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連載コラム

第80回「羽田・国際線旅客ターミナルに出現した和のしつらえ 〜E・DO MARKET PLACE」

[ 2011年2月25日 ]

東京国際空港(羽田空港)の新しい国際線旅客ターミナルビルが2010年10月21日にオープンした。一般利用者が入れるエリアの4階と5階を占めるのが、商業施設の「E・DO MARKET PLACE」。江戸の街並みを再現した区画をもつ4階の「江戸小路」、5階の「TOKYO POP TOWN」という2フロアに、物販と飲食、サービスの43店舗が並ぶ。

 海外への玄関口である国際空港に、江戸の街並み。こう書くといかにもテーマパーク風のイメージだが、実際に訪れてみると予想以上に本格的な仕様となっている。

 木で組んだ深い軒に、縦格子をはめ込んだ窓。外壁はベンガラ色の塗り壁があると思えば、横になまこ壁が続く。通りに面して提灯が連なり、歌舞伎小屋「中村座」を想起させる一画もある。随所にヒノキやスギを用い、可能な範囲で屋根の下地なども木で組んでいる。

 本格的と感じるのも当然だ。このゾーンの環境演出を手がけたのは、京都の中村外二工務店。数寄屋などの伝統的な木造建築において、国内有数のつくり手として知られる工務店だ。国際線旅客ターミナルという未来志向の空間の中に、和建築の正統的な要素を最大限持ち込んでいる。

写真1:3階の出発ロビーから見た「E・DO MARKET PLACE」
写真1:3階の出発ロビーから見た「E・DO MARKET PLACE」

写真2:江戸の街並みを再現した4階の「江戸小路」
写真2:江戸の街並みを再現した4階の「江戸小路」

 「東京の表玄関となる国際空港にあって、日本の文化や街並みを"本物"で表現したいと考えた」。施設管理を担う東京国際ターミナルの米本靖英・営業部長は、商業施設づくりの狙いをこう説明する。

 一般利用者の入れる商業ゾーン「E・DO MARKET PLACE」は、「江戸小路」と総称する4階部分と、「TOKYO POP TOWN」と呼ぶ5階部分に分かれている。

 4階は、3階の出発ロビーと一体化した大きな吹き抜けの下に、物販や飲食のテナントが入った平屋の建物を街並みのように連ねている。3階出発ロビーからエスカレーターで上がると、まず目の前に広がるのは、傘と腰掛けベンチを並べた茶屋風のカフェや物販店を配した「広小路」。建物を隔てた1本奥に、物販店の並ぶ「仲通り」がある。さらにその奥に、物販店と飲食店ではさまれた「江戸小路」が続く。

 広小路の脇には、寿司や蕎麦、居酒屋をそろえた「江戸前横丁」と呼ぶ一画もある。中央には、イベントスペースとなる「江戸舞台」が鎮座し、取材した2月半ばには大きなヒナ飾りがしつらえられていた。

 広小路から仲通り、仲通りから江戸小路へという構成のなかで、建物のファサードデザインは少しずつ変化していく。一番奥の江戸小路は、冒頭で触れた伝統的なつくりのゾーンだ。ここから出発ロビーに面する側へ近づくほどデザインは現代的になってくる。広小路まわりは、木という素材や格子などのモチーフを踏襲しつつ、水平と垂直を強調したシンプルなつくり。こちらは、やはり京都を拠点に活動する建築家の岸和郎氏が環境演出を手がけた。

 鉄とガラスによる現代建築そのもののターミナルビルの空間内に、いきなり江戸の街並みを持ち込めば違和感を禁じ得ないのだろう。現代的なデザインを施した広小路まわりの空間は、両者を融和させるための緩衝地帯としても機能する。

写真3:「広小路」
写真3:「広小路」

写真4:「仲通り」側から「江戸小路」方向を見る
写真4:「仲通り」側から「江戸小路」方向を見る

写真5:イベントスペースの「江戸舞台」
写真5:イベントスペースの「江戸舞台」

写真6:「江戸小路」にある中村座の看板
写真6:「江戸小路」にある中村座の看板

写真7:「江戸小路」
写真7:「江戸小路」

写真8:4階見下ろし
写真8:4階見下ろし

 一方、5階の「TOKYO POP TOWN」は、大きな吹き抜けの下に街並みをしつらえた4階とはガラリと変わった印象を与える。

 西北側の「HOT ZONE」は、石張りと塗り壁をモチーフに、温かみのあるベージュ色を基調にした空間だ。キャラクターグッズやおもちゃの店をそろえている。南東側の「COOL ZONE」は一転して、グレーのストライプ壁に黒と白のツートーンの床をもつ。無機質なデザインの中に、プラネタリウムや雑貨の店が並ぶ。

 5階の外部空間には、両端に「富士見台」と「月見台」を備えた細長い展望デッキがある。久しぶりの晴天だったこの日は、平日の昼間ながら多くの家族連れや団体客が飛行機の姿を鑑賞していた。

写真9:「HOT ZONE」の入り口
写真9:「HOT ZONE」の入り口

写真10:「COOL ZONE」の入り口
写真10:「COOL ZONE」の入り口

 「E・DO MARKET PLACE」には、飲食20店、物販22店、サービス1店の計43店舗が入居している。

 テナントは、「メイド・イン・ジャパン」をコンセプトに集めた。物販では、地域の名産食品や手ぬぐい、和コスメ、あるいは国内メーカーの眼鏡やシャツ、バッグの店がそろう。飲食店はすきやきやとんかつ、串揚げなどのほか、イタリアンやフレンチもある。ここでも「日本に馴染んだ味や日本人シェフのいる店」(米本氏)を選定することで、趣旨を一貫させた。

 米本氏によると、日本における空港内の商業施設は世界の主要空港のなかでも特殊な発展を示してきた。通常、空港の商業施設は航空機利用客による免税店の売上が主となるが、国内の主要空港では周辺地域からの集客も多い。羽田空港の国内線旅客ターミナルビルにあるビッグバードをはじめ、大阪の伊丹空港や愛知の中部国際空港などでも、地域客を意識した商業施設を用意している。

 今回の国際線旅客ターミナルビルでも、免税店の面積の比率を全体の4割程度に抑え、飛行機を使わない客が入れる一般エリアの店にも力を注いだ。このうち「E・DO MARKET PLACE」の店舗面積は3250㎡で、国際線旅客ターミナルビル内の商業施設全体の3割強を占める。

 一方で、この国際線旅客ターミナルビルは、成田空港との兼ね合いから多くの制約を受けている。航空機の便は、日中は韓国や香港、上海といった近隣の国が主体となり、利用客数も成田の年間およそ2850万人(2008年度)に対して約700万人という想定だ。商業施設を海外の空港と比べると、施設全体でおよそ1万㎡という店舗面積は、たとえば韓国の仁川国際空港の約3万5000㎡に対して3分の1以下の規模に当たる。

 このように、羽田空港の新国際線旅客ターミナルビルは、規模や総合力という側面で他と勝負するのはそもそも難しい。そこで、羽田空港国内線ターミナルビルとのテナントの重複を避けつつ、江戸という特徴あるテーマを掲げて独自路線を追求したわけだ。こうした商業施設の特徴付けが国内外それぞれの利用者からどのように評価されるのか、興味深い。

■E・DO MARKET PLACE
http://www.haneda-airport.jp/inter/
東京都大田区羽田空港2-6-5 東京国際空港国際線旅客ターミナルビル4階・5階
TEL 03-6428-0888 (東京国際空港ターミナル インフォメーション)
営業時間 店舗により異なる (24時間営業もあり)
定休日 無休

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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