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連載コラム

第55回「白く明るい、リビングのような映画館 〜ユナイテッド・シネマ浦和」

[ 2008年2月7日 ]

 「ユナイテッド・シネマ浦和」は、10月10日、JR浦和駅東口前にオープンした浦和パルコ内のテナントとして誕生した。地下1階から地上7階までパルコ、8階から10階まで市立中央図書館などの公共施設が入る複合施設「コムナーレ」の6、7階を占めている。館内には9つのスクリーンを備え、合計1737人を収容する。
 ユナイテッド・シネマ浦和のインテリアは、一般的な映画館のイメージとは随分違う。明るく、オープンな室内空間が特徴だ。


ホワイエの吹き抜け
 
写真左:上階の「SLOUC Café」 写真右:「SLOUC Café」の客席スペース。映画館と同じいすを用いている


 エスカレーターのある建物の共用スペースと、チケット売り場まわりに広がるホワイエ(ロビー)の間には扉や間仕切り壁がない。ホワイエには吹き抜けがあり、ガラス張りの外壁から自然光が注ぎ込む。窓沿いに並んだ白いソファベンチでは、映画が目的ではなさそうな女の子などもくつろいでいる。

 濃いグレーのカーペットに、白い壁。チケットカウンターの正面には、壁をえぐって設けた"かまくら"のような向かい合わせのテーブル席もある。

 吹き抜けの階段でつながる上階の「SLOUC Café」は、古書店「COW BOOKS」を運営する松浦弥太郎氏がセレクトした本を並べるブックカフェだ。西麻布「Notting Hill Cakes&Gifts」の焼き菓子を提供する。緑のカーペットの上に1脚ずつ色を変えた映画館のいすを配し、カラフルなスペースとしている。

 下階のホワイエといいブックカフェといい、映画館というよりは"ライフスタイルの提案をするセレクトショップ"といった雰囲気だろう。「わくわくドキドキという高揚感ではなく、カジュアルな心地良さが感じられる空間づくりを目指した」と、ユナイテッド・シネマ建築部長兼アートディレクターの秋山訓久氏は話す。

 チケットが必要な館内スペースのインテリアもシンプルさを打ち出したものだ。

 入場口の正面には、上映しているスクリーンの番号と方向を示す赤いデジタル表示のある黒い壁面を配置。赤い文字に誘導されて直線状の通路を進むと、白い天井と壁に、黒地に白色のサインという硬質な空間が続く。壁に張られた大きな映画ポスターが、白い背景に映える。

 一般に映画館の館内が黒っぽいのは、暗い座席空間へ入るまでの間で暗さに目を慣らさせる目的がある。だから、普通はインテリアに白を用いない。しかし、ここではあえて通路まわりに白を採用しつつ、照明の照度を落とすことで暗さへの順応に配慮している。

 空間はインテリアデザイナーの形見一郎氏、グラフィックはタイクーングラフィックスの鈴木直之氏がそれぞれ担当した。


入場口と赤い誘導サイン
 
写真左:各室へ導く通路 〈写真:Nacasa&Partners〉/写真右:通路の案内サイン

客席。スクリーンごとに壁の色を変えている 〈写真:Nacasa&Partners〉


 "常識破り"ともいえるユナイテッド・シネマのシネコンづくりは、今回が初めてではない。秋山氏によると、従来とは異なるインテリアデザインを取り入れるきっかけとなったのは2004年7月に開業した「ユナイテッド・シネマとしまえん」だった。

 このときは、周辺に住宅地が広がる地域に単体で出店した。「近所の人たちに気持ち良く使ってもらえるよう、『わくわくドキドキ』という方向性は封印して、インテリアショップやヘアサロンのような空間づくりを試みた」と、秋山氏は振り返る。

 ホワイエまわりに外光を取り入れ、床には打ち放しコンクリートを用いた。結果的に大人の客からの評判も良く、固定客を確保できた。配給会社からも高い評価を受けることになった。設計の過程では、「オペレーション上、従来型のシネコンのデザインのなかでいじれる部分といじれない部分がわかった」(秋山氏)。

 複数のスクリーンを設けるシネコンでは、オペレーションの効率化が生命線を握っている。その肝となるポイントを外すわけにはいかない。

 例えば、客をシンプルに誘導する動線の設定。客はまずチケットを購入し、『コンセッション』と呼ぶ売店でポップコーンや飲み物を買ってから入場し、映画が終わると速やかに外へ出る。こうした動きを円滑に行ってもらうためには、動線のシンプルさと、次に向かう場所がすぐ目に入る視認性の高さが欠かせない。

 オペレーション側はこれらの箱に対する工夫に加え、各スクリーンの上映時間を少しずつずらすことで、チケット売り場や売店に向かう客の数をできるだけ均等に分配していく。

 一方、それ以外の部分では、従来の常識にとらわれない自由な発想でデザインしてもかまわないはずだ。としまえんでの成功に意を強くしたユナイテッド・シネマは、以降、ラグジュアリー感をテーマにした豊洲、ひと味違ったエンターテインメント性を探った前橋など、デザイン性を強く打ち出したシネコンづくりを展開している。

 
写真左:チケット売り場/写真右:コンセッション(売店) 〈写真:Nacasa&Partners〉
 
写真左:ホワイエのボックス席 写真右:ガラス張りの映写室。中の様子が見えるようにした


 秋山氏が浦和で意識したもう1つのポイントは、建物の中での位置付けだった。

 冒頭で触れたように、ここではパルコのテナントとして出店しており、しかも上階には図書館などがある。「知的欲求を満たすという点では図書館も映画館も同じということから、ブックカフェを発想した。さらに、建物内で各機能を垂直に積むのではなく、人が行き交う界隈(かいわい)性が必要と考えた」。

 建物の共用スペースに対して開放的なつくりや、吹き抜けを用いて上下階の様子を感じ取れるようにした空間構成は、そんな界隈性を体現したものだ。

 1993年に日本最初の施設が開業したシネコンは、その後着実に数を増やしている。日本映画製作者連盟の調べでは、2007年12月末現在、全国のシネコンのスクリーン数は2,454。映画館全体のスクリーン数の76パーセントを占める。前年比1.1倍という伸びは、2000年以降ほぼ一定している。

 ただし、地方によってはシネコンが過当競争に入る地域も出てきたようだ。今はまだ市場に余裕がある都心部でも、いずれは淘汰のときがやって来る。そのときシネコンは何を武器にするのか。ユナイテッド・シネマの試みは、こうした質問に対する1つの回答でもある。

 (守山久子)

■ユナイテッド・シネマ浦和:http://www.unitedcinemas.jp/
さいたま市浦和区東高砂町11-1 浦和パルコ6F
(TEL:048-813-8856)
営業時間 9:00〜翌1:00
不定休

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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