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生協宅配、時間に挑む――週1回だけ→毎日、昼間だけ→夜間も(玄関先争奪戦)

[ 2013年11月4日 / 日経MJ(流通新聞) ]

競合成長で危機感

 週1回から毎日宅配へ――。宅配の“老舗”である生協がビジネスモデルの変革に向けた一歩を踏み出した。玄関先まで商品が届く利便性をテコに全国約2000万人の組合員を抱えるまでに成長したが、ネットスーパーや専門の宅配会社などの成長で事業環境は大きく変わりつつある。生き残りに向けた危機感が背中を押すが、「玄関先の常連」であり続けるためのハードルを越えるのは容易ではない。

 「コープみらいです。ご注文の商品をお届けに伺いました」。10月28日の正午過ぎ、東京都北区のマンションに住む主婦、小関桃子さん(39)宅にエプロン姿の配達員が訪れた。手にするのはカット野菜や下ごしらえした肉などがセットになった2〜3人分の食材だ。

 日本最大の生協であるコープみらい(さいたま市)など関東信越の6生協でつくるコープネット事業連合は10月21日、大手として初めて「毎日宅配」を始めた。「折り込みチラシを見て利用を決めた」という小関さんは「調理が簡単で、献立に悩まないですむ」と満足げだ。

 これまでも生協の店舗などを利用することはあったが、週1回の宅配は「注文書の記入が面倒」なこともあって使っていなかった。コープみらいの新サービスは注文が容易なうえ、「毎日届いて便利」と話す。

 同サービスはコープみらいのほか、連合に参加するコープぐんま(群馬県桐生市)、いばらきコープ(茨城県小美玉市)も一斉に開始。「事前告知の時間が十分取れなかった」こともあり、利用者はまだ想定水準に達していないが、今後は広告宣伝にも力を入れ、顧客を増やす考えだ。

 (1)「安全・安心」な商品を店舗で販売↓(2)グループ化した組合員のもとへ集団宅配↓(3)自宅に週1回の頻度で宅配。時代とともに変わってきた生協ビジネス。「毎日宅配」という新たな変革に踏み出させたのも時代の変化に対する強い危機感だ。

 この10年あまり、生協はオイシックスや大地を守る会など食品宅配会社の追い上げを受けてきた。そこに、新たなライバルも相次いで登場する。

 「小売りのネットスーパーの勢いは脅威だ」。コープみらいの田井修司理事長は焦りを隠さない。「ネット通販と生協ビジネスの垣根が無くなってきている」とアマゾンや楽天などの動きも警戒する。

 反攻に向けて布石は打ってきた。コープネット事業連合は10年から弁当の「毎日宅配」を開始。「週1宅配」の物流センターを拠点に弁当用の配送車や職員を新たにそろえた。セット食材はこの弁当ルートを使って配送する。

 セット食材の毎日宅配については当初、地域限定で始めることも検討したという。しかし、堀洋之新規事業担当部長は「ライバルが年々増えるなか、『まず実験をしてから』では間に合わない」と強調する。

 堀氏らの目線はさらに先も見つめている。週1宅配で販売する商品のうち、牛乳やタマゴ、食パンなど利用頻度の高い商品をセット食材の「毎日宅配」と配達する実験も始めた。現在は弁当とセット食材以外は商品数や配達頻度が限定されているが、物流体制などが整えば、欲しい時に欲しい商品が届くサービスに発展する可能性がある。

 生協のもう一つのチャレンジが「時間帯」だ。パルシステム東京(東京・新宿)は午後5時から8時の夜間配送サービスの拡大に乗り出す。現在は都内の一部地域にとどまる対象エリアを広げるほか、他の生協にも導入できる環境を整える。

 「夜に届けてくれると知って再び使い始めました」。東京都港区に住む木下君枝さん(76)は1年半前から夜間配送を利用する。昼間は留守がちという木下さんは、一人暮らしで代わりに受け取れる人もいないため、生協の利用をあきらめていた。「スーパーが近くに無いので買い物が大変だった」

 配達員の笹岡汰さん(22)は「最近はマンションの管理も厳しく、不在時に商品を玄関前に置くことも難しくなっている」と話す。夜なら確実に会える人が多いうえ、「利用者にも手渡しの方が安心してもらえる」。

 かつて生協は数人の近隣組合員で「班」を結成。商品は班ごとに1カ所にまとめて配送し、組合員同士で振り分けていく「共同購入」が当たり前だった。その常識を覆し、組合員の自宅などへの個別配送を導入したのがパルシステム東京などで構成する現在のパルシステム生協連だ。

 しかし、現在では個別配送時に不在のケースが半数を占める。マンションの宅配ボックスや部屋の前に商品を置くことになるが、「不在がちな人からの冷凍食品などの注文は確実に減る」。夜間配送は注文単価の引き上げにもつながるという。

 来春には一部地域で時間指定も導入する予定。宅配便などでは当たり前とも言えるが、大半の生協はこれまで物流効率化を理由に、曜日や時間帯を一方的に決めていただけに大きな変化だ。

 夜間配送や時間指定を導入すれば従来より効率性は落ちる。しかし、パルシステム東京で宅配事業を統括する長屋豊執行役員は「利便性を高めて競合を勝ち抜くにはやむを得ない」と見る。

 「我々は個別配送への挑戦という成功体験から長らく脱却できていなかった。もう一度原点に立ち返るべき時がきている」。長屋氏の言葉はまさに変革を迫られる全国の生協の現状を示しているようだ。

高齢化・共働き増加

計画性より利便性重視に

ネットスーパー・通販 存在感

 高齢化や共働き世帯の増加などを背景に食品宅配市場は急拡大している。そのなかで着実に存在感を高めているのがネットスーパーを展開する小売りやネット系企業だ。矢野経済研究所(東京・中野)の調査では、2012年度の食品宅配市場は約1兆8000億円と前年度より3・9%拡大。一方、生協の宅配事業の供給高(売上高に相当)は0・4%増にとどまった。

 生協が「毎日宅配」などの改革に挑むのに対して、“ライバル”たちはさらに先を行く。西友は6月、通販サイト「SEIYUドットコム」を立ち上げた。全国約110の店舗から食品などを届けるネットスーパー事業と、専用の配送センターを使って加工食品や日用品などを届けるネット通販事業を統合。近隣に店舗があれば、牛乳などの商品とネット通販で扱ってきた商品を同時に注文することが可能になった。

 イトーヨーカ堂は145店の周辺地域でネットスーパーを展開。約3万品目を扱っており、注文を受けると利用者の自宅に近い店舗から最短4時間で届ける。9月末の会員数は160万人と、2月末より1割増加。13年度の同事業の売上高は前年度比3割増の520億円を見込む。

 楽天も昨年7月に始めた食材宅配のサービスエリア拡大に動く。ネットや電話で注文すれば、最短で翌日に配送。10月からは配送の時間帯を選べるサービスも始めた。

 豊富な品ぞろえと整備された受発注・配送システムを持つ企業に、「配る側の都合を最優先にしてきた」(パルシステム東京の長屋豊執行役員)という生協は対抗できるのか。

 大手食材宅配会社の幹部は「生協は規模こそ圧倒的だが、サービスの内容からも脅威ではない。うちには生協から移ってきた人も多い」と話す。

 かつては計画的な商品購入につながると評価された週1宅配。これを前提に生協は組織や物流網を整備してきた。しかし、長年利用する組合員でさえも、「注文や配送の便利さを重視する傾向が強まっている」と関係者は口をそろえる。

 小売りのネットスーパーやネット大手のように多彩な商品を利用者の要望に合わせて届けるには、新たな物流施設や人材など大きな投資が必要になる。今後も拡大が見込まれる宅配市場で「主役」の一角を保てるか。生協は岐路に立っている。(柴田聖也)

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