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連載コラム

第49回「普通の形を目指した 〜東京ミッドタウン」

[ 2007年5月10日 ]

 日本一の高さを誇るミッドタウン・タワーを中心にホテルやオフィス、住宅、商業施設を集めた東京ミッドタウン。防衛庁の跡地を利用した大規模開発は、敷地面積約6万9000平方メートルに及ぶ。商業施設の床面積は約7万1000平方メートルで、132店舗が入っている。
 訪れる客を見ていると、まず館内案内図へと吸い寄せられていく人が多い。あるいはフロアガイドの小冊子を手に、館内探訪へと進むことになる。

 なにしろ、これだけの広さだ。商業部分だけを回るにしても、全貌を把握するには相当の熟練が必要となる。そう覚悟をする人も多いのではないだろうか。

 でも、実は商業部分のおおまかなつくりをつかむのは意外と難しくない。大きく3つのゾーンに集約されているからだ。

 
写真左:プラザ 写真右:ガーデンテラスとミッドタウン・タワー


 1つめは、ミッドタウン・タワーなど3つのオフィスビルに囲まれた広場の周辺をカバーする「プラザ」。六本木交差点方面からの入り口に当たり、大きなガラス屋根のかかる地上レベルと地下鉄から続く地下1階レベルを中心に店舗が並ぶ。主に、気軽に入れるタイプの飲食店やカフェ、コンビニエンスストアやAVソフトの店など日常的な物販、サービスの店舗をそろえている。デザート専門店「Toshi Yoroizuka」があるのもここだ。

 2つめは、サントリー美術館の入る「ガレリア」というゾーン。地下1階から地上3階までの吹き抜けの周囲に店舗群が連なっている。地下1階は24時間営業の高級スーパーマーケットをはじめとした食品、飲食の店が中心。地上1、2階はファッションのゾーンで、シュウウエムラ氏が選んだショップやサロンで構成される「shu sanctuary」もある。3階はインテリア雑貨のゾーンだ。

 そして3つめはガレリアの端部、外に広がる緑地に面してつくられた「ガーデンテラス」という一画だ。地下1階から地上4階までの吹き抜けがあり、地下1階の「MUJI」のほかは主に飲食店が取り囲む。高級なレストランゾーンという位置付けで、4階のライブ空間「Billboard Live TOKYO」は夏にオープン予定だ。

 平面構成も階層ごとのテナントの分類も、かなりシンプルで分かりやすい。このほか緑地内に離れて建つイタリアンレストラン「CANOVIANO CAFE」、ミッドタウン・タワーの低層部に入るサービル店舗などがいくつか点在している。

 
写真左:ガレリア 写真右:ブリッジの腰壁

ガーデンテラスの竹


 商業ゾーンの中核は、約150メートルという長さをもつガレリアだ。吹き抜けの両側を少しずつ雁行する通路が延び、2カ所にブリッジが架かる。主要な縦動線となるエスカレーターも、吹き抜け内に設けられている。

 こうした空間のつくりは、各地に建つ大型ショッピングセンターと変わらない。空間の規模だけを取り上げたら、このガレリアと遜色のない商業施設はいくつもあるだろう。つまり空間の骨格を見る限り、あまり目新しさはない。

 むしろこの空間を特徴づけているのは、内装に用いている素材と言える。

 壁や柱、手摺まわりの表面に使っているのは木質素材だ。照明を組み込んでオブジェのように浮かび上がらせたブリッジの腰壁、床面から伸びる竹の植え込みなど、さまざまな場面に自然素材を持ち込んで和の質感を生み出している。

 商業施設の公共スペースで、こうした和風のインテリアを体験することは珍しい。十分な幅をとり、カーペットやフローリングで仕上げた通路、あちこちに用意したベンチ。そんな仕掛け類も加わり、落ち着いた雰囲気をもたらしている。

 これを「ホテルのような」などと表現すると安っぽく感じられるだろう。でもやはりここは、高級ホテルの雰囲気を大規模な吹き抜け空間にふくらませたイメージという風に紹介しておきたい。

 
写真左:ガーデンテラス地下1階のMUJI 写真右:ガレリア地下1階のフード&カフェゾーン
 
写真左:ガレリア2階のshu sanctuary 写真右:外の緑地が見えるガレリアのアトリウム


 東京ミッドタウンは、500メートルほど離れた六本木ヒルズとしばしば比較されてきた。確かに、オフィスや住宅、文化施設と商業ゾーンをミックスさせた最開発の具体的手法を比べると、商空間デザインのそれぞれの特徴がより明確に浮かび上がってくる。

 そもそも複数の建物の並べ方が両者では大きく異なっている。六本木ヒルズでは敷地を貫通する六本木けやき坂通りの両側に建物を分散させ、敷地全体にオフィスや住宅、文化施設などをちりばめた。一方、東京ミッドタウンでは敷地の西北側にL字形の緑地帯を配し、建物は残りの部分に集約している。

 こうした建物配置の違いは商業ゾーンにも反映される。六本木ヒルズでは最も高い森タワーから六本木けやき坂通りまで、建物の低層部を埋めるように商業施設を広い範囲で配置している。しかも錯綜する通路を曲線状につくり、敷地の傾斜に沿わせて店舗を並べるなど変化に富んだ構成としている。

 迷路のようなつくりは、分かりにくさを伴う。でも同時に、歩く人が常に新しい景色を見つけられる楽しみもある。非日常的な体験をもたらす空間構成の力によって、滞留時間の向上を目指した試みとも言える。

 その点、東京ミッドタウンは対照的だ。「上質な日常」といううたい文句が示すように、まさに「日常性」がポイントとなっている。

 比較的コンパクトなゾーンにまとめられた商業施設は、通路も直線を基本としており全貌を把握しやすい。新鮮な驚きはないかもしれないが、落ち着きや安心感がある。テナントを見ても、スーパーマーケットのほか、テイクアウトとイートインができる店など普段の生活で使える店舗も用意している。来客に対する敷居の低さ、間口の広さも備えているわけだ。

 言い換えれば、この二十年来、多くの大型商業施設が追い求めてきた「非日常性」という要素をあえて振り払おうとした姿勢が感じられる。

 非日常性か、日常性か。相反する二つの価値はいずれも商業施設にとって大切な要素だ。どちらが正解ということはないのだろうが、さて、あなたのお好みはどちら?

 (守山久子)


■東京ミッドタウン:http://www.tokyo-midtown.com/
東京都港区赤坂9-7-1
(TEL:03-3475-3100)
営業時間 物販・サービス11:00〜21:00、飲食11:00〜24:00(一部異なる)
元日休

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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