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連載コラム

"アジア"で心を捉える照明デザインとは(第2回)

[ 2013年7月1日 ]

 連載の第2回では、まず、中国、韓国、タイ、日本の照明デザイナーによるイベント「照明力特別企画『ASIAN POWER OF LIGHT』」(2012年11月10 日、品川区、東京デザインセンター)で行われたディスカッションを取り上げ、照明デザイナーがアジアの都市の光をどのように捉え、景観や建築物の照明計画を行っているかをレポートする。続いてアジア広域への情報発信や実務を行う拠点の一つとして挙げられる「Hong Kong Lighting Fair」のレポートと、香港在住の照明コンサルタントの活動を通じて、アジアの最新照明事情を紹介する。

1.「照明力特別企画 『ASIAN POWER OF LIGHT』」レポート
都市のあかりは「主張するための光」から「生活に溶け込む光」に。

図1(写真:三橋 倫子)
中国、韓国、タイ、日本の照明デザイナーによるイベント「照明力特別企画『ASIAN POWER OF LIGHT』」第2部「アジアのまちと光」の様子。第2部には、Chung Kangwha氏(韓国、Konkuk Univ. Design Division/Professor)とZhang Xin氏(中国、School of Architecture,Tsinghua University/Associate Professor)、富田泰行氏(日本、トミタ・ライティングデザイン・オフィス代表)、内原智史氏(日本、内原智史デザイン事務所代表)が登壇した。

韓国は都市の光を見直し、白色を基調に「節度」を求める

 同イベントの第2部「アジアのまちと光」と第3部「アジアのうたと光」、イベント終了後の取材から、各国の街の照明計画の特徴や東日本大震災を経た日本の夜景への評価が伺えた。

 韓国の照明デザイナーChung Kangwha氏は、第2部「アジアのまちと光」で、2000年から景観照明のガイドライン作成に携わってきたソウル市の夜景について語った。ソウル市では、朝鮮戦争、高度経済成長を経て、照明に光の量が求められるようになった。電圧は220Vに切り替えられ、ナトリウムランプが多用された。だが現在は夜景を見直す段階にきている。同氏は「都市という集積地では、照明計画にも節度が求められる」と話す。

 同氏は現在、基礎的な照明の色温度には「冷たくなく、暖かくもない」4000Kが適切だと考えている。歴史的な街並には3000K前後、高速道路にはさらに高い色温度が検討されているとのこと。

図2(写真:三橋 倫子)
Chung Kangwha氏は、2000年からソウル市の夜景のマスタープランを作る仕事に携わって来た。2008年には、2回目のマスタープランとして、建物ごとの明るさや道路、広告に対する照明の明るさについて、ガイドラインが設けられた。一定の規模を越えるビルを対象に、人工照明による光害を防止するための法律が設けられた。13年から施行され、一定期間を経ても守れない事業者に罰金が課されるとのこと。

 また韓国でいち早く取り組まれて来たLED照明による夜景についても、同氏と、第1部「アジアン10×10」に登壇した韓国の照明デザイナーLee Jeaha氏に現状を聞いた。LeeJeaha氏は「LED照明は導入コストが高く普及のきっかけをつかめないでいた。その間にカラーLEDが普及したため、LED照明の印象が偏ってしまった。最近は色を抑え、白色LEDを多用するようになってきた」と説明する。Chung Kangwha氏は、LEDによるカラーライティングについて「旅行者を楽しませても、住人には刺激が強過ぎる」と話す。さらに主照明や演出照明については「現在のほとんどの照明計画は、100%LEDになっており、LEDでないと施主の了解を取ることができない。(光の質は)LEDよりハロゲンの方がよいものの、あまり差がなくなっており、様々な場所で使用できるレベルになっている」と説明する。

照明デザインにスピードが求められる中国

 中国のZhang Xin氏は、第2部「アジアのまちと光」で、農地の都市化や大規模な再開発が急速に進む中国での仕事について「数百年かけて形成されるはずの都市がわずか5年で出来上がり、進行中のプロジェクトの竣工が1年早まることもある。プロジェクトで照明の企画まで手掛けても細部までは指示できない」と話す。同氏は、「中国には照明デザイナーとして活動する人が2万人以上いると考えられるが、(デザイナーの技能を)評価する基準がない」と感じている。その中で、同氏のように都市計画の一部を担う照明デザイナーは「寝ずに働き続けなければない。ゆっくり静かに照明デザインを考える時間を持ちたい」と語る。

 さらに同氏は、第1部「アジアン10×10」で、中国で今後、照明の需要が増加するという傾向を予想しており、第2部「アジアのまちと光」において、省エネルギー化への意識が高まる一方で、多くのプロジェクトで照明デザインの価値が理解されないまま進められていることを懸念していた。照明デザインの価値が見出されて、多くの場所に適切な照明計画が施されるなど、省エネの対策を取れば、照明需要の急激な増加傾向を緩やかにすることはできるという。日本では、照明の省エネ対策にLEDが用いられることが多いが、第1部と第3部に登場した中国の照明デザイナーのQi Honghai氏は、LED導入によって明るくなった中国の街を見たことから「本当に有効な省エネ対策は、LEDなどの技術による解決ではなく、人々の欲望を抑えることだ」とイベント後の取材において指摘をしていた。

図3(写真:三橋 倫子)
Qi Honghai氏は第3部「アジアのうたと光」で、「今日の中国の照明界は、照明を明るくしすぎるということから、まだ抜け出せない」と語った。また、イベント後の取材で同氏は「照明デザインを手掛ける物件の5〜6割でLED照明を選定している。LEDを使うと、例えば、光源や器具を1Wから選ぶことができ、従来一般的に20W以上であったHIDランプよりも選択の幅が広がり、環境を暗めに設計することができるようになった。だが、実際には、LED照明を採用することで、前より明るくなった場所が増えた」と指摘する。同氏はその状況を「中国ではかつて、都市の成長を夢見ていた時期に蛍光灯が普及して(住宅など周辺の環境が)明るくなった。そのため、今も多くの人々は明るい空間を好む」と説明する。

海外デザイナーは"節電"を経た東京の夜景を「心地よい」と評価

 富田泰行氏は、第2部「アジアのまちと光」で、長い時間をかけて形成された日本のまちの灯りの変遷を説明した。かつて、人の暮らす場所のすぐ裏には里山があった。人々は日が昇ると山で働き、日が暮れると山を降りて家路につく。同氏は暗い山を背景に家の窓灯りが見える夜景を「涙が出るほど美しい風景だ」と語る。

図4:銀座の夜景(写真:トミタ・ライティングデザイン・オフィス)
住宅のある場所に人が増え、市が立ち、商業が生まれた。街ができて、交通の要所から順に光が増えていった。現在の銀座の夜景のように、都市の夜景には、人に伝えるための光、モノを売るための光、利害を生む光といった様々な光が混在している。

図5:函館の夜景(写真:トミタ・ライティングデザイン・オフィス)
約100年前に電気を使う照明の歴史が始まり、夜景から地域性が感じられるようになる。やがて横浜など都市の夜景を専門家が計画するようになった。函館山の上から北の方向を眺めると、光の粒が街の形の表していることが分かる。

 内原智史氏は、多数の色や明るさの光が溢れる東京で、再開発地区の街路灯から建築の細部に至るまで、照明の色温度を電球色に統一した事例を紹介した。同氏は、生まれ育った京都についても「摩耗や消耗という問題を抱えており、建物は増え続けている。夜、暗くなって機能しない場所と、明るく人が集まって機能する場所が共存しているため、街を『時間軸』から捉え直し夜景を計画すれば、面積や容積の利用とは違う観点から、都市の魅力を引き出すことができる」と考えている。

 さらに"節電"を経て変化した東京の夜景を、海外デザイナーは評価した。日本での長期滞在経験があるChung Kangwha氏は、イベント前日に視察した東京の夜景について「以前よりも光の強さが抑えられ、心地よい光で落ち着いた。韓国や中国では、他人に『見せたい』という欲望を光で表すが、日本では光がすんなりと街の風景に溶け込んでいる。照明デザイナーが建物のライトアップによって主張する時代はもう終わったように思えた。日本で実践されている『光を当てない』計画や、ミニマムなデザインを韓国でも追求したい」と振り返った。



図6(写真:三橋 倫子)

Chung Kangwha氏は、現在の日本の都市照明について、また韓国や中国との違いについて、イベント後の取材で、「例えば、パン屋が『うちのパン屋は美味しいよ』と大声を出すのではなく、毎日の生活の中にパン屋が存在し、暮らしを支えている。東京では人々が(パンのように、光を)楽しむ文化が根付いている。中国や韓国では、光と生活が分かれており、料理でいえば、素材の味を大切にするのではなく、強い味付けで人を引きつける香辛料のように光を使う」と説明した。

 Zhang Xin氏も「建物と灯りが上手く融合し、人々に気持ちのいい空間を与えていた。夜も昼のように働く『24時間都市』を表しているようだ」と話す。各国の専門家の間に共通する意識が感じられた。

図7(写真:三橋 倫子)
第3部「アジアのうたと光」の中でタイの歌について説明するタイの照明デザイナー、Chanyaporn Chuntamara氏(King Mongkut's University of Technology Thonburi(KMUTT)/Dr.)。同氏は初めて来日した感想を次のように語った。「日本の照明デザイナーは光と影の両方において繊細で、ディテールに気を使っている。東京ではあらゆるものが整然としていた。照明は心地よく、夜には安全性が感じられた。高層ビルや銀座のような大きなショッピングエリアが多い大都市にしては、さほど光害が無いことにも驚いた」(同氏)。また「タイには現在、約60人の照明デザイナーがいる。8〜10年前から『建築照明デザイン』が専門職として認められるようになり、欧米諸国で照明デザインの教育を受けた人も増えている。光の質やデザインの重要性に理解を示すプロジェクトのオーナーは少ない。都市部の照明の色温度は日本で4000Kが多用されるのに対して、タイでは6500Kが多い。LED照明は日本ほど一般的ではなく、この3〜4年で普及し始めた。主にコーブ照明に使われ、高品質の製品は輸入品になるため価格が高い」と現状を語る。

図8(写真:三橋倫子)
第3部「アジアのうたと光」では、歌詞やメロディなど「うた」の中で展開された表現から連想する光について、6名でディスカッションを行った。写真左は手前から、武石正宣氏、東宮洋美氏、Lee Jeaha氏。写真右は奥から、東海林弘靖氏、Chanyaporn Chuntamara氏、Qi Honghai氏。虹や月、日が暮れる様子、街の夜景など、それぞれが選んだ「うた」とその説明から、照明デザイナーがイメージする「光」の姿が幅広いことを感じさせた。

照明力 特別企画 「ASIAN POWER OF LIGHT」開催概要
日時:2012年11月10日 10:30〜19:30
会場:東京デザインセンター BF ガレリアホール
主催:円卓会議・照明楽会(内原智史 ・ 東海林弘靖 ・武石正宣 ・ 東宮洋美 ・ 富田泰行)、東京デザインセンター
後援:アジア ライティングデザイン フォーラム
スペシャルゲスト:Chanyaporn Chuntamara[タイ]、Chung Kangwha[韓国]、岡安泉[日本]、Lee Jaeha[韓国]、Qi Honghai[中国]、近田玲子[日本]、澤田隆一[日本]、Zhang Xin[中国]

 

2.Hong Kong Lighting Fair レポートと日本の照明コンサルタント、照明メーカーの役割
香港を拠点にアジア諸国へ

 日本からアジアへの進出に目を向けると、仕事を進めるための環境にも違いがあることが分かって来る。Zhang Xin氏は、日本と中国で照明デザインの仕事をするための体制の違いについて「日本には、よい建築デザイナーと理解のある施主がいる。こういった体制が整わない中国では、日本のデザイナーも思い通りにできないことがあるだろう」と話す。日本の建築家やインテリアデザイナー、照明デザイナーがアジア諸国で日本と同じ品質の計画を実現するためには、品質やサービスを訴求する照明メーカーや、現地を拠点として計画の質を維持する照明コンサルタントが重要な役割を担うこともある。

 「ASIAN POWER OF LIGHT」の直前、12年10月末に香港で照明見本市「Hong Kong International Lighting Fair (Autumn Edition)」が開催された。こちらの模様を紹介するとともに、小泉産業(香港)有限公司として初出展をしたコイズミ照明の中国進出の現状を紹介する。また、現地で20年以上照明コンサルタントを続ける植村純二氏(LIGHTING WORKSHOP CO.(光工場公司)主宰)の、照明計画の「質」を維持する取り組みについて紹介する。

図9,10(写真:三橋 倫子)
Hong Kong Trade Development Council (HKTDC、香港貿易発展局)が12年10月27日〜30日にHong Kong Convention and Exhibition Centre(香港コンベンション&エギジビジョン・センター)で開催した照明の見本市「Hong Kong International Lighting Fair (Autumn Edition)」(インターナショナル・ライティン グ・フェア)の様子。同見本市は、毎年2回、春と秋に開催されている。2012年秋は、2279の企業や団体が出展し、3万6194人が来場した。会場の面積は6万9288㎡。アジアの広い地域への展開を視野に入れた企業が多数集まった。

図11,12(写真:三橋 倫子)
メーン会場の「ホール・オブ・オーロラ」の入り口。

 コイズミ照明は「中国を中心としたグローバル展開におけるブランド訴求と、ビジネスモデル構築の足がかりにするために参加した。新たなネットワークづくりや流通網の確立にも役立てたい。実際多くの方々と接する機会をつくることができ、これからのアジア展開につながる商談もできた」と手応えを語る。同社は、中国に生産拠点を設けると共に、アジア各国で日本国内と同様のサービスを提供することを目指している。特に中国では、照明プランの作成や現場対応までを行う。同社は「従来は物販店や食品スーパーをメーンに訴求していたが、2012年はLEDの普及に伴い飲食店のお客様が増えた。住宅においては、現状は海外各国でスケルトンでの引渡しが多いが、今後は住宅向けの製品の販売拡大をしていきたいと考えている。日本国内で培ってきたノウハウを伝播していくことで、今後は各国においてインフィルの充実が図られ、より快適で高度な生活水準を目指す一助になることができればと思っている」と話す。

図13(写真:三橋 倫子)
KOIZUMI SANGYO (HK) CORPORATION LTD.の展示。日本でも展開するLED照明器具の新製品「cledy-versa」「cledy-ace」「jiakari」の各シリーズをメーンに訴求した。海外でも使われるCDMなどの従来光源を使用したスポットライトやベースダウンライト、ユニバーサルダウンライトも展示した。照明器具は電気製品であり、例えば中国では、電子・電気製品などを販売するための認証「CCC(China Compulsory Certification)」を取得しなければならない。コイズミ照明は「それぞれの国の(安全基準を満たすことを審査し認定する)認証を取得することが機種を拡充させる際の課題」だという。02年3月に小泉産業(香港)有限公司を設立し、現在は3名で照明器具の企画、開発、製造、販売を行う。06年11月には克茲米商貿(上海)有限公司を設立し、23名で照明器具の企画・販売を担当する。09年7月に設立した製造会社、東莞小泉照明有限公司では、190名で製品の開発設計から組立製造、販売まで手掛け、中国本土のほか、香港、台湾、韓国、シンガポール、マレーシア、タイでの本格展開を目指す。

 照明コンサルタントの植村氏は同見本市を視察して「LED照明の関連商品が相変わらず多い。レベルが上がり、演色指数の低いランプが少なくなった。とはいえデータを用意していない器具など、ばらつきがある。以前は、他社をコピーしたダウンライトやスポットライトが多かったが、今回は少なかった」と話す。

図14,15(写真:三橋 倫子)
台湾のRise Lighting Co Ltdが展示したダウンライト。器具のサイズや構造が日本の器具に近い。植村氏は「日本や台湾の会社が関係して、中国で地道に生産している器具は質もよい。そういった器具は今後増えてくると思う」と期待している。

図16(写真:三橋 倫子)
香港のRio Industrial Limitedが展示したダウンライト。色温度や演色性の違いを訴求していた。

図17(写真:三橋 倫子)
香港のSuper Trend Lighting Limitedは、従来の白熱で電球と同じ外形のガラスグローブに、フィラメントの代わりにハロゲンランプを入れた電球。日本より多くの種類が展示されていた。

図18(写真:三橋 倫子)
LEDのランプや照明器具の展示が目立つ中、照明器具の反射板に利用される反射率の高いアルミ素材を扱う独ALANOD GmbH & Co.KGも出展していた。同社は「ライティング・フェア2013(第11回国際照明総合展)」(江東区、東京ビッグサイト)にも出展した。

図19(写真:© Manos Meisen | Düsseldorf | Germany)
ALANOD GmbH & Co.KGの素材を使用した空間の事例。同素材は、香港での展示のように照明器具の反射板に使われるだけでなく、昼光利用のためライトパイプに使われる事例が増えているという。写真は、独の照明見本市「Light+Building2012」での展示の様子。自社(出展当時の社名はALANOD Aluminium-Veredlung社)のブースで、同素材を使った独DURLUM社のライトパイプを展示した。

図20,21(写真:© Peter Bartenbach | Germany)
ALANOD GmbH & Co.KGの素材を使用した空間の事例。シンガポールのChangi AirportTerminal 3(チャンギ空港ターミナル3)。天井に取り付けた昼光用の器具は、太陽の動きにあわせて開閉する。照明も併用しており、夜間は照明が点灯する。天窓のシステムの設計には米国のSkidmore Owings and Merrill LLP(SOM)が携わり、照明コンサルタントをオーストリアのBartenbach LichtLabor GmbHが務めた。

図22,23(写真:三橋 倫子)
LED電球や小型のLED照明器具などが目立つ会場で、Shenzhen Amb Optoelectronics Technology Co Ltdは、水銀灯400Wからの置き換えを狙った調光タイプのLED照明器具を展示した。同時に、照明器具をインターネット経由でクラウドサーバを使ってパソコンやiPadなどから制御するシステムを提案していた。日本のNetLED 株式会社(目黒区)がシステムを開発しており、同社は「ライティング・フェア2013(第11回国際照明総合展)」(江東区、東京ビッグサイト)で日本仕様の照明器具とシステムを展示した。

現地で日本のデザインを実現する照明コンサルタントの役割

 植村氏は照明コンサルタントとして、1990年から香港やマカオを中心に、中国、台湾、シンガポール、タイ、ベトナム、カンボジアなどで、レストランやリテイルショップ、ホテル、ショッピングモールなどの計画に携わってきた。香港では照明コンサルタントの仕事が確立されており、主に香港在住の日本人や現地人インテリアデザイナーから依頼を受けている。日本在住のインテリアデザイナーや照明コンサルタントの設計の現地対応を担当することも多い。

図24:和民1(写真:Lighting Workshop Company)
植村氏が照明コンサルタントとして携わった「居食屋『和民』雅蘭中心店
(Grand Tower Shop)」。「和民」は「ジャパニーズカジュアルレストラン」としてアジア各国に店舗展開している。香港の同店には、インテリアデザイナーとして日本のペンシエロが、現地設計者として香港のQuality Design System Ltd.が携わった。

図25:和民2(写真:Lighting Workshop Company)
「居食屋『和民』雅蘭中心店
(Grand Tower Shop)」。植村氏は、主に基本照明の配置やスペックを行い、回路図や調光のシーン設定、装飾照明器具のデザインまで手掛けることもある。スポットライトの当て込み調整や調光の設定は、文書などで事前

 同氏は86年からヤマギワの駐在員として香港でデザインと技術サポートに携わり、90年、同社の香港撤退を機にLighting Workshop Companyを設立した。それ以降、アジアの多くの地域への出張が1泊程度で済ませられる利便性の良さや、規模の小さな街での動きやすさを生かして、香港で仕事を続けてきた。香港ならではの仕事として、マカオにあるカジノ施設内の店舗「NORTH」(インテリアデザインは香港のhands creations limited)の事例などがある。同店舗に対して植村氏は、24時間過ごす人も多いカジノに、1日に何度訪れても違和感を感じさせないよう、昼と夜のシーンを設けて時間の流れを意識させることを提案した。


 植村氏が品質の維持に取り組んだ事例のひとつに、ワタミインターナショナルが運営する香港や中国本土の「居食屋『和民』」や香港の「日本料理『和亭』」の10店舗以上が挙げられる。店舗によって使用する照明器具が変わっても、主照明のランプは、統一して質のよい大手メーカーのハロゲン形LED電球の採用している。照明器具については、アジア進出当初の店舗では、質を重視して日本国内メーカーの製品を採用し、その後はコスト削減のために質がよいとされる台湾メーカーの照明器具を採用したり、中国メーカーの製品を採用したりしている。検討の過程では検査を行い、安全性を重視して製品を選んできた。
 また同氏はある店舗の間接照明で、客席に光が届くところには蛍光灯を採用し、施工寸法の面から蛍光灯が収まらない個所にはLEDを選定した。来店客からよく見えて、顔や料理にも影響する光の演色性を重視し、光の色や明るさのばらつきも目立たせないようにしている。こうして、初期費用のコストカットや省エネによる経済性と、光やデザインの「質」の両立を目指して検討を重ねている。

 同氏によると、日本製やヨーロッパ製の照明器具と、現地で多く出回る製品の価格差は、同じランプを使っていても3〜4倍の開きがあるという。その上、電気料金が安く、日本よりもLED導入による初期費用の増額分をランニングコストの低減によって回収することがむずかしい状況にある香港や中国本土では、上記のような方法が、他の物件でも有効な対応だといえるだろう。

 また「NORTH」では、運営者、設計、施工、メーカーの協力体制が整ったことで、照明デザインや光の質、照明器具の安全性を維持することができたという。
 例えば、運営者は、設計や施工に対する理解の上で、検討に必要な時間や費用を確保した。インテリアデザイナーは、植村氏の提案を受け、照明の配置を優先して、設計の初期段階で天井の形状を変更した。施工者は、丁寧な施工を行い、図面通りの位置に全ての器具を取り付け、ランプのビーム角が図面と異なる個所を1%以下に留めた。同氏は「通常は、器具の取り付け位置やランプのビーム角を間違えるケースが多いため、工事の正確さに驚いた」と話す。
 また照明器具については、同氏が検査を行い、ランプの口金と固定用のバネが接触して短絡を起こさないようにするなど器具の安全性強化をメーカーに求め、メーカーは対応を行った。同氏は「マカオの物件には、欧州系照明メーカーの照明器具を選んでも、中国国内で生産した中国向けの製品が使われるため、検査で安全性を確かめることは大切だ」と説明する。


 同氏は他の物件でも、失敗しないための進め方を探って来た。例えば、ダウンライトの下面に取り付けたプレートに小判形の穴を設けた可動タイプのピンホールダウンライトについて、次のようなことがあった。採用した製品は、ランプを傾けたときに光が通る方向とは反対側に穴が開けられており、ダウンライトから光が出ない。そこで、納入会社に指示して工場で正しく組み立てたものを再納入させたり、現場で組み立て直させたりした。同製品について「イタリアメーカーの製品をもとに世界中で類似品が作られている。採用した照明メーカーは、機能を理解しないまま製造していたようだ」と同氏は説明する。
 また、天井にダウンライトを取り付ける場合、事前に天井ボードに器具に合った寸法の穴を開けておくが一般的な進め方だが、同氏は、照明器具が現場に届いてから穴開けをするように指示する場合があるという。器具の仕様図と現場に届いた器具の大きさが違ったり、工事担当者が、仕様図に記載された器具の枠の外形寸法と天井の開口寸法を読み間違ったりすることがあるためだ。
 中国などアジア圏の製品や施工の質は、ここ数年で急激に向上しているとも言われるが、設計者や施工者に注意を促し、質を維持する照明コンサルタントの役割は、今後も重要だといえそうだ。

日本からアジアへ、地域に適した照明デザインを

 日本を含めたアジア諸国の照明デザイナーやコンサルタント、メーカーが質の高いデザインを各地で実現することは、価格競争が厳しいアジアへの進出においても、一つの重要な役割を担うことになるだろう。

 「ASIAN POWER OF LIGHT」第1部に登壇した照明デザイナーの近田玲子氏(近田玲子デザイン事務所代表)は、イベントを終えて「欧州のテクニックを吸収した照明デザイナーが、これからどのようにアジアらしさを発揮するか、問われる段階に来ている。照明デザインの手法は、デザイナーの共通の知識となりつつある。知識を自分の言葉として紡ぎ、ストーリーをつくることが大切だ」と語った。

 同イベント会場の最前列で全ての講演を聞いた照明デザイナーの面出薫氏(ライティングプランナーズ アソシエーツ代表)は「高度経済成長を経て、技術的にも文化的にも、日本がアジアの旗ふり役だと思って来たが、アジアにそれぞれの顔があることも分かってきた」と語る。「照明デザインの究極の目標は、グローバルに話すことよりも、ローカルに話すことだ。同じデザインの建築を海外に輸出するだけでなく、外に出てそれぞれの地域にあった照明デザインをしてほしい」と、同氏は今後の照明デザイナーの活躍に期待を寄せる。

執筆者:三橋 倫子

フリーランスライター/照明デザイナー
1977年神奈川県生まれ。
武蔵野美術大学造形学部空間演出デザイン学科卒業。早稲田大学芸術学校建築設計科卒業。
照明メーカーを経て、2007年よりフリーランスで照明計画を開始。照明設計事務所を経て、09年より「ケンプラッツ」(日経BP社)の記事の取材・執筆をきっかけに、ライターとしても活動を始める。建築、住宅、デザインの分野を中心に、主に照明に関する記事の取材・執筆を行う。共著「一冊でわかる リフォーム・耐震改修 設計術」(エクスナレッジ)。

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