日経メッセ > LED NEXT STAGE > ニュース > 引き算の美、光を灯す――アナスタシアデス氏、緻密な技で魅する。

日経の紙面から

引き算の美、光を灯す――アナスタシアデス氏、緻密な技で魅する。

[ 2018年12月12日 / 日経MJ(流通新聞) ]

複数の光源を自在につなぐ
流行・時代超え世界中を魅了

 「デザインは加えるものではなく、引き算するものなのではないか」。コードまでデザインした「ストリングライト」などの照明で知られる英国拠点のデザイナー、マイケル・アナスタシアデスさんの言葉だ。必要最小限にとどめるデザインが再評価され、引き算のデザインで世界を魅了する。

 東京・赤羽橋にあるショールームでは、丸やひし形、三角、ティアドロップ形のフレームがつながり光を放っていた。多くの人が不思議そうに触れている。アナスタシアデスさんが照明メーカーの伊フロスから発表した「アレンジメンツ」だ。

 アルミのフレームをシリコンで覆い、内部の発光ダイオード(LED)光源が柔らかな光を灯(とも)す。形と長さを9種類から選び、ユーザーが好きな形の照明を作り上げられる。

 一つであれば家庭向けのシンプルなダイニング照明になり、いくつもつなげばホテルや商業空間でシャンデリアのような迫力を生み出す。海外の商業施設では複数の光源をつないで光の壁を作り、空間を仕切る用途で採用されたこともある。

 アレンジメンツの照明は、わずかな接点で組み合わせれば電気を供給できる。つなげたフレーム全てが照明となる仕掛けがここにある。接合部分の技術は最も苦心した点で、「シンプルなデザインこそ、そうと見せない技術が必要だ」とアナスタシアデスさんは語る。

 同じ思想はデンマークのバング&オルフセン(B&O)による円盤型ワイヤレススピーカー「ベオサウンドエッジ」にも見られる。直径約50センチ、厚さ13センチの円盤状で両面から音を出す。車輪を転がすように前後させるだけで、音の大小を調整できる。円いものを見たら転がしたくなる人間の自然な行動を可視化した。

 B&Oはアルミニウムの製品づくりの経験値が高く、完璧な円形を望むアナスタシアデスさんの哲学にかなう品質を実現できた。顕微鏡でしか見えない極小の穴に光を通し、アルミのフレームに触って操作できるインターフェースを組み込んだ。

 地中海の東に浮かぶキプロス島で1967年に生まれた。94年、英ロンドンにスタジオを構えてからは前衛的なメッセージ性の強いデザイン製品を発表し続けた。照明のデザインを得意とし、棒で光源をつるしただけのモビールライトなど、要素をそぎ落とした抽象的な作品が際立つ。妥協のない作品を生み出すために、ヨガの教師をして生計を立てたこともあるという。

 どうしても装飾主義になりがちな家具やインテリアの世界で、幾何学の要素に絞ったデザインは徐々に受け入れられる。ついに2013年にフロス社から声がかかった。

 日本で売れているヒット作は円と直線だけで構成する「ICライト」だ。フレームに光源の球体を載せただけのデザインで、棒の上のライトが落ちそうで落ちない。簡潔な構造を支える技術が隠れている。

 ICとは自身が住む英国で移民の識別コードを指す。ロンドンに腰を据えながら、完全に受け入れられない自身のアイデンティティーを製品名でシニカルに表現している。

 小さい頃から本質を見つめることを心がけた。「ものや行動をよく観察して最も簡素な形にし、本質だけを残すのが私のスタイル。人間はすぐに物事を複雑にしてしまう。ごくわずかなものだけで、たくさんのことができる。日本が古来育んできたミニマリズムとも通じる」と話す。

 4月の伊ミラノサローネではボッフィやB&B、カッシーナなど大御所ブランドからテーブルや収納シェルフなどの新作を発表し、一躍スターデザイナーの階段を駆け上った。

 「今年も去年も私にとって違いはない。照明デザイナーとして知られてきたが、本質に絞り込む手法はどんな製品にも応用できる。装飾性のないデザインは各国の文化や時代のトレンドを邪魔しないので、世界中の市場で時代を超えてビジネスチャンスを生み出す」と自らのデザインの市場性を分析する。

 いずれの製品も「自分では発想しないような用途や独創性で、ユーザーが使ってくれるのが楽しい。だから存在をできるだけそぎ落とし、どんな空間にも寄り添えるよう最大限努力する」。ストイックな姿勢を貫く製品は、日本のデザインにも影響を与えそうだ。

(ライフスタイルジャーナリスト本間美紀)

ニュースの最新記事

PAGE TOP