日経メッセ > ライティング・フェア > 連載コラム > 照明技術・デザイン最新事情 > 第30回 有機EL照明とSSL-7  日本のあかり文化と有機EL照明

連載コラム

第30回 有機EL照明とSSL-7  日本のあかり文化と有機EL照明

[ 2013年1月24日 ]

落合勉(M&Oデザイン事務所)
Light Bridge Association JAPAN NPO(あかりの架け橋)

はじめに

---------- その1、 省エネへの思い、「あかりの日」
 今冬のイルミネーションも東日本大震災復興への願いと省エネ志向とで、謙虚自重の様相です。数年前の派手な演出から知的でさりげないイルミネーションが増え、落ち着いた夜の街あかりの景観で、いまやイルミネーションの光源は省エネのLEDです。さらなる省エネ照明の普及にと日本照明界は「あかりの日」の街頭PRを全国10ヶ所で昨年も実施しています。東京・有楽町での街頭PRでは、道行く人たちに「住まいの省エネBOOK」や「省エネ電球」などを配布しながら、道行く人たちからの質問に答えながら快適で省エネな照明をPRしていました。全国で配布した「住まいの省エネBOOK」と「省エネ電球」は11,000もの数でした。
この「あかりの日」、1879年にトーマス・アルバ・エジソン(米国)が実用的白熱電球を発明(40時間連続点灯に成功)した10月21日にちなんだもので、日本の照明関係4団体(日本電球工業会、日本照明器具工業会、日本電気協会、照明学会)がその功績をたたえ、制定したものです。趣意は「照明文化の向上による豊かな社会の創造とエネルギーの有効活用」をめざし、照明のもつ意義をあらためて認識するとともに、正しい照明知識の普及と啓蒙活動を推進するためです。 関東地区での啓蒙活動は10月19日快晴の秋空の下、上記4団体や照明業界関係者のお揃いの「はっぴ」姿が印象的でした。


図1 東京有楽町の電気ビル前で道行く人たちに、住まいの省エネBOOKや省エネ電球の入った袋を渡しながら、省エネ照明と「あかりの日」をアピール。


図2.3 配布の住まいの省エネBOOK表紙と「あかりの日」ポスターコンテスト最優秀作品《画像提供:(一社)日本電球工業会》

 また「あかりの日」にちなんだ活動として、全国の小学生ポスターコンテストなどもありますが、今年もLED工作教室が実施されました。今回で7年目になり、全国5箇所で開催されました。今や北海道から九州・沖縄まで広く開催されるようになった各種のLED工作教室、これほど続いている例は世界でも少ないのではないかと思います。 
この「あかりの日」のLED工作教室は、省エネ照明普及のために日本電球工業会後援のもと、日本を代表するランプメーカーの工場がある地域の小学生らに、LED照明の楽しさや原理、歴史などを知ってもらおうと企画、実施しているものです。 図4は親子で制作している大阪・高槻市での会場風景で、地元の小学校2校の子供たちと保護者の方々が参加したもの。 LEDキットをまず完成させ、次に子供たちの自由な発想創作の工作物に、LEDランプを装着させて完成です。LEDが輝き、点灯すると、会場の子供たちから歓声があがります。"ほんまにオモロイ作品"ばかりの愉しい大阪・高槻市の工作教室でした。


図4.5. 高槻市で開催された「あかりの日」LED親子工作教室の様子。(パナソニック・テクノセンター、プレゼンルームにて) 地元小学校の生徒と保護者有志の方々約50名と、 LEDキット制作に協力する地元の照明企業・パナソニックの社員たち。

 次の図6.7は甲賀市の小学校で実施された工作授業の様子です。甲賀市にあるNECライティングのランプ生産工場が、地元との協調活動の一環として、地区小学校での工作授業に協力をした様子です。
 小学校側では事前に、自宅で不要となったペットボトルや空き箱など活用して、ロボットや車やケーキなど、好きな工作物を作って用意させます。そして当日は電気や省エネのことなどを学びながら、LEDキットを組み立て、そして工作物に組み込みます。事前にプランニングし制作した自由発想の工作物に赤・緑・青などのLEDが点滅します。その様子を参観のお母さんたちも安心(乾電池3ボルトですから)し、微笑みながら見学していました。 元気な歓声の中で発想豊かな創作作品が多数見られた工作授業でした。 


図6.7 滋賀県甲賀市の小学校工作授業の様子。LEDキットを組み上げ、不要のペットボトルや空き箱で作った工作物にLEDを組み込んだ作品と、その制作教室の様子やサポートする地元照明会社のNECライティングの方々。

 今年も出来上がる作品たちを拝見し思うことは、毎回ユニークで発想が豊かな作品との出会いがあり、感激することです。主催の小学校の先生からも「予想以上にユニークなLEDの使用方法との出会いに驚きます!」と、子供たちの創造力の豊かさを改めて認識されていました。 21世紀の最新光源LEDで、感受性豊かな子供たちが創りだす作品に、そしてお互い感動し完成の喜びを分かち合っている子供たちの様子を見るたびに、省エネ照明活動が広がることを期待するのです。そして次回の「あかりの日」には、このLED工作教室を東北で開催することを望みます。

---------- その2、 省エネ照明先進国の今後の照明デザイン意識
 ところで普及し始めた日本のLED照明ですが、世界的には本格的な実用はこれからと言えます。 その普及度合いでは、LEDを量産し、積極的に実用している東アジアの日本・韓国・台湾等で先行していると言えます。中でも日本は世界一早くLEDを量産化し、使い始めた国で、さらに3.11以降の省エネ志向の高まりや電力料金UPとも重なり、実用されているといえます。 そして実用の商品では、現在日本市場に隣国LED製品が数多く輸入販売されているのも実情です。 その様子は省エネ強調の広告が示すように、省エネ優先とランニングコストの低減です。これら東アジア諸国からの輸入安価品に、日本の製品群も省エネ性に重点を置き、コスト対抗した品揃えで市場展開を強いられるのが実情といえます。心地よい見やすい快適照明への工夫提案は欠落しやすく・・・、留意する事柄です。


図8 LED Next Stage2012でみかけた東アジア諸国で製造したLED照明器具

確かに既存白熱電球との対比でしたら電気代の大幅カットも可能でしょうが、蛍光ランプとの比較となると違います。同等か、少しの省エネになる程度です。 とはいえ省電力への勢いは衰えるどころか益々強まる日本です。LEDによる心地よい快適照明はおざなりになりがち。省電力で明るければ、グレアが強く視認性が悪化したLED照明の事例でもOKとの風潮にも・・・。 これではLEDは照明環境を悪くし目に良くない!といった発言が出てきてもおかしくありません。いかに省エネ環境共生のLED光源で心地よい快適照明を創りだすか?省エネ照明を推進する関係者によって、LED特性の快適な用途事例を数多く提示し、啓蒙も実施すべきだと思うのです。単なる従来光源の代替(LED電球やLED蛍光ランプ/直管形)の普及や、さらに既存器具形態のLED化(LEDダウンライトなど)では、アレンジであって、「ものづくり大国・日本」と賞賛される意味とやや異なります。いかに新光源LEDによる新用途提案ができるか?その提案を日本照明界は種々に創出したいものです。

 日本照明界が提唱する省エネ照明器具ビジョンでは、「2015年に既存蛍光ランプ製品の2倍の明るさのLED照明器具を市場に!」と示されています。その効率を大幅アップさせる技術ですが、現実的になりつつあり、素晴らしい開発技術力です。これをもっていかに心地よい照明演出をするか?新用途提案とあわせ新・日本のあかり文化の形成を試行したいものです!


図9 照明器具ロードマップ(出典元:「照明器具業界の新成長戦略」(一社)日本照明器具工業会、2011年発表資料より)。3年後の2015年には、蛍光ランプ器具の2倍の明るさのLED照明器具の生産と普及開始を提唱しています。

 さて、最近のヨーロッパ照明業界はLEDの新照明デザイン提案に積極的です。この傾向は2~3年前から顕著で、特にイタリアは州政府や国を挙げてこの新照明デザインに積極的です。この間、日本は新デザインより明るさとコスト低減を優先追求(デバイス開発に没頭)していたといえます。それはそれで重要で大切なことで、差別化や高付加価値に大切ですが、いかに明るく高性能デバイス(またはモジュール)であっても、その特性を示す用途提案(製品化の新デザイン)が示されなければ単なる部品で高付加価値商品になりにくく、新市場形成に時間を要します。現状の日本は、高機能部品は既存製品の代替部品となった部品代替化先行市場となっているといえます。

 LED照明の新デザイン提案はヨーロッパが先行と記しました。その事例(図10、11、12、13、14)を示します。それらは新用途提案デザインであり、市場の実売実績はこれからです。ですからどのような空間に適するのか、また、照明効果や心地よさも未知数の新デザインです。ヒット商品にはならないかも知れませんが、新デザインでヨーロッパはLED照明をアピールでき、その歴史を創り始めた(刻んだ)訳で、これは21世紀のLED照明の中心はヨーロッパからだ!との事実化作りといえましょう。 最近のグローバル市場は「ブランド」の存在が優劣を決めかねませんから、LED新デザインによるブランド創出は、ヨーロッパをLED照明の中心だと認識させることに有効でしょう。数年前まで筆者はLEDの技術、そしてLEDデザイン提案も日本は世界トップランナーと公言していましたが、残念ながら今は別です。


図10 イタリアZEROOMBRA社のペンダント(2009年)
小型で軽く発熱が少ない(負荷を掛けない使用で)LEDだからこそできた樹脂によるコンパクトで自由な形態が可能。高熱発する従来光源では創出できない造形である。


図11 イタリアTARGETTI社のペンダント(2010年)
小型で自由に連ねられる光源LEDだからこそ、超薄型のドーナツ形状が形成できる。グレアをなくすための反射光活用のペンダントである。


図12 ドイツIngo Maurer社のペーパー・シャンデリア(2011年) 弱電で発光する(20ミリアンペア、3.5ボルト)LEDであるので、通電箔プリント紙にLEDデバイスを付けて発光させたペーパーのシャンデリア。20世紀の光源では不可能な器具である。


図13、14 イタリアFlos社のLEDチューブライト(2011年)
1996年にシリコンライトの名で九州福岡のベンチャー企業から発売されたLEDチューブライト、2004年にはニューヨーク・タイムズスクエアの広告看板や有名ブランドショップのウインドーなどに使用された実績を持つ。その後もサイン&ディスプレーや工事現場などにこのLEDチューブは多用されてきたが、単にチューブを這わすのみのライティングに留まっていた。紹介の写真は、2011年ミラノで開かれた照明展のFlos社の展示会場の様子。LEDチューブに新しい用途デザインを施し、美しい壁面照明システムを展開し発表。日本が先駆けたLEDチューブライトであるが用途提案の追及はされず、10年ほど経った昨年に付加価値商品としてイタリアからイメージチェンジ(リ・デザイン)されてきた。昨年この展示を見た時に強く思ったことがありました。それはいかに使う方法を分かりやすく、そして美しく提案できるか?でした。しばしの間、このFlos社のLEDチューブライン展示に見惚れていました。そしてイタリア人の美へのこだわりの高さに改めて教示を受けたのです。

 ところで、LED製品はマルチトランスの世界普及でボーダーレス商品(世界中で使用が簡単)です。ですから今後大量に世界から日本市場へ導入展開されましょう。ヨーロッパ仕様であっても中国仕様であっても、ほぼ同様製品で・・・。
 このことは商品化が進む有機EL照明においても同様で、LED同様にデバイス(パネル)開発だけではなく、新たな実用のあり方の提案(実用研究)=新照明デザインの探求と提示も同時に必要であると痛感しています。
LED同様に有機EL照明は基礎研究と応用研究では日本は世界トップランナーだと思います。しかしながら実用研究では違ってきています。有機EL照明とLED照明とでは、その用途提案が違い、実用での様式も異なると思考しています。特に面照明の有機EL照明は19世紀までの日本のあかり文化と関連すると思考し、独自に調べてきました。下記にその用途提案への参考概念を示します。

日本のあかり文化と和紙について

 LEDが点光源であるなら有機ELは面照明であり、日本は1000年以上前から自然と共存する形で、面的採光を上手に取り入れた生活を育み営んできたことに気づかされます。
照明文化研究会という日本のあかりを愛する人たちの会があります。入会して10年が過ぎた2005年ごろ、私は日本のあかり文化の素晴らしさに気づかされます。そして21世紀の主光源であるLEDやOLED照明に、日本のあかり手法は大変有効であるのでは、と思うようになりました。

 「日本のあかり文化」の照明手法に、和紙の存在は大きく、その使い方は多種多様です。そのことを、古代製紙を本格的に研究した国際的紙史研究の第一人者Dard Hunter(1883~1966)の著書「A Papermaking Pilgrimage to Japan, Korea and China」(Pynson Printers, New York 1936)に詳しく紹介されています。その巻頭序説文中に、『風雅な紙窓のある日本の家は、(中文一部略)われわれ西洋人の知らない方法で紙を用いている。そこから学ぶことは多く、東洋の特に日本の職人たちは製紙術を発展させて、それをあらゆる用途にふさわしいものにしている。(中文一部略)日本人はもともと手作りの仕事にすぐれた才能をそなえ、しかも日本産コウゾ、ミツマタ、ガンピなどの靭皮(じんぴ)繊維を用いている。現在の日本の手漉きの紙は、すべての製紙工業のなかで驚嘆に値する素晴らしい工芸といっても言い過ぎでない。』と記している。(訳本「和紙のすばらしさ」/久米康生訳より) 世界の紙の研究者であったハンター氏ら多くの欧米人は、戦前に日本の紙である和紙を絶賛しているのです。

 その素晴らしい日本の紙、和紙はどのように生まれたのでしょうか?そしてそれがどのように日本的面照明となるか、考察してみました。
 私たち日本人は神社などで祈願するとき、和紙の御幣(ごへい)でお払いをします。これは中国・唐から紙が伝来し、紙を漉く技術を修得して日本でも製紙が行われるようになった飛鳥時代以後のことで、それ以前の古代日本人は「ゆふ」と言われた白い糸状の繊維を束ねて、神前で左右に振り清めていたといわれます。その白い糸状の繊維が、楮(コウゾ)の皮の繊維を蒸した後、清らかな水の流れに何度もさらしたものです。それは後に、紙の原料となる糸状の美しい白い繊維でした。身近に使用していた楮の「ゆふ」を紙作りに試したであろうことは容易に想像できます。 
 飛鳥時代後半には日本の楮で紙が作られ、平安時代初めに今日の和紙製造「流し漉き製紙法」が完成しています。この製法で日本は、薄く美しい紙から厚い強靭な紙まで製造できるようになり、薄くて美しくねばり強い紙はあかり障子や襖障子、さらには折りたたみ屏風などに使われました。室礼(しつらい)に必須の日本特有の空間間仕切り道具の誕生です。
 そしてこれは面照明の空間を構成した建具に、または装置として、鎌倉時代に成立した書院造りの面照明的採光手法(あかり障子)として展開しはじめました。 

日本のあかり文化とSSLの照明手法

 和室にいるとなぜか心穏やかになり、気持ちがやすらぎます。そう感じるのは私だけでなく多くの人も同様と思います。なぜ和室は安らぐのか?その日本の建築空間に着目してみました。
 日本の和風住宅建築と、世界で認知される書院造り、その中には面による快適照明へのヒント(和紙の多用)があると考えています。その確認のため書院造りを視察し、そして今までの照明経験や学習した事柄、さらには日本古灯具などから教示された事項等を整理してみました。その結果、次のような事柄に留意するようになり、それらを試みたり考察したりしてきました。そしてLEDやOLEDの照明に有効であると思考するに至りました。それは「透過光」と「反射光」と「グラデーション」、次いで「光色×パターン」と「3次元」と「4次元」、そして「バランス」の7つです。私はそれらをSSL照明への手法として挙げ、SSL-7と称することにしました。この7項目について補足します。

 最初の「透過光」と「反射光」は、本コラムのLED照明の記事掲載時に、ぎらつきのない照明として有効と紹介しましたから、熱心な読者でしたら既に理解されていることでありましょう。 その「透過光」と「反射光」ですが、書院造りの室礼では拡散光にして有効活用されています。それは和紙による拡散透過光や拡散反射光として、です。例えばあかり障子では拡散透過光を生み、そして白いからかみ障子(ふすま)や土壁、漆喰壁などは拡散反射光の面照明となっています。さらに夜間でのあかり障子は、室内灯の反射面としても成り立っています。このように書院造りに多用されるあかり障子や襖は、空間間仕切りとしてだけでなく、透過光や反射光の有効活用の道具でもあるのです。いかにこの道具(障子や襖など)を空間において有効活用するか?そのキーワードとして拡散を伴う透過光と反射光を挙げました。有機ELの面照明にもこの2項目は重要なファクターと思います。

 次いでSSL-7の3つめ「グラデーション」です。インテリアデザインをする時にその空間のインテリアエレメントをどうするか、確認をします。インテリアエレメントとは、床壁天井の主要な空間構成材を意味し、書院造りでしたら床の広縁や畳、壁面の障子や土壁、そして天井です。書院造りに使われる部材やその仕様は、淡い色調(赤とか緑でなく白やベージュ系)が多く、しかも鏡面仕上げではなく適度の凹凸(粗さ)を有した乱反射する素材面、畳や和紙の表面です。つまり室内への採光時や夜間の人工点灯時の面、その輝度対比を意味します。白い和紙を多用する書院造りの輝度面対比の微妙なる差異は美しく、日本人の持つ豊かで繊細なグラデーションの感性でありましょう。

 4つめの「光色×パターン」は、SSLの点灯時の形態を考察したもので、LEDの場合とOLEDでは、また発光方式でもパターン違いでもその考察内容は異なり、記述が多様になり判りにくいので、ここでは書院造りを例にして記します。
書院造りの空間は各種の平面で構成されています。その空間の構成形態は書院造りの一つである数寄屋の茶室が究極の形態と見なしました。そして千利休の「待庵」の採光について考察してみました。採光の位置とパターンや外光による和紙輝度の様相、さらには床壁天井面の表面色や反射光色などです。待庵を忠実に複製したといわれる今治市河野美術館内にある柿の木庵の茶室にて、しばしの間身を置いてみました。それらの織り成す空間は穏やかで心地よく快適で、空間への光色とその形態のパターンにはバランスよいリズムを感じました。 
なぜに千利休の待庵が国宝とされ、その空間が尊ばれているか?少しですが理解できたように思いました。それは落ち着く境地になれるからでは・・・と思いました。当然ながら光の光質(あかり)とその面積と配置パターンの妙味が、光源照明部位と床壁天井材の反射部位とのバランスが居心地のよい理由かと思いました。それは光の質と(光色)とそのパターン展開にあると考察したのです。

 SSL-7の「3次元」、「4次元」ですが、文字のごとく立体と時間軸を加えた4次元の意味です。20世紀光源では自由な立体光源形体は難しいが、SSLなら可能で、しかも点滅調光などもデジタル制御でほぼ完璧にできましょう。つまりこの3次元、4次元の概念は空間の拡がりや時空間の移動を示します。そしてこの拡がりや時空間移動の概念は、ブルーノ・タウトが心酔し絶賛した桂離宮の空間にあります。この桂離宮の作り成す空間は、美術教育家として世界に名高いL.モホリ=ナギ(1895~1946)が著書「ザ・ニュービジョン」で述べている『広がる空間概念』や、垂直水平の構成で近代建築やデザイン界に影響を与えた「デ・ステイル」(1920年前後のデザイン様式の名)創始者の一人テオ・ファン・ドゥーズブルフ(1883~1931)の提案する「住宅空間構想の概念」と通じています。(このL.モホリ=ナギとテオ・ファン・ドゥーズブルフの概念については向井一太郎、向井周太郎著書「ふすま―文化のランドスケープ」から引用) そうです!桂離宮の空間にあるもの、それは障子による拡がりと空間変化=移動です。
 桂離宮ですが、日本人の自然観にもとづいた住居づくりと環境造成のすぐれた数寄屋風書院の代表例として有名で、主にあかり障子やからかみ障子(襖障子)の構成で空間を形成しています。その開け閉めや取り外しで空間スペースはダイナミックに変化し、採光も大きな変化が可能になります。 ヨーロッパの石による壁構造の建築では、空間スペースの変化や開閉採光の大きな変化などは難しく、鉄とガラスによる近代建築空間作りが展開される20世紀までありえない考えでした。ですから来日し、桂離宮を訪れたタウトは、当時先端のヨーロッパ建築概念が書院造りの桂離宮ですでに空間構築されているのを発見し、驚嘆したのでした。それも装飾性なく簡素でしかも自然と調和・協調したその美しさを、絶賛したのでした。
 透光性ある発光部材の使用で透明性があるパネルが実用可と目される有機EL照明、桂離宮のように可変する面的空間の拡がり概念(3次元)と併せ、新しい用途提案の可能性が考察されるのです。

 SSL-7最後の7つ目は「バランス」です。この意味は「調和」を意味したバランスです。 筆者は2003年にLEDチェアをデザインしました。そして2007年からOLEDの照明デザインにも携わりました。そのことからSSLの実用化には20世紀スタイルの照明デザインでは難しい、ほとんどできないこと学び知りました。
 SSLデザインには発光装置と制御装置と電源装置とが調和しないと、快適照明はできないわけですが、その装置の多くは電子回路で、その部品相互の適正に配慮を要します。SSLはいろいろな照明演出が可能で、そのためには装置の組み変えや調整も必要で、しかも弱電ですから静電気などでも誤動作するほどデリケートで、扱いに配慮が必要です。また進化途上のSSL光源、モジュールなどの発光部や制御方法・電源などが次々に改良され、よりよい部材が加わります。半導体の開発サイクルの速さは周知のごとしで、そのつど適応へのチェックが必要です。また技術的分野だけでなく、照明デザイナーやその実現へのプログラマーやオペレーターなどとも調整協調する必要があります。(発光部位での協調・調和)
 さらに発光部位の光源部だけでなく、照らされる部位のことも留意しなくてはなりません。それが照明演出デザインであり、「美しい快適照明のデザイン」と云われる照明美の片側=「照らされた部位の美しさ」であり、「直接発光する部位(光源部位)の美しさ」とが合っての「照明美」と言えましょう。片方だけでは不十分です。これもバランスでありハーモニーです。
 そして照明デザインのバランスとなると照明美と造形美があります。造形美はフォルムの美しさであり消灯しても存在し、無視できません。以上のようにバランスと言っても多様にあり、それぞれ調和が必要と思うのです。

 以上、SSL照明手法の7項目と名づけている事柄を、自然に寛容の開放的建築様式・書院造りを挙げて説明してきました。そして、さらにその流れを組む数寄屋造りの代表的建築物「桂離宮の和紙の活用事例」や千利休が確立した日本の茶室での採光の概念なども面照明のあり方として説明に加えて記しました。


図15 和紙に光が当たった時の拡散を表している。広くあらゆる方向に拡散放射されるのが理解できる。


図16 千利休が作ったといわれる茶室(待庵)を再現した柿の木庵茶室の空間の採光


図17 数寄屋造りの茶室・柿ノ木庵のあかり障子空間 (河野美術館)




図18、19 桂離宮と対比される三渓園の聴秋閣の様相


図20、21 日本の家屋における採光を示したイラスト。障子の透過拡散光や反射光を活用。
日本建築の深いひさしは、太陽の夏の日差し(直接光)を室内に採光するのを防ぎ、廊下の板縁に反射した間接面光を室内に入れ、明るくしている。さらに和紙張り障子の透過拡散光面も、拡散する面照明である。


図22 書院欄間や書院障子からの採光が白壁(ふすま)、床(畳)に反射して広がる様子を示した書院造りの様子

補記:
 1933年(昭和8年)バウハウスが閉校する頃に、日本滞在中のドイツの建築家ブルーノ・タウトが日本建築の粋と桂離宮を絶賛したことは有名な出来事です。それ以来、劇的に評価が高まりましたが、それ以前桂離宮は特別注目される存在ではなかったと聞き及んでいます。なぜ当時最新の建築デザイン思想を持ち、実践していたタウトが「世界的な古典建築として永遠なるもの」とまで絶賛したのか?その理由が今回のSSL-7を考察する過程で判って来ました。それは当時ヨーロッパで新しい建築概念として出現し始めた「内外空間の透明性」や「広がる空間」や「自然との融和」を追求するモダニズム建築の造形美、それに桂離宮が通じているからです。からかみ障子(ふすま)やあかり障子の構成で空間の広がり(開閉や取り外しで)を、さらに当時ヨーロッパで新しい建築概念とされ始めた「内外空間の透明性」をも、350年も前に実現し、確立していたからなのです。

おわりに

 東急・東横線の駅のプラットホームの照明がLEDに変わったというニュースを友人から聞いていたので「機会があったら見たい!」と思っていたところ、偶然にも駅プラットホームのLED照明器具を発見!嬉しくなって持参カメラで"パチリ"。 先月下旬に埼玉県の知人宅訪問を終えての所沢駅で、習慣で何気なく上を見ました。平行して2台の細長い照明器具が並んで目に映った。『プラットホームの改装工事だ』と思い、じっくり見ると直管40ワット2灯用反射傘つき蛍光ランプの横に、横長手の白いプラスチック製直方体がペタリと付いた長い箱が吊りレールに付いています。『おや!2週間ほど前に東京国際フォーラムの展示会で見たLED器具に似てる!』と気づきました。偶然友人に出会ったような気分になり、嬉しくなった次第です。2週間前に視察に行った展示会はSuper Box 2012、パナソニックの展示会でした。
その展示会で、筆者が注目したのは和室壁面に配置した面照明の有機ELパネル、地下室などの疑似窓を想定した用途提案でした。量産でコストダウンになれば広く実用化されるであろうと、思った次第です。


図23.24 所沢駅ホームで見た、直管形蛍光ランプの代替品と見受けられる110型LED照明器具


図25 Super Box 2012の会場に展示されていた有機EL照明、「地下室などの疑似窓を想定しての用途提案」

 2012年末での、有機EL照明の照明器具作品は世界20社ほどから発表されていると思います(正確に調べていないので想定数です)が、それらの多くがデモンストレーション・モデル、つまり特別PRのための特注試作品が多く、量産化のための製品は一部でした。しかもそのパネル価格も150mm角サイズで2万円相当ですから、光源部位がこの価格では、商品にしたら高価格器具になってしまいます。しかし数年後には材料や生産技術が研究開発されてコストダウンしたパネルが出現し、新しい用途提案による新市場創出がなされましょう。

その有機ELの研究開発の発表会が11月21日に島根県松江市で開催され、日本の最新研究成果が発表され、活発な質疑応答が展開されました。その研究発表会は「第15回例会 有機EL討論会」で、以前本コラムで紹介した「有機EL研究会」同様、大学研究室や企業研究所などからの研究者で構成されている団体です。発表論文はパネル製品開発への有機材料研究や生産技術の基礎研究や応用研究の成果発表でした。特別セッションの講演者として紹介された筆者は、「有機EL照明の可能性と日本のあかり文化」と題し、デザインの手法についてSSL-7を紹介し、パネル新製品発表時にはパネルの最適用途提案(デモンストレーション・モデル照明器具)も同時に発表すべしと講演したのでした。確かなパネル品質の追求より市場流通チャンネル構築を優先する戦略でなりふり構わずパネル拡販に走る他国の有り様を知るにつけ、不良より確かな製品パネルとその用途提案デモ・モデルでの信頼のブランド構築をと願うのです。


図26 第15回例会の有機EL討論会で配布された研究発表の予稿集


図27 特別セッション用に用意した筆者の予稿頁


図28 パネル展示をしていた三菱化学


図29 用途提案も手がけるOSRAM

SSL照明手法への7項目補足説明用に掲示した写真・図22は、書院造りの採光の様子を示したもので、左右に補充のキィーワードが配置されている用紙です。この用紙は昨年11月から始めたミニ・シンポジウム"プレakali塾"(連続4回開催)で配布した資料の一部です。初回テーマは「日本のあかり文化と空間SSL照明」で、「近代建築デザインと桂離宮について」を、映像を用いて解説しました。ミニ・シンポジウムは、2013年7月からのSSLの照明塾の開催告知が目的で、奇数月第1土曜午後に横浜・LBAで開催するものです。第2回は「日本のあかり文化とそのルーツ」で、日本の古灯具をテーマでした。次回は3月でSSL-7に興味ある方は、LBA JAPAN NPO ホームページで、「新akali塾横浜-2013年夏-開塾」を参照ください。

 また、3月には「ライティング・フェア2013」が東京ビッグサイトで開催予定です。多種多様のSSLの新用途提案や、あたらしい日本のあかり文化の提案が紹介されることを期待します。

照明技術・デザイン最新事情
執筆者:落合 勉

照明デザイナー
M&Oデザイン事務所代表
LBA JAPAN NPO 理事長、愛知県立芸術大学非常勤講師、照明文化研究会 会長


1948年愛知県三河生まれ、ヤマギワにて照明を実践。
1991年横浜にてM&Oデザイン事務所スタート、現在に至る。
2001年からLED照明デザインワークに特化しての活動を展開、そして2006年からはOLED照明普及にも尽力。
2006年のALL LEDの店舗空間、2008年のALL LED街あかりや住空間、2009年のALL OLED照明空間など手がけ、SSL快適照明を探求提案。
器具のプロダクトデザインや照明計画などを行う傍ら、国内外の照明関連展示会や企業などを訪れ、グローバルな照明最新情報をインプットする。コラム(http://messe.nikkei.co.jp/lf/column/ochiai/index.html)参照。
趣味は古灯具探索で、日本のあかり文化の認知普及活動を展開中。
2009年7月、Light Bridge Association JAPAN NPOを設立し、理事長に就任。
次世代のあかり文化を担う「あかり大好き人間」の育成を目指している。

バックナンバー

PAGE TOP