連載コラム

「LEDの椅子とデスク」

[ 2003年12月10日 ]

照明デザイナー 落合 勉(M&Oデザイン事務所)

1. 秋、続くあかり展の中で

 名古屋でのLED展準備に追われていた9月初旬、一本の電話がかかってきた。「光る椅子をデザインしませんか?」新種の布を開発したのでその発表会に話題となるものが欲しいとのことであった。電話の相手は1週間前にアカリイマージュ展の打合せで会っていた人からだ。その布とはハニカム構造の伸縮する開発途上素材で、11月末のインテリアトレンドショーで発表したいとのことだった。時間のない依頼話で、翌週改めて話しを聞かせてもらう約束をし電話を切った。

 今秋は多くの照明展に参画している。.........10月22日からの名古屋国際デザインセンターでのLED・ケイタイあかり展(2005年の愛知万博プレイベントとして企画準備してきたもの)で、その開催準備や出展する作品づくりに。その後の11月にはインテリアトレンドショー内「アカリイマージュ展」や「あかりのキット展」、12月はaxis、TDC、そしてozoneの東京あかりネット各照明展等......あかりのイベントが続きます。

 
図1-1.2 名古屋でのLED・ケイタイあかり展の様相
   
図2-1.2.3.4 ビッグサイトでのアカリイマージュ展での出展作品たち


 9月10日、改めて会談。開発中の新素材を見た。
 おもしろい!光を入れたらこれはきれいだ!サンプルを手にしながら気持ちは決まっていった。新製品の布の名はBanexと呼ばれていた。「このバネックスにはLEDが使える。LEDモジュールを使ってみよう。」 心の中で決めていた。

 発表会は11月26日、試作の製作期間から逆算すると、デザイン提示は10月10日がタイムリミットと宣言された。

 発表会の主催、つまりBanexの製造者は川島織物であるが、その開発担当者と早速、椅子職人の工房に出向き日程調整や試作要綱について協議が始まった。9月末に製作数は2種2点と決まる。あわただしい協議ではあったが試作へ環境が揃った。そのデザインへの注文は、一つだけ=極めてオーソドックスイメージの椅子デザインであった。LEDチェアへのデザイン思考がはじまった。


2. インゴ・マーラーの来日とLED机

 世界の照明関係者から愛されている照明デザイナーのインゴ・マウラーが来日し、氏の講演会が9月21日にあった。その講演で紹介された新作に、透明アクリル製のLEDテーブルがあった。無数の白色LEDが美しく輝いていたその机の映像は、世界最初の"LEDを内蔵した机"であろう。そう思いながら私は別のことを考え始めていた。BanexのLEDチェアのことであった。

 インゴ・マウラーの説明で、LEDデスクは今年の春、ミラノサローネで発表されたと知った。数秒ではあったが画面に映し出されたLEDの机は、私の脳裏にしっかりと焼きついたのでした。


図3. インゴ・マウラーのLED
2003年のミラノサローネ展示
成型ガラス:H400×L2000×D500
230/125V ガラス内に288個の白色LED、48VDC


 数日後、インゴ・マーラーから電話があり都内で再会、彼のデザイン思想のベーシスは何かを探ることができた。

 インゴ・マウラーは1932年ドイツ生れの71歳。今も現役照明デザイナーとして積極的に創作活動を展開中。LED使用作品は1997年から発表しはじめ、多くの作品がすでに発売されている。今春のミラノ見本市でもLEDのアクリル机等が発表され大いに注目されたことだろう。

 
図4-1.2 インゴ・マウラーのLED作品例


 会談は、いろいろな話に展開し、予定の時間を大幅にオーバー、時間が許せるならまだまだ続けたい心境だった。相互の展示会動向やその作品内容などの情報交換ができ、とても楽しい時空間だった。インゴ・マウラーからは日本のLED動向に関し、熱心に質問をしてきた。新しいものへの探求心は若さ感じる熱き意気であった。今春の私の個展(小さな桜のあかり展/東京・九段、富山県・平村)で発表した和紙の照明作品群にLED使用作品があり、特に興味を示し幾つもの問いがあった。氏は大の親日家で和紙を使った照明器具も数多く手がけており、和紙や竹製品の産地を何度も訪ねている。日本の伝統的工芸品からのインスピレーションも多く受けていたことは知っていた。和紙とLEDの作品に関心を持ったのも頷けた。その和紙の作品群で意見交換していた時、インゴ・マウラーについて解説した内容文を思い出していた。多くのデザイナーや評論家が氏の作品について解説しているが......「マウラーの世界には様式が感じられない。氏の作品掲載のカタログを見ていると、脈絡のまったく感じられない世界が展開する。発想に秩序を持たないかのようである。......中略......氏は機能の持つ美しさに逆らおうとしない。そして素材の見せる味わいを最大限に利用する。」(9/8発売の「プロダクトデザインの思想」での面出薫氏のコメント)を思い出していた。的を得ている。

 インゴ・マウラーは、第一印象や出会いの直感をとても大切にしている。技術や背景とか原理からではなくインスピレーションを大事にしている。そしてそれを自己の中で大切に育み、スタディーを重ね、実際に自分で作り上げていく。そのベーシスに流れるもの、それはLoveであると思えた。人への、モノへの、そして自分への、作品への愛であると......。


3. LEDチェア

 11月26日、ビッグサイトで開催されたインテリアトレンドショー出展ブースの一コーナーに、日本を代表する椅子デザイナー・新居猛と井上昇両氏のBanex使用椅子が配置されていた。それらの中には点滅するLEDチェア2脚があった。


図5 出展風景(正面2脚が落合デザインのLEDチェア)


 壁際におかれたフォルムの異なるLEDチェア、白地のBanexで覆われていた。それぞれ異なる点滅を続けている。ワルツのリズムのようにゆっくり点滅するLEDは、アドバダイズメント効果満点で、多くの来場者の注目を集めた。見に来た照明関係者から「この点滅LEDチェアは世界初の試みであろう。」と、言われ、確かにLEDの点滅する椅子は今までなかったかもしれないと思った。欧米人やアジアの人達もこの椅子の座り心地を確かめていたとのこと、説明担当者から聞かされ嬉しく思っている。


図6. LEDチェア(左のQubuと右のKabuki)


 新素材の為にと依頼され提出したデザインは、ベーシックデザイン(Qubu)とアバンギャルド的デザイン(Kabuki)の2種(図6参照)で、後者の「傾き」(かぶきと呼ぶ)は数年前から取り組んでいるデザインテーマ(心軸はずし)の椅子編だ。私の主たるデザイン分野は照明器具で、その照明器具デザインはシンメトリー(左右対象)が基本。今日まで世界中の照明器具はこのシンメトリーの製品ばかりで、アンシンメトリーデザインはタブー視されてきている。そのアンシンメトリーデザインに1998年から取り組んできた。今回の傾きは椅子編である。

 
図7-1.2 点滅するLEDチェア
(点滅パターンは3〜8秒で変化し、そのサイクルは約4分程)


カブキのポイントについて、
 KABUKI(傾き)は"ねじれ傾斜させた"椅子で、薄い板状化の中に光源=LEDを入れている。光源を入れられたのは発熱が非常に少なく、しかも小さなLEDだからである。そして、その光を優しく拡散放射できる新素材ネット布"Banex"だからこそねじれ傾斜形態もできたのである。それぞれの特徴を生かせたと思っている。

 カブキは左脚部と座面とを一体形成させ、その脚も座もねじれ傾斜させた。右脚はアームと一体化させながら、傾きとねじれを入れた。背も同様である。この3つの部位を形状、サイズ、傾斜、方位そしてねじれ度合いとそれぞれのバランスを考慮しながらのデザインは簡単ではなかった。特に背の形状にはてこずった。

 この2脚のLEDチェア、短期間での試作1号であるにもかかわらず座り心地はなかなか良く、それはBanexの品質の良さ(程よい伸縮性)と巧みなる製作職人技のお蔭と感謝している。ちなみに試作制作はあの日本一のモデラー・宮本茂紀氏率いるミネルバである。

 展示壁面イラストは、提示したLEDチェアデザイン・マスタープランとBanexのハニカム構造とがデフォルメされ、それぞれの形態特徴を上手くアピールしており、LEDチェア展示効果を大いに盛り上げてくれた。テキスタイルデザイナー松本剛氏のお蔭である。


4. 今後のLED

 LEDチェアには、Toridnic社のモジュールをアレンジして使用した。現時点(2003年11月現在)ではLEDモジュールの既製品はまだ少なく、しかも一般市場には流通していない。10月の名古屋LED展出展作品とLEDチェアを通じて再確認した。LEDが今後一般照明市場で広く普及するには、使いやすい各種のLEDモジュールとそのバケット(LEDモジュール用ソケットのこと)、そして小型のマルチダウントランスの品揃えが不可欠であるという点だ。

 市場にはLEDのあかりが、光が広く使われはじめている。(今後さらに急増)それらの多くは単に点灯、または単純点滅がほとんどであり、生活に潤いや変化を与える照明演出への使用事例は限られている。省エネで環境に優しいLEDが普及する為にも、LED周辺機器の充実化とそのソフトアプリケーションの提案が望まれる。


 街ではクリスマスのメロディーが聞こえ、イルミネーションの光輝く師走、東京の3つのデザインセンターでは、今年も東京あかりネットの照明展が開催される。六本木のaxis、五反田のTDC. 新宿のozoneとそれぞれのあかりが華やかに楽しく輝くであろう。2003年の12月は、若い人達のLEDのあかり多数が出展されると知り、楽しみだ。次世代のLEDのあかり、見て周りたいと考えている。

照明技術・デザイン最新事情
執筆者:落合 勉

照明デザイナー
M&Oデザイン事務所代表
LBA JAPAN NPO 理事長、愛知県立芸術大学非常勤講師、照明文化研究会 会長


1948年愛知県三河生まれ、ヤマギワにて照明を実践。
1991年横浜にてM&Oデザイン事務所スタート、現在に至る。
2001年からLED照明デザインワークに特化しての活動を展開、そして2006年からはOLED照明普及にも尽力。
2006年のALL LEDの店舗空間、2008年のALL LED街あかりや住空間、2009年のALL OLED照明空間など手がけ、SSL快適照明を探求提案。
器具のプロダクトデザインや照明計画などを行う傍ら、国内外の照明関連展示会や企業などを訪れ、グローバルな照明最新情報をインプットする。コラム(http://messe.nikkei.co.jp/lf/column/ochiai/index.html)参照。
趣味は古灯具探索で、日本のあかり文化の認知普及活動を展開中。
2009年7月、Light Bridge Association JAPAN NPOを設立し、理事長に就任。
次世代のあかり文化を担う「あかり大好き人間」の育成を目指している。

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