「ライティング・フェア2005」訪問記〜(その3)それぞれの想いと新しい動き
[ 2005.06.28 ]
照明デザイナー 落合 勉(M&Oデザイン事務所)
はじめに
第7回国際照明総合展「ライティング・フェア2005」(東京国際展示会場・ビッグサイト)について、3回に分けて紹介しています。今回はその最終回(3回目)です。1回目は世界中から注目されている日本の最新LED照明動向について、2回目は新しい面発光体として注目されてきた有機ELの動向や蛍光ランプやHIDなどのランプと照明器具について記しました。最終回の今回はライティング・フェア2005の会場内で留意したいくつかの事柄や、会場周辺の出来事などエピソードを交えて記します。
1 建築空間への照明
"光、どこまで操れるのか"のタイトルのもと、「建築と強い関わりを持つあかりは、時として求められる光を確保しながら、その形や存在をミニマイズ(最小化)することが期待されています。小さく、薄く、細く......限りなく小さな口径から、狭い隙間から、シンプルなデザインから、より広く、均一に、遠くへ、そして強烈な光が求められます。......」との表示を掲げていた山田照明のブースは、近代デザインの基流を追求する器具照明思考と純白に統一された展示ブースデザインとがマッチし、見事な照明演出でした。オーソドックスなデザインアプローチではありますが最新のテクノロジーを駆使しての照明設計思想は、今後の建築照明の在り方を示唆する一つでありましょう。高度で豊かな照明理論と実践とに裏付けされた山田照明ならではの空間照明演出が楽しみです。


1 山田照明の建築空間への照明事例、35ミリのスリットからの各種の光
2 高効率投光性器具2台を埋め込んだ状態

3 高効率投光性の器具
建築化照明的発想の器具展示をしていたヤマギワの製品も注目したものの一つで、上方への広がる光は美しく、コーブ照明(建築化照明手法の一つ)を見せていました。この新製品"RT-BORDER"はRT-LINEという蛍光ランプ(T5 15.5ミリ管/35W)の既製品に新採用のカバーを付けたもので、マンションや大壁住宅空間の演出にマッチしそうで、器具フォルムも美しく市場に受け入れられることでしょう。

4 ヤマギワの新製品"RT-BORDER"設置事例
2 商業空間への棚下照明
空間への蛍光ランプ照明で、留意したものに棚下照明があります。ダイヤ蛍光の「パンライト」は色温度2500k、3100k、3200kの新光源(T5 15.5ミリ管/35W)を採用し、パンに適した(美味しく見える)照明演出を見せていました。同様にニッポ電機もパンを展示した棚を設けており、食品陳列照明への気配りを見せていました。さらに色温度だけでなく、陳列商品への熱影響を考慮して発熱を抑えた(消費電力も25%ダウン)ランプ使用の器具「イーライン 低発熱棚照明器具EES」もニッポ電機は展示しており、T5蛍光ランプを用いた各社の棚下灯には今後も注目です。

5 ダイヤ蛍光のパンライト


6 ニッポ電機の低発熱棚照明器具・イーラインランプ
7 会場で実演していた低発熱棚照明器具の測定温度計
もう一つ、注目した棚下灯にLED使用のものがありました。導光板方式の「YP PANEL」と超ミニスポットの「YP LINE」です(共に吉川化成)。前者は放熱の非常に少ないLEDをバックライト方式で活用した棚下灯(器具高4ミリ)で、柔らかい拡散光で照射するタイプでした。それに比して後者は、6個の超ミニレンズを付けたLEDスポットがラインにセットされたもの(器具高10ミリ程度)で、その集光は計算された配光分布で綺麗な棚下照明を見せていました。器具存在感を感じさせない次世代型棚下灯として発売が楽しみです。


8 2基ならんだ導光板方式の棚下灯「YP PANEL」/9 超ミニスポットの棚下灯「YP LINE」
3 展示ブースあれこれ
今回のライティング・フェア出展ブースでは、前回までと異なりカラー化が見られました。昨年度のフランクフルト「light + building」照明展でもこの傾向は顕著(詳しくは前回コラムの「フランクフルトメッセ2004 Light+Building照明展から」を参照)でしたが、日本でもその傾向が見られました。特にLEDを展示していた出展ブースではカラー演出に積極的(前々回のこのコラム欄その1にも紹介)でした。LEDをディスプレーに多用したオプティレッド ジャパンのブースには注目しました。その展示新商品「HIVE」は、3つのLED・RGBの光源を持つ6角形をしたモジュールで、蜂の巣のように自由に連続させて様々な形状に展開することができるものです。その商品特徴をブースのデザインに生かしていたのです。床にはガラスのハニカム、そしてサンディスプレイの役割を持たせた天井部、さらに柱や壁面のハニカム状ディスプレー等などで、LED展示製品イメージを空間構成していたのです。ブース全体にLEDライト(RGB一体の素子が20個)を512本内部にセットしたこのブース、展示の規模は広くありませんでしたが、展示製品と一体化したブースは、そのセンスあるデザイン性で大いに評価されましょう。


10 オプティレッド社内部の製品展示部/11 オプティレッド社ブース外観事例1


12 ブース外観事例2/13 ブース外観事例3

14 ブース内の様相
光ファイバーシステムの展開事例の数々で異彩を放っていた住田光学ガラスの展示ブースにあった新作に興味を持ちました。光透過ブロックです。今までに無いアイディアの提案新製品に、その新規市場開拓の可能性を見ました。それとは好対照に既存市場への提案としてクラシカル照明器具(大きなシャンデリア)を吊り下げていたワッツのブースにも留意しました。他の出展企業(最新技術による新製品展示)と異なる出展指向(クラシカル器具の受注生産供給)は、異彩を放っていました。


15 住田光学ガラスの光透過ブロック/16 ワッツ社のクラシカルシャンデリア
照明器具や照明演出がない展示ブースながら、スマートで人気のあった出展社にヨーロッパ照明器具の通電部材を日本照明業界に販売しているビージェービーがありました。今回も日本市場向け製品群(LEDコネクタ:接続端子等)を出展紹介していました。このBJB社、1999年から今回の出展で4回目となり日本照明器具メーカーには認知され、その扱い製品は種々様々です。その中でも特に蛍光ランプ用ソケットは広く愛用されています。その背景には、最近の日本蛍光ランプの管径細小化があります。日本でもヨーロッパランプ同様に管径細小化が進み、従来の日本製ソケットよりコンパクトで小型なBJBソケットへの切り替えが要望されたのです。また、日本市場のIEC(電気分野における国際標準化機関)規格化指向もあり、ヨーロッパ市場で実績あるBJB社部品への信頼性もあったといえます。尚、日本市場への浸透に伴い、日本の高品質製品づくりの追求姿勢は、BJB社にとっても新たなる部品開発(日本発の世界商品"コンパクト蛍光ランプのソケット")へと展開しています。今後の動向に注目です。


17 BJB社の展示ブース/18 19 BJB社、LEDのコネクタ事例

20 BJB社、コンパクト蛍光ランプのソケット展示事例・左端が日本発世界商品
BJB社同様、ヨーロッパ部品(イタリアのガラス)を全面的に活用しながら展開していたD−アクションシリーズも興味を持ちました(小泉産業のブース内)。シリーズ名のDはデザイナーを示し、イタリア人デザイナー4人の新作が華やかに展示されていました。嗜好の多様化するインテリア動向に対して、このD−アクションシリーズも注目する処です。


21 Dアクションシリーズの会場風景 正面はA Mendini作のペンダント(小泉産業)
22 Matteo Thun作のDアクションシリーズ(小泉産業)
4 照明展会場で会える仲間達
2年毎に開催されるライティング・フェアは、照明関係者にとって見逃せないビッグイベントであり、また私にとっては照明デザイナーの仲間達と会えるよい機会でもあります。今回はイタリアの照明界で活躍の浅原重明氏とばったり会えました。前回会ったのは4〜5年前のミラノ・ユーロルーチェ・照明展だったと記憶しています。会うと同時に彼から「Buon giorno!」と大きな声の挨拶と握手で、イタリア在住30年ほどだから、もう完全にイタリア人です。「僕のデザインしたスタンドがハノーバーメッセでIF賞取ったよ!」とさらりとアナウンスされました。"おめでとう!!"仲間のgood news は嬉しいものです。
日本の美大生や若手デザイナー達に、作品発表の場づくりを実践している長根寛氏の顔写真を隣の会場で見つけた時は驚いた、と同時に頑張ってる様子が窺がえ嬉しかった。写真パネルには若手女性デザイナーの顔も並んでおり(コラボレーション)、その下には共同制作の作品がありました。綺麗な透明アクリルの中に9個のLEDがセットされたもので、タイトル「smart-type2」と記してありました。この作品、背面処理デザインを見せるデザインでなかなか綺麗、新しい間接照明器具として新境地を予感させてくれました。


23 IF賞の浅原重明デザイン、コンパクト蛍光ランプのアームスタンド
24 長根寛+小野さやかのJAPAN SHOP展示コーナー

25 LEDモジュール「smart-type2」
5 サポーター"Fuori Lighting Fair"へ
昨年のフランクフルトlight + building 照明展では、第2回目の開催となる「Luminale」が盛大に併催されていました。「ルミナーレ」とはフランクフルト市内の約80ヶ所で開催された照明イベント(見本市開催期間中に連日各種の催しが街を挙げて展開された)"ライティング・フェスティバル"のことです。(詳細は前回コラムの「フランクフルトメッセ2004 Light+Building照明展から」〜その3 街の表情を参照)このLuminaleにはお手本があります。それは照明見本市ではなく家具の見本市です。
世界最大級の家具見本市として知られているミラノ・Salone(毎年4月初旬開催)は、イタリアミラノ市内の大きな国際展示会場Fieraで展開されます。90年代に入り、ミラノ市内にショールームを有す家具やキッチン等のインテリア用品メーカーはFieraでの展示から自社ショールームでの新作発表展示会に移行しました。それに伴いフリーランスデザイナー達も市内ギャラリーやホールなどで個展やグループ展を催すようになり、さらにそれらの展示会とインテリア雑誌との連携により市内各地開催の個性的展覧会情報が一括把握(小雑誌に収録され)できるようになりました。世界中の家具バイヤーが集まるFieraの見本市会場とそれを取り囲むように点在する個々の展示会形式は、年々その様相を大きくまた多様化させてきました。そしてその相乗効果によって最近のSalone開催期間中のミラノは、家具を主体とした魅力あるインテリア用品の祭典の街と化し、世界中のインテリア関係者の注目を集める大イベントになっているのです。
"Fuori Salone"、この家具見本市開催中にSaloneの周囲で開催される大小様々な展示会を総称して「フォーリ・サローネ」と呼称されています(fuoriとは英語でoutside、「外側」の意)。2005年の春のその展示会場数は、500個所以上で華々しく展開し、メイン会場のSaloneを盛り上げて(相乗効果)いました。
今春の東京・新宿で、ライティング・フェア2005開催に合わせてLEDの展覧会が開催されました。サポーターとして、"Fuori Lighting Fair"へと広がって欲しいものです。 この世界でも珍しいLEDだけの展覧会を紹介します。
「LED・ケイタイあかり展3」と名した展示会は、新宿西口のリビングデザインセンターOZONEで2月24日〜3月8日まで開催(3/1〜4のライティング・フェア2005を挟んで)されました。――主催:LEDあかり展推進委員会+リビングデザインセンターOZONE――
環境に優しく省エネ・省資源のひかりとしてのLED、日本はこのLED光源世界トップの生産国であり、市場への普及度も群をぬいています。世界中で誰でも簡単にLEDを入手できる国は日本だけで、小中学生の教材にも使われているほどです。このLEDを用いて新しいモバイル(携帯)型照明を創造提案しようと開催されてきたのが"ケイタイあかり展"で、今春がOZONEで開催される3回目のLED展でした。1回目のLED展は2002年12月の開催(リビングデザインセンターOZONEにて)で、まだ日本でも多くの人はLEDを認知してない時期でした。(しかし携帯電話やリモコンスイッチ表示部など身の廻りには多くのLEDが使われていたし、秋葉原の電気街などに行けば誰でも入手可でした)この1回目のLED展はLED作品だけで構成された展覧会として、多くの反響がありました。
ところで、日本では昔から照明に関する展覧会の多くが「灯火親しむ秋...」のごとく、秋から冬にかけて開催されています(欧米では見本市という観点から春に開催)。ですから春先にこのLED展開催など、ライティング・フェアがなければ開催時期を疑われたでありましょう。
この世界でも珍しいLEDだけの展覧会会場内には、ライティング・フェアのポスターが貼られ、さらに案内パンフレットの配布等、その告知に協力したのでした。Fuori Lighting Fairのような展開になる一助に、と願う次第です。


26 第1回目のケイタイあかり展/27 ケイタイあかり展2の会場風景


28 2005年春開催のケイタイあかり展3 会場外周の様相
29 ケイタイあかり展3の出展作品事例/"MOON in the ROOM" designer:清水泰博


30 ケイタイあかり展3の出展作品事例/"LED小型メジャー" designer:森正洋
31 ケイタイあかり展3会場に貼られたライティング・フェアのポスターなど
終わりに
ライティング・フェア2005訪問記には、他にも紹介したいことが多々あります。開催最終日の修了を告げるフィナーレのアナウンスを聞きながら見聞きしたプリンス電機の省エネのダブル受賞光源のことや、建築家が自分で使いたい照明器具を海外から取り寄せるうちにビジネスとなり出展していたコウ・ライティング、さらに多くの出展社を擁して来日していたTAIWAN LIGHTING FIXTURE EXPORT ASSOCIATIONのことなど......残念ながら掲載面の関係から割愛しました。機会がありましたらぜひ紹介したいと思います。
3回にわたったこの連載中にNew Yorkでライト・フェア、Milanoでユーロ・ルーチェが4月に、5月にはINTELのワールドライトショー、そして6月には台北で第一回台湾LED展がありました。それぞれお国柄を反映しての照明展で、とても興味深く視察してきました。特徴ある日本のライティング・フェアが次回にはさらに世界に向け大きく発信することを願い、了とします。
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- 執筆者:落合 勉
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照明デザイナー
M&Oデザイン事務所代表
LBA JAPAN NPO 理事長、愛知県立芸術大学非常勤講師、照明文化研究会 会長
1948年愛知県三河生まれ、ヤマギワにて照明を実践。
1991年横浜にてM&Oデザイン事務所スタート、現在に至る。
2001年からLED照明デザインワークに特化しての活動を展開、そして2006年からはOLED照明普及にも尽力。
2006年のALL LEDの店舗空間、2008年のALL LED街あかりや住空間、2009年のALL OLED照明空間など手がけ、SSL快適照明を探求提案。
器具のプロダクトデザインや照明計画などを行う傍ら、国内外の照明関連展示会や企業などを訪れ、グローバルな照明最新情報をインプットする。コラム(http://messe.nikkei.co.jp/lf/column/ochiai/index.html)参照。
趣味は古灯具探索で、日本のあかり文化の認知普及活動を展開中。
2009年7月、Light Bridge Association JAPAN NPOを設立し、理事長に就任。
次世代のあかり文化を担う「あかり大好き人間」の育成を目指している。
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