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連載コラム

「続ける事の大切さ」と「そこにいる事の強み」

[ 2014年1月27日 ]

今から約1年前の2012年10月に海外の照明デザイン雑誌「mondo arc」の表紙を飾った写真に強烈なインパクトを受けました。「mondo arc」は先のコラムでも紹介したIALD(国際照明デザイナー協会)に入会すると定期的に送られてくる建築照明デザイン専門の雑誌で、世界の旬な建築照明デザインのプロジェクトを美しい写真と共に紹介しており、日本で活躍する照明デザイナーが手がけたプロジエクと等も掲載される事もあります。「mondo arc」で表紙を飾るプロジェクトはその時期に世界レベルでみても話題性があり注目度の高い建築照明デザインといって良いと思います。

2012年10月号の表紙を飾ったプロジェクトはSF映画かアニメの世界が現実の世界に突如出現したかのような、建築なのか、タワーなのか、彫刻なのか、巨大な樹木なのか、スケール感すら狂ってしまうような独特の世界観とビジュアルをもった写真でした。そのプロジェクトはシンガポールにある「Gardens by the bay」という敷地面積54ヘクタールにもなる世界でも最大規模の植物園です。照明デザインを担当しているのは面出薫さん率いるライティングプランナーズアソシエーツ(以下LPA )です。私自身も独立する以前はLPAに5年間お世話になっていた事もあり2重の驚きがありました。

それ以来Gardens by the bayは一度この目で見てみたいと思っていたのですが、先日仕事でシンガポール行く機会を得る事ができたので、このチャンスを逃すまいという事でスケジュールを調整し、写真で見たGardens by the bayの現実離れした光と空間を実際に体感してきました。またLPAの面出さんにGardens by the bayについて事前にお話を伺おうとご連絡したところ、ちょうど同じ時期にシンガポールにご出張中との事で、なんと一緒にGardens by the bayをご案内頂けるという事になりました。私にとって恩師に直接現地でお話を伺えるという事は非常に嬉しいサプライズであると同時に身の引き締まる思いでもあります。

シンガポールの空の玄関口、Changi空港から高層ビルが密集する中心市街地へ車やタクシーで移動する際に、市街地の入り口付近で海沿いを眺めていると、Gardens by the Bayの象徴でもある巨大な樹木のような形状をしたスーパーツリーと、今日本で最も知名度の高いシンガポールのホテルではないかと思われるMarina Bay Sands(マリーナベイサンズ)がゆっくりと姿を現し迎えてくれます。どちらも強烈なインパクトと超ド級のスケールでまさにシンガポールの顔という存在感です。実際シンガポールの観光案内書やホテル等で無料で配布されている地図にはGardens by the BayやMarina Bay Sandsが最も大きく掲載されています。Gardens by the Bayの園内のマップはホームぺージからご覧いただけます。

Gardens by the BayとMarina Bay Sandsはブリッジで繋がっていて徒歩でも行き来する事ができます。この二つの巨大な施設は新都心マリーナベイエリアの象徴的存在です。Gardens by the Bayはシンガポールが掲げる「シティ・イン・ザ・ガーデン」構想から計画され「ベイ・サウス・ガーデン」「ベイ・イースト」「ベイ・セントラル」の3つの庭園で構成される事になります。最終的な規模は101ヘクタールにもなるというから驚きです。現在オープンしている「ベイ・サウス・ガーデン」だけでも敷地面積は約54ヘクタールというスケールです。中でも特に目を引くのが先にも紹介した巨大な樹木のようなスーパーツリーと呼ばれるタワー型の巨大な人工樹です。スーパーツリーは約20m〜50mの高さがあり、大小合わせて「ベイ・サウス・ガーデン」には18本のスーパーツリーが存在します。いくつかのツリーはエレベーターで昇る事ができ、スーパーツリー同士がSkywayと呼ばれる空中遊歩道でつながっていたり、ツリー最上部にレストランがあり食事を楽しめるようになっています。またツリーの頂部にはソーラーパネルが設置され太陽光発電も行っています。さらに地中海地方の涼しく乾燥した地域に育つ植物等を展示したFlower Dome、高さ35mにもなる人工の山とその頂部から流れ落ちる人工の滝からなるCloud Forestとう2つのドーム施設があり、このドームは涼しく感じるような温度(23度〜25度)に保たれた温室ならぬ冷室となっていてクールコンサバトリーといわれています。

Gardens by the BayにおけるLPAの照明デザインのメインコンセプトは「Organic lighting」だそうです。光が生物のように呼吸するように、ゆっくりと光の表情を変えたり、時にダイナミックな光の変化を見せる。そして過度な明るさは用いず自然に溶け込むナチュラルな光、それらの様々な光の要素がコンセプトであるOrganic lightingを構成しています。

Gardens by the Bayを訪れた日は夕方から雨に降られていましたが、19:00頃に現地に到着した時にはちょうど雨が上がり空はまだ少し明るさを保った状態でした。

図1 エントランス周辺の3本のスーパーツリー

エントランスゲート周辺では早速3本のスーパーツリーが出迎えてくれます。まだ照明の効果を感じるには少し明るかったのですが、流石にその迫力には圧倒されました。やはり、まずは最も象徴的なこのスーパーツリーからレポートしたいと思います。園内のちょうど真ん中あたりにはSupertree Groveという場所があり、そこに大小12本のスーパーツリーが集まっています。

図2 Supertree Groveの眺め
ライトアップされたスーパーツリーの背景にはMarina Bay Sandsという絶好のロケーション

スーパーツリーの背景にはMarina Bay Sandsと巨大観覧車Singapore Flyerが見え、これぞシンガポールという景色そのものです。もう20:00になろうかという時間でしたが、ウェディングドレスとタキシードに身を包んだ新郎新婦がこのライトアップされたスーパーツリーを背景にプロカメラマンに写真を撮ってもらっている光景に遭遇しました。景色だけならば撮影は昼間でもよいはずですが、わざわざライトアップされた夜の時間帯に撮影をしているという事はそれだけ夜の景色が幻想的で美しいという何よりの証明でしょう。

スーパーツリーは太い幹の足元からハイパワーなRGBのメタルハライドランプ(以下メタハラ)を使用した投光器でライトアップされています。足元に植栽があるスーパーツリーには投光器タイプ、舗装面から生えているようなスーパーツリーには地中埋設タイプの照明でライトアップしています。



図3、4 植栽に投光器を隠してライトアップ

図5 地中埋設タイプの器具でライトアップ

図6 Tree Crownのライトアップ。大きな投光器にもフードが取り付けられグレアを抑えている。

巨大樹の枝にあたる網目状の構造体はTree Crownと呼ばれ、幹の中間よりも少し上の部分に取り付けられたRGBのメタハラの投光器でさらにライトアップされています。さらにTree Crownの枝の交点にはLEDのドット照明が取り付けられていて、点いたり消えたり様々な変化を見せます。ドット照明はTree Crown だけでなくスーパーツリーの幹や地面にもちりばめられていて、オペレーションによってスーパーツリー全体のドット照明が点灯する事もあります。Tree Crownの内部は膜素材で覆われた傘状の構造体があり、外側のライトアップとともに膜の内部にもRGBの投光器が仕込まれているようで通常は白く輝いていますが、時にカラーライティングで美しい光のグラデーションの変化を見せます。

これだけ巨大な「樹」をライトアップするわけですから、投光器のサイズもそれに伴いどうしても大きくなってしまいます。ただ、このスーパーツリーの場合はその巨大なスケールにちょうど投光器のサイズが合っている感じで、尚且つ植栽にうまく忍び込ませる事で大型の器具ではありながら照明器具の存在感をできるだけ感じさせないような工夫をしています。また、投光器でのライトアップを行う場合はもっとハイパワーな器具で数を減らして照らすことも可能だと思いますが、その場合は器具の数を減らす事ができても、照明器具の存在感が強くなってしまい、昼間の景観に悪影響を及ぼします。スーパーツリーの投光器は適度な明るさのものを分散させ多灯することで、器具の存在を主張し過ぎることなく、きちんとグリーンやスーパーツリーそのものが主役になるようになっています。

42mの2本のスーパーツリーは空中に浮かぶSkywayというブリッジで繋がっており、スーパーツリーの足元からエレベーターでブリッジまで昇り散策する事ができます。(有料)ブリッジは画像6、画像10をみても分かるように下から柱で支えているわけではなく、スーパーツリーの上部からワイヤーで吊られる構造になっています。ブリッジ自体もそれほど幅はなく、スリムなものなので本当に宙に浮いているように見えます。ブリッジは足元のフットライトのみというシンプルで最小限の照明でまとめられています。低いレベルに照明をまとめているのでブリッジからシンガポールの夜景を眺める際も視界に無駄な光が入る事無く心地よく楽しむ事ができます。しかしブリッジの上は狭く、三脚の使用は禁止ですから夜景の撮影のためには高感度で撮影可能なデジカメを用意することをオススメします。



図7、8 ブリッジのフットライト。幅の広い部分は両側に、幅が狭くなると片側のみのフットライトとなる。

図9 ブリッジの眺め。面発光している膜を背景に人のシルエットが浮かび上がり美しい。

図10 ブリッジから園内を見下ろす。ハイパワーな投光器を使用しているにも関わらず不快なグレアを感じない。

そして19:45、20:45の2回、光と音楽のコラボレーションによるショーが行われます。(ショーの演出プログラムはLPAの設計範囲ではありません)その他にもショーとは別に19:00~日の出までLPAがプランしたオペレーションによって、スーパーツリー同士がシンクロしあうようにゆっくりと光の表情を変化させているそうです。

ショーの開始間際になると広大な敷地の中からスーパーツリー周辺に人が集まり、芝生や階段に座って眺める人、デジカメや携帯を構える人等様々です。ストーリー仕立てになっているというショーは公園の中はもちろん、川を挟んで対岸にあるMarina Bay Sandsからも見る事ができます。これだけ敷地が広大だと何度か訪れても違った視点から楽しむ事ができるし、写真が好きな人にとっては自分のお気に入りの撮影ポイントを探して楽しむ事もできそうです。実際私自身も、予想以上に施設が広大だったので1度訪れただけでは充分に写真を撮ったり、細かいところまで照明を見る余裕がありませんでした。









図11〜15 ショーが始まり様々な変化を見せるスーパーツリー



図16、17 Marina Bay Sands側のデッキから眺めるGardens by the bayのショー

もちろんスーパーツリー以外にも見所はたくさんあります。施設内にはFlower Dome、Cloud Forest(画像20、画像21のライトアップされた2つのドーム)と呼ばれる2つのドームが存在しています。先にも紹介しましたがこのドームは冷室(23°~25°)となっていて高温多湿なシンガポールの外気からドーム内に入ると少しひんやりと心地よい感じになります。Flower Domeでは地中海地方の涼しく乾燥した地域に育つ植物等が育てられおり、中でも巨大なバオバブの木が印象的です。Flower Domeの照明計画は樹木のライトアップ、フットライト、手すり照明、ベンチなどに間接照明を組み込んだファニチャー照明で構成されています。樹木のライトアップは全てのもの対して行うわけではなく、動線や樹木の形や種類を考慮しながらポイントを絞ってライトアップしています。全体的に歩道部分の照度はかなり抑えて計画されていますが、樹木や壁面、ファニチャーなど特に鉛直面に対して効果的に照明が当てられている為、暗さに対して意識を向けられる事がなく、心地よく光に誘導されていく印象です。

図18 Flower Domeの内部

図19 面出さんとシンガポールLPAのスタッフのみなさん

実際に面出さんと照度計で歩道部分の照度などを計測しながら歩いてみましたが、フットライトの周辺で30lux程度、その他のエリアでは1lx~3lxというエリアもありましたが、不安に感じるような事は全くありません。こういう感覚は照度分布だけでは伝わるはずもなく、体験しなければ分からないので照明計画とは本当に難しいものだと思います。



図20、21 照度計を使って歩道の明るさを計測している様子

図22 樹木のライトアップとフットライトのコンビネーション。歩道全体は照らされていなくても効果的に鉛直面が照らされているので心地よく散策できる。

図23 バオバブの木のライトアップ。ボリュームのあるバオバブの木は陰影を見せる事で立体感を演出している。

図24 店舗や階段手すりの鉛直面照度で空間の明るさ感を高める。

図25 ドームの外周部分ではファサードの白い鉄骨のライトアップがドーム内の明るさ感を高めている。

図26 ファニチャーの間接照明。広大な施設に効果的に配置されればそれぞれが照明器具として大きな役割を果たす。

樹木のライトアップはハイパワーなスポットライトで照らすのではなく、MR16の12v50wハロゲン、メタハラ35wクラス程度の植栽にも隠せるコンパクトなスポットライトを多灯してライトアップしています。天井はドーム状のガラス張りのため、フードやハニカムルーバーで直接に目に入ってくるグレアを制御しても下からのアッパーライトの光がガラスに反射し、予想もできないような場所でその反射光がグレアになる事を懸念していたそうです。その為あまり強過ぎないスポットライトを細かく配置してガラスの反射光による強烈な輝度を防ぐという工夫をしているとの事でした。実際室内からガラスのドームを見上げると、当然のことながら反射光そのものを完全に防ぐことはできませんが、不快に感じるようなグレアはありません。逆に手すりやファニチャーのリニアな間接照明が光の帯となって天井に写り込んでいるのが少し気になりました。この点については面出さんも今後の検討課題であるとおっしゃっていました。リニアな間接照明は照明器具の存在感を感じさせず、床・壁・天井などの面を美しく照らすことができ、心地よい空間を作るためには有効な手法の一つです。ただこういった特殊なケースの場合では空間としての美しさだけでなく、反射といったさらに別の視点でも一歩踏み込んで検討が必要になりそうです。

図27 ドーム内部から見るガラス天井。スポットライトの輝度は気にならないが、リニアな間接照明の光の帯が若干気になる。

もう一方のドーム、Cloud ForestはFlower Domeとは全く違った趣向になっています。ドームの中心には高さ35メートルの人工の山がそびえ立ち、その頂部からは勢い良く水が流れ落ち人工の滝になっています。その光景は圧巻で森の中に迷い込んだような錯覚を覚えます。時折人工の山からはミストが噴き出し、それと同時にブリッジや山の上からカラーチェンジャータイプの投光器(メタハラ)のナローな光が差し込んできます。あたりは真っ暗でもうすっかり夜なのですが、その光が朝日のように感じられ、マイナスイオンたっぷりの朝もやの森の中を歩いているような心地良さです。



図28、29 室内とは思えないほどダイナミックな滝。フェンスの下に設置されたLED(RGB)投光器でライトアップされている。LED投光器(RGB)も進化し、高さのある滝も上部までライトアップされている。

図30 ドームの中心にある人工の山。構造体をグリーンで覆っている。全体を照らさず光と影の抑揚を見せる事で植物の生命力を感じさせる。



図31、32 ミストの中に降り注ぐカラーチェンジャー投光器(メタハラ)のナローな光で幻想的な光景を作りだす。

図33 滝周辺の歩道。滝や人口の山のライトアップとファサードの鉄骨ライトアップの明るさのおかげで十分な明るさ感がある。

図34 ここでも照度を計測する面出さんとシニアアソシエートの窪田さん

通路を進んでいくと、山の頂上にあたるフロアに繋がるエレベーターがあります。そこから上まで昇ると、らせん状のブリッジを歩きながら山を下る事ができます。ブリッジは手すりとフェンスの間に存在するわずかな隙間にLED照明を取り付け、こちらも歩行面を直接照らすのではなく、フェンスの鉛直面を照らす手法をとっています。そこにミストが加わるとミストが手すり照明の光を受けて幻想的な雰囲気になります。

図35 人工の山からミストが噴き出す様子

図36 ミストが手すり照明の光を受けると雲の上にいるような幻想的な雰囲気になる。

広大な施設の中ではスーパーツリーと2つのドームの注目度がどうしても高くなってしまいますが、自由に散策できる屋外のGardenスペースも見所がたくさんあります。ベースとなる照明の考え方はドームの照明と同じく、ポイントとなる樹木のライトアップ、ファニチャーの間接照明、構造物の壁面や天井面のライトアップを効果的に組み合わせています。そこに必要に応じポール照明やフットライトが加わります。この様子も画像を中心に紹介したいと思います。

図37 主要動線となる歩道にはポール照明も加わる。高温多湿なシンガポールでは電球色では少し暑く感じてしまう事もあるため、場所によっては白色の光でクールにハッキリと樹木をライトアップしているとの事。

図38 樹木よりも背の高いハイポールから歩道を照らすことで路面にくっきりと樹影を浮かび上がらせ、木漏れ日のような効果を演出する。





図39〜41 ファニチャーや手すりに組み込まれた間接照明。

図42 植物のような有機的な形状をした自立型のフットライトで階段を照らす。

図43 サークル上の間接照明で樹木をライトアップする。屋外の場合、大雨などで一時的な水没も懸念されるため実現することが難しいアイデア





図44〜46 構造物の天井面や壁面を照らして明るさ感を演出する。こういった脇役となるような空間の照明も丁寧に作られている。

図47 ジョギングコースになっている施設外周の歩道照明。背の高い面発光タイプの器具はジョギングやウォーキングをする人の顔が夜間でも見やすいように鉛直面照度を確保する狙いがあると思われる。

先ほど歩道部分の照度の話を紹介しましたが、歩道部分の照度が1lx~3lxということが計画段階に照度分布などで事前検証できているならば、日本の場合だとかなり高い確率で照明器具の追加(照度アップ)を要求されると思います。ではGardens by the bayの心地よい光と影のバランスはシンガポールだから実現できたのか?といえばそうではないと思います。海外のプロジェクトにおいても照度についての要求や指標・基準はありますし、Gardens by the bayはシンガポールにとっても国家的なプロジェクトですからそういった要望があったと推察します。おそらく膨大な協議や調整を重ねながら自分たちがプランした光の考え方を認めてもらっていったのだと思います。見た目に分かりやすいスーパーツリーの照明ももちろん注目すべき点ですが、園内の主要動線部分においてLPAの考える最適な明るさ(主要動線部で3lx~10lx、その他の動線は1lx~3lx)を実現している点も価値ある実績だと感じました。「完成したら歩道の照度が1lx~2lxになっちゃったけど、意外と大丈夫だね」という事ではなく、はじめからその水平面照度を想定しつつ、鉛直面や天井面の明るさなどを巧み組み合わせて計画し、最終的に実現するというところが重要なポイントです。自分たちの設計意図をイメージどおりに実現するという事は本当に難しい事だと新しいプロジェクトに取り組む度に実感します。

園内を散策していると広場に追加された広角の投光器とポール照明に面出さんがショックを受けるという場面もありました。我々の感覚では全く必要ないと感じるのですが、施設を運営する側にとっては安全面や施設の使い方にあわせて空間の心地よさとは異なる判断基準で追加したのだと思います。こういった事は日本でもよくありますが、デザイナーとクライアントの間には軸が全く違う判断基準が存在し、その適切な落とし所が重要である一方、妥協してばかりでは一貫性のないものに仕上がってしまうのでプロとして設計意図を主張する事もまた重要です。譲る部分、譲れない部分のバランス感覚は永遠の課題であるかもしれません。



図48、49 竣工後に追加されたポール照明。周辺全体を照らす広角でハイパワーな灯具を使っている。

照明を足して明るいプランを作っていく事はさほど難しい事ではありません。逆にここまでならば削ってもいいというギリギリのポイントを見極め、責任を持って計画をするという事は光のプロフェッショナルであっても難しい事です。Gardens by the bayはそのギリギリのバランスがうまく取れており、光のデザインだけでなく影のデザインの意図を感じ取ることができます。こういったプランをシンガポールの顔ともいうべきプロジェクトで実現できたのはシンガポールにおけるLPAの信頼の証だと感じました。10年以上も前からシンガポールにも事務所を開設し、現地で様々なプロジェクトに関わりながら問題に向き合い経験と実績、そして信頼を積み重ねてきたからこそできる事だと思います。また、この規模のプロジェクトを計画から竣工まで丁寧に監理する事ができたのはそこに拠点があるという点も非常に大きいと思います。当たり前といえば当たり前のことなのかも知れませんが、今回の取材をとおして続ける事の大切さ、そしてそこにいる事の強みというものを改めて実感しました。

まだまだ紹介しきれていない部分がたくさんあります。これから行かれる方は是非ゆっくり時間をとって頂いて昼と夜の散歩を楽しんでみてください。私はやはり夜の景色の方が好きです。

最後に近年竣工したLPAのプロジェクトをいくつか教えて頂いたので滞在中、時間の許す限り回ってみました。簡単に画像で紹介します。





図50〜52 シンガポール国立博物館
コロニアル調のクラシカルな建築に丁寧に照明器具を仕込みライトアップしている。こういった建築に対する照明手法やディテールは東京駅のライトアップにもフィードバックされているのではないかと思われる。

図53 オーシャン フィナンシャル センター(建築設計:Pelli Clark Pelli Architects)
ビルの層化部分にLED照明を設置したファサードの照明デザイン。通常は層間内部に照明器具を設置し層間全体を発光させるようなデザインが多いが、このファサードライティングはLEDのドットを直接見せるデザインとなっている。LEDの輝度感が絶妙にコントロールされており、むしろ心地よくハイグレードな印象を受ける。オフィスビルらしく派手な演出はなく、LED照明が緩やかにファサードの表情を変化させている。







図54〜57 ザ・スター・パーフォーミングアーツセンター&スター・ヴィスタ(建築設計:Aedas)
商業施設と大型劇場が一体となった大規模複合施設。なんとも迫力のある建築に対し、建物を縁取るようなシャープなラインの間接照明が印象的。ファサード中央の青い大きなボリュームの光は内部の劇場部分から照らされている。(劇場内に入ることができなかったので詳細は確認できていない)軒天井部分はダイナミックにアッパーライトでライトアップされ、白色の仕上げとあいまって空間の明るさ感を高めている。店舗周辺の明かりは明暗のコントラストを強調したデザインで、スプレッドレンズを取り付けたダウンライトで店舗前に光の帯を作り出している。





図58〜60 パークロイヤル・オン・ピッカリング(建築設計:WOHA)
起伏のある等高線のような独特のデザインのホテル。ライトアップを中心とした照明プランではあるが、起伏のある形状を影が出ないようにフラットに照らすには器具の配光や配置を細かく計算する必要があると思われる。シンプルな手法でまとめていることがダイナミックな建築の形状を美しくみせる事に繋がっている。





図61〜63 ルイ・ヴィトン シンガポール マリーナ ベイ(建築設計:Peter Marino Architect)
マリーナベイサンズにある水上に浮かんでいるようなルイ・ヴィトン。(図67の左下の光り輝くガラス建築)特徴的な斜めのフレームをもつファサードにあわせて照明も斜めに建築をライトアップしている。鉄骨を照らしている照明はスポットライトであるため角度調整は比較的容易であるが、床に設置されたLEDのライン照明は幕をムラなく照らすために特殊な加工を施したレンズを用い、光を斜め方向に飛ばしている。細かなカスタマイズが可能なLEDならではの照明手法である。

光のデザインレポート
執筆者:岡本 賢

岡本 賢(おかもと けん) 
照明デザイナー/Ripple design(リップルデザイン)代表

1977年愛媛県生まれ。2002年株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツに入社し、幅広い分野のプロジェクトに参加し建築照明デザインを学ぶ。2007年独立し、Ripple designを設立。現在も様々な空間の照明計画を行っている。
URL http://ripple-design.jp

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