跡が感じられる。JRや阪神電車の元町駅からほど近い一画にあるメディテラスの開発は、失われていた街のピースを埋め戻す作業のようにも見えた。

 「神戸の街と共存できるような活動をしていきたい」(熊谷さん)というように、これまでメディテラスでは地元のアーティストによるライブイベントや地元デザイナーの手がけた帽子の販売などを行ってきた。観光客と日常的に訪れる地元客、それぞれを視野に入れた展開を目指していく。

 神戸ブランドを生かして商業開発し、その力を神戸の活性化に還元する。そんな好循環を少しずつ積み重ねていくことが、神戸の次の10年をつくり出していくはずだ。

 (守山久子)


■メディテラス:http://mediterrasse.jp/
神戸市中央区三宮町2-11-3
(TEL:078-335-2181)
営業時間 1階〜3階11:00〜21:00、4階11:00〜23:00
不定休

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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