第16回 ライティング・フェア2009を視察して 後編
[ 2009.07.16 ]
はじめに
6月7日の日曜日、テレビでNHKスペシャルを見ました。グローバルな世界にあって今後の日本経済のあり方を示唆する番組でした。数日前に名古屋での講演「世界の構造転換にどう向き合うか」(主催/中部産業・地域活性化センター)を聴講していたので、その講演内で寺島実郎氏が提議する意図がよく理解でき、アジアを取り巻く経済事情を改めて考えることができました。照明業界で生業を持つ私には、氏の語る意味から「昨今の中国や韓国のLED照明の急速伸張の動き」と重ねた次第です。
昨秋の米国発の金融危機、日本の照明業界も少なからずの影響を受けていますが、省エネ・環境共生型事業には市場ニーズの顕在化もあり、事業伸張への期待が見なされています。この省エネ・環境共生の照明で21世紀の主光源と認知されているのがLEDとOLED(有機EL照明)で、共に日本は世界最先端で技術開発を展開してきました。特にLEDは実用光源として確立されつつあり、1~2年後にはLEDによる照明世界市場が大きく形成されるといわれています(2015年には市場規模が予想1兆円)。
それを見越してか、今春3月の東京ライティング・フェア2009の様相は本コラム前回で紹介したようにLED照明のオンパレードで、中国や韓国からの製品も目立ちました。
図1、2 LED照明が9割とも言われた東京のライティング・フェア2009(3月3日~6日の開催)
会場風景
これらLED照明の海外動向も後ほど紹介したいと思いますが、まずはLED照明の次といわれる次世代型光源・有機EL照明のライティング・フェア2009での展示の様子を紹介したいと思います。世界最高の明るさ(輝度)と世界最大の有機ELパネルサイズと、世界最多のパネル数を一挙に展示した「OLED CAFE」と名した「有機ELラウンジ」、その質と量と斬新なる演出に来場者は新たなる驚きと可能性を強く持たれたことでありましょう。
図3 有機ELパネルの薄さが強調されたライティング・フェア2009
会場入り口のWelcome Sign
図4 ライティング・フェア2009会場奥隅に設けられた
OLED CAFE (有機ELラウンジ)の様子
世界が注目の有機ELラウンジ
456枚もの有機EL照明用パネルで照明演出された「有機ELラウンジ」は、山形県の有機エレクトロニクス研究所の協力により実現しました。4エリアに13種もの最新有機EL照明器具が床・壁・天井にレイアウト設置され、バランスよく調光、点滅の演出を展開していました。その有機ELの透き通るような高貴な白色光が、ゆっくりと消えていく様子を見つめ続ける人たちでこのブースの前は3重、4重の人の輪が形成されていました。ところでこの13種もの有機ELパネル照明には、世界最新の技術がさりげなく多数組み込まれ披露されていました。しかし注意深く観察しないと、その薄さと明るさに見とれてしまい、「凄い!」ことに気づかずにいた方もいらっしゃったと思います。そのいくつかを紹介します。
世界最初の不点灯時に透明になる有機ELパネル、そして蛍光灯アクリルカバー器具並みの明るさ(5000カンデラ/㎡や6000カンデラ/㎡の輝き)、さらには明るく輝きながら音楽を奏でる有機EL照明パネル、リモコンで点滅、調光を自由にコントロールできるパネルなど、さりげなく展示実演されている技術の数々。照明業界の人たちでさえ初めて見るのですから、建築家やデザイナーの方々はさぞ驚き、新たなるイマジネーションを感じられたことでありましょう。
有機ELラウンジで使用された有機ELパネルは、140ミリ正方形のサイズが主でした。他には最小の18ミリ正方形などを含め、5種類のサイズで器具化されていました。薄さは放熱部込みで1.6ミリ~2.5ミリで、3ミリ以下の薄さ発光そして発光が5000、6000とも言われる輝度(カンデラ)ですから、驚きです。ちなみに5000~6000カンデラの輝きとは住宅ダイニングルームなどに使われるあの白いカバーつきの蛍光灯器具と同等の輝きです。
尚、会場では140ミリ正方形のサイズが最大サイズとして展示されていましたが、同様の輝度を有する300ミリ正方形のパネルも既に試験制作されています。この300ミリという大きさも現時点では世界最大サイズの照明用有機ELパネルでありましょう(山形の有機エレクトロ二クス研究所で見られます)。
ところで、有機ELの発光原理は基本的にはLEDと同様といわれ、その発光材料が無機質の金属化合物か有機物の化合物かの違いですので、有機ELのことを欧米ではOLED(オーレッドと称す)と表示認識されています。そしてローボルト(3ボルトほど)での発光が基本というのもLEDと同様です。より明るさを増すための技術は異なり、LEDはチップ数やパワーアップで明るさ増に、有機ELは発光面を重ね合わせて明るさを増す方式(マルチフォトン方式/特許は山形大学の城戸淳二教授らが取得)です。このマルチフォトン方式が日本でいち早く研究開発されて実用的高照度へとなってきているのです。 ちなみに、展示品の明るいパネル駆動はDC低電流駆動で、5素子直列の34ボルト程度で点灯されているとの事で、100VをAC/DC変換しDC/DCコンバーターを通して制御しています。
今回の展示使用有機ELパネルの効率(ルーメン/ワット)は白熱電球を上回る程度ですが、数年後には蛍光ランプ並み(100L/W程)が可能との事、さらに200L/Wも2020年ごろには目標とされると言われますから、21世紀の環境共生型(水銀などの有害物質なし)主要光源としてLED同様に大いに期待されます。
図5~9 有機ELパネルを床、壁、天井に設置展開した事例と照明器具化した数々。
今回のライティング・フェア2009の会場にはLumiotec(山形)が有機ELパネルの販売事業をPR出展しており、照明への新規産業参画がLED照明だけでなく有機EL照明でも出現してきました。発売開始は今秋からとアナウンスされていました。他にはロームも試作モデルを出展していましたし、フィリップスエレクトロニクスジャパンもコーナー展示していました。また前回同様にパナソニック電工とNECライティングも試作パネルや試作照明器具を展示しており、有機EL照明のあかりは次回には会場内随所で見られるようになりそうです。
図10、11 Lumiotecのブースと有機EL照明のデモ・モデルの器具。
図12、13 ロームのブースと有機EL照明のデモ・モデルの器具。
図14、15 フィリップスエレクトロニクスジャパンのブースと有機EL照明パネルの展示様相。
図16、17 パナソニック電工の展示の様相
図18、19 NECライティングのブースと有機EL照明のデモ・モデルの器具。
新型の蛍光ランプと器具
今回のライティング・フェア2009、海外ではLED照明展のように伝えられていますが、市場で広く普及している蛍光ランプの新型も展示されておりました。注目した事例を紹介します。
蛍光管を平らに渦巻き形に加工した「スパイラルパルック」の新モデル30/85/100Wが、パナソニック電工+パナソニックライティング社に展示されていました。ガラス管直径11.5ミリを用いて、従来型丸型蛍光ランプ(ドーナツ型)より長い蛍光管でサイズもコンパクトとなり、大きさコンパクトに、明るさアップとユニークなる光源です。そしてこの光源の20ワットタイプ(管径8.5ミリ)を使用した新製品器具「BUCKET」もあり、新製品・高ワットタイプの今後の器具展開が楽しみです。 渦巻き形での発光に技術の高さや巧みさも加味されて開発されたこのスパイラルパルックを見て、留意した点がありました。「このランプのインバータ、どこにセットすると良いか? 従来の丸型蛍光ランプなら、○形管の空間=真ん中部にインバータ(トランス)を組み込んでいたから収納性が良かった。この新型ランプだとインバータ位置を考慮することになろう!器具デザイン力が要求されそうだ。」と思った次第。 ユニークなスパイラルパルックの、次代のNew Designを期待しています。
図20、21 ユニークな形状のスパイラルパルックとその搭載器具事例「BUCKET」
「国内最高効率を実現した蛍光灯器具」の説明を聞いて、正しく省エネ・省資源型製品/「技術の日立」だと改めて認識しました。その新製品「ハイスリムe5(エコ)シリーズ」と名したHFのT5管搭載製品は日立ライティングのブースにありました。
工場や施設等で一般的に多用されている直管40ワットクラス蛍光灯器具において国内最高効率107ルーメンを実現し、その効果は最大約50%の省エネとCO2排出量削減に寄与するとの事。徹底したスリム形態も使用材の大幅削減になっているとのことです。
専用ランプ管径15.5ミリのT5「ハイスリムUV」は2万時間と国内最長寿命ランプで、水銀量を従来型40ワット蛍光ランプ比の50%低減に成功し、さらにUVカット機能も持つ新製品ランプです。このランプを搭載した高効率の高周波点灯専用器具シリーズ、CO2削減に貢献することでありましょう。
ちなみにE5と記してエコと読ませている理由ですが、省エネのecology、省資源のemission、省コストのeconomy、省メンテナンスのeasy、そして高効率のefficiencyでした。尚、器具は「埋め込み白色ルーバ」、「直付」、「システム埋め込み」で、1灯用と2灯用です。
初期照度補正制御も組み込んで消費電力15%削減するこの製品、エコにデザインが加わる新境地の次製品展開を期待します。
図22、23 日立ライティングの展示ブースの様相と「ハイスリムUV」
その他ライティング・フェア、JAPAN SHOPで気になった製品たち
2回にわたり隔年開催のライティング・フェア2009の様子や留意したことを取り上げ、記してきました。前回のコラムで記しそびれてしまった製品や、同時開催のJAPAN SHOP(店舗総合見本市)会場にて目に留まった製品を簡単に紹介します。
図24、25 制御装置製品などを手がけるIDECの出展ブースの様相。
図26、27 IDECブースに展示のLEDモジュールとLED照明器具事例
図28、29 東芝ライテックのE-CORE LEDベースライトシリーズ。
LEDのグレアを無くす新提案など新しい差別化を展開し世界市場での展開を願う次第です。
図30、31 パナソニック電工の新オフィス提案コーナーの様相、オフィス照明の形態は、
小型で光制御が可能なLEDによって大きく様変わりするだろうと感じた次第
図32、33、34、35、36 JAPAN SHOP会場に出展していたローヤルライティング
(図32)や静岡技研工業(図33)、徳島産業振興機構(図34)、都行燈(図35)や丸善電機(図36)の製品
図37、38 ライティング・フェア内の台湾パビリオンの様相
図39 JAPAN SHOPに出展していた韓国・SIGNTECH
図40 JAPAN SHOPに出展していた
イタリア・Reggiani SPA Illuminazione社
図41 大光電機のLEDペンダント
図42 多くのユニークなLEDモジュール
展示をしていたスタンレー電気
図43、44 光の演出効果に留意していたコイズミ照明(左)と遠藤照明(右)のブース
図45 LED光源を積極的に展開し、
発表していたウシオライティング
図46、47 三菱電機照明と三菱電機オスラム
図48 ユニークなLEDモジュールを
紹介していたファーストシステム
図49 100ルーメン/ワットのLED
モジュールを展示していたシチズン電子
図50 ラ・ヴィータのLEDペンダント
「KIRARING」
図51 滋賀県・信楽陶製照明器具開発研究会の
LEDエクステリア製品の展示の様相
図52 小糸工業の街路灯展示の様相
図53 洗練された器具デザインの山田照明
図54 屋外でのパフォーマンス照明も品揃え展開していた
マーチンプロフェッショナルジャパン
図55 LEDの新規事業展開を披露してい
たデュポン/コンテンツ
図56 LEDライティングを強調していたヤマギワ
海外最新動向・・・ミラノEuroluce視察
世界の照明デザインに影響を与えるEuroluce(ミラノで隔年開催される照明展)が4月22日-27日にあり、視察してきました。Euroluce09は金融不況の影響で会場の出展社数減や来場者数減が見られ、前回より盛り上がりに欠けた感を持ちましたが、お祭り好きで陽気なイタリア人、世界最大の家具見本市SALONE(サローネ)との併設で、会場もミラノ市内も華やかでありました。
図57、58 Euroluce09開催のFIERA 国際展示会場の外観
図59、60 FIERA国際展示会場のメイン通路の様相
Euroluceの照明展示会場は広く、ブースのスペースも通路もゆったりしていて、5万平米の会場に500社ほどが出展していました。その内400社弱がイタリア企業であるので、イタリアのヨーロッパ照明展といったところ。日本からはシチズン電子がライティング・フェア2009で紹介した100ルーメン/ワットのLEDモジュールを中心として展示していました。
図61,62 Euroluce照明展の会場内風景
図63 Linea Light社
図64 Cedri Martini社
図65 Pallucco社
図66 Manooi社
Euroluce09を見ての感想は4点あります。
1 イタリアを代表する2大照明メーカーが未出展
2 LED照明器具のグローバル商品化志向は微弱
3 照明器具のサイズアップ化(巨大化)
4 優雅なオーガニックラインイメージのデザイン
1はTargetti社とIguzzini社が出展してなかったことに驚きました。不景気の影響であることが想定できました。
2はLEDランプの量産メーカーのないイタリアですが、確実にLED製品は少しずつ増えてきています。しかし展示の比率は10%弱程度で、前回のLED増の勢いは感じられませんでした。
既存光源を活用した新製品開発が主流でした。
3は建築・インテリアの影響からと思われますが、巨大なサイズの製品が目立ちました。シャンデリアの代わりのような使い方と思われますが、空間概念が異なる日本では受けいれにくいでしょう。
4は家具見本市のSaloneを見て感じたことです。照明器具の形態や使用素材、それらから広がる光が穏やかで、優雅さを求めているようで、「オーガニックデザイン」と表現したくなるデザイン志向と受け止めた今回のEuroluce & Saloneでした。
図67 Flos社
図68 Artemide社
図69 Zeroombra社
図70 Manu Light社
図71 Simes社
図72、73 Norlight社
図74 Ingo Maurer社
図75 Fabbian Illuminazione社
図76 Vibia社
図77 Danese社
その他特筆すべき事項として日本を代表する照明メーカー2社=東芝ライテックとパナソニック電工が、Euroluce開催期間中のミラノ市内の別々のギャラリーで、LED照明のデモンストレーションをしていました。
どちらもFiera国際展示会場内のEuroluceでなく、市内のデザインギャラリーでの単独展覧会でした。照明のパフォーマンスを重視するならギャラリーが適し、商売を重視するので(認知化活動も含め)あればビジネス関係者が多数来場するEuroluceが適していると思った次第。ヨーロッパ市場でのLED照明、ビジネスにつながる展開のために次回も期待しております!
図78~82 東芝ライテック(図78、79、80)とパナソニック電工(図81〈二段目右〉、82〈一番下〉)の
Fuori Salone(Euroluce内ではないミラノ市内ギャラリーでの展示会)
最後に記しますが、会場には多くの中国人が目立ち、また市内の"China Design Market" と名打ったデザインギャラリーには、地元ミラノの人たちで賑わい、中国製品の積極的世界商品化作りが感じられました。この時期の見本市訪問者の志向を掴んだ展示のあり方と、「ミラノっ子」好みを掴んだSPに中国人の商売のしたたかさを感じたのでした。
図83~87 China Design Market
次回のコラムですが、「動き始めた新光源と器具品揃え」と題し、急速に本格化してきたLED照明の市場導入の様相など、海外の動向もあわせて記したく思います。
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- 執筆者:落合 勉
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照明デザイナー
M&Oデザイン事務所代表
LBA JAPAN NPO 理事長、愛知県立芸術大学非常勤講師、照明文化研究会 会長
1948年愛知県三河生まれ、ヤマギワにて照明を実践。
1991年横浜にてM&Oデザイン事務所スタート、現在に至る。
2001年からLED照明デザインワークに特化しての活動を展開、そして2006年からはOLED照明普及にも尽力。
2006年のALL LEDの店舗空間、2008年のALL LED街あかりや住空間、2009年のALL OLED照明空間など手がけ、SSL快適照明を探求提案。
器具のプロダクトデザインや照明計画などを行う傍ら、国内外の照明関連展示会や企業などを訪れ、グローバルな照明最新情報をインプットする。コラム(http://messe.nikkei.co.jp/lf/column/ochiai/index.html)参照。
趣味は古灯具探索で、日本のあかり文化の認知普及活動を展開中。
2009年7月、Light Bridge Association JAPAN NPOを設立し、理事長に就任。
次世代のあかり文化を担う「あかり大好き人間」の育成を目指している。
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