「ライティング・フェア2005」訪問記〜(その2)市場ニーズ対応への新作多数
[ 2005.05.11 ]
照明デザイナー 落合 勉(M&Oデザイン事務所)
1 はじめに
世界中から注目されている日本の最新照明動向が、早春の3月、東京国際展示会場「東京ビッグサイト」で披露されました。第7回目の国際照明総合展「ライティング・フェア2005」(3/1〜4)で、その様相は前回(2003年)と比較していくつかの注目すべき動向が見られ、興味深いものでした。その動向を3回に分けて紹介しています。今回はその2回目です。前回では、世界の照明界や産業界でも注目されているLED(Light Emitting Diode=発光ダイオード(半導体))を主にとりあげ、その照明器具化やその為の各種LED光源仕様(LEDデバイス)の最新動向を紹介しました。


1 多くの来場者で賑わう会場風景(天候不順にも関わらず来場者82,668人/前回比102.4%)
2 LED器具化の多数の展示事例(松下のLEDコーナー)
今回は、新しい面発光体として注目されてきた有機ELの動向と蛍光ランプやHIDなどのランプや新デザインの照明器具について記します。
2 有機ELの登場
ライティング・フェア2005開催中に「有機EL照明の最新トレンド」と題したセミナーが開催され、会場は満席の聴講者でした。またその展示コーナーも多くの人を集め、関心の高さが窺い知れました。
有機ELのELとは、Electro Luminescence(エレクトロルミネッセンス)の頭文字で、電気的刺激に反応して発光する現象(電界発光)を意味します。電界によって固体中の電子などのキャリアを励起状態にして発光させることで、LED(発光ダイオード)のように電流を流すものと、高電界によるものとがあります。一般的にELというと後者を示すことが多く、黄橙色に発光するものが実用化(発光主材料は硫化亜鉛で、発光にはマンガンを添加)されています。ところでこのEL、1970年代に面光源として期待されていましたが、輝度や寿命などの問題で一時研究が下火になりました。しかし80年代になり、日本の技術によってそれらの問題が解決され、各種装置の操作盤や医療機器用パネル、テレビ映像用パネル等に活用され始めたのです。
一方80年代後半から有機材料を用いた有機EL素子が、低電圧で動作することが報告され次世代発光素子として研究が盛んになります。さらに最近の研究結果で、『有機EL素子は適切な有機色素や高分子材料を選ぶことにより各種カラーディスプレー素子としての実用可能性を秘めている』ことが認知され、大きな脚光を浴びていいます。この有機EL素子の基本特許はアメリカのイーストマン・コダック社が保有していますが、1999年には日本企業にて世界初の量産化に成功、今日(実用性で日本は世界をリードする先端技術であり)では、世界中でより高効率化にしのぎを削っています。その有機ELの照明活用提案がライティング・フェアで見られたのです。


3 アイメスのマルチフォトンエミッションの説明パネルと出展された有機EL
4 松下の有機ELを用いたデモンストレーションの照明器具


5 NEC 有機EL試作品展示風景/6 小泉産業の有機EL使用した参考出展品
有機ELを照明用途からみると、(1)やわらかな面発光で将来的には蛍光灯を超える効率が期待できることに加え、直接発光であるため器具乳白色カバーが不要で器具効率が高められる。 (2)薄型でフラットな形状が可能で、建築物と一体的デザインが可能。 (3)熱線や紫外線をほとんど含まないため、空調負荷や色あせなどの対処無用。 (4)聴講や点滅のコントロールが容易。 (5)水銀などの有害物質を含まないため、リサイクルが容易。 (6)低温でも発光効率が低下しないため、使用環境が広い。以上のようなメリットがあるが、まだその明るさについては、照明用には十分でありません。
現行展示の有機ELの明るさ度合いは、7ルーメン/ワットの効率ですが、2007年には電球並みの20ルーメン/ワットを、更に2010年には電球型コンパクト蛍光ランプ並みの50ルーメン/ワットを目指しており(有機のあかりプロジェクト)、今後が大いに楽しみです。LED同様、世界のトップランナーとして日本の有機EL製品が世界市場に普及することを願う次第です。
3 デザイン重視へ!蛍光ランプ搭載器具
現在の照明市場で、その普及度において主要器具は蛍光ランプ搭載の器具でありましょう。地球環境への保護化に、京都議定書(CO2排出量の削減化)が批准され、その遂行のために省エネ貢献度の高い光源(HFランプ:高周波点灯蛍光ランプ)使用が推奨されています。今回のライティング・フェアにはそのHFランプであるT8(25.5ミリ)やT5(16ミリ)管の省エネ蛍光ランプ使用器具の新製品が多数出展され、それは綺麗にデザイン処理されていました。発光管径が細くなりながら技術革新で高発光化を実現したHFランプ、直接に目に光が入るような器具デザインは避け(眩しさカット)、目に優しく見やすい視環境への対処器具が多く見られたのです。しかもフォルム形状や素材・色合いなどディティールにまで配慮したデザインの器具でした。昨年までは器具効率優先の為に、開口部を広くし直接光が目に入るのも厭わない器具が目につきましたが、今回は視環境へのデザイン考慮が器具指向に反映されていました。ただ明るければ良いから、より快適な明かり演出を!に指向変化したことを感じた次第です。それは展示の在り方にも実践され、いかに快適な"蛍光ランプでの光空間提案"の場面が随所に見られたのです。日本の蛍光ランプ演出がより高い質の演出化を形成し始めたようです。下の写真は光効果をデザインした蛍光ランプ搭載器具やその演出事例です。


7 松下電工のSmartArchiシリーズ/8 小泉産業のZumtobelシリーズ


9 東芝ライテックのT5ランプ(サークラインとグリッド)
10 三菱電機照明の600グリッド天井システム
日本市場には蛍光ランプ製造販売会社が多い。先進国でこんなに多い国は見当たらない。上の写真の3社(小泉を除く)以外にも日立ライティングやNECライティング、更にプリンス電機やダイヤ蛍光、ニッポ電機とそれぞれ自社量産工場で日々生産続けているのです。それだけ多いのですから新製品開発への市場適応力が向上するのは当然といえましょう。それらの中で、留意した蛍光ランプに600グリッド対応ランプの提案がありました。NECのT5(16ミリ管径)20ワットで、管長が549ミリですから左右ソケット部を加味しても余裕あるサイズです。建築天井部材の600モジュール普及に伴い需要は増えると予想されます。
T5(16ミリ管径)ランプと云えば今やヨーロッパでは新作照明器具の定番光源で、日本より一足早く普及化展開を進めています。このヨーロッパ市場と同様の品揃え展開を今回披露したのがプリンス電機で、T5の14ワット、24ワット、54ワット、更には1198ミリ長の40ワットまで、しかも世界標準化をめざしたインバータをも発表していました。省エネ光源T5の普及が望まれます。
ニッポ電機とダイヤ蛍光は、商業施設の展示棚照明が主力の会社で、ともに商品展示へのこだわり(演色性追求)に注力していました。特にニッポ電機のベーカリー(パン屋)向け照明演出は見事で、展示のパンは美味しそうでありました。
4 すごいセラ・メタ・ランプが輝く
セラメタ! 商業施設空間の照明計画に多用される光源、セラミックメタルハライドランプ、高輝度放電灯の一種です。照明デザイナー達はこのランプ、通称セラメタをよく使います。なぜかといえばコンパクトでハイパワーなランプだからです。このセラメタ搭載器具、世界中の照明器具(ダウンライトやスポットライト)メーカーが自社製品に組しているほどです。ところで、セラメタの世界トップはフィリップス社で、その商品名「マスターカラーCDM」は広く世界中に認知されています。今回のライティング・フェアにもフィリップスブースには、新作のCDM「ミニマスターカラー20ワット」が展示されていました。世界最小の52ミリセラメタです。このランプ、同等の光量を有すハロゲンランプと比して約3分の1の熱量という優れものであります。フィリップス社はこのミニマスターカラーを含めて、150ワットまで各種のセラメタを品揃えしているのです。
フィリップス社のセラメタに対抗して、三菱オスラムからは115ルーメン/ワットの高効率セラメタHCI-TE100ワットが発表されていましたし、日本のランプメーカーもその対抗セラメタを数年前から発表してきています。そのセラメタ光源に驚異的な省エネ光源が出現したのでした。同時開発の専用点灯装置(電子バラスト)と組み合わせ、ライティング・フェア会場で輝いたのです。この驚異のメタハラ、業界最高効率125ルーメン/ワットの松下「パナビームSPD」シリーズです。パナビームSPD150ワットの光量は、従来の水銀灯400ワットと同等の明るさが得られ、その光源と比して消費電力は約60%大幅削減となります。この新生メタハラランプと専用バラスト(小型・軽量)により、器具の小型、軽量化が図られ、点灯方向自由でしかも高効率化をも実現というこのメタハラ、色温度3800ケルビンの温白色と2800ケルビンの電球色の2種を用意されます。今後の幅広い用途が見込まれます。


11 フィリップス社のマスターカラーランプ/12 松下のパナビームSPD150ワット光源

13 パナビームSPD150使用の屋外用器具事例
新しいデザインムーブメントの流れを感じながら、新光源搭載器具についての動向を記しました。
次回は会場内外でのエピソードや気になった器具等について記します。(続く)
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- 執筆者:落合 勉
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照明デザイナー
M&Oデザイン事務所代表
LBA JAPAN NPO 理事長、愛知県立芸術大学非常勤講師、照明文化研究会 会長
1948年愛知県三河生まれ、ヤマギワにて照明を実践。
1991年横浜にてM&Oデザイン事務所スタート、現在に至る。
2001年からLED照明デザインワークに特化しての活動を展開、そして2006年からはOLED照明普及にも尽力。
2006年のALL LEDの店舗空間、2008年のALL LED街あかりや住空間、2009年のALL OLED照明空間など手がけ、SSL快適照明を探求提案。
器具のプロダクトデザインや照明計画などを行う傍ら、国内外の照明関連展示会や企業などを訪れ、グローバルな照明最新情報をインプットする。コラム(http://messe.nikkei.co.jp/lf/column/ochiai/index.html)参照。
趣味は古灯具探索で、日本のあかり文化の認知普及活動を展開中。
2009年7月、Light Bridge Association JAPAN NPOを設立し、理事長に就任。
次世代のあかり文化を担う「あかり大好き人間」の育成を目指している。
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