連載コラム

「ライティング・フェア2007を視察して」(その3)省エネ照明について

[ 2007.07.10 ]

照明デザイナー 落合 勉(M&Oデザイン事務所)
はじめに

 五月中旬、一つの新聞記事が目に留まりました。その見出しは「世界の頂点に立つトヨタの次の課題は」(5/10付け日本経済新聞朝刊社説欄)で、2007年度3月期決算で売上高、純利益とも二ケタ成長し、このまま推移すると悲願だった07年通年販売台数世界一を達成しようとするトヨタについて言及した記事でした。その記事は、トヨタは省エネカーのハイブリット車においてはすでに世界最大生産量を示し先行しているが、世界の自動車市場のリーダー企業として、経済の活性化と安全で快適な生活環境保全を両立させるビジョンを打ち出してその実践を行っていくべきであり、今後の事業において取り組む課題は2つ、「安全と環境」である、と結んでいました。そこで思い出したのが今年のライティング・フェア2007のテーマ展示「照明リニューアルのおすすめ」のキーワード「安全、省エネ、地球環境のために」です。会場中央部に設けられたテーマ展示コーナーは、住宅照明と施設照明の2つのパートから構成され、新旧器具比較による省エネ効果や、照明器具の寿命による安全点検や交換の必要性を訴えていました。

 「ライティング・フェア2007を視察して」と題して3回に分けて紹介してきましたが、その最終回として「省エネ」にスポットを当てながら、その他関心を集めていた出展社の様相なども併せて紹介したいと思います。

 

図1 テーマ展示コーナーの概観

図2 テーマ展示コーナーの一角に設けられた社団法人照明学会・普及部実施の

「あかりの日(10月21日)全国小学生ポスターコンテスト」の入賞作品


1 蛍光ランプとその搭載器具について

 現在、市場で普及している光源で省エネ効果が大きいものといえば、蛍光ランプです。電球の1/3ほどの消費電力で同等の明るさ確保ができるこの蛍光ランプは、工場やオフィス、店舗や住宅など広く一般に多用されており、さらに技術進化により、演色性(物の見え方の度合い)の向上や形態の多様化展開を見せていました。これまでの蛍光ランプの印象は、明るいが商品などの色が綺麗に見えないとか、顔色も青白く映り健康的に見えにくいとの理由で商業施設や住宅には不評でしたが、この10年ほどの間に演色性の評価を高める光源開発が進み、その搭載器具の普及はめざましく、昨今では電球色の電球型蛍光ランプ等がホテルや飲食店にて多用されています。また形状なども一番普及している直管型や環型以外に四角や渦巻きなども出現、また発光高効率化とともに管径も細く(少資源に貢献)なるなど多様化を見せています。会場にはこれらの新型蛍光ランプ搭載器具もお披露目されており、注目を集めていました。前回のライティング・フェアで関心を集めた管横口金タイプ(従来は管先端から突き出るピン2本形状から管横に設けたもので、連続使用時の照度ムラ解消ができる)の蛍光ランプも出展され、用途事例(展示棚の棚下灯など)を会場内に展開していました。

 

図3.4 松下電工/松下電器産業照明社ブースのランプ展示風景。

コンパクト蛍光ランプの多種光源色を一同に展示し、用途の違いに対応できる品揃えを紹介していました。電球型蛍光ランプ「パルックボール」の形状違いと光源色(昼光色、昼白色、白色、温白色、電球色)違いを判りやすく並べてあった展示風景。


図5 松下の新作蛍光ランプ事例「スパイラルパルック」
 

図6 東芝ライテック「ネオスリムZスクエアII」(2重管)の蛍光ランプ
(1本管の四角形状蛍光ランプ・ネオスリムZスクエアもある)

図7 「ネオスリムZスクエア」搭載のミラーライト


図8 高効率大光量の小型光源として、急速に商業空間にて多用されているセラミックメタルハライドランプの省エネタイプが東芝ライテックから発表(発売は07年8月予定)されていました。「ネオセラ<プライド>50W」外径15ミリ全長81ミリのコンパクトサイズでランプ効率100 lm/w、高演色Ra90とのこと(他に145W、200W、400Wあり)。

また、従来タイプのセラミックメタルハライドランプ70wと比べ28%も省エネとなりながらも、

同等の照明設計が可能である、とのことです。
 

図9 ダイア蛍光のT5形(管径15.5ミリ)シームレススリムの展示ブース
図10 ニッポ電機はT5形のシームレスライン活用の防水型器具や棚下灯、

そして2500K(ケルビン)のろうそくの光色を体感できる展示ディスプレーを展開していました。
 

図11.12 新スリム形蛍光ランプ(T5形)の棚下灯で

コスメティックコーナーを演出していたプリンス電機


図13 冷陰極蛍光ランプを展示していたNECライティング


 外径2ミリの極細の冷陰極管蛍光ランプから外径38ミリの駅ホーム天井部に設置使用されている110ワット(2400ミリ長)タイプまで、管径も管長も多種ある蛍光ランプはワット数別に加え光源色違いや演色性違いなど本当に豊富なる品揃えです。このように多種多様の蛍光ランプを生産し、多用している国は多くはありません。日本は世界の中でも早くから蛍光ランプを日常生活全般に普及展開をした国であり、独自の蛍光灯文化を形成した先進国でもあります。今後、蛍光ランプへの改善・改良はさらに展開されましょう。水銀レスなど環境負荷の少ない蛍光ランプなど、省エネ光源で安全で環境にやさしい蛍光ランプのあかりの出現を期待しています。


2 ライティング・フェア2007を振り返り

 今回の出展内容を見てみると、省エネや環境に関連するものが多く時代の風潮を表していたと思われます。このコラムでも省エネの有機ELやLEDなど21世紀型新光源を紹介してきました。しかしながらライティング・フェアには永く使い慣れ親しんできた白熱ランプを用いたデコラティブ照明メーカーも出展しており、その暖かで温和な光は会場に華を添えていました。特に商業店舗向けの製品群を展開しているマックスレイや、クラシカルなビーズシャンデリアを展示していたワッツのブースは楽しい雰囲気を醸し出していました。



図14 カラフルガラスペンダントなどの展示していた

マックスレイとスワロフスキー・ジャパンの共同出展ブース


図15 大型のシャンデリアのみを象徴的に展示していたワッツ


 ところで、ライティング・フェア2007にも海外からの出展社が多数ありました。その中で留意したブースに、ダウンスポットにおいて世界有数のメーカーであるイタリアReggiani Spa Illuminazione社がありました。新作のダウンスポットPRと日本での販路開拓が出展目的との事でした。その新作ダウンスポットは次の項のEuroluceで紹介します。欧米の照明展でも見かけるアルミ部材メーカーのドイツAlanod Aluminium-Veredlung社がT5直管ランプ用アルミ部材(ルーバーや反射板)を展示していました。日本でも高反射率のアルミを用いた高効率照明器具が普及することでありましょう。

 

図16.17 ドイツ・Alanod Aluminium-Veredlung社の
アルミ部材を使用した照明器具
 

図18.19 台湾から出展されたBeautiful Light Technology社の
LEDスポット型電球とJackfull Lighting社の住宅用照明器具展示事例


図20 チェコから出展のRicers社。
ガラスカット製品の照明器具を展示していました。


3 ミラノでの照明展Euroluce(ユーロルーチェ)

 4月18日〜23日の6日間、ミラノの北方、ロー市(市内中心から地下鉄で40分ほど)に新しくできた「フィエラ・ミラノ」という名の見本市会場で開催されたEuroluceを視察してきました。昨年からフィエラ・ミラノに会場を移したサローネ(家具見本市)と併催で、Euroluceにおいては初めての新会場開催でした。フィエラ・ミラノ会場24ホール(53000m2)中の6ホールを照明展示会場(他は家具展示とインテリア小物)として展開し、照明出展社563社(そのうちイタリア国内401社)はゆったりとしたスペースで展示をしていました。来場者数は家具関係も含め総計で27万人とのこと。この期間中ミラノ市内のホテルは満室で、見本市会場同様、市内も世界中の家具インテリア関係者で賑わっていました。

 

図21 Euroluce会場中央の正面玄関の様相。強化ガラスで覆われた外装建築物。

図22 会場端の地下鉄からの出入り口部(奥のMマーク)から入場口に向かう人の流れ。
 

図23 入り口に設置されたウエルカム看板

図24 会場中央部の連絡通路(地上と2階部とがあり、これは2階部)。

この通路の左右に各展示ホールが繋がる。


 ところでこのEuroluceですが、国際照明展としては近年にないほど内容が充実した照明展でした。今年2月に同じこの「フィエラ・ミラノ」で開催された施設向けの照明を集めたLivinluceより出展社数が多く充実していたように感じました。最新の照明ランプや器具動向を探求するには、世界各地で開催される照明展を視察するのが良策ですが、それぞれの事情(目的や市場や市場ニーズの動向など)により展示内容に違いがあります。このEuroluceは世界最大級の家具見本市との併催ですので、住宅リビング向け照明の製品出展が主流となっていました。とはいえ、イタリアモダンデザインは世界中で認知され輸出されていますので、店舗適応照明器具もいくつか見受けられました。注目したブースや新製品を紹介します。

 

図25.26 いつも多くの人で活気があった

照明デザイナーIngo maurer(インゴマウラー)氏のブース。
 

図27 ベネチァンガラスの老舗メーカーVetreria Vistosi社の新作。
吹きガラスで作られている。

図28 同じくベネチァンガラスメーカーのLeucos社のガラススタンドシリーズ
 

図29.30 イタリアを代表する照明メーカーArtemide社のブースと
新作の蛍光ランプ器具
 

図31 デザインに定評のあるイタリア照明メーカーFlos社の新作

図32 エクステリア照明器具メーカーSimes社の展示ブース
 

図33 ライティング・フェア2007にも出展していたReggiani Spa
Illuminazione社の外観

図34 Reggiani社新作のダウンスポット


図35 Reggiani社新作のT5蛍光ランプ搭載器具。LEDも使用。


図36 イタリアの代表的な照明メーカーの一つ、Luceplan社のソーラー+LEDの庭園灯
 

図37.38 日本からの出展社LEDメーカーのスタンレー電気


図39 デンマーク・ルイスポールセン社の展示ブース


 4月のEuroluceはイタリアを代表する照明器具メーカーが出展して、華やかな展開をみせていました。3月の日本のライティング・フェア2007とは違い、LEDが主流ではありませんでしたが、どちらの展示会でも蛍光ランプを使用したユニークなデザインの器具が増え、また確実に省エネ志向が見受けられました。

 3回にわたって紹介してきたライティング・フェア2007、次回は2009年3月に東京ビッグサイトでの開催となります。今後世界の照明動向がどのように変化するのか、また蛍光ランプだけでなくLEDやOLEDも含めて、世界をリードする日本の省エネ製品群がどう展開していくかが楽しみです。 了

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落合 勉
執筆者:落合 勉

照明デザイナー
M&Oデザイン事務所代表
LBA JAPAN NPO 理事長、愛知県立芸術大学非常勤講師、照明文化研究会 会長


1948年愛知県三河生まれ、ヤマギワにて照明を実践。
1991年横浜にてM&Oデザイン事務所スタート、現在に至る。
2001年からLED照明デザインワークに特化しての活動を展開、そして2006年からはOLED照明普及にも尽力。
2006年のALL LEDの店舗空間、2008年のALL LED街あかりや住空間、2009年のALL OLED照明空間など手がけ、SSL快適照明を探求提案。
器具のプロダクトデザインや照明計画などを行う傍ら、国内外の照明関連展示会や企業などを訪れ、グローバルな照明最新情報をインプットする。コラム(http://messe.nikkei.co.jp/lf/column/ochiai/index.html)参照。
趣味は古灯具探索で、日本のあかり文化の認知普及活動を展開中。
2009年7月、Light Bridge Association JAPAN NPOを設立し、理事長に就任。
次世代のあかり文化を担う「あかり大好き人間」の育成を目指している。

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