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連載コラム

第54回「官庁街の建物と街をつなぐ 〜食堂BARカスミガセキ」

[ 2008年1月8日 ]

 霞が関ビルディングに隣接して新しく完成したオフィスビル「東京倶楽部ビルディング」の1階から3階は、「霞ダイニング」と呼ぶ飲食店フロアになっている。生花店と9つの飲食店が並ぶゾーンの2階に、食堂BAR(バール)カスミガセキは位置している。
 運営するのは、名古屋市と東京都内を中心に飲食店を展開するゼットン。食堂BARという名前は、「食事やちょっとしたつまみになる総菜を提供する、日常の使い勝手が良い店」(ゼットンの西村千春さん)という業態を表現したものだ。

 店は、昼に始まり深夜0時までずっと営業している。週替わりの定食や日替わりカレーライスなどを提供するランチの後は、カレーライスや石焼ご飯も食べられるカフェタイムが続く。

 夕方以降は総菜や一品料理を用意し、酒も楽しめる店となる。きんぴら蓮根(580円)、長野セロリのピクルス(570円)、味噌串カツ(1本150円)、岩手岩中地豚のしょうが焼き(960円)など、和を中心とした構成だ。酒は、赤白共に3500円のボトル8種ずつなどを用意したワインのほか、焼酎、泡盛、ビール、カクテルと一通りそろえている。

 ターゲットとなる客層は、霞が関周辺に勤める官僚や会社員たち。ランチ需要はもちろん、残業の合間に食事をしたり、仕事帰りに仲間や上司、部下と飲んだりという利用シーンに対応する。客単価は、フリードリンク制のランチタイムで約1000円、夜は約4000円で推移しているという。

 
写真左:メイン客席/写真右:カンター席


 中川デザイン事務所の中川健司氏が手がけた内装は、木を多用した直線的なデザインが和の感覚を強く打ち出している。中川氏は、名古屋を拠点に活動するインテリアデザイン事務所、神谷デザイン事務所(代表:神谷利徳氏)出身の若手デザイナーだ。

 エントランスを入ると、木の腰壁と縦格子で仕切られた8席のカウンター席が右手に続く。メインの空間は、床に段差を付けた78席のテーブル席ゾーン。右手奥に、やはり縦格子の稼働壁で間仕切りをした2つの10人用個室が並ぶ。外には、18席のテラス席もある。

 外側に面した2面の壁は天井までのガラス張り。最大6mという天井高を生かした空間は開放的な印象を与える。フローリング、レッドシダーの壁、縦格子、テーブルやカウンターの天板など、主な構成要素にはすべて木を用いている。和の印象をもたらすのは、ひとえにこれら木の使い方と格子をモチーフにしたデザインのおかげだろう。

 ただ、いわゆる居酒屋あるいは料亭といった雰囲気ともひと味違う。居酒屋よりはモダンで、料亭よりは気軽に楽しめる感覚だ。この"違い"は、座面を少し高めに設定したいすのつくりが大きく作用している。

 下部に荷物を置く場所も用意したいすは、座ると床には足が届かない。荷物置きの板に足を掛けられるので実際にはくつろげるが、外観はファストフードやカフェによくあるタイプのスツールに近い。やや視線を高くしたテーブルまわりの仕様は、手軽な惣菜を集めた料理とあいまって、まさに和風バールといった趣を生み出す。

  
写真左:カウンター席/写真中:テーブル席/写真右:エントランス方向見返し


 「洗練された感覚を残しながらも、リラックスできる親しみのある空間を目指した」と西村さんは話す。20代から年配までと客層は幅広いから、ターゲットを絞り過ぎず、デザイン面でもとんがり過ぎないつくりを狙った。個室の数を最小限にし、大空間に並んだテーブル席を中心に据えたのも、日常使いの店というコンセプトに沿ったものだ。

 もう一つの特徴は、ほとんどすべての什器を可動式にしていることだ。メインの平場に置かれたテーブルやいすはもちろん、窓際に並ぶカウンターやベンチ席も動かせる。個室を仕切る縦格子壁も収納して一体化した大空間にできる。

 これは、大小の宴会需要に対応するのが目的だ。テーブルや壁を移動することで、少人数はもちろん、最大120人から130人程度の宴会にも使えるようにした。

 
写真左:テラス席/写真右:広場からの店舗見上げ


 周辺の霞が関かいわいでは、庁舎の建て替えが進んでいる。旧文部科学省庁舎の裏側には、二つの超高層オフィスビルと店舗の入るアネックスで構成される「霞が関コモンゲート」が誕生した。一帯は、旧文部科学省庁舎を改装した建物と霞が関コモンゲート、霞が関ビルディング、東京倶楽部ビルディングが並び、その間を人工地盤の広場がつなぐ一大都市空間となった。

 この屋外空間は、東京メトロの虎ノ門駅と直結する。同時に、これまでビルとビルの隙間に過ぎなかったオフィスビルの足元空間にあって、街と建物をつなぐ中間領域としての役割を果たしている。

 人が行き交い、滞留する都市空間に欠かせないのが商業施設だ。従来の霞が関周辺では、店舗は外部から閉じられたビルの中に身を隠していた。それに対し、新しい広場に作られた店は、限定的ながらもできるだけ広場に面して顔を見せるようにしている。食堂BARカスミガセキのテラス席も、広場に賑わいをもたらす一つの仕掛けとなっている。

 かつては仕事の顔一辺倒だったオフィス街も、都市間競争を生き抜くためには多彩な機能を備えることが求められるようになってきた。官庁街として独自の歴史を刻んできた霞が関も、次の時代に向けて変わろうとしている。

 (守山久子)

■食堂BARカスミガセキ:http://www.zetton.co.jp/
東京都千代田区霞が関3-2-6 東京倶楽部ビルディング 霞ダイニング2階
(TEL:03-3501-0877)
営業時間 平日11:00〜24:00、日祝11:00〜22:30
不定休

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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