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手間をかけ作るメディア――効率化の時代にこそ重要(奔流eビジネス)

[ 2017年10月27日 / 日経MJ(流通新聞) ]

徳力基彦

 10月中旬、日本最大規模の広告業界のイベント「アドテック東京」で、今年株式上場した「ほぼ日」代表の糸井重里氏と、豪華列車「ななつ星」の生みの親として有名なJR九州会長の唐池恒二氏が対談した。テーマは「メディアを作る」ということについてだった。

 メディアと言っても糸井氏のイメージは、テレビや新聞、ニュースサイトなどのような媒体だけではない。糸井氏が企画している「生活のたのしみ展」という展覧会であったり、ななつ星もメディアではないかと糸井氏は提起する。

 確かに、メディアという言葉は「medium」という中間にあるもの、間に入って媒介するものという単語の複数形から来ていると言われている。糸井氏は、ひょっとしたら井戸を作ること自体もメディアかもしれないし、ある町で犬を飼って、その犬が話題になればそれもメディアかもしれないと語っていた。

 糸井氏のように考えると、いろんなものの見え方が変わってくる。

 ネットメディアにおいては、2016年に騒動になったウェルクやスポットライトのようなキュレーションメディアのように、低コストで効率的に記事を量産する手法が注目されがちだ。しかし糸井氏の視点でメディアの価値や意義を考えると、実はデジタルで何もかも効率化できる時代になったからこそ、手間をかけることが重要になっているのではないかという世界が見えてくる。

 唐池氏が例に出していたのは、ある焼鳥屋の逸話だ。手作業で鶏肉をカットして手ざししていた焼鳥屋がある時効率化するために、あらかじめカットされた冷凍肉を輸入することにする。こういう経営判断は大企業でもよくあるだろう。

 焼鳥屋の利益率を考えたら一理ある判断だ。しかし今の顧客は家でも作れるような料理を、わざわざ外で食べるだろうか。顧客は自分では作れない手間のかかった料理を出してくれるレストランにこそ行くのではないだろうか、というのが唐池氏の問題提起だ。ななつ星でも料理を決める際に、手間のかかった料理を出せる料理人を選ぶことにしたそうだ。

 対談を聞きながら振り返ると、ネット広告の世界でも思い当たる。効率を追い求めるばかりに表計算ソフトのエクセルでの効果測定ばかりが重視され、肝心の実際の広告がユーザーの心に届いていないものが増えているのではないかという議論も激しくなっている。

 一方で、例えばネット動画では、コンピューターグラフィックス(CG)で作ったものよりも、手間をかけて作った動画が人気を集めるという傾向は明確に存在する。

 話題になったヤマト運輸の「クロネコが箱を組み立て!?」という動画では、クロネコが箱を組み立てるというシーンを撮影するために、実際の猫にあの手この手で箱を組み立てる動作をしてもらおうと、2分弱の動画のために8時間以上の撮影を行ったと聞く。大塚製薬のカロリーメイトの「見せてやれ、底力」という動画では、動く黒板アートを作成するために、美大生34人が2600時間以上をかけて6328枚の黒板のイラストを描いたそうだ。

 対談での糸井氏の最後の言葉が印象的だ。「人類が生まれて以降、こんなに便利になったのはついこの数百年の話。半面、人間自体はこの数百年でそんなに大きく進化していない。人間が喜びを感じる原点は、もっと人間の根本的なところにあるのではないか」

 デジタル全盛の時代。様々な新しい技術が登場し、変化のスピードはどんどん速くなっている。ただこんな効率化の時代だからこそ、実は根本的な「手間をかける」というところに逆に価値もある。皆さんの会社にとっての突破口もそこに見えてくるかもしれない。

(アジャイルメディア・ネットワーク取締役)

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