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連載コラム

第53回「デザインの殿堂が海外初出店 〜MoMA Design Store」

[ 2007年11月26日 ]

 「MoMA Design Store」は、東京・表参道沿いに完成した商業ビル「GYRE(ジャイル)」の3階に登場した。2004年から日本国内で始めたオンラインストアの急速な伸びなどを踏まえて、ニューヨークの3店舗以外で初めて出店したものだ。
 約430平方メートルの売り場内には、およそ1800のアイテムが並んでいる。MoMAのリテイル部門担当者とキュレーターが商品を選定し、オンラインストアを担当する三洋電機が運営に携わる。

 
写真左:GYRE外観。3階にMoMA Design Storeが入る 写真右:MoMA Design Store


 店内は、1辺が表参道側に面したL字形の平面形をもつ。ガラスを通して表参道の並木が見え、外光がたっぷりと差し込んでくる。

 インテリアの特徴は、大きく2つあるといっていい。1つめは、ショップを覆うガラススクリーンの効果。もう1つは、シンプルな空間のなかに整然と並ぶ什器によって構成した商品ディスプレイだ。

 まず、ガラススクリーンから見てみよう。

 ショップへのアクセスには、建物中央に位置するエスカレーターとエレベーターを用いる。この縦動線エリアとショップは、「MoMA Design Store」という白い文字を浮かび上がらせたガラススクリーンで仕切られている。

 3階に上がると、デザイングッズの並ぶ店内の様子がガラススクリーン越しに目に飛び込んでくる。しかも、店内と共用スペースの間には扉がない。ガラスの途切れた2カ所のすき間が、そのまま入り口となっている。

 ガラススクリーンだけで間仕切り、扉をなくした効果は意外に大きい。ショップの境界に対する意識があいまいになり、建物の公共部分とショップが一体化しているような錯覚にも陥る。視覚的にも心理的にも開放的な店舗空間を実現しているわけだ。

 一方、反対側の外部に面した2辺には、建物のガラスサッシの内側にもう1枚、ガラスのスクリーンを設けている。内側のガラススクリーンは建物の軸線と8度ほど角度を振って配置している。さらにガラススクリーン上に施した細い線の連なるグラフィックも、緩やかな曲線の曲率を少しずつ変え、ずらしの効果を増幅させる。

 内装の基本設計は、森美術館(東京・六本木)などを手がけたグラックマン・メイナー・アーキテクツ、実施設計と施工は乃村工藝社が担当。グラフィックデザインはニューヨークの2×4インクが行った。

 こうしたデザインは、建物のコンセプトに呼応させたものだ。オランダの建築家集団MVRDVが設計した建物は、各階の空間を少しずつずらして積み重ねているのが特徴だ。「GYRE」という建物の名称も、「渦」や「回転」といった意味をもつ。

 
写真左:エスカレーターまわりから見た入り口 写真右:店名のロゴをあしらった内側のガラススクリーン

内側のガラススクリーン


 ガラススクリーンに囲まれた店舗は、フラットで抽象的な空間を生み出す。その中にシステム化された什器が並び、いくつかのゾーンを形作っている。

 表参道に面した一画は、低い可動什器が整列するゾーンだ。壁面什器にトラベルグッズやキッズ&トイズ商品などを並べ、可動什器にはMoMAオリジナルグッズやステーショナリーなどを展示している。

 このゾーンの床や什器の配置にも、建物と8度振った軸線を導入している。床面には800mm間隔にレールを敷き、これに沿って4列の什器が移動できるようにした。

 主な可動什器は、下に引き出しを備えた幅1600mm、奥行き800mmのタイプ。1枚の板を上に据え、板面の下に照明を組み込んだ什器と、ガラスの箱を載せた什器の2種類がある。このほか、カードなどを並べるラック状什器なども用意している。

 これらの可動什器は、抑え止めをはずせば女性一人でも簡単に動かせるという。また正式な位置の頭上には、天井照明を設置している。一度動かした後、元の場所に戻す際には照明の位置を目安にして動かせばいい。空間全体がシステマチックにつくられている。

 可動什器のゾーンと直交する一画には、高さ2325mm、幅4000mm、奥行き800mmの固定什器が5個平行に並んでいる。大きな四角い枠の中に、商品に応じたディスプレイ棚を設けたデザイン。上部は視線が抜けるようにし、開放感を与えている。ここにはジュエリーや照明、インテリア小物などを展示している。

 
写真左:可動什器と床のレール/写真右:大型の固定什器を並べたゾーン


 このほか東京店オリジナルのコーナーもある。引き出物を選べる「MoMA Wedding Gifts」のコーナーと、入り口すぐに用意したブランディングスペースだ。

 ブランディングスペースでは現在、MoMAの概要を紹介する映像や商品を展示している。今後は、ミュージアムと連動したイベントなどを企画していく予定だ。ブランディングスペースに続くゾーンの可動什器は、イベントの際に広いスペースを確保できるようにと考えた。

 またレジカウンターの上には5台の液晶画面をすえ、MoMAの画像や店内案内などを流している。

 
写真左:MoMA Wedding Giftsのコーナー/写真右:ブランディングスペース
 
写真左:レジカウンターまわり/写真右:2つめの入り口から内部方向を見る


 表参道ヒルズの斜向かいに建つGYREは、表参道の交差点から下ってくる道と原宿駅方向から下ってくる道がぶつかる坂道のほぼ折り返し地点に位置している。そのためか、主に原宿方向から足を運ぶ若い層と、反対の骨董通り側から主に訪れる年配層がMoMA Design Storeでは混じりあう。

 「ターゲットは特に限定せずに、グッドデザインを身近に感じていただきたいと考えました。オンラインストアよりもさらに幅広い世代の方々にお越しいただいている印象を受けます」と、望月香菜さん(三洋電機海外マーケティング本部MoMA Design Store PR担当)は話す。

 路面店と異なり、1階にシャネルやブルガリが入るビルの3階という場所は"行きずり客"の入りにくい不利な立地といえる。しかし取材した11月半ばの平日は、開店間もない午前中でも次々に客が入っていた。MoMAブランドの強さを感じさせる情景ではないか。

 (守山久子)

■MoMA Design Store:http://www.momastore.jp/
東京都渋谷区神宮前5-10-1 GYRE3階
(TEL:03-5468-5801)
営業時間 11:00〜20:00
不定休

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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