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連載コラム

第81回「産地と運営者、外と内を親密に結ぶ横丁業態 〜有楽町産直飲食街」

[ 2011年5月2日 ]

JR新橋駅からJR有楽町駅の間の高架下に続くインターナショナルアーケードは、居酒屋や土産物店などが並ぶモールだ。レトロでどこかアンダーワールド風味が加わった空間には、マニアックなファンがいるという話も聞く。そんな一画に2010年11月16日、「有楽町産直飲食街」がオープンした。12月22日に一足遅れで開業した1店舗を含め、5つの道県の産直素材を用いた5つの居酒屋が営業している。

 東京・日比谷の帝国ホテルとインペリアルプラザに面した表通りを、銀座側に向かって歩く。JR線高架をくぐると、入り口を構えているのが「有楽町産直飲食街」だ。全国の5道県で産する食材を使った店が5つ並んでいる。

 表通りに面した右側は、静岡県沼津港からの直送品を用いた「魚河岸 魚○本店」。その奥に、高架に沿って3つの店が続く。熊本県の馬肉を供する「馬かばい!」、岩手県の山と海の産物を素材にした「白金豚・三陸前浜もの 南部家」、長野県の軍鶏と地鶏をメインにした「信州神鶏」だ。

 表通りに面した左側には、一足遅れて開業した「牛酒場 牛○~小澤牧場」がある。右側の4店との間に、細長い路地が延びていく。


写真1:有楽町産直飲食街のメイン入り口


写真2:2つの店の間から延びる路地

 「魚河岸 魚○本店」には、表通りに面して魚を入れたショーケースが置かれ、「地方卸沼津魚市場」の看板を掲げた調理場がある。木箱を重ねたようなテーブル席や、漁船を用いた席が並ぶ。脇には、本物の型枠を用いて店の現場でコンクリート打ちしたというテトラポッドがころがっている。いかにも漁師の街に来たかのような、ラフな雰囲気が漂う。

 「馬かばい!」では、むき出しの天井から馬の鞍がぶら下がり、壁に馬蹄の絵がかかる。席の間仕切りは、コンクリート打ちの型枠で用いる合板だ。「白金豚・三陸前浜もの 南部家」では、床と天井の間に建てた仮設用の足場パイプにベニヤ板を架けたものをテーブルにしている。「信州神鶏」では、養鶏場に用いる金属パイプをアーチのように並べて客席スペースをつくった。路地に面したオープン席も用意した「牛酒場 牛○~小澤牧場」の室内ではビールの瓶ケースを重ねてテーブルにし、四角い傘で覆った昭和30年代風の蛍光灯を天井に吊るしている。

 直線状に並んだ4つの店は、内部でひと繋がりになっている。トイレは共用。「牛酒場 牛○~小澤牧場」も含めて、5店すべての店のメニューを注文できる。店のつくりもサービスも渾然一体となったつくりが、横丁らしい賑わいや親しみを増幅させている。


写真3:「魚河岸 魚○本店」


写真4:「馬かばい!」


写真5:「白金豚・三陸前浜もの 南部家」


写真6:「信州神鶏」


写真7:「牛酒場 牛○~小澤牧場」のオープン席

 「こうした店づくりでは、参加者にとってWin・Winの関係を築くことが大切」。有楽町産直飲食街を企画・運営する浜倉総研の浜倉好宣氏は、そう語る。ここでいう参加者とは、産地の生産者と店舗の運営者だ。

 「産直品を売ろうとしても、なかなかうまくマッチングできていないのが現状。生産者にとって、消費者が食べている姿をダイレクトに確認できる場所はほとんどない。一方で、都市にある小規模な飲食店は、常に良い食材やメニューを求めている」(浜倉氏)。

 そこで両者を結び合わせつつ、産地と店だけでは担うのが難しいトータルプロデュース、運営管理、産直仕入サポート、広報などを浜倉総研が担当するビジネスモデルを考えた。その過程では自治体に声をかけ、地元産品や生産者に関する情報を提供してもらった。これらの情報を基に浜倉氏がテーマとする食材を選び、運営店舗と相談しながら業態と商品の開発を行った。

 その頃、ちょうどオーナーから出店を打診されていたインターナショナルアーケードは、周辺に各道県のアンテナショップもあるなど地の利がいい。産地の人たちが出てきて直産品を販売するといった各種イベントも積極的に行い、道や県の情報発信の足場として活用してもらうようにと考えた。

 各店舗の運営は、「魚河岸 魚○本店」と「牛酒場 牛○~小澤牧場」で浜倉氏が率いる浜倉的商店製作所が担うほかは、「馬かばい!」が第一グリーン、「白金豚・三陸前浜もの 南部家」はオーバークラウド、「信州神鶏」はスパイスワークスというように、異なる会社が手がけている。


写真8:路地側の入り口まわり


写真9:路地に面した壁に描かれた間取り図

 2008年にオープンした「亀戸横丁」(4月)や「恵比寿横丁」(5月)以降、浜倉氏は小さな店を集めた「横丁」業態の飲食店を次々に生み出してきた。今年2011年4月28日には京王線聖蹟桜ヶ丘駅(東京都多摩市)に、初めての郊外店舗「聖蹟桜ヶ丘ミートセンター」も開業させる。

 横丁業態は元々、大資本はないけれども小さな区画なら営業可能な意欲の高い運営者を集め、ビルの大きな空きスペースの活用と周辺エリアの活性化を狙ったのが始まりだ。異なる業態を集約して雑多性や活気を生み出した点に、独自性があった。

 その後は、ホルモンや若鶏など肉屋直営の飲食店を集めた「神田ミートセンター」(2009年5月)、浜焼きや寿司など魚を扱う店を集めた「品川魚介センター」(2009年12月)、魚介センターの洋風版である「EBISU FISH CENTER」(2010年2月)など、食材を絞った店舗も開発してきた。

 今回の有楽町産直飲食街では、さらに産直品という新しいテーマを設定した。ここで工夫したのは、食材とするテーマを店舗ごとに絞ったことだ。「○○県の産直品」といった幅広い設定とはせず、「沼津港の魚」、「馬肉」、「白金豚」のようにポイントを絞った。「認知度を高めて気軽に入りやすくするには、分かりやすさが大切だ」と浜倉氏は指摘する。

 もう1つ浜倉氏がこれまで重視してきた要素に、路面との接点がある。ビルの2階に位置する「品川魚介センター」を除き、すべて路面店に出店している。店への寄り付きやすさ、気楽に入れる店という横丁ならではのコンセプトを生かすには、外部との接点を持つことが重要だと考えるからだ。

 高架下の路面店である有楽町産直飲食街では、店づくりに際して外との接点も強化した。耐震性を確認したうえで路地に面した壁を一部取り払い、出入り口や窓を新しく設けた。従来、路地の奥に位置するスペースは外から見えなかったが、開口があれば女性でも中の様子が分かり安心できる。夜は外に対して照明の光がもれる。周辺ににぎわいをもたらす効果も生み出した。

 横丁シリーズは一見、一時はやったテーマパーク風店舗と同じようなつくりにも感じる。しかし、訪れる客が楽しむのは、味や独特のインテリアだけではない。外の街と一体化した「横丁」という空間のつくりそのものが備える吸引力こそ、店のもつ大きな魅力なのだ。

■有楽町産直飲食街
http://www.sanchoku-inshokugai.com/yurakucho/
東京都千代田区有楽町2-1-11 インターナショナルアーケード
TEL 魚河岸 魚○本店(静岡)03-5510-1278、馬かばい!(熊本)03-3597-7999、白金豚・三陸前浜もの 南部家(岩手)03-3597-7881、信州神鶏(長野)03-3591-7222、牛酒場 牛○~小澤牧場(北海道)03-5510-1488
営業時間 月〜土:昼〜朝、南部家と信州神鶏は夕方~朝、日・祝:夕方〜24:00、魚○と牛〇は毎日昼~朝
定休日 無休

商空間デザイン最前線(日経デザイン編)
執筆者:守山 久子

フリーランスライター。
1963年東京都生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。
ゼネコン設計部、日経BP社「日経アーキクチュア」「日経ストアデザイン」「日経アート」「日経デザイン」の各編集部を経て2003年に独立。住宅、建築、デザインの分野を中心に取材・執筆を行う。著書「家族と財産を守る耐震リフォーム」(週刊住宅新聞社)、共著「デザイン・エクセレント・カンパニー賞!」「デザインエクセレントな経営者たち」(ダイヤモンド社)、「巨匠の残像」(日経BP社)。

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