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連載コラム

ミラノ「World Light Show」訪問記 その(3)省エネ

[ 2003年8月8日 ]

照明デザイナー 落合 勉(M&Oデザイン事務所)

3-1 はじめに

 イタリア・ミラノ国際展示会場(Fiera Milano)で開催されたINTEL(インテル)のWorld Light Show(以下WLSと記す)の視察訪問記を連載しています。今回はその最終回です。

 ヨーロッパの主要照明メーカーが出展して5月20日〜24日の5日間開催された、屋外用大型ポール灯や店舗・オフィスなど施設照明の製品展示が主の国際照明見本市です。既に認知されている住宅インテリア装飾照明器具展示会のEuroluce(ユーロルーチェ)とは性格を異にした内容で、2001年から規模を大きく充実させたこのWLSは、フランクフルトのLight+Building展と合わせて今や世界の主要国際照明展と見られるほどになっています。

 WLS訪問記の1回目は最新のLEDアプリケーション動向について記しました。2回目は世界の照明デザインに影響を与えているイタリア照明器具デザイン動向について記しました。そして今回は、省エネ光源とデザインについて記します。

 
写真左:21世紀の主光源LED 写真右:T5FLの建築化照明指向の器具


3-2 省エネと展開

 "イタリア&ミラノ"。この言葉からの印象は、ファッションやインテリアデザイン最先端の地......、と思い浮かべる人が多いことでしょう。照明界においてもイタリアのデザインはユニークで楽しい!と認知され、世界で愛用されています。しかし「デザインは良いのだが使い勝手は?特にメンテナンスや省エネは不充分だね!」と指摘されることもありました。創造性(デザイン)を指向し、環境対策や省エネへの意識が軽んじられる傾向(最近の主要国際照明見本市を視察比較して)も感じられていましたが、今年のWLS2003では省エネ指向が見られました。その背景に市場への対応があります。イタリアは輸出産業国であり照明器具も重要な輸出産品です。その最大の輸出先はヨーロッパ市場であり、その市場が省エネ&環境を絶対条件化したからと言えます。製品のライフサイクルに製造者責任を明確化しようとする動きが顕著なヨーロッパ市場です。製品だけでなくその使い方までも配慮するようになるのは当然でありましょう。

 ヨーロッパ照明界は照明制御システムの導入に積極的ではありませんでした。しかしオフィスや工場などの省電力化需要から新制御システムEIB(European Installation Bus)の導入を展開しようとしています。これは広い空間において任意の場所をより簡単に点滅・調光を可能にするライトコントロールシステムのことで(日本では既に実用普及している)、省エネ指向の表れといえます。

 
パソコンでの入力セットの照明制御システムとリモコン

省電力高ルーメンの120Wコンパクト蛍光ランプ


 日本照明業界の省エネに対する取り組みは以前から積極的で、その照明技術や対応製品群は既に実用展開され、欧米から高い評価を受けています。照明制御システムの設置やセンサー器具の導入、さらには電球型コンパクト蛍光ランプの市場普及度など、先進国の中でもいち早く展開してきました。10年程前まで「日本は蛍光灯が多いが、蛍光灯のあかりは文化後進国だ!」などと聞くたびに不愉快でしたが、今では蛍光灯は省エネ推進の象徴であり、環境先進国と言えます。

 今回のWLS展示で注目した中に、コンパクト蛍光ランプ120W(9000lm)がありました。他に85W(6000lm)、60W(4000lm)とあり、この高効率省エネランプは小型HID光源と同等の明るさと発表されていました。今後、このランプを用いた、従来のコンパクト蛍光ランプとは異なる新スタイルの照明器具誕生が期待され楽しみです。21世紀の主光源といわれるLEDとともに、高出力コンパクト蛍光ランプは、新しいあかり文化を構築していくと思いました。


3-3 WLS訪問記了に際し

 今回でこの訪問記は終了ですが、草稿時に前回のWLSや他の国際照明展を思い出し整理して進めてきました。その時々に、取り上げようかと検討した内容で記してない事柄がいくつかあります。(1)アジアン・パワー、(2)建築からの器具動向、(3)器具の小型化、(4)日本の社会ニーズ、(5)地域性、(6)食とあかり、(7)蛍光灯文化論等です。WLSとのつながり密度や紙面の関係から割愛しましたが、筆者としてお知らせしておきたい事柄を一つ(建築からの器具動向)記し、このWLS訪問記の了といたします。


■建築からの器具動向 ―A・カスティリオーニを連想

 T5FL(直径16mm蛍光ランプ)を用いた製品群がWLSで多数出展されていたことを既に記しましたが、そのデザインコンセプトは軽快感ある器具の薄型化で、フラットスタイルデザインでした。


スーパーフラットとフロス社

 最近の建築は「スーパーフラット様式」といわれるガラスを多用した透明感ある建築が世界で話題になっています。平面で構成されたその空間建築はシンプルで軽快感があり、当然ながらその空間への照明演出や器具形態も、自然光との協調を図りながらのシンプル照明器具が望まれています。そのスタイルの源流といえる照明器具作品がフロス社から発表されたのは2000年のミラノ・Euroluceでした。


フラットデザインシステムの器具


 フロス社が発表した試作品は徹底した平面構成によるデザインで、そのユニット展開デザインも単純でした。このフラットデザインシステムの器具スタイルは、その後開催の照明展出展作品に感化し流行しました。――フロス社発信フラットスタイルデザイン(軽快感ある器具の薄型化)は、省エネ・省資源の光源=T5FLと、小型省電力化された新マルチインバータ普及が背景にあります。――そのフロス社の照明器具をデザインし続けフロスデザインスタイルを構築してきたのが、イタリアモダンデザインの巨匠であり数々の名作を生み出したアキッレ・カスティリオーニ(Achile Castiglioni)でした。氏は昨年末に亡くなりましたが、手がけたデザインは照明器具だけでなく家具やテーブルウエアなど多彩で、その作品は多くの人たちに愛用され、また世界中の美術館に収蔵されています。
以下はその代表的照明器具です。


Arc(アルコ)1962年
 
写真左:Toio(トイオ)1962年 写真右:Luminator(ルミナトール)1955
 
写真左:Frisbi(フリスビ)1978年 写真右:Brera(ブレラ)1992年


 フロス社が誕生するのはイタリア家具サロンがスタートした翌年(1962年)で、現在のイタリアモダン家具ぼっ興のころでした。このフロスは2つの家具メーカー(カッシーナ社とガビーナ社)のオーナーによってつくられた会社でした。当時アンティークやアールデコ、アールヌーボースタイルの前近代的様式家具が主流であったため、モダンな照明器具は少なく、モダン現代家具を生産しているカッシーナ社とガビーナ社は、自社家具製品に合う照明器具が少なく困っていました。"自社家具のイメージに合う照明器具を揃える"。これがフロス社誕生の背景でした。当然ながら自社に合う照明器具となるとデザイン的にも技術的にもハイレベルな工業製品を要求しました。デザイナー人選は重要な要素で、そのデザイン責任者として指名されたのがカスティリオーニ兄弟と当時若かったトピア・スカルパでした。モダンな家具に合った照明器具のデザインという目的で作られたフロス社でしたが、A・カスティリオーニの創り出す照明器具はその要望をはるか超え、喝さいを浴び家具とは別にカスティリオーニのランプは世界中に認知、愛用され始めるのでした。イタリアの照明器具デザインはカスティリオーニを先導として世界の照明デザインをリードしはじめたのです。


参考:照明器具工業会会報276号掲載「akali-e/20 20世紀の照明器具デザイン その16」、電気設備学会誌232号掲載「海外照明展の器具動向」 より抽出


 「建築からの器具動向」からA・カスティリオーニ、そしてフロス社にまで展開し長文になってしまったこの追記、昨年末没の偉大なる照明器具デザイナー、アキッレ・カスティリオーニの追悼としたく思いました。
 今回のWLSで特筆すべきことは記したつもりですが、会場は広く新規性ある出展品を見落としていたかもしれません。WLSを視察された方でお気づきの提案などありましたら教示いただければ幸いです。(ご意見のある方はこちら→info@lightingfair.jp

照明技術・デザイン最新事情
執筆者:落合 勉

照明デザイナー
M&Oデザイン事務所代表
LBA JAPAN NPO 理事長、愛知県立芸術大学非常勤講師、照明文化研究会 会長


1948年愛知県三河生まれ、ヤマギワにて照明を実践。
1991年横浜にてM&Oデザイン事務所スタート、現在に至る。
2001年からLED照明デザインワークに特化しての活動を展開、そして2006年からはOLED照明普及にも尽力。
2006年のALL LEDの店舗空間、2008年のALL LED街あかりや住空間、2009年のALL OLED照明空間など手がけ、SSL快適照明を探求提案。
器具のプロダクトデザインや照明計画などを行う傍ら、国内外の照明関連展示会や企業などを訪れ、グローバルな照明最新情報をインプットする。コラム(http://messe.nikkei.co.jp/lf/column/ochiai/index.html)参照。
趣味は古灯具探索で、日本のあかり文化の認知普及活動を展開中。
2009年7月、Light Bridge Association JAPAN NPOを設立し、理事長に就任。
次世代のあかり文化を担う「あかり大好き人間」の育成を目指している。

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