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連載コラム

第25回 3.11を想う ~ライティング・フェア2011とEuroluce2011を視察して~

[ 2011年6月3日 ]

はじめに

 2011年のゴールデンウイーク、昨年と異なる想いを持って過ごされた多くの人たち。復興を願う被災地の方々、その震災被害地を訪れた多くのボランティアの人々、そして休日返上で復興を推し進めようとする日本全国の、世界中の有志の人たち、東日本の地に世界の人たちが心注いだ春でした。被災地が平安なる普通の生活に戻られること、切に願います。
 2011年3月11日午後2時46分、千年に一度おきるかといわれる未曾有の大地震、マグニチュード9.0の日本観測史上最大の巨大地震が三陸沖で発生しました。このとき私は日本最大と言われるライティング・フェア2011の会場(東京ビッグサイト)で最新の照明器具を視察していました。3月8日に開幕したこの照明展ですが、最終日(11日)は例年午後が期間中最も多くの来場者で賑わいます。今年もまさにその来場者数がピークになろうとする矢先、大きく揺れたのでした。
 この最初の本震の時、私は西2ホールの海外出展社ゾーンを視察していました。このゾーンの出展社の方々は地震体験が少ない人たちのようで、その揺れに大変驚き会場非常口へ、建物外へと脱兎のごとく走るのでした。しばしの間揺れは続きますが、収まり会場は平静になります。しかしその後すぐに主催者から閉会宣言(午後3時15分)がアナウンスされ、来場者の早期帰路を促したのでした。余震は断続的に続きます。
 出展社の撤去は高所作業が危険とのことから、会場付近で余震が落ち着く翌朝まで待機した関係者もいました。3月11日、数千人の帰宅困難者が生じたようです。かくいう私も会場近くで朝を迎えました。

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図1、2 ライティング・フェア2011最終日3月11日正午ごろの会場の様相

 この地震(本震)や余震による直接的被害のほか、津波、火災、そして福島第一原子力発電所事故に伴う放射性物質漏れや大規模停電などの発生で、東北地方を中心とした甚大な一次被害ならず、日本全国および世界に経済的な二次被害をもたらしたのが今回の大地震です。1ヶ月そして2ヶ月が過ぎて想うこと、それは震災前とは確実に違う社会通念が育ちつつあることです。新しい普通が定着しつつあることを、私自身自覚するのです。
 震災後の1ヶ月、首都圏はほぼ毎日のごとく震度3程度の余震が続きました。そして計画停電と相まって電車は間引き運転に、帰宅困難者の体験をした私も外出は控え、外出しても早い時間帯での帰宅を心がけるのでした。世界に知れた銀座の通りからは夜間のライティング(ウインドー照明もネオンも、街路灯も)が消え、華やかさも人も消えていました。節電志向により生活行動に消費も控えるようになったのでした。

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図3 消灯された銀座中央通り

図4
図4 ソニービル界隈も消灯された数奇屋橋から銀座方面

 テレビや新聞等の報道では、被災地の様相や避難生活者の状況などを連日トップニュースで伝えていました。特に福島原発の推移は予断を許さないもので、朝昼夜を問わずその様相が報じられるのでした。そして震災1ヶ月を過ぎる頃からは復興へのあり方も問われ始めます。それは復旧ではなく、5年10年後でもなく20年30年後の次世代のための街づくりを!と提案されるのでした。次世代の街の照明はどうあるべきか、今後の日本の照明は、どうあらねばならないか?と私自身、被災地の方々にお見舞いの念を持し、想い始めるのでした。100年後の街づくりを!

 3.11を境として今後の日本照明界の進むべき方向を思考し始めました。その震災1ヵ月後の4月10日、成田を発ちミラノに向かいました。Euroluce2011(4月12日~17日)照明展視察のために!今後の日本照明界のヒントになる事柄が見出せたら!との思いも持ちながら成田を発ちました。今回の連載コラム「照明技術・デザイン最新事情」は、3月11日の大震災を想いながら、今春の2つの照明展「ライティング・フェア2011」と「Euroluce2011」について述べます。

1. LED照明のライティング・フェア2011

 世界の主要照明展が隔年開催している近年、ライティング・フェア2011も前回2009年に続いて東京国際展示会場「東京ビッグサイト」で開催されました。展示スペースが前回より約2倍となり(約16,000平米)、西館1階全体を活用して出展社258社(海外出展社は129社)もの展示展開は、会期4日間(3月8日~11日)でも見切れないほどでした。来場者数は最終日、早めに中止されましたが、4日間で約6万人もの方が訪れました。
 今回のライティング・フェア2011は前回同様にLEDの照明展でありました。今後の省エネ照明の主流を表示しており、その様相はセミナーの内容にも反映されていました。特に期間中毎日6講座ものセミナーを組んだ「ライティング・ステージ」、そのセミナー会場は連日満席でありました。講座の内容はLED照明関連が多く、しかも話題の建築家やデザイナーによるLED照明事例や注目の新型LEDモジュールなどの紹介といった多種多様のLED内容で、人気を博したのには納得でした。さらに会議棟で開催されたライティング・フェア2011セミナーは、「LED光源とLED照明器具の標準化」をテーマにしており、まさにLED照明展でありました。
 当然ながら、出展新製品の99%はLED製品群で、光源からLED器具まで、そしてその対象空間は住宅から、店舗、オフィス、さらには屋外庭園灯から道路照明灯までも、誠に多種多様でした。それらの特徴や指摘点は、本ライティング・フェア2011のWebページ(岡本賢氏のコラム「明るさから光の質の時代へ--ライティング・フェア2011レポート」)に既に紹介されていますレポートを参照ください。「今回のLED照明製品群は商品単価を除けば、光質や光量、さらには配光や輝度など従来光源の器具レベルまで実用化されてきた。ものによってはそれ以上とも、、、」と感想を記しており、私も同様に感じた展示概要でありました。 なお、筆者が留意した事柄が他に2~3あり、そのことを付記しておきたく思います。本コラム冒頭に「3.11を想う」とつながる事柄で、それは「海外からの多様な出展社」と「日本発の世界商品化」についてです。

 ライティング・フェア2011の最終日の午後、私は西2ホールの海外出展社ゾーンを視察し始めた時に床がぐらっと揺れました。韓国のMALTANI Lighting(韓国名:TAEWON Lighting)を見終えた後の、CHINA PAVILIONを視察していた時でした。海外出展社ゾーンの多くは隣国の国々からで、その大幅増も今回のライティング・フェアの特徴です。それらの多くの出展品は従来光源のLED代替デザイン志向が多く、それらは低価格提示と相まって国内市場に参入しやすいものでありました。
 それらの出展社の中で特に注目したのが「MALTANI」で、2年前にソウルで開催されたLED EXPO展でも際立ったデザインのよい製品を展示していた照明器具メーカーです。今回の海外出展社の中でも優れたデザインセンスの製品群は、日本照明メーカーにも引けをとらない、日本企業以上とも思えたほどでした。このハイセンスのデザインに私は、韓国政府による国家デザイン戦略の成果を強く意識させられたのでした。

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図5 ライティング・フェア2011のMALTANI Lighting展示ブースのメイン正面展示の様相

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図6 2009年のソウルLED EXPO展で、そのデザインセンスの良さが際立ったTAEWON Lighting

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図7,8,9,10 隣国の国々の出展ブース

 1998年に金大中大統領は「21世紀デザイン時代宣言」を発表します。そして韓国政府は翌年の1999年に「デザイン産業のビジョン」を発表し、5年以内でのデザイン先進国を宣言します。さらに2001年には国際デザイン会議「ICSID 2001 SOUEL」をソウルで開催し、これを機に韓国は1000億ウオン(当時では約100億円)もの費用をかけてデザインセンターを建設し、国際的デザイン力向上を目指します。その後も韓国は国内各地にデザインセンターを建設し、デザインに力点を置いてきた国家戦略を展開したのでした。その成果は、最近の韓国家電や自動車の製品デザインに表れ、その評価は国際的に認知(世界的デザインコンペなどの表彰事例が多数)され始めたのです。日本Gマーク取得の韓国製品の急増化現象もその表れと認知できましょう。

 韓国だけでなく、台湾や中国のLED照明メーカーは、欧米市場向けにOEM生産(日本市場向けもある)を積極的にしています。それはデザインだけでなく製造技術や照明配光、さらには電源テクノロジーなどの性能UPにつながり、そのレベルアップしたメーカーの製品は日本製同等か、それ以上の品質やデザイン製品も少なくないのです。(筆者の本コラム欄17、18回目でも紹介していますので参照を)ライティング・フェア2011の会場出展品でその全貌は見られませんでしたが、近い将来TPP(環太平洋経済連携協定)で無関税化になればリーズナブルプライスで品質が良好のLED製品が、日本市場に多数展開されるであろうと考察されるのです。隣国からの出展社から窺い知ったこと、それはデザイン力の国際的ハイセンス化だけでなく、製品テクノロジーの向上や、さらにはブランディング戦略の展開なども感じたのでした。

 3.11を経て想うことに、隣国の製品群の国際化と日本国内照明製品群との対比が挙げられます。今後グローバル化するLED照明市場への対峙に日本メーカーはどう対応するのか、日本メーカーからの明確な強い発信(メッセージ)が私には見えず、気になっているのです。
 LEDは20世紀の既存光源と発光方式が異なります。用途展開も新たな概念創出が必要です。その創出新市場はすでに一部形成されてきました。インジケーターや携帯やPCなどのディスプレー画面への発光体に、さらにはイルミネーションなどです。明るく照らす明視照明でない分野ですが、既に世界中で使われ定着しています。そしてこの分野、価格競争になりつつあるのです。LED照明の今後も同様でありましょう。

 明るく照らす明視照明の分野で、LED照明への光量や発光効率増が期待されてきましたが、一昨年前からは既存光源と同等かそれ以上となり、実用照明器具光源として展開されようとしています。これは、LED照明が基礎研究や応用研究の段階から実用研究段階になったことを示し、今後は製品デザインとそのブランディングが真剣に検討されることになりましょう。尚、21世紀型新光源には国内市場だけの事業形態からグローバル化へ、生産体系(量や電子化)及び流通(販路)への意識改革(従来生産数量での対応では高コストになり、世界市場受容価格にはならない)が必要です。生産効率の追求と販路拡大の(世界市場)構築が重要になります。

 LED生産への製造機械や主材料さらにコア部品などの日本製品は、世界商品となって世界(隣国の国々が主)に輸出されていますが、高付加価値商品としての照明器具製品輸出は皆無と言っていいほどです。今後の日本照明界において、いかにLED照明器具・世界商品を創り出せるか?問われる今後です。単なる既存光源の代替製品(LED電球やLEDの蛍光ランプ形製品)や昨年のFrankfurt L+B照明展から見受けられ、今春のライティング・フェアでも見られたレトロフィットのLED商品では、LED照明による世界商品創りにはなりません。それでは次世代世界市場から外れ、LEDの先進グループからも逸脱し、日本=LED研究開発トップランナーの国からの離別となりましょう。LED特性を生かした21世紀型照明システム、その提案と構築が今こそ必要だと想うのです。新用途・新概念の創出に、その製品化と市場導入のあり方をどう構築するか?が問われるのです。

 21世紀型照明システムには半導体光源駆動の新しい電源創出とその普及も必要です。半永久点灯の長寿命光源LEDに適応する新式電源や調光・点滅さらには光色変化自由のコントローラーとそのソフトプログラムなども必需となります。既存光源の代替品でない新しい用途開発と概念構築が必要なのです。

 そして、21世紀はIdentityある世界商品創りが必須!と本コラム欄で何度か記してきましたが、ライティング・フェアでの日本メーカーの出展製品の多くは日本市場前提の製品であり、グローバル志向に通じるものが少ない(過去同様の)と感じました。日本での照明展だから日本市場向けが当然との見解もありましょうが、出展品すべてでなくてもせめて1/3程度は世界志向を有する製品をと願うのです。またグローバルでのアジア市場は?となると、コストが気になります。今日ではいかに量産(コストダウン)し世界に売るかも技術であり、ローコスト作りの技術導入が日本照明界にさらに必要と思われます。ローコスト生産も含めた世界商品化ビジョン(国策も含めて)なくしてLED製品は生き残れないと感じたライティング・フェア2011でした。 「がんばれ日本!」と心に叫び、4月10日成田から最新照明デザインが見られるMilano Euroluce 2011に向かったのです。

2. Euroluce 2011を視察して

 今春のミラノも八重桜咲く、穏やかな気候で快適でした。 このユーロルーチェ、今では世界3大照明展のひとつとして認知されるようになっていますが、それは1990年代の半ばからで、それ以前はイタリア国内の照明産業展といった様相でした。私が初めてユーロルーチェを視察したのは1980年で、その頃は商業施設向けの照明器具展(別に住宅向けがあった)でありました。今日の住空間向けも含んだ総合照明展の形態は、2000年から隔年開始となったフランクフルトlight + building照明展の未開催年に実施するようになって充実化したのでした。
 開催場所はミラノ市郊外、市内中心から地下鉄で30分ほどのRho Fiera駅直結の会場で、まさしくFiera(見本市の意味)会場のために作られた駅の前にあります。 ここで毎年4月に開催される家具見本市i salone(イ サローネの呼称が正規だが通称サローネが一般的)に隔年で併催する照明展がEuroluceです。世界最大といわれるこの家具見本市(家具見本市会場面積では米国ノースカロライナ州のハイポイント家具見本市が最大でしょうが、来場者数ではユーロルーチェ)は今年32万人の来場者数を超えたと主催COSMITが報じていました。世界中から家具インテリア関係者が集うのですから、開催期間中のミラノはお祭り状態です。しかも市内の至る所で400ほどのデザインイベントも開催されているのですから、道路もレストランも人でいっぱいです。Fiera見本市会場の外でのイベントをFuorisaloneと称しますが、このフォーリは10年ほど前から年々盛んになり、今では本家のFiera見本市会場と同様人気を博すようになりました。

 今年のEuroluce 2011、前回の2009年度と比較してLED照明がさらに重視展開され、LEDの特徴を生かした実用製品がいくつも見られました。またアナログ的魅力満載の製品出展ブースもあったりと、イタリアの照明展は超デザインものからアンティーク的クラシック製品、さらにはハンドメイド製品までいろいろ。その出展傾向はさすがデザインで世界制覇してきたイタリアです。世界の時流を形態機能に組み込んだ自由提案は、ファンタジーで陽気で実に楽しくなるライティングショーでした。 ところで筆者が指摘する今年のEuroluce のデザイン傾向や留意点は、「Organic」と「伝統」と「市場化」、そして「東アジア」の4キーワードになりました。この4つの要素を会場のそこかしこで感じたのでした。

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図11 ミラノ国際展示会場マップ、黄色部が照明展のEuroluce、他の青・紫・赤・緑色部が家具展のSalone

 「Organic」、有機的フォルムの作品も比較的多いイタリアで、照明で世界に知られたデザイン先進企業のArtemide社の展示ブースの中で、来場者から最も見える場所=メインステージに、大胆威容(異様)なる形態の照明体が展示されていました。広いスペースに大きな有機的フォルムが点灯していたのです。驚きとともに羨ましさ、そして優しさをも感じながら、微笑み見とれている自分を発見していました。「このオブジェ、モダンだな~!」心につぶやいていました。そして簡潔した有機的形態を大胆にも商品化しようとする経営センスを賞賛すると同時に、時流を先取りする先進性にも、そしてその販路を有する(または市場出現を予知する)企業資質にも敬服したのでした。

図12
図12 Fiera会場奥にあるホール11、そのホールで最大の展示スペースで披露していたArtemide社。メインステージの場所にあった天井からの作品群、有機的フォルムの「Nearco」(縦長の作品)と「Empirico」(横長の作品)と「Nuboli」(右奥の作品)の迫力には圧倒されました。

 Organic、このコンセプトを明示し、商品展示していたPhilipsブース。LED光源を使用した製品展示が主でしたが、全体にhumanisticでとても楽しく愉快な、快適な心地にしてくれました。展示会視察で歩き疲れていた私でしたが、このブースで疲れが癒されました。この展示スタイルですが、昨年のFrankfurt light+building2010(世界最大の照明展)でのPhilipsブースで披露されていたもので、今年のミラノでも見られた(踏襲された)のです。しかもフランクフルトよりも洗練されていました。この展示スタイル、用途シーンを演出しており、ユーザーの立場からの発信になっていて判りやすく、何を伝えたいのかが言語説明なくても展示会場に立てば判る展示スタイルなのです。Philipsが提案するLED照明製品の実用の効果的演出=ビジュアル表現を展示展開していたのです。当然ながら製品コンセプトと一体化した個別演出空間での展示でした。

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図13、14、15、16  pavillion-13の中央部にあったPhilipsのブース、製品ごとに白い一軒の家に見立てた展示でした。その中に示されたOrganicの表示と製品例。

図17
図17 Philipsのブース中央に設けられた住宅エクステリア向け製品展示の様相と説明員 

 Organicのイメージとは離れますが、Philipsブースで見た薄型LEDモジュールのダウンスポット型器具にも見とれてしまいました。昨年のフランクフルトlight+building照明展で見たような記憶もありましたが、大変上手く仕上げられた展示紹介がされていて、じっくりと見てしまいました。

図18

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図18、19、20  Philipsの施設空間向け展示コーナーにあったLEDダウンスポットと、そのバリエーション・LEDワイヤー吊りペンダント。LEDの特性を生かした機能美とそれから創り出す造形美が調和した秀作製品「Light disk spot」(15w×2、2700k、調光可)です。

 空間をも引き立てているPhilipsの「Light disk spot」、そのディティールはきれいに仕上げてあり、美しい造形バランスで創り上げたこの新作にPhilips テクノロジーの確かさと製品開発メンバーたちのハイセンスを改めて認知したのでした。

 Philipsの「Light disk spot」に見とれながら私は、2008年にオープンしたALL LEDの住宅(本コラムで紹介)の超薄型ダウンライト(埋め込み寸法9ミリ、器具高29ミリ×直径165)を思い浮かべ、あの時に超薄型スポットタイプも考えていたことなど思い巡らしたのです。LED光源の特性である薄型化指向、それを発揮した明快なる製品に、第1回LED Next Stage2006会場・松下電工ブースで発表されたM-FORCEを忘れてはなりません。このLED器具は厚さ10ミリの画期的なコンパクト設計のダウンライトで、私はすごい世界商品になると思い商品化を願ったのです。(現在量産発売は延期となり、デモ・モデルとなっている)
 この薄型化を含めたLED光源の活かし方については別の機会に述べるとします。

 2つ目のキーワード「伝統」について、イタリアの照明器具は超モダン(イタリアではデザインものと称される)製品が、ファッションや家具同様にその存在を世界にアピールしてきました。そのため日本でイタリアの照明器具といえば超モダンと思われる人が多いのです。しかし家具同様に照明分野でもクラシカルなものやクラフト的製品があります。それらは昔から使い慣れた素材を用い、伝統的な製法技術や装飾を加え、現在でも製造され日常的に使用されているものも少なくありません。その代表作としてベニスのガラス製品があります。キャンドルランプと称される電球を多用するガラスシャンデリアは15~6世紀に現在のスタイル(光源はロウソクであった)が完成されたと言われます。そのスタイルや製法技術を継承しつつ電球からLEDに、21世紀のガラス照明器具への提案がpavillion9の会場に見られました。その中から留意した2点を紹介します。モダン提案例の図22、そしてクラシカル製品の図23、24です。共にLED光源の特徴を生かした形態美を作り出しています。

図21
図21 ベニスのガラスといえばムラノ島、そのムラノのガラスメーカーでもトップ大手といわれるla murrina社は、LEDライン光源を用いたアーティスティックなシャンデリアを前面に展示していました。その超モダンな白いガラスチューブのシャンデリアの背後カウンター上には、昔からの伝統的シャンデリアが並べられ、その対比が際立ったブースでした。

図22

図23
図22、23 遠くから見るとロウソク型シャンデリア等が展示されていると思ってしまう製品群ですが、キャンドルに似せた乳白ガラスに指向性あるLED光を照射させています。先端はガラスカットの技法を活用し、キラッと光らせておりロウソク部と光源部の両方を演出したLEDならではの提案。

 照明でのtraditionalといえば電球による照明を想う人が多い昨今です。その電灯にLED電球が使われつつある日本ですが、ヨーロッパで高価格のLED電球はいくらランニングコストで経済的といっても一般的に売れないと言われます。とはいえ現状の電気料金が2倍近くまで高くなれば一挙に普及するでありましょう。今後の原子力発電事情によっては購買意識も大きく変わりましょう。そのLED電球で新製品が展示されていました。ドイツ・LEDO社のbulledです。世界最初に発売した日本のLED電球が従来電球イメージにと似せて形態化しているのに対し、すぐにLED電球と判別できるデザインに使用状況の違いを痛感しました。裸電球での使用頻度の多い日本では決して商品化されないと思ったのです。LEDO社のbulled、これぞLED電球!と明確なるデザインに嬉しく思った次第です。

図24

図25
図24、25 ドイツ・LEDO社のbulled(LED電球)

 3つ目のキーワード「市場化」、イタリアの市場への取り組みについてです。以前からEuroluceを視察するたびに感じる飽くなきビジネスへの追求心や、先見性への鋭い嗅覚と貪欲さを感じて(特にLED製品で)きたのですが、今回のEuroluceで改めてLED市場展開の現実と速さを思い知ったのです。
 イタリア人はLED市場への商品導入を世界でいち早く実践しました。2003年には世界に向けてLED既製品の量産販売を開始していました。当時日本では量産LED照明器具の製品はなしに等しい状況でしたから驚いたことを覚えています。
 当時(現在も)イタリアでは世界に知られたLEDランプ製造会社はありませんでしたが、それなのに世界照明市場へLED照明器具を製造供給し先行の創業利益を得たイタリア企業を悔しい思いで数多く見てきたのです。
 LEDの基礎研究や応用研究では断トツの日本ですが、実用研究やその実践(新規市場導入や開拓)となると、躊躇し遅れてしまうのも日本企業でした。日本は照明に関しては輸出入の影響が少ない業界であり、世界の照明界の情報も必要ないビジネス環境でした。LEDが出現するまでは・・・。
 この5年ほどの間に、欧米や隣国はLED照明器具の実用化を急速に進めました。LEDが照明界に旋風を起こすことを理解したからです。残念ながら日本は、このLED照明実用化(市場形成化)に消極的で、世界の動向変化を客観視していました。そのためこの5年間で日本のLED照明器具は、実用性(市場化)において遅れをとる様相になり、今春のEuroluce2011を見てそれが現実になったこと、残念ながら確信してしまいました。
性能は良くても形態や用途への機能美で劣っていては、商品価値として付加認知はされず、世界商品にはなれません。いかに世界の時流や動向を学び、その先陣への追求研鑽をするかが必要で、今後の日本LED照明のすべきことであろうと考えています。日本物理学界の高分子研究会、世界トップレベル研究者が多く集まり、その基礎研究や応用研究で世界トップの研究報告がなされても、その製品化で遅れては世界市場から見放されましょう。いかに世界市場向けの製品を創出するかの重要性を、改めて強く感じたEuroluceでした。イタリア人のMade in ITALYへの執念と市場導入への熱情を見習うべしと思ったのです。

 Euroluceの会場はバラエティーある照明デザインで溢れていました。ライティング・フェアと比較すると数倍、いや10倍以上の数々のデザイン種が見られました。デザインの国、イタリアと言われる所以です。しかしそういわれるようになったのは昔からではありません。照明デザインの歴史をここで記すことはしませんが、近代デザインの発祥地はドイツ・bauhausで、照明デザインも源はバウハウスです。イタリアのデザインは第2次世界大戦後のスカンジナビアンデザイン流行後に台頭します。そして世界的に認知されるのは1980年代になってからです。イタリア国家政策の国内家具産業育成(輸出し外貨獲得)に併せて、照明業界も成長を始めます。家具が輸出されるなら、その家具を引き立てる周辺商品も必要になり、家具のスタイルに併せて照明器具も揃えられます。今日のイタリア照明メーカーは、その国の家具業界あって成長したのですが、照明を含む国内地場産業への育成にはきめ細かい地域行政の手厚い支援も寄与していたの(今も)です。その事例のひとつが量産化に欠かせない量産型作りへの優遇支援です。型への税免除や型製造職人や型設計者育成(人材育成)を推進しているのです。イタリアの家具や照明器具に型多用のフォルムが多いのもそのような背景があるからです。当然量産化するためには型が必要で、量産すれば品質も定まりコストも下がり競争力は増す訳です。後はいかに時流に適応する感性商品を創り出すか?にあります。イタリア人にはセンスがあるといわれますが、本当にそうでしょうか?よく実態を知ると日本人とも隣国の人々とも大差ないことが判ります。違いはセンスアップ化への環境や、プレゼンテーション(主張)への風土の違いです。特に学習の場が生活環境に多様にあるか否かは大きく影響します。韓国デザインの最近の10年の伸長を見れば一目瞭然です。ここで誤解をしないために補足しますが、学習と研究は違います。学習は過去の事例を学び習うことです。中国も今、このデザインへの学習に異常に熱心です。イタリア照明人もこの学習へは大変熱心で、他社の商品学習、デザイン研究を徹底してします。そして次年にはその研究成果を大々的に発表します。毎年学習、研究できる環境があるか否かは創造するクリエーターには重要(日本にはその環境が少ない)です。その実用研究成果発表の場のひとつであるEuroluce で、今春筆者が注目した事例を紹介します。

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図27

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図26、27、28 フロスの「wall piercing」と命名されたLEDチューブ活用の製品。この部品(LEDチューブ)は世界中でイルミネーション部材として多用されてきました。その用途提案としてデザインされた照明器具がwall piercing、まさしく実用研究の成果といえます。

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図29、30、31 Luce planのインテリア間仕切りまで展開可能な樹脂成形のLED製品。3枚ばねの裏側にLEDランプ3個がセットされたピースの組み合わせによる製品。今後いろいろな組み合わせが展開されるであろう。

 キーワード最後の4つ目、「東アジア」ですが、これは日本・台湾・韓国・中国の4カ国の人々の会場活動の様相を示したく取り上げた言葉です。特に中国・韓国の人たちがいろいろなところで目につき、それらが強烈な印象として残ったのです。それは言い換えれば元気な国といえるわけです。会場内あちこちで聞こえてくるイタリア語に次いで大きな話し声はドイツ語でもフランス語でも、英語でもなく中国語でした。それも5~6分ごとに別々な小グループでの会話が聞こえるのです。会場は広いのですが、非常に多くの中国人が視察や買い付けに来ていたことが窺えたのです。買い付けに対応できるよう中国人説明員を配置したイタリア老舗メーカーもあり、中国経済の強さの証がそこかしこで見られたのです。このような情景は2008年のフランクフルトlight+buildingの頃から見られたもので、高級スーツに身を包んだ買い付けの中国人グループが何組も闊歩していたことを思い出します。

図32
図32 記念撮影する中国人のグループ。視察が主のメンバーと見受けられた。

図33
図33 LEDならではの新提案のシャンデリアを熱心に観察撮影する中国人。インテリア設計者のようであった。

図34
図34 中国人説明員を擁していた老舗の企業FontanaArteのブースで見つけた「Yumi」と名づけられたLEDスタンド。有名な建築家・坂茂氏のデザインと記されていました。

 次いで元気であったのが韓国の人たちで、買い付けのバイヤーでなく若い開発デザイナーや技術設計者(サムソンなど)たちでありました。スケッチやメモを記しながら非常に熱心に展示製品の構造などをチェックしていました。またイタリアンデザインで有名Danezeのブースでバシャバシャと撮影しまくっている若者がいたので、聞いたら韓国の人でした。またプレスセンターでも韓国語での会話は前回のEuroluce 2009より頻繁に聞こえ、確実に取材人も多くなったことが窺えたのです。
 日本でも人気のあるインゴ・マウラーのブースで韓国語が聞こえていました。紙に通電素材を線状に印刷し、その線上にLEDデバイスを点発光させたLED Wall paperは多くの人が注目していました。クリップで通電したペーパーのシャンデリアオブジェで、楽しい作品です。
 海外の照明展を視察するようになって久しいですが、今回のように東アジアのマスコミ関係者に多く出会ったことはなく、特に中国語と韓国語が多いのには驚きました。

図35
図35 韓国のマスコミ関係者が撮影していたDanezeのブース

図36

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図36、37 インゴ・マウラーブースで見たLED paperのシャンデリアオブジェ

   日本人のデザインした新製品を熱心に見ていたので、日本人かと思い軽く会釈したら中国語が返ってきて驚きました。台湾のバイヤーで、照明器具や家具を買い付けに来たとのことでした。その台湾のバイヤーが見ていた新商品「CIELO」、デザイナーは家具やインテリア小物などで活躍するロンドン在住の山中一宏氏のものでした。光源はLEDでなくE-27(150~250wのハロゲン電球型光源)であり、LED電球を含め既存光源対応としている。支柱を斜めにしただけの単純明快なデザインだけにバランスセンスの良さが印象的で、インテリアに合わせシェードの色変えで建築家やインテリアデザイナーに好まれると思った次第です。

図38
図38 年配の台湾人バイヤーが見ていたpallucco「CIELO」の展示風景。

 なお、今回で50回を迎えた家具見本市saloneやその併設照明展Euroluceの視察前にプレスセンターに立ち寄りました。主催社Cosumitの日本支部Cosumit Japanから今年の傾向をヒアリングできたらと思ってのことです。その折に震災に対するお見舞いの言葉をいただき、さらに震災影響のある中、日本からの出展および視察(取材も含め)に来られた方々にお礼感謝の意も示され、震災への気遣いを受けました。そして震災影響で日本からの視察者団体キャンセルが続いたことも伺い、中国・韓国の元気が目立ったことの背景の一つに震災の影響が大きかったことを改めて思い知ります。がんばれ日本!を再認識したのです。

 Fiera会場全体20ホール(現地ではパピリオンと表示している)の内、4ホール使用して開催のEuroluce、筆者は期間(4/12~17)中の4日間を視察しました。これ以外にも特記したいことに若手デザイナーの登竜門として多くの日本人が出展していたSalonesatellite、さらに見本市会場の外、ミラノ市内の個別展示しているイベント群Fuorisaloneなどもあります。忘れてはならないことに、LEDのすぐ後に市場導入展開しようとしている有機EL照明も、Euroluce やFuorisaloneにて各種発表がありましたし、ライティング・フェア2011会場でもシンポジウムや展示など話題でした。そのことなども含め続きを次回とします。「次世代の若者とSSL」と題して、次回は世界でがんばっている日本人の若者などを取り上げます。

照明技術・デザイン最新事情
執筆者:落合 勉

照明デザイナー
M&Oデザイン事務所代表
LBA JAPAN NPO 理事長、愛知県立芸術大学非常勤講師、照明文化研究会 会長


1948年愛知県三河生まれ、ヤマギワにて照明を実践。
1991年横浜にてM&Oデザイン事務所スタート、現在に至る。
2001年からLED照明デザインワークに特化しての活動を展開、そして2006年からはOLED照明普及にも尽力。
2006年のALL LEDの店舗空間、2008年のALL LED街あかりや住空間、2009年のALL OLED照明空間など手がけ、SSL快適照明を探求提案。
器具のプロダクトデザインや照明計画などを行う傍ら、国内外の照明関連展示会や企業などを訪れ、グローバルな照明最新情報をインプットする。コラム(http://messe.nikkei.co.jp/lf/column/ochiai/index.html)参照。
趣味は古灯具探索で、日本のあかり文化の認知普及活動を展開中。
2009年7月、Light Bridge Association JAPAN NPOを設立し、理事長に就任。
次世代のあかり文化を担う「あかり大好き人間」の育成を目指している。

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