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連載コラム

第47回「一期一会の氷の表情 〜ABSOLUT ICEBAR TOKYO」

[ 2006年12月20日 ]

 スウェーデンの「アイスホテル」をテレビや雑誌で何度か目にしたことがある。オーロラ観光などで有名なユッカスヤルビという北極圏の村に、冬から春先にかけて営業するホテルだ。壁や柱、室内のベッドまで氷で作られ、青い照明に浮かび上がる姿が印象的だった。
 ホテルの中には「ABSOLUT ICEBAR」という、やはり氷でできたバーがある。スウェーデン産のウオツカ「アブソルート」とアイスホテルが提携して開いた店で、2003年からFC展開を始めている。ストックホルム、ミラノ、ロンドンに続く世界4店舗目として今年2006年2月にオープンしたのが西麻布の東京店だ。

 店舗展開は1つの国に1つの店を基本とし、上記2社に地元企業を加えて出店していく。日本では、輸入販売会社のカロッツェリア ジャパンが参画し、本場の空間を再現した。

 ホテルと異なり、バーは1年中の営業となる。店内は室温マイナス5度を維持し、3500円で防寒用ケープと手袋を借りて氷のグラスとワンドリンクが付く。

 夏でも冬でも北極圏の寒さの中、氷の空間を体験しながら氷のグラスで「イン・ザ・ロック」のカクテルを楽しむという趣向だ。ドリンクはウオツカがベースとなり、シトラスやヴェニリア(バニラ)などのフレーバード・ウオツカもある。およそ50人入れる店内は、45分の入れ替え制となっている。

 
写真左:カウンターまわり 写真右:店内見返し
 
写真左:ソファまわり 写真右:氷のグラス


 店内の様子を具体的に見てみよう。

 銀色のケープをまとい重い扉を開けると、冷気と共に氷の世界が広がる。厚さ25センチほどの氷のブロックを積み、壁やカウンターとしている。氷は、アイスホテルの近くを流れるトルネ川のものを切り出して用いている。

 細長い部屋に、氷の壁を背後に並べた氷のカウンターが延びる。カウンター側面には、氷の表層を削ってボトルを描いたグラフィックが施されている。棚にはフレーバード・ウオツカのボトルが並び、白い背景から色鮮やかに浮かび上がる。

 中を円筒形にくりぬいた角型のグラスは、客が同じグラスでお替わりをしない限りは1回限りの利用となる。客は同じグラスなら1200円でカクテルを追加注文でき、グラスを替えるとさらに800円を支払う。

 カウンターの対面にも氷のブロックを積んだ壁が立ち上がり、中央の空間には、氷のオブジェが並ぶ。氷を複層に重ね、間にグラフィックの彫刻を施したものだ。地元サーメ人の象形文字や現地の動植物をモチーフとし、針葉樹、白熊やトナカイなど北極圏らしいアイテムをちりばめている。

 アイスバーは、半年に1回新しい氷を用いてリニューアルしていく。改装の度にデザイナーを変えて新しいインテリアに取り組む。開店以来2代目となる9月の改装では、イェンス・トムス、マッツ・ニルソンという2人組が担当した。

 零下の室温を保っているとはいえ、使っている間に氷は摩耗もするし、傷もつく。メンテナンスしつつも時間と共に状態が変わり、まったく同じ姿は2度と見られないのが氷のインテリアの特殊性だ。この時だけしか体験できないという一期一会の面白さが、ここにはある。

 半年に1度リニューアルするという仕組みの背景には、物理的な維持管理の必要性や、リピーターを確保するという戦略上の意味もあるだろう。同時に、こうした一期一会という特質を際立たせる効果にもつながっている。


店内のオブジェ
 
写真左:植物のグラフィック 写真右:象形文字のグラフィック


 ケープを羽織って寒さを防ぐとはいえ、長居してくつろぐというタイプの店ではない。20歳代の女性同士やカップル、30歳代のビジネスマングループなどが、食事前あるいは食事後に訪れる。西麻布の交差点から外苑西通りを150mほど広尾側に入った店の場所は、そうした拠点としても悪くない。

 アイスバーが入るのは、「THE WALL(ザ・ウォール)」という建物だ。

 ザ・ウォールは、ナイジェル・コーツという英国人建築家が設計し、1990年に竣工した。バブル華やかな頃を象徴する建築の1つと言える。というのも、廃墟をイメージしたかのような印象的な意匠に加え、まだ実作の少ない海外の若手建築家を積極的に起用したプロジェクトという点でバブル期ならではの特性をもっていたからだ。

 建物の竣工後、日本の経済は大きく揺れ動いた。バブルの崩壊、そして長く続いた低成長の時代。ザ・ウォールに入った飲食店などのテナントも随時入れ替わってきたが、廃墟をイメージした建物はその器として存在し続けてきた。

 そして今、常に変わり続けることを前提としたアイスバーという店が新たに入っている。どこか不思議な巡り合わせにも見えるというのは、考え過ぎだろうか。

 (守山久子)


■ABSOLUT ICEBAR TOKYO:http://www.icebartokyo.com/
東京都港区西麻布4-2-4 THE WALL 1階
(TEL:予約03-5464-2161)
営業時間 日〜木18:00〜24:00、金・土18:00〜26:15
無休

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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