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ファーストリテイリング会長兼社長柳井正氏――チェーン店の時代終結(未踏に挑む)

[ 2019年1月13日 / 日本経済新聞 朝刊 ]

 ある業界の「常識」を壊した企業が、新たに生まれた破壊者に変化を迫られる。製造と小売りを一体化し小売業の常識を変えたファーストリテイリングも例外ではないだろう。「アマゾン・エフェクト」に代表されるデジタル時代に消費や経済、企業はどう変化するのか。柳井正会長兼社長に聞いた。

 ――急速にデジタル化が進む中、小売業はどう変わりますか。

 「これからは情報産業とサービス業だけになる。小売業もなくなる。すでに製造から小売りまで一体化したがそれでは足りない。デジタル化は消費者個々人の嗜好を生産に直結できる可能性を持つ。製造から顧客まで、川上から川下までをつなぐエンドtoエンドの姿に変わる必要がある。電子商取引(EC)と小売業が融合し、存在意義のある企業だけが生き残ることになる」

 「顧客のためになっていない企業は淘汰される。それが世界レベルで進む。その中心概念になるのがグローバル化とデジタル化だ。ECと小売りがすべて融合したような企業体を目指す」

 ――店舗のあり方も変わります。そもそもリアルの店舗は必要ですか。

 「店はすべて建て替えないといけないかもしれない。デジタル化で消費者はどこでも服を買えるようになった。逆に店舗は『そこでしか買えない』商品やサービスを提供する場になる。着こなしの提案から商品情報の収集まで、地域に根ざしながらも世界中の人が集まるような店だ。店舗を標準化するチェーンストアの時代は終わった」

 「一方、海外はまだ出店していない地域がほとんどだ。そうした地域で店舗はデジタル化の足かせではなく、ブランドを訴求する助けになる。米アマゾン・ドット・コムが米スーパー大手ホールフーズを買収し、中国のアリババやテンセントもバンバン(リアル店舗を)買っている。今度は小売業がデジタル企業を買うことも出てくる」

 ――AI(人工知能)が進化すると、経営にどんな影響が及びますか。

 「社員には、AIの導入を考える前に自分の頭脳を鍛えてほしいと話している。これから知識労働へシフトするわけで、そのためには『AIにはまねできない意味』を理解し、適切な質問ができる人間にならないと使いこなせない」

 「ノーベル賞を受賞した本庶佑先生の話した6つのCが重要になる。キュリオシティー(好奇心)、カレッジ(勇気)、チャレンジ(挑戦)、コンフィデンス(自信)、コンテニュー(継続)、そしてコンセントレーション(集中力)だ。それと教科書を信じるな、教科書以上の答えを出せと言っている」

 ――やはりAIを含めて革新を続けるアマゾンは脅威ではないですか。

 「脅威だからギャーギャー言ってるの。アマゾンはショッピングセンター型だから、そんなに良い商品は提供できない。AIだけで採寸して、材質やシルエット、好みをつかむことはできない。そんなぴったりの商品はできない」

 「ただAIは進化する。だから人間以上の人的サービスを提供しないと。ルール以上のものを作るのが人間。教科書通りの人生を送っていたらむなしいと思うでしょう」

買収だけではつまらない

 ――なぜ日本にFANG(米フェイスブック、アマゾン、ネットフリックス、グーグル)が生まれないと思いますか。

 「自分で考えないから。日本の中で食えてしまうし、組織もピラミッド型でアナログだよね。デジタルの世界に対応するには、組織をフラットにして即断即決で指示が出る形にしないと。働き方もデジタル化し、もっと効率を上げる必要がある」

 「デジタル化は人々の生活を便利にして費用を安くする。仕事も同じ。でも政府中心の思考ばかりで、その方向には進んでいない。だから日本でデジタル企業は育っていない。(日本のネット関連企業は)もとがない。よそのコピーが多いと思うけどね。ネットフリックスのようになってほしいね」

 「すべてがグローバル市場での競争に入り、その中でのブランドのポジションが大事になる。市場としては中国からインドまでアジアの消費が旺盛で、服もそこで売れていく。欧米も消費は伸びないが、日本は服に限らず消費をしていない。給料が上がらず、購買力が上がってこない。だから(フリーマーケットアプリの)メルカリのような世界が出てきた」

 ――この構図はしばらく変わらないですか。

 「日本はね、(成長どころか)崩壊しないことが大事だと思う。規制緩和も進まないし、再び護送船団方式のようになってきた」

 「産業革新投資機構(JIC)の件なんかひどいね。カルロス・ゴーン氏とまでは言わないが、もっと報酬を上げないといい人材も集まらない。約束していたことを経済産業省の都合で中止するなんてあり得ない。日本企業は新しい世界に踏み出していない。日本だけが特別だと思っていることが一番の問題だ」

 ――数字上は景気の拡大局面が戦後最長を更新しそうです。

 「オリンピックや万博もいいけど、社会インフラを新しくすることからお金をかけないと。アベノミクスも株価を上げることだけ。経済のことは何もやっていない。最悪なのはゼロ金利。国民と企業の資産を担保に政府がカネを借りまくって、選挙民におもねっているような構図だ」

 「企業の淘汰も進まない。うちもお金を借りようと思ったら何兆円でも借りられる。それで(ファストファッションの『ZARA』を運営する)インディテックスと米GAPでも買いますか。バンバン買ってそれで世界一。以上終わりと。それじゃ面白くないよね、自分でやるから面白いんだ」

外国人が来る日本企業に

 ――フリマアプリのメルカリで一番売れている衣料ブランドがユニクロです。想定外でしたか。

 「一番だとは思わなかったけど、ナイキやアディダスはスポーツウエア。ユニクロは生活に一番密着しているからだろう。流行には関係ないし、量販品でも高級ブランドでもどんな服と着ても合う。服としての有用性、バリューを感じてもらえたわけだから、中古でも売れるのはうれしい。目標でもあった。これから中古のユニクロでも売ろうかな」

 ――目標からやることを考える逆算の経営がモットーでした。

 「グローバルブランドになり、服を(完成品ではなく)部品のように使えることを目指してきた。最初から行き着くとこまで行こうと思っていたが、僕が思うような形になった。イメージしていた消費者の姿が生まれたと思う」

 ――ファストリがグローバル化するための課題は。

 「やはり東京・有明にあるグローバルヘッドクオーターを強くしないといけない。ローカルの人たちと全部つながり、双方で考えて最適解を共有できる企業になることだ」

 ――日本には厳しい意見をお持ちですが、それでも日本が本部ですか。

 「日本人じゃないとだめだろう。そこは変わらない。ただ日本人がもっとグローバル化して世界に出ていく一方で、外国人の知識労働者がこっちに来て一緒に働く日本初のグローバル企業になるのが僕ら。それが有明プロジェクトだし、(世界中のあらゆる人のための服である)ライフウエアだ」

 「それ以外に勝つ道はない。それなのに今の日本にはいらいらしてくるよ。明治維新や戦後復興の時の日本の方が良い。将来に対する希望がない」

 ――顔色がいいですね。

 「元気だとよく言われる。本当は疲れ切っているのにそういうふうに見えて嫌なんだよね」

 ――株主総会で柳井さんの長男と次男が取締役に就任しました。

 「(息子は)経営しないから。あくまでガバナンス。ファミリービジネスであると同時に株式を公開している企業が一番成長すると思う」

 ――後継者の条件をどう考えていますか。

 「当然だが、能力を備え、みんなに支持される人。みんなで経営するのだから、その人の言うことだったら聞いていいという人間でないと経営者にはなれない。能力があっても、気遣いがないとね」

聞き手から
究極の服作り 土台固め

 闘志がみなぎっていた。日本の政治経済への批判は弁舌鋭く、インタビュアーにも「もっとやってよ」と矛先が飛んでくる。ネット衣料販売のZOZOが売り出したヒートテックの類似品にも「あれはフェイクニュース」と辛辣きわまりない。

 柳井氏の発言は20年以上前から一貫している。その柱は「日本初のグローバル・ファッション企業」になることだ。それだけに停滞した日本や、自らが作り上げてきたビジネスをゆがめるようなまねには容赦がない。

 一方、発言からは柳井氏がうかうかしていられない状況にあることも感じ取れる。リアル店舗で成長している間にZOZOなどネット専業が台頭。米アマゾン・ドット・コムもファッション事業に参入した。ネット分野での出遅れ感は否めない。東京・有明に巨大物流センターをつくるのも、次代のファッションビジネスへの脱皮が狙いだ。

 これまでトヨタ自動車のように価格、品質、製造工程などを標準化し、世界中で展開できるビジネスモデルを推進してきた。今後はこれを土台にデジタル技術を駆使し、進化させる。ネットや店舗を通じて肌触り、サイズ、デザインなど個人にぴったりの服を低価格で世界中に届けることを目標に据える。

 海外のH&MやZARAはファストファッションと呼ばれ、品ぞろえの幅が広い。これに対してユニクロはベーシックな商品が多い。エージレスでボーダーレスな商品群に加え、品質を徹底するために築いたサプライチェーンも強みになり得る。

 だが完成するにはなお時間がかかる。元気とはいえ、70歳も目前。息子2人を取締役にしたのは経営者にするためではないという。次の経営陣が柳井イズムを継承し、グローバルブランドに発展させるための監督の立場を期待しているようだ。いずれにしても柳井氏の「究極の服」作りへの総仕上げが始まったのは間違いない。

(編集委員 中村直文)

 1949年山口県生まれ。早大政経卒。84年にカジュアル衣料品の「ユニクロ」を開店し、家業の紳士服店を世界ブランドに押し上げた。店舗数は海外が国内を上回る。

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