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連載コラム

第79回「吉野スギのやぐらは伝統産業応援の旗印 〜中川政七商店 ラクエ四条烏丸店」

[ 2011年1月5日 ]

2010年11月11日、京都・ラクエ四条烏丸店の地下1階に「中川政七商店」がオープンした。普段づかいの和雑貨を中心に構成したセレクトショップだ。吉野スギの間伐材をインテリアに利用し、道具の感覚を持ち込んだ店づくりには、地域の伝統産業を活性化しようという狙いが込められている。

 「昔から変わらずに使われてきた、デザインと機能が両立した暮らしの道具を集めています。店自体のデザインも道具を意識し、什器をうまく使いこなしていけるようにと考えました」。中川政七商店のブランドマネージャーを務める細萱久美さんは、店の特徴をそう語る。

 エスカレーターに面した広い間口の店舗は、吉野スギの間伐材でつくったやぐらが目印になる。柱と梁を組み合わせたやぐらは、店表では店名サインを記したガラス面を支え、店内では壁沿いに延びたディスプレー什器の骨組みとなる。

写真1:四条烏丸の交差点に登場した「ラクエ四条烏丸」
写真1:四条烏丸の交差点に登場した「ラクエ四条烏丸」

写真2:中川政七商店
写真2:中川政七商店

 道具という意識は、モジュール方式を取り入れた木製什器に投影されている。

 やぐらを用いた壁面のディスプレー棚は、45センチほどの横幅をもつ盆状の板をフックに引っ掛けて展示棚としている。ディスプレーに応じて棚板を取り外しできる仕組みだ。棚の足元には、フタ付きの木箱が並ぶ。ナラ材のこの木箱は商品ストックに使うほか、フタの上面を商品展示に利用することもできる。

 中央に並べた背の低い什器も、同様のモジュールに基づいて箱形に区切った棚になっていて、箱内の棚板は自由に高さを調整できる。木の素材感にもよるのだろう。ディスプレー什器というより、どこか室内に箪笥(たんす)を置いているような印象を受けた。

 生活に用いる道具をそのまま移したかのようなつくりと、梁と柱で構成した骨組以外は可動式の仕組みを取り入れた構成。中川政七商店のインテリアは、日本の伝統的な生活様式や空間の生かし方と二重写しになる。

写真3:中川政七商店の店内
写真3:中川政七商店の店内

写真4:やぐらのディスプレー什器
写真4:やぐらのディスプレー什器

写真5:着脱可能な棚板を用いた什器)
写真5:着脱可能な棚板を用いた什器)

 「中川政七商店」は、運営する中川政七商店(本社:奈良市)にとって3つめのブランドに当たる。ラクエ四条烏丸店はその初店舗だ。

 1716年に創業した同社は、もともと高級麻織物の奈良晒(さらし)を扱う会社で、先代社長の時代からは茶道具の総合問屋としても地歩を築いてきた。同時に自社初の雑貨小物ブランド「遊 中川」を1983年に立ち上げた。40代から60代をコアターゲットに、手織り麻を中心とした和雑貨を扱っている。続いて現社長の中川淳氏が入社した直後の2003年に、2つめのブランド「粋更kisara(きさら)」を設立。こちらは「日本の贈りもの」をコンセプトに据え、木や陶器、ガラスなど日本の素材を用いた嗜好品を中心に構成している。

 一方、新しい「中川政七商店」は「温故知新」というコンセプトの下、より生活に密着した普段遣いの実用品を扱うブランドとして位置付けた。商品は、帆布のトートバッグや麻の「花ふきん」といったオリジナル品のほか、南部鉄瓶、ホーロー容器、陶磁器、番茶や文具など全国各地から集めたセレクト品を用意。現在は合計で約600アイテムをそろえている。客層も、「これまではあまり狙っていなかった20代の層」(細萱さん)を含めて取り込んでいく。

 高い年齢層向けの高級な嗜好品を集めたブランドから、幅広い客層に向けた日常的な商品を集めたブランドへ。「中川政七商店」ブランドは、会社の事業を広く一般化させていく流れの先兵となる。目指すのは「伝統工芸界の無印良品」。10年で100店舗の出店を目標に掲げている。

写真6:中央のディスプレー什器
写真6:中央のディスプレー什器

写真7:ヒノキを使用した試着室
写真7:ヒノキを使用した試着室

 ところで、最初から100店舗という"壮大"な目標を掲げている背景には、「日本の伝統工芸を元気にする!」という同社の長期ビジョンがある。

 中川社長は、「遊 中川」のブランド再構築や「粋更kisara」の新規ブランド開発を通して会得したノウハウを、他の伝統工芸の応援に活用していきたいと考えた。3ブランド合わせて23を数える直営店舗の積極的な展開は、全国各地の良質な伝統工芸に対して流通の出口となる場をつくるため。しかも、単に出口を用意するだけでなく、メーカーに対して継続的に利益を還元できることが大切だ。そうしたビジネルモデルを構築するには、店舗数も相応の規模が必要という算定だった。

 「中川政七商店」のラクエ四条烏丸店で、地域産業を元気にさせる試みの1つが吉野材の活用だ。吉野材の産地が山林の健全な経営を成り立たせるには、植林、枝打ち、間伐という適正な循環を保つ必要がある。つまり、間伐材の利用が欠かせない。そこで、吉野スギの間伐材を用いたやぐらを壁面什器に活用した。

 90ミリ角を中心とした高さ2.5mの柱と、90ミリ角や120ミリ×150ミリ角の最大5m以上となる長さの梁を組み上げ、全体で約0.5㎥の間伐材を使用している。産地にとっても中川政七商店にとっても事業として成り立つようにコストを設定し、吉野材を活用する実践的な手法として提示しているのがポイントだ。

 2011年春には、博多と大阪でも新店舗を出店する。決して広い店舗ではないが、店に秘めた思いと志は大きい。

■中川政七商店 ラクエ四条烏丸店
http://www.yu-nakagawa.co.jp/
京都市下京区四条通室町東入函谷鉾町101 ラクエ四条烏丸店地下1階
TEL 075-253-0035
営業時間 11:00~21:00
定休日 無休(元旦休)

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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