日経メッセ > ライティング・フェア > 連載コラム > 光のデザインレポート > 節電から見えた照明デザインの可能性

連載コラム

節電から見えた照明デザインの可能性

[ 2011年7月8日 ]

3.11の東北大震災以降、日本は様々な状況がこれまでとは一変しました。津波により壊滅的な被害を受けた被災地はもちろんのこと、未だに混乱が続いている原発問題、そして福島の原発停止による関東地方一帯の電力不足に伴う計画停電や節電。さらにそれら複合的な要素が重なり合って起こる日本全体の経済的・精神的ダメージは計り知れません。

震災から4ヶ月が経過しましたが、この危機的状況の中にあっても暗い話題ばかりではなく、少しずつ復興へと動き出しているという勇気付けられるニュースを、新聞やTV、インターネット等でよく見かけるようになりました。被災地の一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。

震災以降、我々の身の回りで定着しつつある節電は、復興へ向けて誰もが日常的に参加できる活動です。特に照明は目に見えて電力を消費している事が認識できるため、都内でも駅や道路、公園、公共施設、商業施設など様々な場所で照明が減灯され、節電を実施しています。インターネットのポータルサイトで表示されている現在の東京電力エリアの電力使用状況のお知らせもすっかりお馴染みになりました。

また、我々の生活の中に定着し始めた省電力・長寿命のLED照明や、災害時にも電力を確保できる太陽光パネルは、これから暑くなり、消費電力増大が予想される夏場に向けて節電対策として震災後飛躍的に売り上げが伸びていると聞きます。特にLED照明は最近の新規建築物件などにおいては省エネ性を重視し、積極的に導入されるようになりましたが、震災の影響によりさらに認知度が上がり、急速に我々の生活に浸透していくものと思われます。

節電の影響により、東京の夜の景色も大きく変わりました。このような時期ですから不必要な照明を消し、エネルギーを節約することは当たり前の事だと思いますが、節電によって照明に関わる様々な課題が注目されるようになりました。東京電力・東北電力管内では電気事業法27条の「電力使用制限令」が発動され、7月1日より契約電力500kw以上の大口需要家は平日の9時~20時の間、15%の消費電力削減が義務付けられるようになりました。故意によって使用制限を違反した場合は厳しい罰則もあります。小口需要家や一般家庭でも罰則こそありませんが一律に15%節電が呼びかけられています。電力使用制限令が発動されるのは第一次石油危機のあった1974年以来、37年ぶりとの事です。これにより東京の夜景はさらに様変わりしていくと予想されます。(詳細は経済産業省webサイトをご覧下さい。)

我々が携わる建築照明デザインの仕事は、光によって建築そのものが持つ形状の美しさを引き出したり、心地よい雰囲気や空間を作り出すことです。しかし、震災や節電の影響によって日本中の光に対する価値観の変化が起こっていると強く感じています。今このような時期だからこそ照明デザインの価値や意義についてもう一度見直す必要性がありそうです。

今回は都内でも特に洗練されたファサードライティング(外観照明)が多い丸の内・有楽町・銀座周辺の節電状況などについてレポートしたいと思います。尚本調査は2011年4月中旬~2011年5月末までに行ったものです。

丸の内・有楽町・銀座周辺の節電状況

1.東京国際フォーラム

有楽町周辺で照明デザインというキーワードで真っ先に思いつくのが東京国際フォーラムです。照明デザイナーの面出薫さんが率いる株式会社ライテインングプランナーズアソシエーツが照明計画を担当し、建築照明デザインの価値や思想を日本に浸透させた代表的な事例の一つです。今から15年前の1996年のプロジェクトですが、絶妙な陰影のバランスは今見ても新鮮で美しく、銀座や有楽町で食事をした帰りなどは、都会のど真中とは思えない心地よい雰囲気に自然と足が向いてしまいます。また国際フォーラムは東京都の公共施設としての側面もあるので、今回の震災の影響でどのような節電を行っているか気になっていました。

15年前の施設という事もあり、国際フォーラムでは消費電力の大きいハロゲンランプなどの白熱系の光源も使用されています。震災以前から国際フォーラムでは徐々に消費電力の少ないLED照明を採用した器具に置き換わっているものもあります。

図1
図1 LED照明器具に変更された中庭の埋め込み照明

図2
図2 中庭の節電状況1(5月末)

中庭の樹木を照らす埋め込み照明はLED照明に置き換わっていますが、節電のため消灯されています。

図3
図3 中庭の節電状況2(5月末)

軒下ダウンライトは点灯しています。巨大なガラス棟から漏れる光と、軒下のダウンライトの光で中庭の明るさをどうにか確保している状況です。そもそもの国際フォーラム自体が煌々と明るい施設ではなく、陰影のコントラストを活かした照明デザインで成立している空間である為、微妙な明るさでバランスが取れている空間(樹木を照らして鉛直面の明るさで空間を演出しているような場所など)の照明を消してしまうとかなり暗い印象があります。

図4
図4 照明が点灯した状態の中庭

図5
図5 中庭の節電状況3(5月末)

図6
図6 中庭の節電状況4(5月末)

国際フォーラムの象徴的な光のアイコンである光床も消灯しています。演出的要素が強い光床は現在の日本の状況を考慮すると消灯という事も納得できます。

図7
図7 ガラス棟の節電状況1(5月末)

図8
図8 ガラス棟の節電状況2(5月末)

周辺のランドマークにもなっている天井部分の鉄骨のライトアップ、ブリッジの手すり照明も消灯されています。

図9
図9 ガラス棟の節電状況3(4月中旬)

図10
図10 ガラス棟の節電状況4(4月中旬)

図8は5月末に訪れた時の様子ですが、4月中旬に訪れた時は図9、図10のように壁面のウォールウォッシャーアッパーライトが約半分消灯されていました。こうやって比較してみると鉛直面の明るさが空間全体の明るさ感に与える影響の大きさを改めて実感します。壁面を照らすウォールウォッシャーアッパーライトが全て点灯した状態(5月末の状態)でガラス棟の床面照度は約50lx。照度だけ見れば決して明るいといえる数値ではないかも知れませんが、ウォールウォッシャーアッパーライトで壁面(鉛直面)を照らした空間である為、照度以上に空間を明るく感じ、心地よい暗さです。ベンチに座って本を読む人の姿も見られました。

図11
図11 通路部分の節電状況1(5月末)

図12
図12 通路部分の節電状況2通路部分の
ダウンライト(コンパクト蛍光灯)は1/2に間引き点灯されている(5月末)。

図13
図13 通路部分の照度。50%点灯状態で通路の床面照度は約50lx。
実際に歩いてみて個人的には充分な明るさだと感じた。

図14
図14 屋内の光壁・光天井1(5月末)

図15
図15 屋内の光壁・光天井2(5月末)

図16
図16 屋内の光壁・光天井3(5月末)

図17
図17 屋内の光壁・光天井4(5月末)

光壁や光天井は、間引き点灯していたり、光壁を消して光天井のみ点灯しているなどの節電を行っていました。商業エリアの光壁は通常通り点灯されていますが、人通りの少ないエリアの光壁は消灯されていました。
※7/1日以降、東京国際フォーラムでは電力使用制限令を受け、照明、また照明以外の設備も含め調査時以上の節電に取り組んでいます。

2.丸の内周辺

また丸ビル周辺は、節電のため一部の街路灯が消灯されている場所もあります。

図18
図18 丸ビル周辺の外構。街路灯の多くが消灯している(5月末)。

図19
図19 東京駅へ向かうメインストリート。多くの街路灯が消灯されている(5月末)。

図20
図20 街路灯には「節電 消灯中」の張り紙(5月末)

図21
図21 7月初旬の丸の内周辺 1

図22
図22 7月初旬の丸の内周辺 2

電力使用制限令が発令された後の7月初旬に再度訪れた時は、店舗のウィンドウ照明、街路灯照明、樹木のアッパーライト等を点灯している場所が増えていました。徐々に活気を取り戻しつつあるように感じました。

3.銀座・有楽町周辺

夜間は個性的なビルディングファサードの照明デザインが印象的な銀座エリアですが、震災後の節電によってどのような変化があったのか、非常に興味のある所でした。屋内空間の場合、間接照明などの演出的要素の強い照明でも、その明るさが機能照明の役割を兼ねているケースも非常に多くあります。その為、節電といえどもある程度機能照明としての必要性があります。しかしファサードライティングの多くは各店舗の個性を強調したり、周辺のランドマークとなる等、圧倒的に演出的要素が強くなります。現在の日本の状況下では常時点灯しておくだけの理由がないのではないかという印象を持っていました。

実際に銀座周辺を調査したところ、予想通りほとんどのファサードライティングやサイン照明が消灯されていました。節電のために消灯されているという事は容易に予想できましたが、実際にその光景を目の当たりにすると、そこにある夜の景色はこれまでの銀座とは全く違うものになっており、大きなショックを受けました。

図23
図23 銀座4丁目交差点の現状1(5月末)

図24
図24 銀座4丁目交差点の現状2 ライトアップを消灯している和光(5月末)

図25
図25 銀座4丁目交差点の現状3(5月末)

図26
図26 銀座4丁目交差点の現状4(5月末)

図27
図27 震災前の銀座4丁目の交差点1 和光のライトアップ

図28
図28 震災前の銀座4丁目の交差点2 三越のファサードライティング

最も銀座らしい場所として知られる銀座4丁目交差点も節電により周辺施設のファサードライティングやサイン照明は消灯されています。銀座の象徴というべき和光のライトアップも例外なく消灯しています。

図29
図29 和光のウィンドウディスプレイ(5月末) 注目度の高い和光のウィンドウディスプレイの照明は点灯中。
震災復興へ向けたメッセージ性の強いディスプレイを展開していた。

図30
図30 松屋のファサード(5月末))

図31
図31 震災前の松屋のファサードライティング
(クリスマス時期限定のカラーライティングの事例)

図32
図32 ティファニーのファサード(5月末)

図33
図33 震災前のティファニーのファサードライティング

図34
図34 新ヤマハ銀座ビルのファサード(5月末)

図35
図35 震災前の新ヤマハ銀座ビルのファサードライティング

図36 
図36 アルマーニとディオールのファサード(5月末)

図37 
図37 震災前のアルマーニとディオールのファサードライティング

図38
図38 有楽町マリオンのファサード(5月末)

図39
図39 震災前の有楽町マリオンのファサードライティング

図40
図40 数寄屋橋交差点周辺(5月末)

図41
図41 震災前の数奇屋橋交差点周辺

一方で最近徐々にファサードライティングを再開している商業施設もあります。

図42
図42 2011年4月時点のシャネルのファサード

図43
図43 2011年5月末のシャネルのファサードライティング

LEDを用いた白い光と黒のファサードのコントラストが個性的で、ただ光るだけではなく動画のアート作品になっている。5月末に再度銀座を訪れた際にはファサードライティングが再開されていた。

図44
図44 2011年4月時点のユニクロ銀座店周辺の状況

図45
図45 2011年5月末時点のユニクロ銀座店周辺の状況

MAUBOUSSIN、田崎真珠などはファサードライティングを再開しています。
また電力使用制限令の発令後、7月初旬に再度銀座を訪れましたが、さらに松屋や和光(一部)のファサードライティングが再開されていました。既にファサードライティング以外の部分で15%消費電力削減が行われている事が伺えます。

図46
図46 2011年7月初旬の松屋のファサードライティング

図47
図47 2011年7月初旬の銀座4丁目交差点

4.銀座のポール照明

さらに現在の銀座の暗さを印象付けている要因として、節電のために消灯されているポール照明の影響が挙げられます。現在の銀座中央通のポール照明は2006年に行われた国際照明デザインコンペの最優秀作品です。このコンペは日本の照明デザインコンペとしては珍しい大規模な国際照明デザインコンペであるという事、最優秀賞の副賞賞金が500万円という事なども含め当時、照明業界では大きな話題なっていました。

図48
図48 震災前のポール照明1

図49
図49 震災前のポール照明2
車道、歩道の機能照明の他に、LED照明を用い、四角いポール自体が発光する。

図50
図50 ポール照明の点灯状況1(5月末)

図51
図51 ポール照明の点灯状況2(5月末)

図52
図52 ポール照明の点灯状況3(5月末)

図53
図53 ポール照明の点灯状況4(5月末)
数本のおきの間隔で歩道のみ、車道のみという間引き点灯が実施されている。
ポール自体が発光する演出は現在行われていない。

調査をしている最中にコンペに参加した先輩照明デザイナーが「銀座はファサードライテインングで充分明るいから省エネ性が重要になるこれからの時代の事を考えると、ポール照明を設置しないという提案もあり得るのではないか?」と言っていたことを思い出しました。震災以前の銀座ではその考え方も充分成立したと思いますが、特に商業施設の営業が終了した時間帯では、節電によりファサードライティングも消え、ポール照明も消えた銀座中央通りはやはり少し暗い印象を受けます。節電の為、ポール自体の面発光照明の消灯は理解できますが、安全上の問題を考慮すると節電をしながらも車道や歩道の明るさはある程度確保する必要性があると思いました。


まとめ

現在の東京電力・東北電力管内の電力状況は短期間で劇的に好転したり、改善することが難しい問題です。消費電力がますます増えると予想される夏に向け、今後も節電を続けることになると思います。そして恐らくは夏以降もその状況が続くと予想されます。節電の影響で東京の街は明る過ぎた、間引き点灯しても充分な明るさがあるなど、節電によって明るさを抑えた夜の景観を評価する声もインターネットやTVのニュースで見かけます。ただし状況が長期化するとなると、ただ照明を消すだけでなく我々は照明の専門家という立場からもう少し進んだ節電を考える必要があると思っています。今回の調査から可能な限り、空間の心地よい雰囲気を残したまま節電も行う為のポイントについて考えてみました。

1.照明以外の節電も考える
施設の規模や種類よっても異なりますが消費電力全体に照明が占める割合は2~4割程度と言われています。今回、銀座の調査でファサードライティングなど、演出照明がいかに夜間景観の性格や印象を決定付けているかを再認識しました。そしていつもより元気のない銀座をみて、明かりが経済活動や人間の気持ちにも大きく影響を与えるということも強く感じました。

図54
図54 明かりの消えた銀座(5月末)

もちろん現在の日本のような状況で過剰な演出照明は慎むべきですが、照明以外でも消費電力の削減が実現できる見通しが立てば、ファサードライテインングなどの演出照明も徐々に再開しても良いのではないでしょうか?照明は目に見えて電力を消費している印象があり、特に演出的要素の強い照明を点灯していると批判の対象にもなりかねません。演出的な照明などを再点灯する際は、企業側の節電への取りくみの告知や、利用者の節電に対する理解が必要です。復興に向けて街や人を元気にする明かりもある程度必要だと考えます。

2.点灯・消灯の場所を吟味する
照明を消灯しても雰囲気を損なう事無く、空間を成立させることができる場合があります。特に商業施設などは、ただ照明を消すのではなく、可能な限り心地よい空間を維持すること心がけることも重要です。例えば共用廊下の照明は消灯しても、周りの店舗の明かりで共用廊下の明るさも確保でき、なおかつその明暗の抑揚が心地よいといった例です。

図55
図55 空間の雰囲気を損なわない節電の考え方の例(商業施設の場合)
共用廊下のダウンライトを消して、店舗の照明で共用廊下の明るさも確保する。
天井に間接照明(コーブ照明等)があるとダウンライトを消してもそれほど暗く感じない。

コーニス照明(壁面を照らす間接照明)や、コーブ照明(天井面を照らす間接照明)、ウォールウォッシャーダウンライトのように連続して点灯することで美しい照明効果が得られる手法があります。

図56図56 コーニス照明(壁面への間接照明)
の考え方

図57図57 コーブ照明(天井面への間接照明)
の考え方

図58
図58 節電による間引き点灯で不自然に見えるコーブ照明の例

このような照明は間引き点灯するとかえって、不自然な光のムラが目立ってしまいます。間接照明(建築化照明)などの連続照明は、他の照明で明るさを確保できる場合、思い切って全部消灯してしまったほうが良いでしょう。

またこのように一つのスイッチで点灯する照明器具の系統は、設計時に照明計画を行う我々のような照明設計者が指示します。これまでもこういった事態を想定して照明を計画されている方もいらっしゃると思いますが、今後は減灯しても空間が成立するようなスイッチ系統の検討が必要になるでしょう。

また、建物の顔となるエントランスは他よりも明るくしておく、また道路、歩道、階段、その他夜間人が行き来する場所で暗いと感じる場所など、安全上明るさが必要と思われる部分の消灯は見直す必要性を感じました。

以前のコラムでも紹介したことがありますが、既に海外では広く認知・使用されている「DALIシステム」などは、竣工後にも容易に点灯回路の調整・変更ができるため、今回のような節電対策には特に効果を発揮すると思われます。ただし、システム以外にもDALIシステムに対応した器具が必要になる為、まだ日本では広く普及するまでには至っていませんが今後の展開に期待します。

3.LED照明の理解を深める
今回の震災の影響でLED照明はこれまで以上に注目されることになりました。数年前は明るさが不足したり、価格が高いなどの問題点もありましたが、現在ではそれらの問題はほぼ解消されつつあります。ただLED独特の輝度感が生むグレア(まぶしさ)は未だ解消されていない器具も多く、今後の急速なLEDの需要でグレアの問題が顕在化するのではないかと少々懸念しています。最新のLED照明ではそれらのグレアの問題を解消し、従来のグレアレスと呼ばれる器具と遜色ないLED照明も登場しています。(前回コラム参照)

しかし節電の影響もあってかLED照明を導入する際は、それらグレアに配慮したLED照明よりも、一見してLEDを使用していると分かる輝度感のあるLED照明が好まれているという話も聞きます。今後主流になっていくと予想されるLED照明で、より良い光環境を築いていく為に、メーカーや照明設計者の立場からもLED照明の啓蒙活動を実践しなければならないと感じています。同時にLED照明を導入を検討している事業者もより良いLED照明とは何か?という事をこういった状況だからこそ学ぶ必要があると思います。

4.照明デザインの可能性
日本中が節電を心がけている現状で我々のように照明を使って、空間を演出したり、心の豊かさを提案する職能は果たして「今必要なのか?」という事を最近真剣に考えます。普通に考えれば、機能上必要な明るさがあれば演出照明がなくても生活すること自体は可能ですし、現在の日本の状況下では「照明デザイン」という要素はひとまず置いておいて、ということになるのではないかと思います。
しかし、今回の調査した東京国際フォーラムのように、過剰な明るさを用いず、心地よい雰囲気を作り出す照明デザインは、エネルギーの消費を抑えながら、心の豊かさや癒しを生み出し、施設自体の価値も高めるという事を再認識し、照明デザインの可能性を感じることができました。

省エネを実践しながら照明で心地よい空間を演出する為には、照明デザインの基本である次の2つのキーワードが重要になると考えます。一つ目は必要な場所に必要な光を配置する「適光適所」という考え方です。空間全体を明るくする手法と異なり、無駄な光を使わず、同時に空間の演出も行います。この適光適所の考え方は、震災後省エネ性の高い照明手法として注目度が増した、タスク・アンビエント照明にも繋がってきます。アンビエント照明とは全般照明や環境照明という意味です。天井や壁面を照らし空間全体の雰囲気を演出する間接照明等がアンビエント照明の代表的な例です。タスク照明とは作業を行うようなエリアだけを照らす局部照明の事を指します。デスクスタンドなどが代表的な事例です。タスク・アンビエント照明は、心地よい雰囲気を作りながら、明るさが必要な部分をきちんと照らす照明手法で、まさに適光適所の考え方と合致します。上手にプランニングすれば、床面を一様に明るく見せる床面照度を重視した従来の照明計画に比べ、消費電力を抑えながら心地よい空間を作る事が可能です。長寿命・省電力のLED照明をタスク・アンビエント照明の手法を組み合わせればさらにその効果は期待できます。

二つ目のキーワードは「鉛直面の明るさ」です。鉛直面とは床面などの平面に対して、直交するように立っている壁面などの事を指します。鉛直面を照らすことで平面(床面)の明るさはそれ程なくても、空間全体で見た場合、明るく感じるという効果があります。(壁面の仕上げなどによっても効果が異なるため、一概には言えません)こういった感覚を「明るさ感」と表現したりすることがあります。

図59
図59 東京国際フォーラム 鉛直面を明るく見せた例

東京国際フォーラムは鉛直面の明るさを最大限に利用し空間の明るさ感を作り出している好例です。床面に過剰な明るさを確保する事無く心地よい空間を演出しています。

これら照明デザインの基本的な考え方を、LED照明を使って実践すれば、これからの省エネ社会に合致する照明デザインができるのではないかと期待しています。そして機種毎に光の性能の違いが大きいLED照明の適切な選択や、床面照度だけに囚われない照明計画には、やはり照明の専門家の知識や経験が必ず必要になるはずです。

光と影の両方をデザインする建築照明デザインの考え方は、時に暗いといわれる事もあります。その空間を万人に受け入れてもらうことは難しいかもしれませんが、節電によって過剰な照明が見直され始めた今だからこそ、照度等の数値に囚われない照明デザインが力を発揮する時なのだと今回の調査で感じました。

光のデザインレポート
執筆者:岡本 賢

岡本 賢(おかもと けん) 
照明デザイナー/Ripple design(リップルデザイン)代表

1977年愛媛県生まれ。2002年株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツに入社し、幅広い分野のプロジェクトに参加し建築照明デザインを学ぶ。2007年独立し、Ripple designを設立。現在も様々な空間の照明計画を行っている。
URL http://ripple-design.jp

バックナンバー

PAGE TOP