連載コラム

"アジア"で心を捉える照明デザインとは

[ 2013.02.26 ]

 日本からアジア各地に進出する照明デザイナーや照明メーカーが増えている中で、日本と海外では、求められる照明デザインが異なるという声を聞くことがある。アジア各国で人々の心を捉えるのはどのような照明デザインか。またアジア各国で活躍する照明デザイナーは、日本の照明デザインをどのように感じているのか。

 その一端が、2012年、中国、韓国、タイの照明デザイナーが来日し、東京デザインセンター(品川区)で開かれたイベント「照明力特別企画『ASIAN POWER OF LIGHT(アジアンパワー・オブ・ライト)』」で語られた。同イベントを中心に「香港インターナショナル・ライティング・フェア」などの様子も含め、2回に分けて国による光環境の違いや、アジア独自の照明デザインを探るデザイナーと企業の取り組みをリポートする。

アジアの照明デザイナーの意識に共通点

 イベントが行われた11月10日は土曜日にもかかわらず、会場に朝から多くの人が訪れ、照明デザインや仕事の現状に聞き入った。プログラムは、10名が各々10分間のプレゼンテーションを行う「アジアン10×10」と、ゲストと主催者が、各国の都市の照明や光に関連する歌の魅力を語った「アジアのまちと光」「アジアのうたと光」の3部で構成された。

 登壇した照明デザイナーは、イベントのために来日したタイのChanyaporn Chuntamara氏、 韓国のChung Kangwha氏とLee Jeaha氏、中国のQi Honghai氏とZhang Xin氏の5名と日本の岡安泉氏、澤田隆一氏、近田玲子氏の3名。加えて、円卓会議・照明楽会を共同主宰する内原智史氏、東海林弘靖氏、武石正宣氏、東宮洋美氏、富田泰行氏も登壇した。韓国照明デザイナー連名の会長でもあるChung Kangwha氏が創設した非営利団体「アジア ライティングデザイン フォーラム」(以下、ALDF) (*1)の後援で実現した。

(*1) ALDFは、09年から、ソウルや北京でイベントを開催しており、11年には円卓会議・照明楽会のメンバーが講演を行った。

図1(写真:三橋 倫子)
「照明力特別企画『ASIAN POWER OF LIGHT(アジアンパワー・オブ・ライト)』」の様子。

図2(写真:三橋 倫子)
円卓会議・照明楽会を共同主宰するメンバー。

 イベントの第1部「Asian 10×10」(アジアン・テン・バイ・テン)では、10分間という限られた時間が緊張感を生むプレゼンテーションの中で、デザインに対する心構えやインスピレーションの源が何かが伺えた。

図3(写真:三橋 倫子)
Chung Kangwha氏(Konkuk Univ. Design Division/Professor)

「光、見せないところの楽しさ」(When Less is More:The Beauty of Negative Lighting)

 韓国のChung Kangwha氏は、ソウル市の夜景に関するマスタープラン(2000年)の立案から芸術作品の製作まで幅広く手掛けてきた。経験から、照明デザインには「何を見せて、何を見せないか」を選ぶことが重要だと語った。

図4(写真提供:円卓会議・照明楽会、撮影:金子俊男)
Chung Kangwha氏のプレゼンテーションの様子。南山から漢江を見渡す夜景は、同氏がマスタープランを手掛ける前よりも落ち着いた光灯りになり、南山から北方向の旧都心を見渡す夜景は、LED照明の色が増えて賑わいも増した。

 ソウル市の「南山」という山から撮影した2つの夜景を紹介した。夜景は「暗いところから小さな光が紡ぎ出される様子が、(夜景を見た人の)『美しい』という感覚につながる」、「(照明で明るくし、全てを見せるのではなく、)人々は見えない部分を認識することで想像力を掻き立てられ、想像で足りない部分を埋めていくことが、感性によい刺激を与えることになる」と同氏は語る。

 その例として用意された1枚目の写真は、輝く平面が大きな海のようで、緩やかなカーブがオイルフェンスのように見えた。次の写真で、それが黒いピアノの一部だと分かる。他にも、信号待ちの間に車内から撮影した写真や、窓から差し込んだ光が室内の壁に揺れる木の葉の影を映した映像などを紹介した。東洋絵画の余白のように、情報量が少ない写真や映像が感性に訴えかける。「照明デザインは、視覚的なものによる会話や対話だ。探偵小説の作家ではないが、様々なことを考えながら作業をしている」と語った。

図5(写真:三橋 倫子)
岡安泉氏(岡安泉照明設計事務所)

「心象風景と光」(Light and the Landscapes of the Mind)

 心象風景については、岡安泉氏も、小説や詩を読んで想像した世界が「光の原風景」となり、具現化したいと思うようになったという経験を語った。

 例えば、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」には、「億万の蛍烏賊の火を一ぺんに化石させて、そら中に沈めたという工合」、「ダイアモンド会社で、(中略)わざと穫れないふりをして、かくして置いた金剛石を、誰かがいきなりひっくりかえして、ばら撒まいたという風」といった表現がある。同氏は、星空の美しさで知られるニュージーランドのデカポの夜空など、文章から想像する風景に似た場所を探したが、その魅力に追いつくような風景は見つけられていないという。

 同氏は感銘を受けた作品として、12年4月に伊ミラノで見たインスタレーションも紹介した。キヤノンによる展示の一部で、建築家の中村竜治氏が手掛けた構造物に、映像アーティストの志村信裕氏が製作した映像を投写した作品だ。幅0.3mmのピアノ線にプロジェクターで映像を投写することで、同氏は「光の単位が小さくなる様子が、刺激的に現れていた」と振り返る。同氏は常に、光を『面』でなく『線』の集合体だと捉えていたため、そのイメージが、ワイヤーに当たって光が分解される様子と重なった。同氏は「今後、作品でイメージを可視化してみたい」と語った。


図6,図7(写真:三橋 倫子)
キヤノンがミラノ・サローネ期間中に行った展示「NEOREAL IN THE FOREST(ネオリアル インザフォレスト)」の一部で、建築家の中村竜治氏が手掛けた構造物に、映像アーティストの志村信裕氏が制作した映像をキヤノンのプロジェクターで投写した作品「spring(スプリング)」。直径0.3mmのピアノ線を透明な熱収縮チューブと溶接でつないだ自立する構造体は、幅8m×奥行き5m×高さ2m。白色の映像が構造体全体を照らしている。4分間の映像が変化し続けており、白い画像はだんだん小さくなって消えて、会場が暗転する。日常生活の中にある鉛筆などをモチーフとしたカラーの多様な映像や文字も投写された。暗い空間で、途切れずに輝く線を浮かび上がらせた。通常の照明と同じ「光」のように映像を感じさせるインスタレーションでもあった。

アジア特有の自然現象が、インスピレーションの源や共感できるデザインを生む。

図8(写真:三橋 倫子)
澤田隆一氏(有限会社サワダライティングデザイン&アナリシス)

「照明デザインで最近こだわっていること。」(My Latest Priorities in Lighting Design)

 澤田隆一氏は、自然現象に影響を受けてつくられる感覚が、デザインに共通認識を生むと考えている。日頃から設計の中で、職人が手掛けた建築の仕上げを活かすために、均質な光をつくり出すことが多い。その一方では、自然現象で見られる不均質な光に心を動かされ、計画に取り入れてきた。例えば、とある施設では、庭の池に反射した自然光が、ある時間にだけ、窓から室内に差し込んで、白い壁面を印象的に演出した。

 同氏は、デンマークに旅した際、食事の前に見た夕景の美しさが印象的に残った経験を語った。夕食を終えても空の様子は変わらなかった。一方、日本ではすぐに日が暮れる。長時間、ゆっくりと変化する欧州の夕景に魅力を感じながらも、台風の後に見た湘南の空の方のように、刻一刻と変化する様子にも心を動かされる。その違いから、同氏は「ダイナミックに変化する気候風土のアジアに暮らす照明デザイナーは、デザインに対する感覚に共通点を持つのではないか」と考えている。

図9,図10(写真:有限会社サワダライティングデザイン&アナリシス)
会場の壁に映し出したスライド。澤田氏が撮影した夕暮れの写真。左は11年夏のデンマーク。右は12年夏の湘南。台風一過の空の様子。

図11(写真:三橋 倫子)
Chanyaporn Chuntamara氏(King Mongkut's University of Technology Thonburi(KMUTT)/Dr.)

「reflections of light in thai culture」

 Chanyaporn Chuntamara氏からも、自然の光や素材から感じられる光の文化と魅力が語られた。タイの伝統的な高床式の住宅は、木陰を求めて、大きな木の下に建てられる。木造の床下には太陽の光が流れて入って影が出来る。光と影の交錯が生まれ、時間と共に変化する。タイの家には日本の障子のようなものはなく、深い庇の下の暗い空間がフィルターのような役割を果たす。通気のよい中間の領域である。タイの人々は、暑い昼間は外で過ごすのが一般的で、建物の窓は小さく、昼間も室内が暗い。タイシルクの布は「暗い室内でも、赤い色がよく見える。布の表面は輝き、同時に光を透過する。他国の布にはない表情だ」(同氏)。


図12,図13(写真提供:円卓会議・照明楽会、撮影:金子俊男)
Chanyaporn Chuntamara氏のプレゼンテーションの様子。上は、高床式の住宅の床を下から見上げた様子。床から光が漏れている。下は赤いタイシルク。

 月や水、蝋燭の炎といった自然を拠り所とするデザインについても語られた。タイの寺院では、同氏の指導する学生が、仏像を昔行われていたように蝋燭の炎で照らす実験を行った。光が揺れているように見える風景が、地元の人や寺院の僧侶に魅力的に映ったという。また揺らぐ水に光が反射する様子は、同氏が作品をつくる上で、インスピレーションの源となっている。

図14(写真提供:円卓会議・照明楽会、撮影:金子俊男)
Chanyaporn Chuntamara氏のプレゼンテーションの様子。スライドは水面に光が当たり反射する様子。

照明の変化の中で、伝統を守る日本の灯りの価値を問う

 照明デザイナーだけでなく、日本の伝統的な灯りに関わる2人も映像で紹介した。LEDが普及し、光そのものだけでなく、照明器具とランプの生産体制や分類から変わりつつある。このイベントでは対照的な仕事を紹介して、伝統的な灯りの価値を訴求した。

片山光男氏(由比宿東海道あかりの博物館/館長)
「日本のあかり」(Japanese Traditional Lighting)

 約1000点の古灯具を展示する由比宿東海道あかりの博物館の館長である片山光男氏は、点灯した灯りを来館者に見せている。道具を見ると、使い方から当時の文化が分かる。例えば、「書見行灯」は、一面にガラスやレンズを取り付けて、夜に本を読むための明るさを確保する。手持ち用の燭台は、宿の泊まり客が持ち歩いたり、部屋の壁に引っ掛けたりして使った。また電気が通ったばかりの頃は、停電に備えて、電球の上に蝋燭の設置台をつけた照明器具が作られた。同氏は「古灯具の研究者は以前より減って、LEDにばかりに関心が集まっているが、電気を消して古灯具を点灯すれば、いつでも灯りのよさは感じられる」と語った。

大森太郎氏(大森和蝋燭屋六代目当主)
「職人気質(かたぎ)」(The Heart of Artisan)

 大森太郎氏が6代目当主を務める大森和蝋燭店(愛媛県喜多郡内子町)では、ハゼの実を使った和蠟燭を1本ずつ手作業で作る。全ての工程を一人で手掛ける昔ながらの製法を守っているため、生産量を増やすことはできない。40度に熱した蝋を灯心に絡ませる「生掛け(きがけ)」をして、「艶出し」で磨き上げた後、窯で温める。炭火で温めた包丁で「芯出し」をして完成させる。

 同氏は「伝統を消さずに守ること、形を変えないことが大切だ」と語る。江戸時代に植物性の和蠟燭づくりで栄えた街でも和蠟燭職人は一人となり、現在は、伝統の技を受け継ぐため、息子が修行している。

 韓国のLee Jeaha氏や中国のZhang Xin氏も、自然の風景や自然光の捉え方、照明デザインに対する意識の持ち方については、日本でも共感できるエピソードを披露していた。
 Lee Jeaha氏は、照明デザイナーとして、光で空間を一変させる「マジシャン」の役割を担うために、時には主張して、照明器具の選定から室内の素材選びにまで踏み込むこともあった。また中国のQi Honghai氏は、所属するZ DESIGN & PLANNINGのスタッフが選んだ写真を披露して「照明デザイナーは、いつも照明のことだけを考えているべきではない」という思いを伝えた。さらに近田玲子氏は、暗さや影だけでなく、「闇」を実感することの重要性と、今後LEDを使って人間の心象風景を表す照明デザインが必要であることを語った。

図15(写真:三橋 倫子)
Lee Jeaha氏(P2LEDcube Co.,LTD/Principle)

図16(写真:三橋 倫子)
Zhang Xin氏(School of Architecture,Tsinghua University/Associate Professor)

図17(写真:三橋 倫子)
Qi Honghai氏(Z DESIGN & PLANNING/Designer)

写真18(写真:三橋 倫子)
近田玲子氏(近田玲子デザイン事務所代表)

 プレゼンテーションでは10名それぞれから異なる視点が紹介されたが、蝋燭の炎を心の拠り所と捉えることや、太陽や月による自然現象や闇が心を動かす様子には、国を超えて通じる感覚が語られていた。土地による気候の違いや自然現象の捉え方が、アジア諸国で共通して心を捉える照明デザインの要素になるといえそうだ。

照明デザイナー内原智史氏は、イベントを主催した「円卓会議・照明楽会」について「5人のライティングデザイナーによる柔らかな共同体であり、大きな組織をめざすものではない」と説明する。同氏らは、共同体としての規模を保ちながら、照明に関する知識や魅力を伝えるイベントの開催を、02年の発足以来、続けてきた。同氏はさらにアジアの国々まで視野を広げて、「急成長するアジアの関係は、文化・技術を始め様々なジャンルの一人ひとりが人間関係を深めていくことも大変重要な活動と考えている。そうした交流の機会を柔軟で積極的に展開する上で、『円卓会議・照明楽会』の今後の活動に我々自身も期待している。アジアの諸国との連携を高め、相手の国の文化を理解し、光による感動の輪を拡げる架け橋の一助となることを願って止まない」と語る。

なおライティング・フェアと同時開催で、照明デザイン国際シンポジウム「アジアの照明デザインと日本」が開催される。こちらは、アジアはもちろん欧米、日本の代表的な照明デザイナーが登壇し、彼らが手がけた事例を紹介しながらこれから求められる「アジアの照明デザイン」の姿を紹介するという。ぜひ注目したい。

詳細は下記を参照。
照明デザイン国際シンポジウム「アジアの照明デザインと日本」

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執筆者:三橋 倫子

フリーランスライター/照明デザイナー
1977年神奈川県生まれ。
武蔵野美術大学造形学部空間演出デザイン学科卒業。早稲田大学芸術学校建築設計科卒業。
照明メーカーを経て、2007年よりフリーランスで照明計画を開始。照明設計事務所を経て、09年より「ケンプラッツ」(日経BP社)の記事の取材・執筆をきっかけに、ライターとしても活動を始める。建築、住宅、デザインの分野を中心に、主に照明に関する記事の取材・執筆を行う。共著「一冊でわかる リフォーム・耐震改修 設計術」(エクスナレッジ)。

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