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連載コラム

地球にクールな照明デザイン

[ 2009年9月2日 ]

照明のCO2排出量

今年の夏は、日本各地で豪雨が発生し、土砂災害や河川の増水などの被害が頻発した。筆者の暮らす福岡でも7月下旬に集中豪雨が発生し、これまで経験したことのない量の雨が降った。地球温暖化による影響は、いよいよ深刻な問題になってきた。

7月の主要国首脳会議では各国が、2050年までに先進国全体のCO2排出量の80%削減を合意した。2005年度の日本の排出量は12億8,600万トンで、そのうち3億7,200万トンが電力から排出されている。照明の消費電力による排出量は5,700万トンで、電力のうち約15%を照明が排出していることになる。京都議定書による日本の削減目標は1990年比で6%削減だが、商業施設やオフィスなど業務部門の排出量は実は4割も増えている。

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照明用の消費電力によるCO2排出量の用途別割合
※出典:平成20年度省エネ照明デザインモデル事業 環境省

省エネ照明デザインモデル事業

環境省では、あかりから始める地球温暖化対策として、「省エネ照明デザインモデル事業」を実施している。これは、照明器具の配置や光源の選び方を見直すことによって、優れた省エネ効果を達成しながらも魅力的な空間を創り出す照明デザインを設計し、実際に省エネ照明を導入し、CO2削減効果を確認する事業だ。第1回目となった昨年度は、全国から12事業者が採択され、今年3月のライティング・フェアではチーム・マイナス6%によるセミナーも開催された。このうち、長崎稲佐山観光ホテル本館の照明デザインを筆者と中村享一設計室が協働で担当したので、その取組を紹介する。

長崎 稲佐山観光ホテルの夜景
長崎 稲佐山観光ホテルの夜景

長崎稲佐山観光ホテルは、創業約70年を迎える老舗で、夜景で有名な稲佐山の中腹にある。客層は、修学旅行から家族連れ、お年寄りよりの団体、中国や韓国などアジアを中心とした観光客まで幅広い。筆者と中村享一設計室は、3年程前から部分的な改修を徐々に進めていたが、今回は1階部分の省エネ改修となった。改修前は白熱灯をメインとした均一に明るい空間で、ランプの露出やバラバラの色温度が気になった。内装は古さが目立ち時代遅れの印象だったが、よくよく見ると大理石やタイル、ダイキャストなど質感のある素材で構成されている。営業を続けながらの改修だったので、短期間で施工可能で、かつローコストな手法を検討し、建物の歴史や素材の良さといった資源を活かしながら、ロングライフなデザインを目指した。

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左:2006年改修のメインロビーとラウンジ奥側のエリアが今回の改修となった。
右:2007年改修のプレミアムルーム長崎港の夜景を満喫するために設計した。

省エネ照明の五段活用

ランプと照らされる面の距離を小さくすれば明るくなるし、大きくすれば暗くなることは経験上誰でも知っている。一定の明るさを得るためには、距離を小さくした方がランプのW数、あるいは個数を少なくできる。部屋全体を明るくするのではなく、機能的に必要な部分だけで良いとなると、範囲にもよるが例えば半分近くまで減らせる。更に、白熱灯を同じ明るさの電球形蛍光灯に交換すると、トータルでは90%近くまで消費電力を削減できることになる。しかし、これだけでは暗く貧相な印象になるので、反射率の高い天井や壁面に対する明るさ感の補間が必要となる。これは全般照明と局部照明を併用するタスクアンドアンビエントの手法だが、省エネに有効とされながら、あまり実践されてこなかった。そこで今回は、モデルとして普及させるべく、この手法に徹底した。

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左:改修前の第2ロビー(2006年) 右:第2ロビー改修後(2009年)

第2ロビーは、天井に整然と並んだ白熱灯60Wを2006年のメインロビー改修時にとりあえず半分に減らすことで対応してきた。今回の改修では、メインロビーのためにデザインした木製セードを下端1.9mまで下げてペンダントにリデザインし、反復することによって全体のイメージを統一。ランプには調光対応の電球形蛍光灯14Wを採用。右手壁面側にはハイパワーながらコンパクトで省電力なウシオスペックスのCDM-Tm20Wウォールウォッシャダウンライトを配置。左手パーティション上部には反射板としてプリーツスクリーンを設置し、ニッポ電機の高照度型シームレスラインを連続させて明るさ感を補間。

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左:展示コーナーLED 右:自販機コーナーFHF54W

第2ロビーの奥に工芸品展示コーナーと裏側に自販機コーナーを作った。べっ甲など熱にデリケートな素材を近距離から照射するにはLEDが有効なので、コンパクトなスタンレー電気のS500シリーズ高演色型LED6.2wを採用した。自販機コーナーサインはトキ・コーポレーションのLEDテープライトトキレッズでアップライト。対面する自販機内の蛍光灯を撤去しペンダント式高効率型蛍光灯で消費電力が1/5に。エレベータホールはレストランのペンダントをリユースし、調光可能な三菱電機オスラムの電球形ハロゲンランプハロゲンエナジーセーバーに交換。

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左:レストラン改修前 右:レストラン改修後

レストランは、遠藤照明の高演色型電球色グレアレスアジャスタブルLEDダウンライトと、ローボルトダイクロハロゲン20Wのペンダントでテーブル上だけを明るくしながら窓外の桜並木を演出。従来のLEDは料理を美味しそうに見せるには演色性に劣り、電球色と言いながら色味が不自然なものが多かったので、筆者は、飲食空間でのLEDの採用に当初抵抗があった。しかし、演色性向上と自然な電球色、指向性のある光が程良い陰影をつくり違和感はない。天井の黒いラインは、クロス張替えを不要としながら既存照明撤去後の穴をカバーするアイデアで、帯状の板を張りダウンライトやライティングダクトを納めた。

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左:桜満開時の窓際 右:入口LEDサイン

ガラスの映りこみへの配慮からヤマギワのスタンダードなデザインBSシリーズの黒いシェードをペンダントとスタンドに採用。ペンダントには、パナソニック電工のライフセレクトトランスを採用し、ダウンライト用の埋込カバーを利用して天井に納めた。入口にはLEDテープライトを用い、省スペースで効果的なサインとなった。樹木のライトアップ用には、外壁に岩崎電気のCDM35Wスポットライトアーバンアクトβポケットを設置し、景色を見ながら食事を楽しめる空間となった。

省エネというと、効率だけを優先しがちだが、低照度でありながら明るさ感のある空間を実現するには輝度や色温度、演色性も無視できない。輝度については、壁などの鉛直面を広い範囲で照らすことと、周りを暗く感じさせる眩しい光(グレア)の排除が必須だ。低照度空間は、白色など高色温度では陰鬱になり、低色温度では適正な明るさと落着いた感じがすることから、電球色が相応しい。演色性が低いと照らされるモノや空間が鈍く沈んで見えるが、演色性が高いと色が鮮やかに見えるので明るく感じる。従来の白熱灯などは問題ないが、LEDの演色性には注意が必要だ。省エネには、タイマーやセンサー、調光制御、昼光利用、使用電力の見える化など様々な工夫があるが、省エネ照明実現の極意を五段活用として以下にまとめてみた。

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省エネ照明の五段活用

第2天井システム

通常、物販店は配置換えやディスプレイ変更が多いので、フレキシブルなライティングレールが多いが、天井に相当数のスポットライトが並ぶ光景は煩雑な印象を与える。そこで考えたのが第2天井システムだ。既存天井の下に第2の天井面となるフレームを格子状に吊り、必要な所にだけダウンライト付の三角パネルを載せ、フレキシブルに移動可能とする。パネルには耐久性があり、薄くて軽い神鋼ノース社のアルミハニカムを採用。ダウンライトはレストランと同じ遠藤照明のLEDモジュール18Wシリーズで、ダイクロハロゲン50Wと同等の明るさで消費電力は約1/3。グレアレスな反射鏡がパネルに馴染み、コンパクトな上、光漏れも少ないので目立たない。拡張性が高く広さに合わせて展開が可能な適光適所を実現するこのシステムは、スケルトン天井の店舗や、ショールーム、ギャラリーなどレイアウト変更の多い空間にも有効だ。軽量で比較的簡単に施工できるため、環境対応商品として、製品化に向けて現在準備を進めている。

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左:売店 改修前 右:売店 改修後

売店は、お菓子や雑貨などのコーナーと江崎べっ甲がテナントに入る。改修前は直管白色蛍光灯40Wの交点に電球型白色蛍光灯が露出し駅の売店のような雑多な雰囲気だった。 店先には暖簾を下げ、コイズミ照明の壁面間接用FHF54Wを手前に連結して照射。棚照明は既存の白色蛍光灯を電球色に交換し遮光カバーを取り付けた。

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左:システムパネル上部 右:コンパクトなLEDグレアレスダウンライト

省エネ照明の成果

当ホテルでは、55.4%のCO2排出量削減に成功した。電気代も下がり、長寿命ランプの採用によってランニングコストの削減と交換の手間を省くことが可能となった。廃棄物排出量の削減と、発熱量を抑えることで夏季には空調負荷の削減にもつながっている。アルミや木材など再生可能な素材の利用や、照明器具のリユース、施工時に極力廃棄物を出さなかったことも温暖化対策としての成果だ。年間の照明の消費電力によるCO2排出量は、約7トンの削減となり、杉の木約500本が吸収する量に相当する。(杉の木換算平均数約14kg/本、地球温暖化防止のための緑の吸収源対策 環境省/林野庁 参照)

加えて、ラグジュアリーなクラシックホテルに生まれ変りイメージアップにもなった。均一に明るい空間からメリハリのある空間への劇的な変化に改修直後は戸惑いを見せていたホテルの従業員も、お客様の評価から明るさに対する意識が変わってきたという。ホテルらしい落着いた空間にグレードアップした効果か、売店の面積が2/3に減ったにも関わらず、お客様の滞留時間が増え、高級品であるべっ甲の売上が上がったという。機能的な照度が改善され、ソファで新聞が読めるようになったり、テーブル上も明るくなった。

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隠れて目立たなかったダイキャストの
パーティションに拡散シートを貼り上部に間接照明を入れたら、
たちまち空間がよみがえった。

改正省エネ法の施行が来年4月に迫り、省エネ照明の導入を検討する事業者も多いに違いない。省エネ照明デザインは、CO2排出量とランニングコストの削減だけでなく、様々な工夫を重ねることで新たな付加価値を生むことができる。既存の資源を活かすことが出来れば、数日間での施工も可能だ。"待ったなし"の温暖化。地球にクールな照明デザインに、早速、取組んでみることをお勧めする。


事業概要
竣工     2009年3月7日(工事期間4日間)
延床面積   1階 403m2
照明対象   第2ロビー、売店、レストラン、エレベータホール
設計     中村享一設計室+イルミデザイン
CO2排出量の削減効果 55.4%
使用電力の削減量 1.903 Kwh/h (導入前:3.435Kwh/h → 導入後:1.532 Kwh /h)

最新アカリReview
執筆者:泉 ルミ

照明デザイナー、イルミデザイン主宰。
1969年青森県黒石(津軽)生まれ。1991年株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツに入社し、住宅から店舗、美術館、オフィス等の建築照明、橋梁、公園、都市計画等の都市・環境照明まで幅広い分野の照明デザインプロジェクトに従事。その傍ら、面出薫氏が組織する「照明探偵団」に所属し、世界の夜景調査や照明文化を研究。2003年独立し、九州・福岡にてイルミデザインをスタート。
現在、緑に覆われた環境実験住宅・E-sevenを基地に、エコロジカルで魅力的なアカリを探求している。

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