連載コラム

「ライティング・フェア2007を視察して」(その2)LEDについて

[ 2007.06.11 ]

照明デザイナー 落合 勉(M&Oデザイン事務所)
はじめに

 今年3月に開催されたライティング・フェア2007は4日間で96,948人と過去最大の来場者数を記録し、盛況の内に終了しました。その様相を3回に分け、紹介しています。前回の第1回目は世界トップランナーで光源開発が進む、有機ELの出展内容を紹介しました。(詳細はこちらから)今回は有機ELと同様に、21世紀の主要光源と称されているLEDについて取り上げます。

 


図1.2.3 LED照明器具の展示に力をいれていた大光電機(上2つ)やヤマギワ(下)
 

図4.5 高輝度、ハイパワーの新作LEDデバイスやモジュールを多種展示していた
スタンレー電気のブースとその新商品例
 

図6.7 LED新作照明器具を主流に展示していた三菱電機照明のブースの様子
 

図8.9 照明用LEDランプのPRに努める日亜化学工業のブースと、

披露された新作のLEDモジュールの数々


図10 可視光通信の実演展示コーナーを設置していたNECライティング


1 2007年はLED照明器具実用化元年

 今回の出展社121社のうちLED照明を展示していたブースは半数以上で、しかもカラー演出照明、つまりイルミネーションの製品展示が主だった前回のLED展示状況と異なり、白色LED光による明視照明用商品群が展示の主流として繰り広げられていました。その照明器具は実用的形態、つまり商品として展示されており、前回までのデモンストレーションモデルが主であった時と異なる様相で、ライティング・フェア2007はLED照明器具実用化元年といえるほどでした。

 小型でコンパクト化が可能なLED光源の新作商品は、地価の高い日本では集約的空間利用の観点から照明器具の小型化志向が強いため、今後急速に普及すると予想できます。またLEDは現在市場形成している既存小型光源の代表・ハロゲンランプに比べ、放熱量が大幅に少ないので空調負荷も小さく、省エネ対策となります。昨今の省エネニーズの拡大は、LED照明器具の実用化を急速に押し進めることになりましょう。

 また同時開催の店舗総合見本市JAPAN SHOPの来場者も、省エネ・環境共生型光源のLED照明に関心を示し、今後の店装照明の参考のためにライティング・フェア会場へ足を運んでいました。


2 各社の展示状況

―松下グループ、東芝ライテック
 会場最大の展示スペースを擁してLEDモジュールから多種多様の製品まで、用途空間ごとに区分け展示していた松下グループ(松下電工/松下電器産業 照明社)は、EVERLEDSの商標でLEDの商品群を展示していました。それらの中でも3700ルーメンという驚異の明るさで、32W形Hf蛍光灯器具と同等の光量を実現したLEDベース照明器具に注目しました。この照明器具はまぶしいほどの明るさで、暗いと云われてきたLEDランプへの思い込みはこれで払拭されるでありましょう。

 

図11 松下電工の、店舗をイメージさせるLED照明演出の入り口部

図12 店舗空間向けのLED器具演出事例
 

図13.14 非常に明るい参考出展のLEDベース照明器具とその説明パネル


 また今回のライティング・フェアでは、住空間での使用を前提にした実用的LED器具も各種発表され注目されていました。その中の東芝ライテックのE-COREを紹介します。使用条件が均一化する住宅用ダウンライト市場向けに発売する省エネ小型ダウンライトは40W白熱電球相当の明るさで50 lm/Wと高効率、従来型器具と比較して1/7ものエネルギー消費量減となっています。しかも4万時間のLEDランプ寿命は、1日10時間点灯しても10年間ランプ交換不要と、ランプ交換に配慮しなければならない高齢者の居住空間などにも適用できる商品です。

 

図15 商品化したLED照明器具(E-COREなど)での空間展示をしていた
東芝ライティクのブース

図16 東芝ライテックのダウンライトE-CORE


―オーデリック、LED照明推進協議会ブース
 前回のライティング・フェアで光学的反射設計のグレアレス形LEDエクステリア器具を出展し、注目されたオーデリック社が今回トランス一体型のLED屋外スポットライトを展示していました。パワーLED1.2W×3は白色と電球色の2光色用意されており、スポットのサイズ80mm(直径)×107mm(長さ)と、コンパクトでオーソドックスなデザインスタイルは用途空間を特定化することなく、広く用いられましょう。またそのデザインシリーズで屋外暴雨型ダウンライトも揃えられており、共にLEDの特徴である小型化を生かしていました。

 

図17.18 オーデリックのスポットとダウンライト


 JLEDSことLED照明推進協議会ブースでは、JLEDS会員企業6社が集まり、それぞれLED照明部材を展示していました。

 その中の一社、昭和電工のブースでは、グループ会社の建材商品「ラムダ」という建築軽量外装パネル(セメント主材料でサイズ600mm×1800mm)が展示してありました。そのパネルにLEDランプが組み込まれており(建材パネルとの一体化で取り付け工事も容易)、照明演出のパターンデザインもいろいろ自由にできそうです。さらに光の三原色(RGB)のLED使用なら新しいイルミネーションにもなりそうだ!と拝見しました。この新製品、商業ビルや店舗外壁など新市場創出にも繋がりますし、照明手法の一つである「建築化照明」の創出も期待できそうです。

 またこの他にも、住友化学が出展していました。3センチほどのカラーアクリル20枚ほどがボールチェーンでくくられ「スミペックス」の商標が明記されてある(照明関係者ならご存知の)あのサンプルの会社です。各種のアクリルや薄いシートなどのサンプル展示、特殊マット仕上げで拡散効果が発揮できるこの材料は、高輝度光源・LED光を優和に拡散させるのに最適であり、さらに熱を有しないLED光はスミペックスシートと相性が良いといえましょう。発光ダイオードの研究と平面素材をお持ちの会社ですから、有機ELの登場も期待できそうです。

 同じくJLEDSブース内の吉川化成では、世界最小直径9.5ミリの新作レンズを1.2Wハイパワー電球色LEDと組み合わせ、棚下灯として展示していました。そのシャープな配光と明るさに驚きましたが、集光された照度が875ルックス(距離30cm)と説明を聞き、納得した次第。もともと携帯カメラのレンズ製造会社ですので量産化されたら、リーズナブルなプライスになるでしょう。



図19 LEDについて紹介するパネル展示のLED照明推進協議会ブース
 

図20 昭和電工のLED関連製品が並べられたコーナー

図21 住友化学のスミペックス・アクリルシートサンプル
 

図22.23 シャープな配光を見せていた吉川化成の電球色LEDスポットレンズ

(直径9.5ミリの世界最小レンズ)


―上記以外の主なLED照明展示ブース
 LED照明器具実用化元年とも言うべき今回のライティング・フェアでは見どころが大変多くありました。それら全ての紹介はスペースの都合上無理なのですが、いくつか画像でご紹介して今回のLED編を終わらせていただこうと思います。

 

図24 通電パーツメーカー大手のビージェービーブース内に展示されたLEDモジュール部品

図25 台湾の照明会社19社を集めたグループ出展コーナーより。

台湾を代表するLEDメーカーの1社、Bright View Electronics社
 

図26 LEDエクステリア照明器具を展示していたMARUWA SHOMEI

図27 オリジナル高輝度LEDモジュール搭載の各種照明器具を展示していたオプトワールド
 

図28 建築外壁照明演出等で多くの実績があるカラーキネティクス・ジャパン

図29 ミラノLivinluce照明展でも注目されていた、

100 lm/Wの高効率モジュールを展示していたシチズン電子


図30 紫外線LEDを活用したサイン看板を紹介していたナイトライド・セミコンダクター
 
図31.32 LEDパッケージからモジュール、さらには電源部設計製造等までできるLED専門メーカー、ファーストシステム。半導体と電気工学のプロメンバーによるベンチャー企業とのこと。日本でもようやく本格的なLED照明専門会社の出現で、オリジナル新製品群DELICIAなど今後の展開が楽しみです。
 
図33.34 高出力5W型LEDユニットを搭載した岩崎電気の新型防犯灯と街路灯、FL20W同等の明るさを確保できるこのデザインは、省エネ光源であるLEDの街路灯として日本のみならず欧米でも評価を得ることでしょう。
 
図35.36 世界トップレベルのランプメーカー、ドイツ・オスラムとの合弁会社、三菱電機オスラムの展示コーナーには、ヨーロッパで人気のあるLEDランプ・ドラゴン3Wタイプ(DRAGON puck)が、色温度や配光分布違いで品揃え展示されていました。今後急速に市場形成すると予測される日本LEDランプ市場への期待が窺えました。
図37 日本照明界でいち早くLED照明器具を商品化し、市場開拓を展開してきた山田照明。LEDスタンドが展示会場の受付デスクに置いてあり、スムーズなアームの動きが実用的でした。

図38.39 ユニークな製品を開発し、市場提供し続けている森山産業が、今回のライティング・フェアで優れた3重の防水機能を有する"LEDsライン"を発表していました。
図40 日立ライティングの正面受付カウンターに吊るされたペンダントのLED器具、LEDならではの薄く美しいフォルムデザインで衆目を集めていました。


 次回はライティング・フェア2007展示内容から、最後に省エネに焦点を当てて紹介するとともに、4月のミラノEuroluce照明展の動向も加えて紹介します。


補足(1)―LEDの開発経緯について(文=落合 勉)

 LED=発光ダイオードの歴史は20世紀の初めまでさかのぼり、1920年代には蛍光体に使われる「硫化亜鉛」に銅を混成させて発光を試みたりもしましたが、実用に程遠いものでした。現在私たちが認知するLEDは、「半導体材料発光(赤外線)」という論文報告(1952年)が発端で開発が始まったのです。そしてその報告された発光半導体とは、1948年6月アメリカAT&Tベル研究所の研究者らによって発明されたトランジスタが源でありました。トランジスタとは信号を増幅する電子素子(真空管の代用として誕生)のことで、材料はシリコン(Si=ケイ素、元素周期律表の第IV族に位置)で作られます。この第IV族の元素ですが、金属のように電気を良く通す材料(良電体)でもなく、かといってまったく電気を通さない絶縁体でもない。つまりその中間の性質を持っており、半導体と呼ばれているものです。

 この半導体という固体から出てくる光が「発光ダイオードの光」ですが、シリコンが効率や色光の点で光を出す半導体として最適材料でないことが判ってきます。より良い発光半導体材料の研究の思考錯誤が始まります。そして1962年、アメリカGE社の研究所が、半導体元素Ga(ガリウム)+As(ヒ素)+P(リン)を混ぜ合わせた化合物「化合物半導体」による世界初の可視光=赤色発光に成功します。その後GE社は少量ながらも商品化するのですが、高価なため売れず、商品生産を中止し、この赤色LEDの特許は巨大化学メーカー・モンサント社(アメリカ)に購入され、研究が継続されるのでした。

 1968年、NASAの宇宙船にLEDが用いられます。「フィラメントのない、断線しないパイロットランプ」としてLEDランプが世界で初めて実用されたのです。しかし、当時の赤色LEDは、明るさが白熱電球の100分の1以下で価格は50倍でしたから、一般使用には不適でした。如何に明るいLEDを量産するか?世界中で研究が始まります。

 10年後の1978年、スタンレー電気がGa(ガリウム) +Al(アルミニウム)+As(ヒ素)の化合物半導体による世界一明るい赤色LEDの量産に成功したとのビッグニュースが世界に流れます。さらに1980年には緑色LEDも同社から量産されました。1991年には日亜化学工業と豊田合成それぞれで青色LEDの量産化技術が確立し、1993年、世界に先駆け日亜化学工業は青色LEDを発売します。こうして日本で光の3原色である赤・緑・青の各色LEDの量産化技術が確立され、1996年に白色LEDが世界で初めて量産発売された(日亜化学工業から)のです。


補足(2)−ライティング・フェアセミナーについて(文=落合 勉)

 ライティング・フェア2007の2日目、会場となっていた東京ビッグサイト会議棟「レセプションホール」にてセミナーが実施されました。今年の講演はLED照明の技術動向とその最新デザインについての2部構成でした。まず第1部では、LEDによる照明が高効率化の技術開発と相まって応用範囲を拡大している昨今、松下電工LED・特品・新市場開発センター副理事の下出澄夫氏が、日本を代表する照明器具メーカーとしてLED照明を開発するうえでの技術的問題や商品展開について、納入事例等を交えて今後の展望を紹介されました。



図41 講演資料より「今後の商品展開の方向性」


図42 講演資料より「店舗用、MFORCE搭載器具例」


 第2部は「照明デザイナーから見たLED照明の応用と展開」と題し、小生のLED照明活動の紹介とそれらから知り得たLED照明デザインをする上で必要になる新しいスキル等、4分類に分けて講演しました。((1)LEDのイベント内容や世界主要照明展のLED動向の紹介など、(2)LED照明デザインの実践事例【催事場、住宅、施設等】を画像で紹介、(3)LED照明デザインへの提言事項、(4)落合勉の「見聞最新News」――中国LED事情や第1回Livinluce[Milano]の紹介など。)



図43 LEDのイベント事例、LED作品だけの展示会「ケイタイあかり展」
(2002年、東京新宿のリビングデザインセンターにて)


図44 LED照明を使用した一般住宅の事例「千葉H邸」


図45 LED照明デザインへの提言事項、「LED照明普及化への3種」
 

図46 講演内で写真の説明ができませんでした、最大24WのLED照明モジュール搭載器具。

(第1回Livinluce〈Milano〉照明展にて)

図47 同じく最大24WのハイパワーLEDの説明パネル


 下出澄夫氏と小生による3時間にも及ぶセミナーでしたが、聴講者の方々が熱心にメモを取る様子や、多数の方々より「今後もLEDセミナーに参加を希望する」とセミナーアンケートにて回答いただき、LED照明への関心の高さを感じた次第です。

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落合 勉
執筆者:落合 勉

照明デザイナー
M&Oデザイン事務所代表
LBA JAPAN NPO 理事長、愛知県立芸術大学非常勤講師、照明文化研究会 会長


1948年愛知県三河生まれ、ヤマギワにて照明を実践。
1991年横浜にてM&Oデザイン事務所スタート、現在に至る。
2001年からLED照明デザインワークに特化しての活動を展開、そして2006年からはOLED照明普及にも尽力。
2006年のALL LEDの店舗空間、2008年のALL LED街あかりや住空間、2009年のALL OLED照明空間など手がけ、SSL快適照明を探求提案。
器具のプロダクトデザインや照明計画などを行う傍ら、国内外の照明関連展示会や企業などを訪れ、グローバルな照明最新情報をインプットする。コラム(http://messe.nikkei.co.jp/lf/column/ochiai/index.html)参照。
趣味は古灯具探索で、日本のあかり文化の認知普及活動を展開中。
2009年7月、Light Bridge Association JAPAN NPOを設立し、理事長に就任。
次世代のあかり文化を担う「あかり大好き人間」の育成を目指している。

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