日経メッセ > JAPAN SHOP > 連載コラム > 商空間デザイン最前線(日経デザイン編) > 第75回「事務所ビルがレトロ感覚のホステルに 〜HOSTEL 64 Osaka」

連載コラム

第75回「事務所ビルがレトロ感覚のホステルに 〜HOSTEL 64 Osaka」

[ 2010年5月17日 ]

築50年弱の事務所ビルが、ホステルに生まれ変わった。2010年3月16日、大阪市西区にオープンした「HOSTEL 64 Osaka」は、最低3900円から泊まれるお手頃価格の宿泊施設。設計と運営を手がけるアートアンドクラフト(以下A&C)は、レトロと現代、和と洋を混在させたデザインを通して、大阪の"普通の暮らし"に触れられる空間を提案した。

 「HOSTEL 64 Osaka」は、1964年に建設された4階建ての事務所ビルをリノベーションしたホステルだ。ドミトリーのレギュラーコンパートメント(シングル)で3900円、小部屋付きの和室に4人で宿泊した場合でも合計1万6200円という手軽さが売りだ。シャワーやトイレは共同にするなど、施設やサービスは最低限必要な要素に絞っている。

 ただし、安いからといって "貧しい"というわけではない。レトロと現代、和と洋の要素をあえて混在させた各スペースは、居心地の良いカフェのようでもある。

 「機能的だけれども均質なサービスを提供するホテルではなく、その地域の暮らしを感じさせる宿泊施設に泊まりたい。そんなニーズにこたえるホステルを目指した」。A&Cの岡崎麗さんはこう話す。

 ターゲットとしているのは、普通のホテルでは飽き足らない国内や海外からの旅行者たち。30代を中心に想定している。単に安さを求めるのではなく、普通の暮らしを見たり体験したりすることに意義を感じ、旅先で出会った人たちとの交流を楽しもうとする層だ。

HOSTEL 64 Osaka外観
HOSTEL 64 Osaka外観

ロビーフロアのロビー&ライブラリー
ロビーフロアのロビー&ライブラリー ※写真はA&C提供

 建物の構成は次のようになっている。

 玄関から直線階段を上ると、ロビーフロア(一般的な呼び方では2階)。旅好きのスタッフも含めた利用者たちのコミュニケーションスペースだ。

 ガラスの扉を押し開くと正面にレセプションのカウンターが置かれ、その両側にロビー&ライブラリーとバーラウンジが続く。寝る直前までここでくつろぎ、語り合って過ごす客も多いという。バーラウンジは、以前の応接室を転用したものだ。扉を出た奥には、冷蔵庫や電子レンジを備えたミニキッチンとシャワーブース2つがある。

 ロビーを抜けて、奥の階段から下りていくとグランドフロア(1階)。ここはドミトリーのエリアになる。

 シングルに当たるレギュラーコンパートメントが2つ、ダブルに当たるラージコンパートメントが4つ並ぶ。各コンパートメントは、ホステルのロゴをプリントした白い大きな布地で仕切られている。のれんをくぐるように布地を払いのけ、コンパートメントに潜り込むという趣向だ。個人の持ち物は、銀行の金庫として使われていた貴重品ボックスに入れる仕組みになっている。

 上階のセカンドフロア(3階)とサードフロア(4階)は、個室の客室エリアだ。2階合わせて洋室と和室が9室並び、各階に共同の洗面、トイレ、シャワーが用意されている。

ロビーフロアのレセプションカウンターまわり。奥にバーラウンジが見える
ロビーフロアのレセプションカウンターまわり。
奥にバーラウンジが見える

ロビーフロアのロビー&ライブラリー
ロビーフロアのロビー&ライブラリー

ドミトリーのコンパートメント
ドミトリーのコンパートメント

和室の客室
和室の客室 ※写真はA&C提供

 インテリアでは、建物ができた1964年当時のものと現代のもの、あるいは和と洋の要素をミックスさせている。

 例えば、ふすまをはめ込み、収納棚の代わりに衣桁(いこう)を置いた洋室がある。ミニキッチンや洗面所のまわりは、10センチ角のタイルを貼っている。いずれも、かつての日本家屋を思い起こさせるしつらえだ。

 一方、ロビーにはマッサージチェアを置いている。また、シャワーブースの1つには、「AKIRAシャワー」という愛称で呼ぶユニバーサルデザイン仕様の座式シャワーを設置する。これら高機能の電化製品は、現代日本の暮らしを象徴する存在といえる。

 ここには、いかにも和風といった感じを与える"書き割り的な日本"はない。「現代とレトロ、和と洋など多様な要素が混在するところに現代の大阪らしさを感じ取っていただければ」と岡崎さんは話す。

ツインの客室
ツインの客室

ミニキッチン
ミニキッチン

 A&Cは、「『自分らしい住まい』や『ありきたりでない仕事場』へのリノベーション」(岡崎さん)の設計・施工をこれまでに多数手がけてきた。ただし、今回のようにオフィスを宿泊施設にするのは初めての体験だ。

 そもそもの計画は、中谷ノボル社長以下、海外旅行好きの社員たちが「自分たちの泊まりたいホテルをつくろう」と思い立ったところから始まった。とはいえ、ホテルに適した建物を見つけるのは難しい。既存ビルを300件近く探した末に、現在のビルに行き着いた。

 もともとこのビルは、2階と4階の一部が事務所になっていたほかは、1階が倉庫、3階と残りの4階部分は従業員用の寄宿舎に充てられていた。上階に小割の壁や水回りの設備を備えていたため、宿泊施設に比較的転用しやすいという利点があった。ちなみにグランドフロアのドミトリーは、倉庫跡を活用している。

 計画に際しては、建築基準法はもちろん旅館業法や消防法をクリアするために必要な改変や設備の設置を行い、事務所から旅館への用途変更を経て開業にこぎ着けた。工費の多寡はそのまま客室料に反映するため、総工費を約3000万円に抑えた。そのため昔の書棚など利用できるものはそのまま使い、新たな要素はできるだけ削ぎ落としている。

 さまざまな工夫の末、通常の宿泊施設とはひと味違う空間が生まれた。最上階の洋室には、かつての寄宿舎の仕様のまま、床から天井までの掃き出し窓がある。外にはバルコニーも続く。窓が小さく、閉鎖的な印象の室内になりがちな一般のホテルと比べると、その開放感は想像以上に気持ちいい。

 スクラップ・アンド・ビルドをしにくくなった現代だからこそ、こうしたビルを活用しやすくなったという背景もある。古い建物を活用したことによって生まれる空間の意外性、細部デザインの面白さ...。最先端の機能は完備していなくても、これらの発見が宿泊者に知的な刺激を与える。

(守山久子)

■HOSTEL 64 Osaka
http://www.hostel64.com/
大阪市西区新町3-11-20
TEL 06-6556-6586
営業時間 チェックイン15:00〜23:00 チェックアウト12:00 バー18:00〜23:00
定休日 無休

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

バックナンバー

PAGE TOP